新世界31-夢世界 9
2020年春の夢だった。
僕はニシキ君を僕の家に招き入れた。
家には一匹の少年が居候している。夢は連続ドラマのように続いている。
少年はいつも箪笥とソファーの間に挟まっている。
ニシキ君はその少年に気づき、ドキッとした。家の中は薄暗い。地表から降りそそぐ僅かな明かりしかない。電器は付かないだから。
「気にしないでくれ」と僕は言う。
「カズさん(僕のこと)のお子さんですか?」
と、ニシキ君は聞いてくる。
「違う!ただの居候だ!」
僕は絶対的に否定する。
「ふぅーん」と言って、ニシキ君は頷く。きっとどっちでもいい事なのだろう。
ニシキ君を茶色のソファーに座らせる。
それから数分の沈黙が続く。この家には家具しかない。お茶もなければ、お湯もないし、水すらない。そして僕はそんな状況に気を遣う気すらない。
僕らは皆、金無しだから、それでいい。
「無理かもしれないけど、詐欺をしてみようかと思う」
ニシキ君は前触れもなく、そんな事を言ってきた。
「犯罪?」
「犯罪っていうか、時代が壊れているんだ。このくらい当り前のことじゃない?
江戸時代だって、飢饉が起こったら一揆だのなんだのやったんだろう?
俺たちの時代の人間だけが黙ってゴミを漁って生きる事はないだろう?」
「でも、詐欺って、犯罪だろ?」
「うーん、でも、結婚詐欺とかしてみようかなって思うんだよね。
世の中の金持ちのお嬢さんがどこかのいけ好かない金持ちの男ばかりを追って、パーティーとかしてさ、そういうのテレビとかで見ると、めちゃくちゃにしてやりたくなるんだよね」
「女ねえ。僕にはもう、とっくに忘れたね。まあ、ニシキ君はまだ若いし、顔もいいからな。でもさあ、女をだますにはだますための道具が必要だろ?君のその格好じゃ、誰一人だませないよ」
ニシキ君は薄暗い部屋で自分の身にまとう紺色のウインドブレーカーを見回す。
数分の沈黙が訪れる。
そしてさらに数分後、数分間で溜め込むだけ溜め込んだ大量の空気を吐き出したかのような大きな溜息を、ニシキ君はついた。
ニシキ君は全てを諦めたようだった。
でも僕はその必要はないと感じた。
犯罪を犯すことがいいとは思っていない。でも目の前にいる20代と思われる青年の人生をこのまま終りにしていいとも思わない。僕は犯罪補助罪だかなんだかで捕まるかもしれないが、どうせ薄汚れた人生だ。このまま目の前にいる青年の手助けくらいはしたいものだ。
だから僕はこう言う。
「でもいいかい?不思議と僕は君のためにいろいろな事ができるんだ。たとえばこの建物だけど、今は閉鎖されているけど、昔は一流ブランドのショップがいくつも入っていた貸しビルだったんだ。2階から5階は全部同じオーナーだったんだけど、ふあたりを起こして、どこかへ逃げてしまった。多くのブランド品は転売されたけど、売れない物は部屋に残ったまま置かれているんだよ。洋服も、靴も、宝石だって残っている。この天井の上にはそういった数々の品が残っているんだ。僕には何一つ必要ないものだったから考えなかったけど、今の君には必要な物さ。天井をぶち抜くか?」
ニシキ君はいい笑顔を作った。彼らしい優しい笑みだった。どこかの王子の物まねも出来そうだ。
僕もにっこり微笑んだ。
彼はこくりと頷いた。
夢だから、きっと何でもかんでも大丈夫だろう。僕は夢の中で犯罪者となる決意をした。
それがニシキと僕の犯罪計画その一だった。