Soulmate -54ページ目

Soulmate

汝、愛されたければこそ、愛せよ。

$ソウルメイト

はじめてご購読いただく方へ。連載中につき、前夜から読まれることをおススメします。
尚、20歳以下の未成年やこういった話が不快に感じられる方はご遠慮いただきますようよろしくお願いします。


<前夜> はじめての方はこちらからどうぞ 
<一夜目 あらすじ>
<二夜目 あらすじ>


静けさと、底冷えのする源爺の寝室兼応接部屋。

ミホをソファーに座らせると

石油ストーブに火を入れました。

少しの間、沈黙が続く。


「寒むないですか?」

「・・・・・」


眼下にある、涙の跡と上目遣いが怒りとも哀しみとも感じます。

どこにでもいそうな、平凡な主婦。

こんな所にいることが違和感を感じるくらいです。

しかし、このミホという女性は実はハードSMの常連者。

下の毛は、脱毛されていて彫り物もされているらしい。

源爺がなぜ私に、こんな手だれなお客を持たせているのか疑問でした。


「・・・・・」


無言のまま、両手を組み、私に差し出しました。


「最後に、私を縛って堕ちる所まで堕として・・」


訴えるように、ポツリと言った。

エスエムに、染まっている女性の意識は

縛られ、罵倒されることが自分への最大の『関心』で

最大の『愛情表現』だと感じている傾向があります。

私は、差し出した両手を

上から押さえつけるように下に落した。

私は首を振り言う。


「ボクは、縛ることができません。あとは、源さんを頼ってください」


と少し、冷徹に言いました。


しかし、その冷たさが彼女に火をつけてしまったようです。

明らかに欲情の表情になってきたのがわかります。


私は、彼女の欲情に飲まれてしまいそうな気持ちと

このまま、受け入れたら一生付きまとわれそうな怖さで葛藤していました。


目の前にいる、夜叉は妖艶な光をはなっている。

「やっぱり、受け入れたらアカン。怖い」

そう素直に感じ、それがその時の答えでした。


ミホは、低いテーブルにひざをのせ、

身体を傾けながら、私の唇に迫ってきました。


「ひゃっ。アカン」


裏声で、意味のわからない声をあげ

ミホの顔を押さえつけました。

顔にある私の手をつかみ

身体をテーブルにのせ、その手を自分の胸にあてらいました。


「ほら、こんなになってるのん」


胸の先にある小さな塊が、かたく触れた。


なぜか、私の身体が反応している。

思いとは裏腹に。


「こういう人(女)らは、いつもこんな風に感じてたんか」

私は思った。


身体のなすがまま、ミホをおもいきり引き寄せ、

強く抱きしめました。

ミホの唇を奪った。


恐怖も、欲情も、同情も、すべての想いを込めて

骨が砕けるのではないか? というくらい、

ミホの身体を締めつけました。


おそらく、呼吸ができないのか呼吸を止めている。

そうなりながらもミホの舌は、

私の中に踏み込もうと蛇のようにうごめいている。


しかし、しっかりと噛みしめた歯は

舌の侵入を拒んだ。


時間としては短いかもしれない。

長い抱擁の末、お互い、力がつきた。

ミホは、唇をはずしこう言った。


「ぐはっ、ぜーぜーぜー」

「いたたっ、痛いなー」

「へたくそ! こんなんで、いつも偉そうに言うてたな」

「もう帰る! 荷物は今度取りにくるわ ほなな、ナルちゃん」


バタンと出口のドアをあけ、

振り返えりざまこう言った。


「今までありがとさん。女はやさしく抱きしめるもんやで、アホ」


部屋を出ていきました。


石油ストーブのやかんの音が、高く響いている。

なんとか危機は逃れたものの、後味の悪さだけが残った。

三夜目 その八 源語る へつづく。

<三夜目 その八 源語る>
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<一夜目 あらすじ>
<二夜目 あらすじ>


食後、次の出迎えの準備をすませ

源爺、私、美鈴さんは、離れの寝室兼応接間で談笑が始まりました。

しばしの休憩です。

お手伝い最後の日となるので、

私は卒業制作にむけて、

方向性を決めるいくつかの絵を持ってきいて

源爺に見てもらおうと、画板から取り出し見せました。


「おもろい絵を描くのぉ」

「この絵は、なんか不思議な魅力あるわね」


いくつかの絵のうち、ふたりは共通の一枚を見ていた。

夜明けすぐを思わせる紫の空に、地平があり

同じポーズの男が鉢巻をして、ハイジャンプをしている。

月が大きくある。


「ボクは、気にいっているんですけど、担任はタッチを活かして設定を換えろというんです」

「その担任、ボンクラやな」

「そやそや。こっちの絵もええやん」


背景設定は同じで、人民服をきた人達が

めいめいの姿で立っている絵だった。


「夜明けちゅうことは、ナルさんの何かの始まりや、ちゅうことかもしれん」

「ここで学んだことは、どこかで役立つやろ」

「はい」


最後だということは、あまりピンときていなくて

源爺のその言葉に、胸が熱くなりました。

それを見越しててか、源爺は立ち上がり言う。


「さあて、次のお客さんが来るでぇ」

「ナルさん、あんたのご指名のお客さんが来るでぇ」

「へっ? ご指名ですか?」

「そや、お子さん連れた、あの奥さんや」

「ああ、あの方ですか」

「美鈴ちゃんは、ワシと久しぶりにタッグを組もうか」

「えー、プロレスみたいやな。ホホホホ」


初めて、源爺宅を訪れたとき、台所にいた4人の中のひとり。

何度か源爺にかわって、話を聞いていたのです。

お手伝いは20回以上続けてきましたが

ジュンコやレイカのように

縄で縛るケースは、それほど多くはありませんでした。

相手の話を聞き、励まし包み込むというものが多い。

源爺といえども、すべて開放できるわけでもなく、

激怒して飛び出していったケースもありました。

深刻な状態で、ここでは手に負えないと判断したとき

知り合いの病院を紹介したものもあります。


指名をうけた、乳飲み子を抱えた人妻はミホという名で

ごく平凡な専業主婦。

妊娠をきっかけに、夫とレス状態となり

寂しさを紛らわせるために、子どもを親に預け

女友達と夜遊びをした日、運悪く闇の世界の男と出会ってしまい

ひきずり込まれたケースでした。

夫はもちろん、親にさえ相談できず

重く心に抱え込んでいました。

かといって、病院で話なせるような事態ではなく

四面楚歌に陥り、ここに転がり込んできたのでした。


私の少し年上でしたが、心の支えになることで

少しずつ時間をかけて抜け出せるように

話を聞いてあげていたのでした。


しばらくして、奥の広間にミホが待っていた。


「しばらくです」

「こんばんは」

「今日、ミキちゃんは?」

「うん、親にあずけてきた。遅くなっても大丈夫やねん。

旦那もマージャンしにいったし・・」


大木をスライスしたテーブルを挟んで、

対面に座りました。

拷問部屋からは、始まったのか源爺の声が聞こえる。


「ミキさん、残念なんですけど、ボク今日でここ最後なんです」

「えっ、ホンマ?」


せつなそうな、今までにないような表情にみえました。


「すみません。デザイン事務所の内定が決まって・・

あとは源さんがかわって進めてくれるとおもいます」


「最後か・・寂しいわ」


少し、目に涙が潤んでいるようです。

何か私に対して、特別な感情を持っていたことを初めて知りました。

私は、担当のお客としか意識はもっていなかったので

ちょっと困ったことになったと思いました。


以前、源爺に聞いたことがあります。

お客に特別な感情をもたれた場合、どうすればいいか。

源爺は応えた。


「わからん。その場で自分で考えるこっちゃ」


考えてみたら、相手によって違うし経てきた時間も違う。

思案のしどころという所だ。


「その後どうですか?」

「まあまあやな」

「まあまあですか・・男から連絡は?」

「んー、あるような、ないような・・わからん」


あきらかに、不機嫌。

拷問部屋から「ひぃー」と聞こえてくる。


「ここ、落ちつかへんから、離れへ行きませんか?」

「・・・」


私は立ち上がると、庭へと歩きだします。

黙って、あとをついてきました。

冬の夜空は、冷たくダウンをミホに肩からかけてあげて

離れへ向かうのでした。


次回 三夜目 その七 葛藤 へつづく。

<三夜目 その七 葛藤>
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小説は小休止につき、ひとまず一服。


現在、仕事の相棒と

同じデザイン学校で友となり、

同じデザイン事務所で就職、

そして、ふたりで独立し、デザイン事務所を立ち上げて早や21年。


25歳という若さでの経営に携わることになった。

経営といっても、デザインの依頼をうけて締め切りに追われるという時間を経てきただけの話。


開業当時は、仕事の依頼もなく10畳のワンルームで床に寝転がり

電話が鳴るのをひたすら待っていた。


勤めていたデザイン事務所は、求人情報大手のR社の筆頭ブレーンだった。

独立に至る後半期は、R社に出向いて精力的に仕事をこなし

評価を受けていたため、独立後もR社と独自のブレーン契約を心待ちにしていた。

しかし、独立後のブレーン契約は数ヵ月後という暗黙の了解ということから

2ヶ月ほど待たされることになった。


契約後、ポツポツと顔見知りのR社のディレクターからの

仕事も増え、R社以外の仕事も増えていった。

いつの間にか、全国のR社ブレーンで一番の依頼と売り上げをたったふたりで達成。

競艇の総理大臣杯のポスターとCMイメージを獲得するなど

追い風の時期を迎えることができた。


やがて、21世紀を迎える頃から、

手動のアナログ作業からパソコンでのデジタル化へ移行していく。


分業だったアナログ時代とは違い、

デザイナーの仕事が占める範囲が広かっていく。


独学でパソコンやソフトのノウハウを覚えつつ、

平行して締め切りに追われる生活が続く。

休暇もなく、深夜や徹夜におよぶ過酷な状態。


しかし、デジタル化で便利になった分、制作費が激減してきた。

比例するように、世の中長いデフレと不景気になっていく。

給料はないという月が続くことも増えていき、

蓄えも減り、カードの使用範囲をいっぱい使ったり

ない頭を下げ、親戚から借り受けるなど

自転車操業の日々が続いた。


そういう生活も長くは続かない。

転げるように、落ちていった。


とどのつまりが、家族を失い、

生活レベルも最低限まで下がることになってしまう。


企画立て、紙媒体、WEB、イラストなど

通常のデザイナーにはできない技術とノウハウを持ちながら

使うステージがない。


夢であったあこがれの世界は、仕事道具となり、

スポンサーの意向にそった、妥協した創造。

本来もっているはずの、創作意欲もなくなってしまった。


何度も、別の仕事へ転向しようと考えたが

ふたりで築きあげた城で、いろんな意味で抜けるわけにはいかなかった。


袋小路。


思案を続けた。

落ちるだけ落ちてしまったが、不幸だろうか?

いや、生活は落ちたが暮らせないわけじゃない。

背負うものも少なくなり

時間もある。

タダでは転ばない。


今まで、溜めに溜めた力とノウハウを

仕事ではなく、自分を表現するために使ってみようと決意した。

攻めてみるのだ。


手始めは、連載中の小説。

他にも、大人用の絵本や子ども漫画ブログなど、いろいろな構想はある。

そう、創作意欲に燃えている。


転んで初心に戻ったのだ。



私の歌姫のひとり、故・浅川マキ嬢が唄う「それはスポットライトではない」という曲。

一度、スポットライトではない輝く光を取り戻そうという歌だ。

掛け合いでの、英語パートを担当するのが

若き日の、メリージェーン つのだ☆ひろ。

最近まで、黒人歌手かとばかり思っていたが、つのだ☆ひろと知って驚いた。

黒人ばりのファンキーな歌声と

ブルージーなギターが心酔わせる。


先行きの見えない世の中、落ち込んでばかりじゃいられない。

立ち上がれ、男達よ。

いや、女達も。

ふたたび、光を浴びるのだ。


「それはスポットライトではない」 浅川マキ




引き続き、小説「縛らず師」をご愛読ください。
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<一夜目 あらすじ>
<二夜目 あらすじ>


なぜか、美鈴さんも放心状態。

首を肩に傾け、身体の中心を軸に揺れています。

美鈴さんも、ジュンコと同じ過去があるのかもしれない。


美鈴さんの、ジュンコへの責めは、

私や源爺のように男にはない、女の立場に立つ心の手助けだろうか?


私はもっと、ジュンコと美鈴さんの心の距離を近づけたほうがいいと感じました。


私は、美鈴さんに近づくと長い髪をつかみ

黒いチャイナのファスナーに手をかけおろしました。


抵抗もなくされるがまま、美鈴さんは生まれたままの姿になりました。


別の荒縄を手にとり、美鈴さんを縛り上げジュンコの傍に立たせました。


私は、美鈴さんの桃の溝に指をすべりこませ

獣の雫をすくいあげます。

指と指で広げると、糸をひく。


「美鈴さんも、こんなになっていますよ」

「同じような、過去があるんですね」


ビシッ。美鈴さんがジュンコにしたように臀部を叩く。

傍にいる、ジュンコも音に反応している。


「んはっ。そう・・ウチもな・・男にもてあそばれたくちや」

「辛い、辛い。怖い。人が信じられんかった」

「やけど・・」


ビシッ。ふたたび臀部を叩く。

ふたりは共鳴するように反応しました。


「あふっ。また、同じ経験をしてみたいと身体が疼きよる」

「自分で慰めても、飽きたらへんの・・」


と美鈴さんは言う。

次は、ジュンコを叩きます。


「ビシッ」

「そう・・自分の気持ちとは別の行動をとってしまう・・」

「夜の街をふらふらと・・」

「いつの間にか、男達に囲まれていた・・」

「回されていくうち、何も考えられんくらい、快楽におぼれたん」


とジュンコが言う。


「そうするうちに、縛られ強引に高められることを知ったんですね」

「そう」「そうなん」


ジュンコと美鈴さんの声が重なりあいました。

美鈴さんが言う。


「こうやって。んふんっ。縛られてると」

「ときどき、おかあちゃんのお腹の中におるみたいに落ち着くんや・・」

「強く抱きしめられているみたい・・安心する・・」


私は、ジュンコと美鈴さんの胸の神経の塊をつまみ

少しづつ、力を入れていきます。

今の私の存在は、ふたりの心をつなぐ電線のような役割だと思いました。


「くーっ。んー。いいぃ」


ふたりは、梁に吊るされた縄を基点に身体をよじる。


「もっと、強くしますよ」


グググ。MAXまで力をいれる。


「くーっ」


ふたりは、同時にえびぞりました。

私は、力を抜きました。


「がはっ」


ふたりはうなだれた。

逝ったようです。


「はぁ、はぁ。み・みとめる所からはじまったん」


美鈴さんは、ポツリと言った。

ゆりかごのように、ゆっくり揺れながら

美鈴さんは、笑みをうかべた。


「そんなとき、源ちゃんに逢ったのん」

「認められたら、そんな自分を愛せるやろ? って言われたん」

「なんか、気持ちが楽になったわ」

「自分をコントロールできるようになったの」


ジュンコは、ポタポタと目から雫を床に落としていました。


「苦しいわ。ナルちゃん。解いて・・この子もな」


部屋に静けさが戻りました。



カチャ、カチャと皿にスプーンがあたる音が、台所に響いている。


「ウチな。一時期、本気で源ちゃんのお嫁さんになりたかってん」

「やけど、このオッチャン、ウチを振りよってん」

「な・なにいうとる。お客さんに手ぇ出すわけにはいかんやろ?」

「源爺、ほんまは美鈴さんのこと好きやったんちがいます?」

「アホいえ」


源爺は、テレくさそうに後頭部をさすります。


「さすがに、美鈴ちゃんのカレーはうまいのぅ」

「ごまかさんといてぇ、ほんまはどうなん?」


ホホホ。黒のチャイナから初対面の美鈴さんに戻っていた。

美鈴さんの作ったカレーはすじ肉を溶けるまで煮こませいて、

野菜たちがゴロゴロしていました。

ジュンコや美鈴さんのお客を含めて、遅めの昼食をとっていた。


「お嫁さんは、無理でもお手伝いしたくて、しばらく通ってやたんよ」

「美鈴ちゃん、筋がよくてな。女の立場で向き合うんで

ワシも一目おくほどやった」

「お嫁さんにしてくれたら、ずっと助かったのになぁ」

「まだ、言うかー」

「アハハハ」


台所に笑いがこぼれた。


「お腹がふくれたら、お客さんはめいめい帰ってや」

「辛いときは、いつでも家を訪ねてきてくれたらええ」

「美鈴ちゃん、ナルさん、またこのあと次のお客さんが来るからな」

「キバッテや」

「はい」


いつも、夜半にお手伝いに来るのですが

休日で、午前中、源爺と古寺へ行ったので

まだまだ、時間はたっぷりあるのです。


三夜目 その六 話し込む へつづく

<三夜目 その六 話し込む>
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<一夜目 あらすじ>
<二夜目 あらすじ>


平手打ちで、空気を一変させた美鈴さん。

すかさず、ジュンコを抱きしめ髪をなぜています。

母親に抱かれた少女のようです。


「逃げとったらあかんな。今から向き合うっていこな」


慈愛に満ちた声。

美鈴さん担当のお客さんは、畳の上で毛布に包まれていました。

「いつの間に・・・。神業や」と感心していると

美鈴さんは、ジュンコの手をとり立ち上がらせます。


「さあ、移動しような。こっちおいで」


私のほうに振り返ると、子声で


「むずかしい案件やから、私にまかして」

「ナルちゃんは、ウチのフォローお願い」

「はい・・」


ウインクすると、拷問部屋へジュンコを連れていきました。

私は、失敗したくやしさと平手の迫力で

足がワナワナして、しばらくは動けませんでした。

なんとか、私がひそかに呼んでいる拷問部屋の入り口に立ちます。

中では、美鈴さんとジュンコが向かいあって座り語り合っているようです。

美鈴さんは、手招きをして私を呼び寄せました。

傍に座ります。


「それで、演劇部の先輩の所へ行ったんやね?」

「うん、憧れてたし大好きやったんです」


美鈴さんは、ジュンコの横に座りなおし

背中をポンポンと赤ちゃんをあやすように、手で叩きはじめました。


「先輩、一人暮らしと聞いてたんですけど、教えてもうた家が結構大きくて・・」

「中へ通されて、客間のソファでふたりでいろいろ話してました」

「すごく、幸せやった・・」

「うんうん、そうなんね」

「そして、先輩が口を合わせようとしてきて私も応じようとしたん」


床を見ながら、ポツポツとしゃべるジュンコ。


「そ・そしたら・・物音がして・・男らが・・」

「・・これ以上言えません」


ジュンコは、両方の手のこぶしを握り締めています。

すくっと立ち上がった美鈴さんは一言。


「縛ろか」

「ナルちゃん、あんた綺麗に縛れるか?」


私は、首を横に振りました。


「わかった。私が縛るわ。脱がすのを手伝って」

「は・はい」


ジュンコを立たせると、手際よく服を脱がせていきます。


「縄っ」


美鈴さんがさっと手を出すと、荒縄を渡しました。

二つ折りにした縄の先に輪を作ると、ジュンコの首にかける。

距離を測りながら、縄を結び、コブを作っていきます。

手際よく縄を絡めていくと

亀の甲羅に似た縄の線が、ジュンコの身体に食い込みました。

後ろ手に、別の縄を通すと梁に渡し、グイグイと引っ張りあげました。

ジュンコは、痛いのか窮屈なのか身体をよじって口は真一文字です。


「ナルちゃん、全身を映す鏡ある?」

「持ってきます」


部屋の隅に立てかけてあった、姿見の鏡を運びました。


「この子に正面に置いて、持ってたっててや。全身見えるように」


ジュンコのくびれのある、均整のとれた身体に、美しく食い込む荒縄。

綺麗に縛り上げると、こんなに美しいものなのか。私は目をみはりました。


「あんた、この姿見てみぃ」

「いやっ」


首を激しく振るジュンコ。


「ええか? 逃げんと正面から向きあわなかんのん」

「解いて、はやく」


とジュンコは身体をよじるけれど、なんとなく敏感になっている様子。


「それで? 男たちはあんたをいたぶりだしたんやな?」

「いやっ、怖い怖い・・」


美鈴さんは、ジュンコに近づくと臀部を手の平で

ビシッと叩いた。


「あっ」


痛みとも、恍惚とも見える表情をするジュンコ。


「いろんな手が・・ウチに・・」

「逃げたらあかんで、勇気をだしっ」

「ウチの身体に・・たく・・さんの・・男が・・」

「怖かったやろ、悔しかったやろ」


髪をなぜながら、美鈴さんも目を濡らしはじめた。


「すべ・・てが、終わって、別の人間になってもうた」

「心を閉ざしてもうたんやね」

「うん、やけど・・ウチ、舞台に立ちたかったし、光を浴びたかった・・」

「よう、前をむいたな」


頭を下げていたジュンコが、パッと顔あげて


「あんなに、怖くて悔しくて最悪な目にあったのに・・」

「あったのに?」

「か・からだ・・が・・」


ピシッ、ふたたび臀部へ手が奔ります。


「ああっ、身体が、身体が求めてまう」

「刺激を求めてまうんやな?」


ビシッ。


「あはっ。んぐ・・そう、舞台に立ったときと同じなん」

「心と身体が互い違いになって、葛藤やね?」

「そ・そう。嫌いやねん。この身体っ」


髪をなぜながら、美鈴さんもぽつりと言った。


「ウチもな、そうやったん・・」

「あんたの、葛藤よーわかる」

「でもな・・逃げてたらあかんのん。受け入れなあかん・・」


美鈴さんが、私を見ると


「この子を愛撫してあげて」

「えっ?」


何をいうんだろう? 美鈴さん。


「はよー」


しかたなく、胸の先の神経の塊を指先で触りました。


「あああっ」


ジュンコは身体をそらせます。

私は、舌先でころがせていきます。


「き・もちいい」


快感を身体でたしかめるようにジュンコが動く。

そのたびに、荒縄がきしむ。


「今のあんたの心で、その時を受け止めてみ」

「そして、身体を許してあげるんや」

「ん。うん」


ほら、といいながら容赦なく臀部への刺激が続く。


「心配ないで、認めたからといって、あんたはあんた」

「受け止めて、認めて、呪縛から抜け出しなさい」

「あああっ。あっ。ええんよね? それで」

「そう、そうよ」


私は、むき出しになった桃の溝に指をさしいれ

九の字にすると

ざらついた中を、さぐるように出し入れをしました。

ジュ、ビチャ。ジュル。

私の指は、いつしか獣の蜜で満たされてきました。


「あうっ」


ジュンコが、一瞬、かたまったと思うと身体の力が抜けました。


ジョー、ジョロジョロ。


桃の溝から、黄金の虹が架かり床を濡らしました。

ビクン、ビクン。

身体を痙攣させるジュンコ。

同じように、美鈴さんも全身を痙攣させていました。

ジュンコの心に一番近い所にいるのが、美鈴さんかもしれない。

そう、思いました。


三夜目 その五 過去 へつづく。

<三夜目 その五 過去>
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<一夜目 あらすじ>
<二夜目 あらすじ>


台所の隅で、暗い影を落としていた女。

名前も年齢も聞いていない。

化粧をしていなかったので印象に残らなかったが、

目が美しく、整った美人でした。

泣きボクロが印象的な、男好きするタイプに思えました。


女性は顔だけでは年齢は判断できない。

手入れをきちんとしていれば、歳はごまかせるのだ。

そういう時は、足首や手の甲のごまかしきれない所をみます。

手首の血管の浮き具合から、30歳手前と判断しました。

表情は暗いものの、目じりの薄いシワからよく笑う人だと思いました。


泣きボクロのことを聞いたのも、

緊張感でかまえている相手に心を開きやすくできる。

源爺がよく使う手だ。


女は、拍子抜けした顔で普段の笑顔の目をして

泣きボクロのあたりを指で押さえました。

いい感じとおもったら、とたん,また表情を暗くしてしました。


「なかなかうまくいかへんな・・」

少し焦りを感じます。

やはり成功したデビューで少し、有頂天になっていたことと

女が美人だということで少し興奮していました。

20歳そこそこの普通の男としては、普通の感情かもしれません。

沈黙のまま、時は流れていく。

「なんとか、せんとアカン・・」

少し気持ちを落ち着かせ、目を半眼にし女の手を握る。

相手の呼吸を感じ、問いかけました。


「猫飼ってはるんですか?」

「ほら、こんなとこに生傷がありますよ」


手の甲に3本細い傷を見つけたのです。


「うん、飼ってるよ。ペルシャやねん」

「ほーっ、ウチは猫9匹いてるんですよ。しかも同じキジトラ柄のん」

「えーっ、9匹? 全部見分けつくのん?」

「そうやね。少しづつ柄とか大きさが違いますねん」

「猫のお名前は?」

「ムクムクのふさふさやから、ムクっていうのん」

「へー。ウチのはキノ、ゴロゾウ、キョー、イノクマ、マヌケビー、

バンビ、ウータン、ジェシー、あとは、んーコモキュー」

「そんなん、名前覚えるだけで大変や」

「あははは」


女はくったくのない笑顔。

なんとか、女と会話のキャッチボールをはじめることができました。


「妹が生き物好きでね。将来、獣医の看護婦になるいうてます」

「へー。やからそんなに」

「あなたは、ひとり暮しですか?」

「そうやで、ジュンコと呼んでや」

「ジュンコさん。ボクはナルキヨいいます」

「ウチ、またの名を桐野マシュっていうねん」

「マシュ? なんですかそれ?」

「ウチな、小さい劇団の女優してんねん」

「へーっ。女優さん」


髪はしっかり手入れが行き届いていて、声にハリがあります。


「猫がいてたら、ひとりでも淋しくないですね」

「そやねん。男なんかうんざりや」


タイミングをあわせ、私は指を手の甲を動かし強く握ります。

こういうとき、相手も握り返してくるのですが

手を払いのけてしまいました。


「この身体は、呪われてるねん」


全身をかきむしるように、両手で胸のあたりを爪立てます。

唖然とする、私。


「なんでや? こんなに毛嫌いするほど男を避けたいのに

この身体ぁ、男を求めよんねん」


あわてて、手を抑えようとしますが払いのけられ

怒号がはじまりました。


「あんとき、あんなとこ行かんかったらよかった」

「あいつも、あいつもみんな呪ってやるっ」

「こんな身体にしよって!アホアホアホ」


間髪いれずに、あることないことしゃべりだし

言葉をかける隙も与えてくれません。


「ケンジもおんなじやったんかーコラー」


ほとんど錯乱状態。

私は、失敗したと確認し対処に困りました。

変な汗が背中をつたっているのがわかる。


「パーン」


音がして、はっと、ジュンコを見ると

平手打ちをくらい、少し飛ばされていました。


空気が一変。


何ごとがおこったのか、わからないままジュンコは呆然としています。

くずれるジュンコの足元に、人影が。


美鈴さんでした。


三夜目 その四 美鈴 へつづく


<三夜目 その四 美鈴>
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小説が続いたので、久しぶりのブレイクタイム。


私がまだ小学校に上がって間もない頃、

母が妹を連れて、祖母の看病のため田舎へ行くことになり

半年ほど、父親とふたりの生活が続いた時期があった。

家に帰っても誰もいない淋しさに、

コタツの布団に顔をうずめながら泣いていた。


父は、飲んべえで酒乱だったため酒を呑んで帰ってきた夜は

布団をかぶってやりすごしていたのを覚えている。

酒を呑んでいない時は、普通の父親の顔をしていた。

夕食は決まってボンカレーか、家の目の前にあった立ち呑み屋兼酒屋の関東炊き。

そんな父だから、風呂を沸かすような器用な真似はしない

近所の銭湯へ行っていた。


一番星が輝きだし、

銭湯帰りのどぶ川の道を手をひかれながら、歩いていると

決まって鼻歌のような同じフレーズを唄っていた。


「みーあーげてーごらんー」


そう、坂本 九の「見上げてごらん夜の星を」のワンフレーズだ。

原曲を知った今では、メロディーも微妙に違うのがわかる。

今は、老いて別の家族と暮らしている父。

ほとんど思い出すこともなくなったが、父との想い出といえばこのシーン。


いつの頃からか、夜空を見えあげることが少なくなってきた。

都会の夜は明るすぎるのだ。


田舎へ遊びに行った夏の夜空。

はじめて、降ってきそうなくらいの天の川を見た。

あの感動は、今でも追い求めている。


何もかも、放り投げて出て行った父。

一時は怒りの対象であったが、和解した今では酒を呑み続けている父でしかない。


「みーあーげて、ごらん。夜の星をー」


いつしか、大好きな曲になっていた。




「見上げてごらん夜の星を」木村充揮×近藤房之助 バージョン




引き続き 小説「縛らず師」をご愛読ください。
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はじめてご購読いただく方へ。連載中につき、前夜から読まれることをおススメします。
尚、20歳以下の未成年やこういった話が不快に感じられる方はご遠慮いただきますようよろしくお願いします。


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<一夜目 あらすじ>
<二夜目 あらすじ>


源爺の玄関に、ふたり立つ。

不在のはずの家の中から、カレーの匂いがしてコロコロ笑う声が聞こえてきました。


「おっ、奴さんもう来とったか」

「誰か来る予定やったんですか?」

「はよ、ひさしぶりに顔みたいなぁ」


ニカッと歯をみせ、ガラガラと引き戸を開けると

私をおいて、急ぎ足で源爺は台所へむかいました。


「?」


私も後を追うように、廊下を歩いて台所へ向かいました。

台所を覗いてみると、

割烹着を着たふくよかな女性の尻を、源爺が触るところでした。


「きたかちょーさん」

「まってた、ほい」


尻に手がいく瞬間、手を払いのけています。


「あはははは」

「ほほほほ」


ふたりで笑っています。


「いやーなつかしなぁ」

「ごぶさたしてますぅ」


ふくよかな女性は、年のころ50代半ば。

まつげの長い、黒目がちのたれ目の丸顔でした。

髪は上にまとめ、小料理屋のおかみさんのように見えます。


源爺が、私のほうへ振り返ると


「ナルさん、美鈴さんや。あんたの先輩や」

「あんたが噂のナルさんか。デビューで雪女を溶かしたっていう」


ほほほほと笑う姿は、ソプラノ歌手の歌声のようで人を和ませる声です。

私は頭を下げると


「ナルキヨです。はじめまして」

「源爺が大げさに言ってるだけです。真似しただけです」


と頭をかきながら、テレ隠しにカレーの入った鍋のふたを開けます。


「おいしそうなカレーですね」

「おいしいかどうか、わからんけど後で食べてねぇ」

「美鈴さんのカレーは、うまいでぇ」


ふと気がつくと、台所の一角が暗い影を落としていました。

すでに駆け込み寺の客が、我々のやりとりが耳に入らないような目で一点を見ている。


「今日は、ナルさんの最後の日やし、少し多めにお客を呼んでるでぇ」

「美鈴さんにも、加勢してもらうために特別に呼んだんや」

「美鈴はん、久々に腕ふるってやっ」

「はいなっ」


ふたりが、どのくらいの時間、コンビを組んでいたかわかりませんが

会話のリズムが息のあったところを見せています。


「ウチ、戦闘服に着替えてきますぅ」

「よっしゃ。ナルさんも準備してきてや」

「はい」


いつののように、奥の広間を掃除して

拷問部屋に入り、いつもよりも多めにバスローブや毛布などを出しておきました。

静かにガラガラとする音やビシャンという音が

時間をおいて、聞こえてくるところをみると

お客がぞくぞくとやってきているようです。


「よっしゃ、はじめるでぇ」


慌しくなってきました。


「ナルさんはこの方。お願いやで」


台所の一角で、暗い影を落としていた人でした。

私は、一例をして


「よろしくお願いします」


といいながら、背中に手を添え奥の間へエスコートします。


源爺が言うには、どんな雰囲気の人でも

身体のどこかに、手を触れておくことが大事だということ。

人はやさしく触れられていると、安心するらしい。


「さっ、こちらへ」


奥の間に通すと、すでに美鈴さんは始めているらしい。

広間で唯一の装飾、一筆書きの○の額の前で女性が座り

美鈴さんは、女性のあごに二本の指を添えながら

自分のほうに向けさせています。


「あんた、女やったら根性だしてみぃ」


さきほどとは、打って変わったような美鈴さんの声。

戦闘服は、真っ黒なチャイナで腰のあたりまでスリットが入っているものでした。

年齢や体型からすると、滑稽に見える姿も

なぜか背筋がピンとして背中までの黒髪、そして肘まであるエナメルの手袋が

格好良く見えます。

興味深いので見ていたいところですが、

私のお客に集中しなければ。


「目のホクロ、泣きボクロですね」


いよいよ、お客への心のダイビングの始まりです。


二夜目 その三 失敗 へつづく。

<二夜目 その三 失敗>
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○縛らず師 二夜目のあらすじ

源爺こと、辰巳 源はエスエム中毒で苦しむ人の駆け込み寺。
ひょんなことから、私はお手伝いをするようになり、
いつしか、師と仰ぐようになる。

運転手兼エスコートガール、源爺にいう「お人形ちゃん」であるメグミとともに
源爺宅を訪れた私。
いつものように、駆け込み寺へやってきた
周りへ高圧な態度をとり、
「雪女」と陰口をたたかれていた予備校の講師レイカ。

レイカの深い闇を解き明かしながら
心を開かせていく源爺。
そういう流れのまま、私はデビューすることになる。

源爺編、最後の章となる三夜目。
深く短かった源爺と別れの時がやってくる。


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<一夜目 あらすじ>



三夜目 その一 古寺


吐く息が白くふたりの口元に舞っています。

源爺と私は、奈良県にある古寺に立っていた。


「そうか、いよいよアンタの夢へ進んでいくことになるんやな」

「はい、運よく一番人気でむずかしいといわれたデザイン事務所の内定が決まりまして」

「うんうん、それはええこっちゃ」

「源爺のお手伝いをずっと続けたいともおもったんですが・・」


私は、はじめて源爺に描いた絵を見てもらおうと

大きな絵を2枚入れたカバンを脇にかかえていました。


「アホいえ、ワシひとりで十分や」

「はあ・・」

「たぶん、ナルさんがワシがしてきたことを伝える最後の人や」

「最後って、まだまだお元気やし、もっとええ人見つかりますよ」

「いや、こういう縁はなかなかないもんや」


木枯らしが舞った。


「あかん、寒むなってきよった。中に入ろう」

「あ、はい」


地元の人しか訪れることのないような小さな古寺。

庭は、子供たちの公園にしているのかブランコが置いてあり

乗り手なく、高い音をたてながら揺れています。

お堂に入ると、きちんと整理されていて

仏様が鎮座していました。

ふたりで手をあわせます。


「この寺は、ワシの嫁はんと将来を誓ったとこや」

「へー。戦争中無事やったんですね」

「そうや、戦地からなんとか帰ってきたんはええが、肝心の嫁はんは空襲でやられた」

「お気の毒に・・」

「ほんま、途方にくれて、しばらく焼け野原の町を歩きまわった」

「しらんまに、この寺にたっとったんや」

「そうなんですか・・」

「この仏さん、嫁はんの顔とだぶってな。自分を奮い立たせて前に進むことができたんや」


いつもの源爺の顔にない、悲痛な横顔でした。

奥さんとの思い出をかみ締めるのと、なんとなく私との別れを惜しんでいる感じしました。


「ナルさんを連れてきたんも、アンタの旅立ちを祝ってのことや」

「こんな、大切な場所に連れてきてもらってありがとうございます」


パンっと私の尻をたたき


「今晩の手伝いが最後や。しっかり手伝どうてや」

「はいっ」


源爺との最後の時間。

締めくくりの夜がやってくるのです。


三夜目 その二 先輩 へつづく


>>三夜目 その二 先輩
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<一夜目 あらすじ>



源爺の一言に、我に帰りました。

胸元に顔をうずめていたレイカが顔をあげる。


「ナルさん、ウチと倍近く歳ちゃうけど、おとうちゃんみたいやな」


ニコリと笑う顔と声が、少女のように感じました。


「パチン」


私の背中を平手で叩いて、レイカは言った。


「つねりすぎや、まだジンジンしてるわ」

「あ、ごめんなさい」

「うそうそ、よかったでナルさん」


重荷をおろしたような、爽快そうに見えるレイカがいました。

バスローブを拾い上げ、羽織りながら源爺と部屋を出で行きました。

「シャワーあびたいんやけど」と奥から声が聞こえます。

入り口に小柄なシルエットがある。

腕を組み、むくれた顔のメグミでした。


「なんやのん? あれ」

「えっ? なんやのんって。ごめん」


意味がわからないまま、なぜか謝ってしまいました。

表情を見ると、嫉妬心にむくれている顔に見えます。

彼女とは付き合っているわけでもなく、

嫉妬される覚えなないのですが。


「アホっ」


振り向いて部屋を出て行きます。

恋人を追うように、私は思わず後を追います。

勢いで部屋を出た時

ドンと胸に何かが当たりました。

メグミです。


「あんなん、見せられたら泣いてまうやん。アホ」

「ごめん」


また、謝ってしまいました。

上目遣いに見つめられて、おもわず抱きしめてしまいました。

嗚咽をはきながら、メグミは私の胸の中で泣いています。

ぎこちなく、私は彼女の猫っ毛の長い髪をなぜました。

胸がキュンとした。



「これは、ワシの糞を栄養にして育ったんや。うまいやろ?」

「ぎゃー、口つけてもうたやん。源さんのアホー」

「あはは」


食卓を囲み、和やかに4人で少し遅めの食事をとっています。

秋もすっかり深まり、ひんやりとした空気の中です。


「源さん、あの庭にあるアポロロケット何なん?」


メグミがざっくばらんに聞きました。


「あれか? ワシは人間の英知が好きなんや」

「英知?」

「そうや、人が目的にむかって知恵を絞り、月まで行けた」

「えらく感動してなぁ。百貨店の出し物の廃品を譲りうけたんや」

「へーっ」


真顔になった源爺が言う。


「人が集まると、考えられんほどの力を発揮する」

「アポロみたいに夢を与えることもできるが、悪いことにもなりかねん」

「戦争や」


漬物をほうばり、少し噛んだあと動きを止めしゃべりだしました。

源爺は、戦争に行き、命をかけて守ったはずの愛妻を失っていたのでした。


「志が高まって、皆の心がひとつ方向へ行きはじめはええんや」

「やが、人が集まるとまとめるために無理が出てくる」

「無理が無理を生み出して、変な方向へころがっていきよることもある」


残る3人はだまって聞いている。


「ワシがこういうことをするのに、人を集めて組織にしたり

謝礼なんかをうけとらんのは、恐いからや」

「物事ちゅうもんは、人によってものや教えの感じ方がちがう」

「ワシのやっとることは、少し間違えれば刃物になりかねん」

「組織になったらなおさら危険やとおもう」


この時期から10年近くあとにおこる、

歴史にのこるあの集団のテロ行為を予言していたかのようです。


「まあ、人と人が正面むきあってわかりあうためには、1対1が一番ちゅうわけや」


まだ、若かった私はこの言葉をわかっていなかったのかもしれない。


レイカは、先に家を出て行きました。

その後、彼女がどうなったかはわからない。

私がその時おもったのは、もうこの家の門は二度とくぐらないだろうと。


いつもは、源爺から帰りの交通費をもらって電車で帰るのですが

今回は、メグミの車で送ってもらうことになりました。

助手席の私は、不思議の高揚感とメグミを抱きしめた時の髪の匂いが残っています。

無言のまま、車は帰り道を進んでいく。


「あの」

「あのな」


同時に出した声がかさなった。

そして、また無言。


「ふたりで、アポロ打ち上げようか?」

「そやな、月旅行もええかもな」


車は、桜ノ宮にあるホテル街へ消えた。


二夜目 終

三夜目 源爺編 最終章へつづく。


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