新世界41-夢世界 12
2020年の夏は暑かった。
温暖化は様々な環境の変化で、縮小傾向にあるというのに、今年の夏は暑い!
2020年、僕はクーラーの掛からない整骨院でそんな事を感じている。
ここに通い出して、何度目になるだろう?
月々10万くらいの金が毎月入るようになり、4ヶ月が過ぎたかな?
僕は相変わらず、整体でゴキゴキやられている。
ニシキ君の結婚詐欺はプロの域に達し始めている。どこで覚えたのかわからない女騙しのテクニックが増している。そんな事なら詐欺師なんて止めて、女の紐になってしまえばいいのに彼は現状から抜け出せない。僕はそれ以上に現状から抜け出せそうにない。
もうゴミの山にも行く気が起きない。あんなゴミ臭い場所によくも僕は毎日通っていたものだ。鼻がおかしくなる。いやもうなっていたのだろう。先日久々に行ってみたが、もう二度と行く気にはならなかった。
「お客さん、あんたいつまでこの整体続けるつもりかね?」
と、70過ぎのじいさん整体師は僕に尋ねる。
「ええええええ、だって何度か通った方がいいっていったのは先生ですよぉ」
「まあ、そうじゃが、何度かで、もう、これ以上、直しようがない」
『この、へぼ医者!』と言いたい気持ちを押し殺して、「でもねえ、まだ体がだるいんですよ」と答える。
「運動した方がいい。そうすれば体力も尽くし、筋肉も元気になる」
「もう、40過ぎですし」
「いやあ、まだまだ、人の体は衰えきりやしませんぞ」
「でもねえ、何したらいいか」
「おお、ちょうどええ、わしの息子が柔術の指導をしている。犯罪対策とかでぇ、意外とはやっとる。わしからの紹介って事で安くしとくぞ」
そんなわけで、僕は柔術を始める事となった。
2020年、夢は飛んで夏になっていた。
何がなんだかわからないが、僕は夢の未来を犯罪者として生きている。
新世界40-孤島の物語 9
何のために生きているんだろう?
「ただ、ここにいるんだ!」って、ハナは叫ぶ。
風がフュルフュル吹いている。足元をくすぐる草がくすぐったい。
ハナは少しずつ今に飽き飽きし始めていた。
「もっと愛し合えた事もあったはずなのに」と呟く。
とても、とても小さく、惨めな気持ちになる。
草の上に寝転んだ。
秋はすぐに過ぎて、冬がやってくる。
だからとても寂しさを感じてしまう。
優しさはここにあるのかな?
綺麗な瞳で見つめていたい。
40になっても、50になっても、わたしは綺麗な瞳をしていたい。
貴方はこの時代に自分が変えられてしまうって、恐がっていた。
わたしが平和を手にするために、妖艶な笑みを浮かべることを悲しんでいた。
全ては燃やしてしまいたかった。
過去には過ちもあった。きっとたくさんの過ちがあった。
ハナの過去は悪い夢だ。
そっと目を閉じる。
忘れよう。きっとここにいれば大丈夫。
わたしは優しくありたい。優しくあれるかな?
恐い。恐い。時代の中で、欲望に溢れてゆく自分が恐い。
世の中に見捨てられた島でハナは時を送る。
いつも安心して限られた限りで過してゆける場所がここにはある。
ハナは想って島にいる。ありたい自分の姿を失わないように今ここにいる。
新世界39-伝文 8
僕が動くために必要なのは、飯でも、女でもない!
僕には夢があれば、それで動けるんだ!
くだらない毎日だって、どんなにいやな事を言われたって、
毎日を生きてゆくためには、夢があればそれでいい!
その夢は、僕が叶えたいための夢だ!
ただ見るだけはまっぴらだ!
見るからには、叶えてみせる!
そして全てを得てみせる!
心に強く誓うんだ!
そうやって、心に望み願うんだ!
何かをしようとしても、何も身に入らない。
僕は呆然としていた。
どこからか声だけがした。
僕しかいないはずの小さな部屋で、誰かが僕に語っていた。
夢を見なくてはいけない!
僕にそう思わせる声だけが消えることなく聞こえ続ける。
新世界38-夢世界 11
2018年にパキスタンで始まった戦争を思えば、ここは平和だ。
2020年の夢の中で、僕はそんな事を考えている。
実際にその雨の日の夢はとても幸せな心地にさせられている。
僕は整体マッサージを受けていた。齢の老いたおじいちゃんだったが、とても優しいマッサージをしてくれている。
本当は、どこかの若いお姉さんにいろいろなマッサージを受けたいところであったが、そこまでの勇気もなく、僕は1時間3000円のマッサージを受けることで妥協した。
お金はニシキ君から貰ったものだ。
ニシキ君はどこかのお金持ちの女を騙す事に成功した。誕生日プレゼントという事にして買ってもらった高い時計を売ったお金の一部を、僕は指導料として頂いた。実際、ニシキ君は100万以上の儲けを得たようだが、僕は1割の10万円てところで手を打った。
「いいかい?そのおばさん(騙されている相手)からはもう手を引くんだ。実は病気で貴方にはもう会えないと言えばいい。彼女は君の事を探すかもしれないが、そこまで深くは追ってこないさ。そしてまた別の女を追うんだ。今度は田舎の町長の息子とでも名乗るんだな」
ニシキ君は僕のいう事をすっかり信用してしまった。
そして彼自身も一度の僅かな成功にすっかりその気になってしまった。彼はどこかのホストのようになりかけている。だから僕はなるべく素朴で自然にするよう指導している。
ガキッ、ガクガクガッキン!!!!!!
「いてええええええ」
僕は思わず、声を上げた。でかい声を上げたつもりだったが、酷くしょぼいじいさんのような弱い声だった。
「いやあ、いかんなあ、あんさん。体が80代のじいさん見たくなっとるぞ」
それはあんただ、と言いたいが、僕の声は出てこなかった。痛みに堪えることで精一杯だ。
「何度か、来るとええ、そしたら、全部直してやるがな」
僕には10万ある。
まあ、何とかなるか、と思いながら、頷く。
「んじゃ、いくぞ」
ガキッ、ゴッキン、ガクガクガアア。
「うわああああああ」
これで本当に直るんだろうか?僕はこのまま死んでしまうかもしれない。疲れきった僕は最後にこんなじいさんに殺されるのか?それならどこかのお姉さんにあんな事やこんな事をされて、、、、
ゴゴゴゴゴ、ガッキッンンンン。
はあ、ニシキ君、僕の未来を繋いでくれ。
君だけが頼りだ。
新世界37-孤島の物語 8
夕陽が綺麗な暮れ時を岬で過ごす。
ハナはユーカイスの去り行く舟を岬で見送る。
茜色の空の向こうに貴方はいるのかな?
ひらめき浮かぶ事も力もなく、ただ何となく生きているのかな?
ハナは煌く海を追っていた。
少女時代を楽しんだ思い出の場所。父親の笑みが思い出の中に浮かぶ。
いつも岸壁で魚釣りを楽しんでいた。父親は退屈な人だった。
ハナと一緒にいる事が楽しみだった。
父親の仕事は病気がちのハナを看病することだった。
母親は世話しく、島の人を集めてはどこか遊びへ出かけていた。島を離れる事もよくあった。
父親はいつも暇だった。
母が本土の交通事故で亡くなった日、父は笑って泣いていた。
不思議な父親だった。ハナは今でも父の心がわからない。
父の死を思うと、ハナは『人生とは何なのか?』と考えてしまう。
楽しみはあったのかな?
喜びはあったのかな?
わたしは今日も暮れる夕陽を岬から眺めている。
夕闇が差し込み、舟は遠くに消えてしまった。
だからハナは家へと帰る。
父と同じく、ハナは退屈な日々を過ごしている。
彼女に楽しみはあるのだろうか?
いいえ。彼女は今も人生を楽しんでいる。
毎日の楽しみは小さな場所にたくさんあるよ。