三夜目 その二 先輩 | Soulmate

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汝、愛されたければこそ、愛せよ。

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はじめてご購読いただく方へ。連載中につき、前夜から読まれることをおススメします。
尚、20歳以下の未成年やこういった話が不快に感じられる方はご遠慮いただきますようよろしくお願いします。


<前夜> はじめての方はこちらからどうぞ 
<一夜目 あらすじ>
<二夜目 あらすじ>


源爺の玄関に、ふたり立つ。

不在のはずの家の中から、カレーの匂いがしてコロコロ笑う声が聞こえてきました。


「おっ、奴さんもう来とったか」

「誰か来る予定やったんですか?」

「はよ、ひさしぶりに顔みたいなぁ」


ニカッと歯をみせ、ガラガラと引き戸を開けると

私をおいて、急ぎ足で源爺は台所へむかいました。


「?」


私も後を追うように、廊下を歩いて台所へ向かいました。

台所を覗いてみると、

割烹着を着たふくよかな女性の尻を、源爺が触るところでした。


「きたかちょーさん」

「まってた、ほい」


尻に手がいく瞬間、手を払いのけています。


「あはははは」

「ほほほほ」


ふたりで笑っています。


「いやーなつかしなぁ」

「ごぶさたしてますぅ」


ふくよかな女性は、年のころ50代半ば。

まつげの長い、黒目がちのたれ目の丸顔でした。

髪は上にまとめ、小料理屋のおかみさんのように見えます。


源爺が、私のほうへ振り返ると


「ナルさん、美鈴さんや。あんたの先輩や」

「あんたが噂のナルさんか。デビューで雪女を溶かしたっていう」


ほほほほと笑う姿は、ソプラノ歌手の歌声のようで人を和ませる声です。

私は頭を下げると


「ナルキヨです。はじめまして」

「源爺が大げさに言ってるだけです。真似しただけです」


と頭をかきながら、テレ隠しにカレーの入った鍋のふたを開けます。


「おいしそうなカレーですね」

「おいしいかどうか、わからんけど後で食べてねぇ」

「美鈴さんのカレーは、うまいでぇ」


ふと気がつくと、台所の一角が暗い影を落としていました。

すでに駆け込み寺の客が、我々のやりとりが耳に入らないような目で一点を見ている。


「今日は、ナルさんの最後の日やし、少し多めにお客を呼んでるでぇ」

「美鈴さんにも、加勢してもらうために特別に呼んだんや」

「美鈴はん、久々に腕ふるってやっ」

「はいなっ」


ふたりが、どのくらいの時間、コンビを組んでいたかわかりませんが

会話のリズムが息のあったところを見せています。


「ウチ、戦闘服に着替えてきますぅ」

「よっしゃ。ナルさんも準備してきてや」

「はい」


いつののように、奥の広間を掃除して

拷問部屋に入り、いつもよりも多めにバスローブや毛布などを出しておきました。

静かにガラガラとする音やビシャンという音が

時間をおいて、聞こえてくるところをみると

お客がぞくぞくとやってきているようです。


「よっしゃ、はじめるでぇ」


慌しくなってきました。


「ナルさんはこの方。お願いやで」


台所の一角で、暗い影を落としていた人でした。

私は、一例をして


「よろしくお願いします」


といいながら、背中に手を添え奥の間へエスコートします。


源爺が言うには、どんな雰囲気の人でも

身体のどこかに、手を触れておくことが大事だということ。

人はやさしく触れられていると、安心するらしい。


「さっ、こちらへ」


奥の間に通すと、すでに美鈴さんは始めているらしい。

広間で唯一の装飾、一筆書きの○の額の前で女性が座り

美鈴さんは、女性のあごに二本の指を添えながら

自分のほうに向けさせています。


「あんた、女やったら根性だしてみぃ」


さきほどとは、打って変わったような美鈴さんの声。

戦闘服は、真っ黒なチャイナで腰のあたりまでスリットが入っているものでした。

年齢や体型からすると、滑稽に見える姿も

なぜか背筋がピンとして背中までの黒髪、そして肘まであるエナメルの手袋が

格好良く見えます。

興味深いので見ていたいところですが、

私のお客に集中しなければ。


「目のホクロ、泣きボクロですね」


いよいよ、お客への心のダイビングの始まりです。


二夜目 その三 失敗 へつづく。

<二夜目 その三 失敗>