二夜目 その九 桜ノ宮に消える | Soulmate

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汝、愛されたければこそ、愛せよ。

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はじめてご購読いただく方へ。連載中につき、前夜から読まれることをおススメします。
尚、20歳以下の未成年やこういった話が不快に感じられる方はご遠慮いただきますようよろしくお願いします。


<前夜> はじめての方はこちらからどうぞ 
<一夜目 あらすじ>



源爺の一言に、我に帰りました。

胸元に顔をうずめていたレイカが顔をあげる。


「ナルさん、ウチと倍近く歳ちゃうけど、おとうちゃんみたいやな」


ニコリと笑う顔と声が、少女のように感じました。


「パチン」


私の背中を平手で叩いて、レイカは言った。


「つねりすぎや、まだジンジンしてるわ」

「あ、ごめんなさい」

「うそうそ、よかったでナルさん」


重荷をおろしたような、爽快そうに見えるレイカがいました。

バスローブを拾い上げ、羽織りながら源爺と部屋を出で行きました。

「シャワーあびたいんやけど」と奥から声が聞こえます。

入り口に小柄なシルエットがある。

腕を組み、むくれた顔のメグミでした。


「なんやのん? あれ」

「えっ? なんやのんって。ごめん」


意味がわからないまま、なぜか謝ってしまいました。

表情を見ると、嫉妬心にむくれている顔に見えます。

彼女とは付き合っているわけでもなく、

嫉妬される覚えなないのですが。


「アホっ」


振り向いて部屋を出て行きます。

恋人を追うように、私は思わず後を追います。

勢いで部屋を出た時

ドンと胸に何かが当たりました。

メグミです。


「あんなん、見せられたら泣いてまうやん。アホ」

「ごめん」


また、謝ってしまいました。

上目遣いに見つめられて、おもわず抱きしめてしまいました。

嗚咽をはきながら、メグミは私の胸の中で泣いています。

ぎこちなく、私は彼女の猫っ毛の長い髪をなぜました。

胸がキュンとした。



「これは、ワシの糞を栄養にして育ったんや。うまいやろ?」

「ぎゃー、口つけてもうたやん。源さんのアホー」

「あはは」


食卓を囲み、和やかに4人で少し遅めの食事をとっています。

秋もすっかり深まり、ひんやりとした空気の中です。


「源さん、あの庭にあるアポロロケット何なん?」


メグミがざっくばらんに聞きました。


「あれか? ワシは人間の英知が好きなんや」

「英知?」

「そうや、人が目的にむかって知恵を絞り、月まで行けた」

「えらく感動してなぁ。百貨店の出し物の廃品を譲りうけたんや」

「へーっ」


真顔になった源爺が言う。


「人が集まると、考えられんほどの力を発揮する」

「アポロみたいに夢を与えることもできるが、悪いことにもなりかねん」

「戦争や」


漬物をほうばり、少し噛んだあと動きを止めしゃべりだしました。

源爺は、戦争に行き、命をかけて守ったはずの愛妻を失っていたのでした。


「志が高まって、皆の心がひとつ方向へ行きはじめはええんや」

「やが、人が集まるとまとめるために無理が出てくる」

「無理が無理を生み出して、変な方向へころがっていきよることもある」


残る3人はだまって聞いている。


「ワシがこういうことをするのに、人を集めて組織にしたり

謝礼なんかをうけとらんのは、恐いからや」

「物事ちゅうもんは、人によってものや教えの感じ方がちがう」

「ワシのやっとることは、少し間違えれば刃物になりかねん」

「組織になったらなおさら危険やとおもう」


この時期から10年近くあとにおこる、

歴史にのこるあの集団のテロ行為を予言していたかのようです。


「まあ、人と人が正面むきあってわかりあうためには、1対1が一番ちゅうわけや」


まだ、若かった私はこの言葉をわかっていなかったのかもしれない。


レイカは、先に家を出て行きました。

その後、彼女がどうなったかはわからない。

私がその時おもったのは、もうこの家の門は二度とくぐらないだろうと。


いつもは、源爺から帰りの交通費をもらって電車で帰るのですが

今回は、メグミの車で送ってもらうことになりました。

助手席の私は、不思議の高揚感とメグミを抱きしめた時の髪の匂いが残っています。

無言のまま、車は帰り道を進んでいく。


「あの」

「あのな」


同時に出した声がかさなった。

そして、また無言。


「ふたりで、アポロ打ち上げようか?」

「そやな、月旅行もええかもな」


車は、桜ノ宮にあるホテル街へ消えた。


二夜目 終

三夜目 源爺編 最終章へつづく。


>>三夜目 古寺