新世界51-夢世界 15
右の男がやってきた。
僕は年越しのラーメンをコウキ少年と一緒に食べていた。
右の男は玄関口で、僕に言った。
「わたしたちのボスがあなたに会いたいと言っている。新年の挨拶だ」
そしていかつい目つきでコウキ少年を睨む。
「あんたの子か?」
僕はすぐさま首を振ろうと思ったが、思いとどまる。
「どうだっていいだろう?」
「一緒に付いてくるつもりか?」
僕はコウキ少年の方に目をやる。僕の分のカップラーメンを食べ始めている。
なんて憎いやろうだ!また買う金はあるにしても、またコンビニ行って買って、お湯を入れてこなくちゃならない。
いやそんな事はどうだっていい。
「僕は行かないよ」と、コウキ少年は言う。話が聞こえていたらしい。
「俺一人で行くよ」
右の男は何も言わずに頷いた。
右の男が家の外に出たので、僕は出かける準備をした。
コウキ少年が僕の方を見ている。
「なあに、すぐに帰ってくるさ」
「いいよ。別にいつでも」と、コウキ少年は強がる。
本当は僕の方が怯えていた。いったいどんな恐いやつらに囲まれるかわからない。僕は少なからず怯えている。少年をそんな奴らの基に連れて行くわけにはいかない。そして少年を一人にするわけにはいかない。僕はまたこの場所に帰ってくる。僕は心の中にそう誓う。
そして家を出た。
僕は右の男と共に、僕が住む町の商店街を抜けてゆく。開いている店はコンビニと数件の居酒屋と蕎麦屋くらいだ。
商店街の先にある大通りで、左の男が車を停めて待っていた。
そして僕は後部座席に右の男と共に乗り込んだ。
どこをどう行ったかはわからない。
しかし、だいぶ高級住宅街の方に向っているようだ。やがて車は大きなマンションの駐車場へと入っていった。
〈つづく〉
新世界50-伝文 11
心と体の健康がなければ、何もできずに終わってしまう。
若かりし頃ならば、がむしゃらに走り抜けることもできたろう。
でもいつまでも、そうは体が続かない。
君は生まれ変わらないといけない。
心身を回復させるんだ。
心の力を取り戻せ!
人生はそこから再スタートさせられる。
そこから生まれる力によって、
君は未来の生き方を見つけることができるだろう。
少しだけ、目が覚めて、すぐに誰かが僕を呼び戻す。
眠いだけの、2012年の春。僕は眠り続ける。
新世界49-孤島の物語 11
小さな船着場でハナはユーカイスを待つ。
ラフなパンツルックで、大きなトランクを傍らに置く。
船着場にユーカイスの乗る船が着く。ユーカイスはそこにいるハナの存在にもう気づいている。
彼女は降りて、ハナに質問する。
「どうかなされましたか?」
「ユーカイス。もう止めましょう。ここでの生活をこれ以上続けられそうにありません」
「でもお嬢様」と、ユーカイスはハナに言う。
「もういいんです。何もかもが、わたしはどうしていいか、わからなくなったから」
波音は心地よい。小鳥のさえずりも綺麗だ。それでもハナはもうここで生きていくのが嫌だと言う。
「でもお嬢様」と、再びユーカイスは言う。
「あなたが駄目だと言っても、わたしは出てゆくわ」
「それは無理なのです」
「どうして、なぜ?わたしはわたしの考えでここにいただけなの。
あなたが駄目だって言ったって、わたしを止められない。
わたしは心も体も健康よ。きっと街の中でももう一度やっていく事だってできる。
もしできなくても、わたしはもうここにいたくない」
「それでも無理です」
「どうして、ユーカイス?あなたは何の権限があって駄目だと言うの?」
「わたしには何の権限もありません。お嬢様、ただどうしても駄目なのです。
わたしは今のあなたでなく、過去のお嬢様に雇われたのです。
過去のお嬢様は言いました。
『わたしがどこかに行こうとしても、あなたはわたしを止めなくてはいけない。
誰かがわたしを迎えに来るまで、あなたはわたしがここを出てゆく事を許してはいけない』
あなたはそう言ったのですから」
いつか見た未来の夢だね。
きっと誰かが迎えに着てくれる。
そう信じて、ハナは青い空や緑の地上、鳥やバッタやトンボと付き合って暮らしていくんだ。
きっといつか、貴方は迎えに着てくれるでしょう。
新世界48-夢世界 14
2020年、秋の日の夢を見ていた。
僕は要らないほどたくさんあるソファーの一つに寝転がり、のんびり昼寝をしていた。
ずっと寒い日が続いていたが、その日は暖かく、0.5階に注ぎ込む地表からの明かりに照らされていた。
未だに部屋には電気もガスも水道も引いていない。今なら少しは優雅な暮らしもできるものだが、急にいろいろとまともな生活をしだしたら、周りに怪しまれる。だから僕は今日も同じ暮らしを暮らしている。
柔術を始め、少しはまともなものを食べるようになったが、その他の点においては昔となんら変わりない。
コウキ少年は今日も柔術をやりに行っている。彼には他にやる事がない。学校もいっていないし、勉強もしていない。家にいるとただ腹を減らして美味いものを欲しがるだけだから、彼は柔術に行っていた方がいい。
僕の家具だらけの家にニシキ君が訪れたのは、夕暮れ時の事だった。
日差しは当たらず、家の中にはいつもの寒さが増していた。
僕はまた少し貯金が増えると心をウキウキさせて、玄関に向った。
だが玄関を開けたところにいたのは、ニシキ君と一緒に、ニシキ君の両脇を固める黒い帽子を被った二人の男が立っていた。
僕は『終わったあ』と思った。
ついに捕まる日が来た。
「ボス」とニシキ君は僕の事を言う。
『ボス』っておい!俺を黒幕に仕立てあげるつもりか!と怒ってやりたいが、何も声が出ない。心は人生のどん底に陥っている。
「きさまか!こいつを使っているのは」
と、左に立つ男は僕に尋ねた。
僕はその言葉にハッとさせられた。
『いや、こいつらは警察なんかじゃない』
何だかよくわからんが、僕はボスであった方がいいようだ。
「ああ」と僕は答えた。
答えたというより、何となく声が漏れた感じであった。
「荒い真似をするつもりはない」
右の男がそう言って、二人はニシキ君を抑えつけたまま、僕の家に入ってきた。
彼らは僕らと手を組むように持ち掛けてきた。
話はこうだ。
彼らが適当にだませそうな女を探してくる。そして探してきた女をニシキ君が騙す。
僕は前と変わらず、どういう手口で騙すかをニシキ君にアドバイスする。
ただそれだけだ。
何が変わるわけでもない。前より回転がよくなるだけだ。
何が変わるわけでもない。でも僕は人を騙す仕事にどっぷり浸かってゆく事になりそうだ。
2020年秋、僕の人生は確実に狂い出している。
新世界47-伝文 10
夢が僕の世界の中心になる。
2012年5月には、夢が僕の毎日の8割だった。
夢は君が生きるより遥かに速い速度で未来へと向ってゆく。
君はそれを止める事ができない。
いつだって、君は夢の続きを求めているのだから仕方ない。
起きたとき、僕は飯を喰わなければなからなかった。
風呂に入り、髭を剃って、着替えをする。
出来れば洗濯をして、掃除をする。そうしないとすぐに眠気はやってきて、僕を夢へいざなう。
2012年5月にはそうなっていた。
もう誰にも会える状態ではなくなっていた。