小説と未来 -91ページ目

新世界32-無職の暇人 9

休日のある一日、僕は学生時代の友人に会いに出掛けた。


「おい、暇だろ?ちょっと一杯どう?」

て言う電話があったもんで、

「ああ、まあね」

と答えた。

『いやああ、ちょおおおお、暇なんだよねえええええ。死んじゃうよ。死んじゃう。暇すぎて、暇に殺されちまう!!!俺を~、救ってくっれえええ』

心の中ではそう叫んでいたが、よかった事にその言葉は心の外には出てこなかった。


電車に乗って、友人に会いに行く。


同年代の仲間はほとんど結婚してしまった。結婚してなくても、どこかで何かをしていて、その数々の人間は僕とは、もはや住む世界の違う人間になってしまった。


時と共に、人は変わってゆく。

学生時代の、皆ではしゃぎあったあの日々は何だったのだろう?


皆、変わった。


僕も変わっただろう。


そして変人になった。


おかしく狂った。


一番変わってしまったのは自分なのかもしれない。


ありのままでいようと、自然体である事を目標としていた僕だが、現実は受け入れず、僕は青色のクマを探したり、水色のいも虫について考えたりしている。


きっと頭がおかしいにちがいない!



今日、会う友人も、僕と唯一付き合いを残す学生時代の友人だが、本音を言えば、何を話したらいいかわからない。


何しに行くか、わからないけれど、それでも僕はビジネスバッグに何も書かれていない履歴書を放り込んだまま、明日を忘れられる方向へと逃げ出してゆくために、その友人に会いに行く。


履歴書をまとめなくてはならないリミッドタイムは徐々に迫っている。


『なんとか、やってゆきゃああ、なんとかなるもんだろおお!』

と、電車の手すりにもたれている、どこかのひ弱そうな学生にでも絡みたい気分だが、僕はまだそこまで壊れきれない。


きっと友人に会っても、何気ない苦笑い浮かべ、友人の愚痴でも聞かされる事になるのだろう。


17時過ぎ、すでに窓向こうの空は闇に包まれている。

街は電灯に照らされた明るく輝いている。

もし突然の停電が訪れて、全ての電気がシャットダウンしてしまったら、この街は一気にパニックに陥るのだろうな、なんて起こりもしない事を考えてみる。


闇夜に襲われて、何かが飛んでくる。

それがおっさんの鼻毛だったら気持ちわる~。


そんなどうでもいい事を考えながら、僕を乗せた電車は唯一の友人の街へと僕を運んでゆく。

それ以上、この電車が僕をどこへ運んでくれるわけでもない。


新世界31-夢世界 9

2020年春の夢だった。


僕はニシキ君を僕の家に招き入れた。


家には一匹の少年が居候している。夢は連続ドラマのように続いている。


少年はいつも箪笥とソファーの間に挟まっている。


ニシキ君はその少年に気づき、ドキッとした。家の中は薄暗い。地表から降りそそぐ僅かな明かりしかない。電器は付かないだから。


「気にしないでくれ」と僕は言う。


「カズさん(僕のこと)のお子さんですか?」

と、ニシキ君は聞いてくる。


「違う!ただの居候だ!」

僕は絶対的に否定する。


「ふぅーん」と言って、ニシキ君は頷く。きっとどっちでもいい事なのだろう。


ニシキ君を茶色のソファーに座らせる。

それから数分の沈黙が続く。この家には家具しかない。お茶もなければ、お湯もないし、水すらない。そして僕はそんな状況に気を遣う気すらない。


僕らは皆、金無しだから、それでいい。


「無理かもしれないけど、詐欺をしてみようかと思う」

ニシキ君は前触れもなく、そんな事を言ってきた。


「犯罪?」


「犯罪っていうか、時代が壊れているんだ。このくらい当り前のことじゃない?

 江戸時代だって、飢饉が起こったら一揆だのなんだのやったんだろう?

 俺たちの時代の人間だけが黙ってゴミを漁って生きる事はないだろう?」


「でも、詐欺って、犯罪だろ?」


「うーん、でも、結婚詐欺とかしてみようかなって思うんだよね。

 世の中の金持ちのお嬢さんがどこかのいけ好かない金持ちの男ばかりを追って、パーティーとかしてさ、そういうのテレビとかで見ると、めちゃくちゃにしてやりたくなるんだよね」


「女ねえ。僕にはもう、とっくに忘れたね。まあ、ニシキ君はまだ若いし、顔もいいからな。でもさあ、女をだますにはだますための道具が必要だろ?君のその格好じゃ、誰一人だませないよ」


ニシキ君は薄暗い部屋で自分の身にまとう紺色のウインドブレーカーを見回す。


数分の沈黙が訪れる。


そしてさらに数分後、数分間で溜め込むだけ溜め込んだ大量の空気を吐き出したかのような大きな溜息を、ニシキ君はついた。


ニシキ君は全てを諦めたようだった。


でも僕はその必要はないと感じた。

犯罪を犯すことがいいとは思っていない。でも目の前にいる20代と思われる青年の人生をこのまま終りにしていいとも思わない。僕は犯罪補助罪だかなんだかで捕まるかもしれないが、どうせ薄汚れた人生だ。このまま目の前にいる青年の手助けくらいはしたいものだ。


だから僕はこう言う。

「でもいいかい?不思議と僕は君のためにいろいろな事ができるんだ。たとえばこの建物だけど、今は閉鎖されているけど、昔は一流ブランドのショップがいくつも入っていた貸しビルだったんだ。2階から5階は全部同じオーナーだったんだけど、ふあたりを起こして、どこかへ逃げてしまった。多くのブランド品は転売されたけど、売れない物は部屋に残ったまま置かれているんだよ。洋服も、靴も、宝石だって残っている。この天井の上にはそういった数々の品が残っているんだ。僕には何一つ必要ないものだったから考えなかったけど、今の君には必要な物さ。天井をぶち抜くか?」


ニシキ君はいい笑顔を作った。彼らしい優しい笑みだった。どこかの王子の物まねも出来そうだ。


僕もにっこり微笑んだ。


彼はこくりと頷いた。



夢だから、きっと何でもかんでも大丈夫だろう。僕は夢の中で犯罪者となる決意をした。


それがニシキと僕の犯罪計画その一だった。


新世界30-伝文 6

現実に飽きた。眠りが君を誘う。


幸福な生活も、恋人も、安定した生活もを失った。


君には空っぽな人生が訪れている。


恐れを感じていて自分を守ろうとしている自分に気づかないのかい?


君は表面上、それほど大きな不安を感じていないつもりだろう。


嘘だ!君は知らないふりをしているんだ!


どんなに現実に戻ろうとしても、夢は満たしてゆくよ。


現実をいくらごまかして、楽しみを見つけたって、君はもう終わっているんだ!


夢においで。


そして夢の終わりと共に君は…



僕の脳裏で叫ぶ声の主がいる。


僕を現実に連れ戻してくれる人に、僕は出会えていない。


カウンセリングに行くのも面倒だ。


2012年4月、僕は声の主に誘われてゆく。


現実は誰も僕を救ってくれない。


新世界29-無職の暇人 8

雨の日の予定だった晴れた空の下で、日向ぼっこをしている。


なぜか秋になると、この公園を訪れてしまう。



僕がハナと出会ったのは2011年3月末、桜の花咲く頃だった。


ハナは僕の知り合いの女性と一緒にいた。


美術館の中だった。

桜の花咲く頃だったので、僕はその日、西洋美術を鑑賞しに来ただけなのに、花見に来ていた客と重なり、桜の花咲く事で有名な公園の中にある、その美術館は人混みでごった返していた。


僕はゆっくり観るのを諦め、人の列を避け、遠目から絵画を鑑賞していた。


田舎の小路が黄緑色の木々に覆われた風景画を眺めていた。


「あら」

「ああ、こんにちは」

僕は突然現れて知り合いの女性に挨拶をした。

「へえ、平島くん(僕の事)、こんな所に来るんだ!?」

「いや、まあ、たまに暇つぶし、というか、目の保養というか」

「ふーん」

彼女は僕が一人である事を確認するように周りを見渡した。


僕は一人だ!何か悪いか!


「こんにちは」と、ハナは僕に挨拶をしてきた。

「こんにちは」と、僕は華奢な女性に声を返した。

黒く艶やかな髪と、常に微笑んでいるような、大きな口元が特徴的な女の子だった。



僕らが付き合いだしたのは、それから5ヵ月後の夏だった。

山本さん(僕の知り合いである当時の会社の同僚)と会社で会うたびに、僕はハナの話をした。

そしたら山本さんは「彼女もわたしに会うたびにあなたの話をするのよね」と言われた。

「もう一回会いたい?」というものだから、「ええ、もちらん」と答えた。


そんな他愛のない話から僕がハナと実際に会う事になるのは夏の頃となっていたが、僕らが一緒になるまでにはそう長い時間はかからなかった。


そして僕らが別々になるのも、そう長い時間はかからなかった。


いつもの公園で君の事を想う。何もない日々がさらに虚しさを増し、僕は生きた心地がしない。この先、僕はどう生きていけばいいのだろう?


2012年秋は僕に何も答えてはくれない。


新世界28-孤島の物語 6

脳は、必要な物だけを大切にする。


不必要な全てを捨てる事ができる。


ハナはその事を知っている。



艶やかな太陽は輝き尽くして、ハナの洋館を照らしている。


光と影、そればかりしか感じない。


それくらい日差しは強く、暑く、太陽に熱せられる夏が来ている。



わたしはここにいる。


過去の全ては忘れてしまいました。


都会での生活は夢のまた夢でした。


わたしはあそこで暮らしていたのかな?


貴方は貴方だったのかな?


わたしはいろいろな事を忘れてしまいました。



幼少だった頃、ハナが可愛がっていたペンギンのぬいぐるみがあった。


ハナは両親と旅行へ行くとき、そのペンギンが見つからないことにだだをこねた。


「ペンちゃんが一緒じゃなきゃいやあ」


そう言って、だだをこねて、旅行へ行く事を拒んだ。


ペンちゃんは出てこなかったけど、ハナは旅行へ行った。


旅行中、ずっとペンギンのぬいぐるみの事を気にしていた。


そのぬいぐるみは旅行が終わって数日後に出てきたのだけれど、


数ヶ月後、ハナはそのぬいぐるみの事をすっかり忘れてしまっていた。



あれから二〇年以上が経って、同じ場所にハナはいる。


だけどハナはいまだペンちゃんに会っていない。


もう探さなくてもいいのかな?


ペンギンのぬいぐるみは心の中にしっかり生き続けている。



実態のあることが大切な事じゃないのかもしれないね。


思い出の中に生き続けている。


その思い出の方がずっと重要になってしまったかもしれないね。