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27Sep
- アートアクアリウム
  銀座三越で開催されているアートアクアリウム美術展に行ってきました。以前、日本橋で開催されたのを観たことがあります。ネットで予約して、入場時間を待ちます。ここから入ります。１５ほどの作品に名前が付けられています。手毬リウム日本の伝統的な遊具である手毬。多彩な糸で織られた紋様と、その合間から金魚たちの優美な姿を覗くことができます。障子リウム雪見障子をモチーフにした作品。金魚の石庭建築家・隈研吾氏による作品。華道家・假屋崎省吾氏による作品もあります。日本庭園から水、花、樹木などを限りなく削ぎ落とし岩や石のみで構成された「石庭」を、金魚の泳ぐ水の塊で表現した作品。竹を使用したしななやで繊細な美しさが。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　新金魚品評背の低い四角形の水槽の中を、優雅にゆったりと泳ぐ金魚を、上から眺めて鑑賞する作品です。金魚の無限の可能性を感じ取れる、永遠の世界が広がっています。ＮＥＯ花魁アートアクアリウムを代表する大型水槽作品“花魁”を、鮮やかな光で美しい色彩を表現するネオンアート。金魚の参道金魚の泳ぐ水槽で参道を表現し、神秘的に空間を演出したエリア。鳥居をモチーフにした列柱の水槽群。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　金魚の湧泉華やかで優美な“泉”を表現した空間型の作品です。中央には、様々な色彩に輝く光の塊が美しく空間を照らし出します。金魚の滝淡い光の中、波打ちながら重層的に連なる水の壁。静かに流れ落ちる水は、まさに金魚の滝。金魚の石灯籠神社仏閣に灯りをともす石灯籠をアレンジした作品。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　猪目リウム日本古来から魔除けや福を招く意味合いで使われているハートのような文様、猪目（いのめ）。古くから神社仏閣の建築装飾として随所に見ることができます。その猪目をモチーフとした窓が水槽となり、その窓から外に広がる景色のなかを金魚たちが優雅に泳ぎます。金魚の回廊立ち並ぶ金魚の列柱に足を踏み入れると、そこには無限の空間が広がっています。寺社建築に見られる回廊を表現した空間型の作品です。金魚蒐集ふだん目にすることのない珍しい品種を中心に、種類ごとにアートギャラリーのように展示をしています。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　九谷金魚品評日本の伝統工芸である九谷焼で制作された金魚品評。花魁花舞（ＨＡＮＡＭＡＩ）水槽作品“花魁”が並ぶ空間を様々な花で埋め尽くした華やかな空間作品。天空リウム天空に咲き誇る空想の花々を表現し、花咲く水槽が連なる幻想世界を描き出します。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　特別企画「夏のアートアクアリウム2025」は、９月２９日( 月) まで。
25Sep
- 小説『黄色い家』
  ［書籍紹介］　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　惣菜店に勤める伊藤花は四十歳の独身女性。「傷害と脅迫、逮捕監禁の罪に問われた吉川黄美子被告（60）の初公判が東京地裁で開かれた」というネット記事を見つけてしまう。黄美子の罪状は、二十代女性を一年三ヶ月にわたり室内に閉じこめ、暴行して重傷を負わせたというもの。花は２０年前のことを思い出す。この記事の吉川黄美子と数年間一緒に暮らしたことがあったのだ。というわけで、花の２０年前の回想が展開する。花が黄美子に出会ったのは１５歳、中学三年生の夏休みのこと。東村山市のはずれの、古くて小さな文化住宅で母と二人暮らしをしていたのだが、母親はスナック勤め、生活は貧しく、将来に希望もなにもない。ある朝起きたら母はおらず、代わりに全く知らない女性が眠りこんでいるのを発見する。それが吉川黄美子だった。高校生になった花は、自立を目指してファミレスのアルバイトに精を出していたが、必死で貯めた金を母の交際相手に盗まれてしまう。花は家出して黄美子さんについていき、スナックで働きはじめる。花と同年代の蘭と桃子も加わり、４人で疑似家族のように暮らすようになる。蘭と桃子は、花にとって初めてできた友達だった。花はスナックで働いたお金をこつこつ貯め、それは２００万にもなったが、母親が作った借金でなくなってしまう。みんなで経営していたスナックが火事で焼けてしまい、銀行口座も保険証など身分を証明するものがなく、稼ぐ手段を失った花は偽装キャッシュカードの出し子を引き受けるようになり、蘭と桃子も他人のクレッジットカード情報を使った商品券売買で犯罪に巻き込まれていく。やがて、その金の分配を巡って争いが起こり、疑似家族は四散してしまう・・・「黄色い家」とは、風水で黄色は金運をあらわすカラーと信じた花が黄色のものを集め、ついには、家の壁を黄色のペンキで塗りたくったことによる。ゴッホとゴーギャンとは関係ない。あまり私とは付き合いのない種類の人々の話。だから、自分の知らない世界を見た思いがする。本当にこういう生活をしている人もいるのだろう。だが、判断がことごとく間違っていて、その失敗に埋没していく姿が痛々しい。２０年経っても、基本の生活態度は変わらない。お金がないというのは、つらいね。大金持ちは、自分の口座から５０万円程度引き出されていても、気づかない、というのは初めて知った。だから、出し子としての花は罪悪感を覚えない。花の助けになる韓国人の安映水（ヨンス）、「芸能人みたい」な美貌の持ち主の銀座のクラブでホステスで、同棲した男に殺される琴美、カード詐欺の教授役、ヴィヴァンら魅力的な人物が沢山回りを固める。６０１ページの大冊だが、さすが芥川賞作家の川上未映子、筆力があるので、スムーズに読めた。第７５回　読売文学賞（小説賞）受賞、王様のブランチBOOK大賞２０２３　受賞、２０２４年　本屋大賞　第６位。
23Sep
- 映画『ファンファーレ　ふたつの音』
  ［映画紹介］世界的スター指揮者であるティボは、オーケストラのリハーサル中に倒れ、白血病と診断される。妹をドナーにしようと目論むが、適合しない。というのは、妹とは血のつながりがなく、ティボは養子だったことが分かる。更に、ティボには、生き別れた弟がいたことが判明。ティボは弟に会いに出かける。弟が住むのは、かつては炭鉱で栄えたが、今は寂れた炭鉱町。弟ジミーは貧しく、学食で働いていた。ジミーも血を分けた兄がいることを突然知らされ、混乱する。ただ、二人には共通点があった。それは、音楽。ジミーは、炭鉱の仲間たちと吹奏楽団を作っていたのだ。世界的指揮者とアマチュア楽団のトロンボーン吹き。兄ティボが、３歳からピアノを教えるような裕福な家庭に引き取られたのに対し、５歳にして母親を亡くし、親元を離れて生きなければならなかった弟ジミー。兄弟でありながらも異なる運命を歩んできた二人。これまでの運命の不公平を正そうと、ティボはジミーを応援することを決意する。その過程で、ディボは、ジミーに類まれな音楽の才能があることを見いだす。ジミーは絶対音感の持ち主だったのだ。ティボはジミーに指揮のやり方を教える。やがて、二人の未来、楽団、そして町の人々の運命をも思いがけない方向へ動かしていく──。根底には、炭鉱の不況という社会問題があり、炭鉱町の閉塞感や社会的な格差がキーポイントとして描かれる。ジミーが所属する楽団には、勤め先の工場が操業停止し、職にあぶれた者が沢山いて、リアルな現実が対峙する。音楽を介在して、血のつながりや社会的格差を内包した人間ドラマ。兄のティボ役をセザール賞に５度ノミネートされたフランスの名優バンジャマン・ラべルネ、弟・ジミー役をピエール・ロタンが演じる。監督は「アプローズ、アプローズ！　囚人たちの大舞台」(2020)のエマニュエル・クールコル。なるほど、前作の監督なら、と納得の出来。サン・セバスティアン国際映画祭では観客賞を受賞、セザール賞では作品賞・主演男優賞など主要７部門にノミネート。フランス公開時には２６０万人を動員、３週連続興収No.1など大ヒットを記録した。興味深かったのは、オーケストラのリハーサル風景。また随所でクラシックの名曲が流れる。・ベートーヴェン：序曲「エグモント」・モーツァルト：ピアノ協奏曲第２３番・メンデルスゾーン：序曲「フィンガルの洞窟」・ドビュッシー：牧神の午後への前奏曲・モーツァルト：交響曲第３９番・ミシェル・ペトロシアン：クアドラトゥール・ヴェルディ：歌劇「アイーダ」～凱旋行進曲、そして、ラヴェルの「ボレロ」。最後のくだりは、現実的には不可能だが、映画だからね。それにしても、あんな感動的な「ボレロ」は初めてだ。５段階評価の「４．５」。新宿ピカデリーほかで公開中。
21Sep
- 東海寺と周辺の寺院
  先日、京浜急行の、この駅↓へ。目黒川沿いにさかのぼり、ここ↓へ。東海寺。臨済宗大徳寺派の寺院。山号は万松山。寛永16年（1639年）徳川家光が但馬国出石の沢庵宗彭を招聘して創建。漬け物のタクアンに名を残す沢庵を住職とする。元禄７年（1694年）品川宿から出火した火災で全焼。すぐに徳川綱吉と生母桂昌院によって再建され、大伽藍となる。このように、幕府による手厚い保護を受けていた。梵鐘。山門は現在使われていない様子。この地域はお寺が沢山あるのでまわってみます。清光院（せいこういん）。臨済宗大徳寺派の寺院。明治時代に東海寺から分離独立した。ここには、なかなかの墓所があります。奥平家の墓域は品川区の文化財に指定されている。途中にあった神社。木がご神体？　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　土壁の向こうにあるのは、天龍寺（てんりゅうじ）。曹洞宗の寺院。1581年（天正9 年）、松平忠昌の生母清涼院の開基。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大龍寺（だいりゅうじ）。黄檗宗の寺院。山号は瑞雲山。寛正４年（1463年）覚阿が創建した時宗の明王山東光院が起源。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　本光寺（ほんこうじ）。単立寺院。山号は経王山。1382年（永徳2 年）創建。徳川家光が本光寺を訪れ、本光寺18世・日啓と増上寺・意伝が東海寺・沢庵宗彭の立会いのもと、念仏無間の問答（品川問答）をしたという。願行寺（がんぎょうじ）。しばり地蔵尊。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　心海寺（しんかいじ）。真宗大谷派の寺院。１６４７年（正保４年）、本多忠峯が開基。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　本覚寺（ほんがくじ）。天台宗の寺院。１５７３年（元亀３年）、晃慶によって開山された。本堂が入っている建物は鉄筋コンクリート造で、１階部分は吹き抜けになっている。本堂部分は２階以上にある。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　本栄寺（ほんえいじ）。日蓮宗の寺院。山号は宝光山。１４５０年（宝徳２年）草創の小堂が起源。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　蓮長寺（れんちょうじ）。日蓮宗の寺院。山号は実相山。このマスクみたいのは、墓じまいの通告。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　この地域に寺院が密集する理由をご存じの方は、教えて下さい。
19Sep
- 『複眼の映像』
  ［書籍紹介］「乱歩と千畝」→「明智小五郎事件簿」→「ポー傑作選」→仁木悦子→「砂の器」→松本清張→橋本忍と来て、ついに黒澤明に到達。２０１８年、１００歳で亡くなった日本を代表する脚本家・橋本忍による、黒澤明の映画にシナリオライターとして関わった時期を中心とした自伝。２００６年刊行。黒澤明の「羅生門」、「生きる」、「七人の侍」、「生きものの記録」、「蜘蛛巣城」、「隠し砦の三悪人」、「悪い奴ほどよく眠る」で脚本を担当、黒澤明名作誕生の裏舞台を脚本づくりに関わった当事者が語った一冊。結核にかかり、療養所に入っていた際に隣のベッドの患者が読んでいた『日本映画』を借りて、その中に掲載されていたシナリオを読んで、これなら自分も上手く書けると思ったのが、脚本家になるきっかけだった、という話は初めて聞いた。その後、伊丹万作にシナリオを送り、指導を受けるようになった。伊丹万作に原作モノを書くように勧められ、まだ誰も手をつけていない芥川龍之介に目をつけ、とりあえず「藪の中」を脚色し、それが黒澤明の目に止まり、映画化することになった。ただ、短いので、前後を膨らますように言われ、同じ芥川原作の「羅生門」を付け加えた。この付け加えた部分はほとんど黒澤のアイデアのようだ。「羅生門」がヴェネチア映画祭でグランプリを獲得して、橋本忍の前途が開ける。小國英雄と引き合わされ、次の作品、『後、７５日しか生きられない男』の話に取り組む。これが後の「生きる」である。「生きる」という題名は黒澤がつけた。脚本にとって重要なのは、一にテーマ、二にストーリー、三に人物設定だという。主人公の職業が小役人と決まり、箱根の旅館に缶詰となって、シナリオ作りが始まる。志村喬が「ゴンドラの歌」を歌う場面では、歌詞の続きを、年配の女中に歌わせて採用した、という珍しい話が続く。「生きる」の次が「七人の侍」だが、この間に『ある侍の一日』と『日本剣客列伝』という２本の企画があったことは初めて知った。『ある侍の一日』は、親友と城中で弁当を食べる重要な場面にあったが、その時代は一日２食なので、弁当を持参するというのがなかったことが判明して挫折。中止の決定に黒澤が烈火のごとく怒ったという。『日本剣客列伝』の方は、オムニバスの形式が起承転結に合わず断念。そして、野武士の略奪から村を守るために百姓が侍を雇う、というアイデア一つで始まり、侍の数も七人と決まった。「七人の侍」である。その７人の造形で、『日本剣客列伝』の模索が役立ったという。第一章　「羅生門」の生誕第二章　黒澤明という男に続く、第三章　共同脚本の光と影では、黒澤明の共同脚本の手法について触れる。黒澤明の作品リストを見ると、３０本のうち、初期の６作品と最晩年の３作を除き、ことごとく複数の脚本家の合作だ。本作の題名「複眼の映像」の由来である。旅館にこもり、同一シーンを複数のライターが書いて、それを一本に練り上げる。この脚本の作り方は、世界のどこにも例のない黒澤明独特のものだ。しかし、途中で変貌を遂げる。一人が先行して書くやり方を最初から討議して決定稿を作る方式に変わったのだ。「ライター先行形」から「いきなり決定稿」への変更。それにより、黒澤作品は変質したという。「どん底」「蜘蛛巣城」と混迷は続く。野村芳太郎が橋本忍に言った言葉が衝撃的だ。野村は言う。「黒澤さんにとって、橋本忍は会ってはいけない男だったんです」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「そんな男に会い、『羅生門』なんて映画を撮り、外国でそれが戦後初めての賞を取ったりしたから、映画にとって無縁な、思想とか哲学、社会性まで作品へ持ち込むことになり、どれもこれも妙に構え、重い、しんどいものになってしまったんです」「羅生門」「生きる」「七人の侍」、「それらはないほうがよかったんです」「それらがなくても、黒澤さんは世界の黒澤に・・・現在のような虚名に近いクロサワでなく、もっとリアルで現実的な巨匠の黒澤明になっています」異論はあろうが、野村芳太郎の言葉だというだけで、含蓄深く聞こえる。橋本忍は、黒澤晩年の「影武者」も「乱」も認めていない。主役の影武者と、本物の信玄の人物像が共に薄弱で、ほとんど人物設定ができていない。「乱」もリア王の人物設定が出来ていない。小國英雄も同意見で、「世の中、広いよ。あんなホンを映画にする者もある」とまで言う。橋本は小國に言う。「今後は黒澤さんのように、強力なライターチームを作り、そのリーダーになるような映画監督は、もう二度と出てこないと思います」小國は「でもそれはもう終わったんだ」と言い、続ける。「しかし、本当に手が揃っていたよな。前半はお前、橋本忍が主戦投手、後半は菊島隆三・・・日本映画の双璧だよ。しかし、まず橋本が去り、続いて菊島・・・その上、救援と抑えの俺まで降りる・・・」「日本の映画史に数々の名作や佳作を残した黒澤組の共同脚本も、ついに『乱』で崩壊・・・終わったよ」橋本忍は書く。黒澤さんは最高級の腕を誇る偉大な職人から、一人の芸術家に変貌してしまった。黒澤明は芸術家になったために失敗したのである、と。歌舞伎に目を転じて、「仮名手本忠臣蔵」「義経千本桜」「菅原伝授手習鑑」の三大名作がいずれも竹田出雲、三好松洛、並木千柳の共同脚本だという指摘も興味深い。小説家からシナリオライターになった例は一例もなく、これからもそれはあり得ない。小説は読み物、シナリオは設計図という全く性質の異なる別々な生きものであることと後は経済的な問題──シナリオで稼ぐよりは小説家のほうが楽に稼げるということではなるまいか。という指摘もなるほどと思わせる。日本のシナリオライターのギャラは安い。才能は集まらず、もっと稼げる小説の方に行ってしまう。赤川次郎がいい例である。実は、私は黒澤明ファンで、全作品を観ている。やはり頂点は「赤ひげ」で、黒澤の全てのエッセンスが詰まっている。その時黒澤５５歳。「用心棒」「天国と地獄」も５０代の作品。その前の「羅生門」４０歳、「生きる」４２歳、「七人の侍」４４歳。私は映画監督は、５０代が限界、という自説を持っているが、「影武者」７０歳、「乱」７５歳。確かに無理があったのである。いずれにせよ、この本は、黒澤明の一番身近にいた人物の著作。興味深い本だった。
17Sep
- 映画『張込み』『ゼロの焦点』
  ［旧作を観る］「砂の器」と同じ時にＴＳＵＴＡＹＡで借りた松本清張原作の映画作品４本のうち松竹作品の２本を紹介。「張込み」原作は松本清張の短編小説で、初出は『小説新潮』１９５５年１２月号。１９５８年に映画化。警視庁の柚木刑事は、ベテランの下岡と共に、東京の下町で発生した強盗殺人事件の従犯・石井を追って、石井の昔の恋人・横川さだ子の嫁ぐ先の九州佐賀市に向かう。横川家近くの旅館で張り込みを開始した柚木だが、銀行員の後妻となったさだ子はただただ単調な日常生活を繰り返すのみ。本当に石井は現れるのか。柚木にも焦りが募る。監督は野村芳太郎、野村芳太郎が清張原作映画の監督を務めたのは、本映画が第１作となる。脚本は橋本忍、音楽は黛敏郎。柚木刑事は大木実、下岡刑事は宮口精二、　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　横川さだ子に高峰秀子、石井に田村高広。旅館の女中役で小田切みきが出ている。後妻に入り、前妻の３人の子供の世話をしているさだ子は幸せそうに見えない。なにしろ、毎朝、夫のケチな銀行員から１００円をもらい、それで食材を買って５人分の料理を作る。当時は女性の職場がなく、後妻でしか生きるすべがなかった時代だ。その生きる屍のようなさだ子が、昔の恋人から連絡を受け、会った途端に、情熱的な女に変身する。後をつけた柚木は、その変貌に驚く。ここが本作のキモ。石井を逮捕した後、早く家に帰って行けるよう配慮した柚木は、夫に気づかれないうちに、元の単調な主婦生活に戻してやるのだ。佐賀まで向かう鉄道の旅の様子が、当時の日本映画としては異例の長尺１２分ある。クーラーなどない時代の３等車。汗をかきながら、通路に座り込んで、席が空くのを待つ。止まった駅での駅弁の購入など、なつかしい。夜行急行列車の末尾に貸切の三等客車を１両増結して撮影されたという。車内の大勢のエキストラの大部分は佐賀ロケに赴く撮影スタッフ等が兼務した。今なら飛行機で２時間だが、当時は長距離列車しか移動手段がなく、２０時間、一昼夜乗り続けながら、車中の喧騒とシャツを脱いで下着姿で暑さをしのぐ姿をリアルに撮影した。松本清張は原作よりいいと本映画を非常に褒め、特に冒頭の列車に乗り込む部分を褒めたという。主演の大木によれば、本物の横浜駅で実際の列車にぶっつけ本番で飛び乗り、幸いにも一発ＯＫであったが、仮にＮＧだった場合は次の大船で下車して翌日の同時刻に撮影する予定だったそうだ。宿泊した旅館はエアコンなどない時代だから、ひたすら汗を拭く。不審な男の二人客をいぶかる旅館の女中たち、窓から見える住宅街の通路の喧騒、実にリアルだ。「張込み」は、そのドラマ性が受けて、その後、何度もテレビドラマ化されているが、俳優の変遷が興味深い。１９５９年版ＫＲテレビ（現：ＴＢＳ）系列の『サンヨーテレビ劇場』枠で放映。出演者は、沢村国太郎、山岡久乃、安井昌二ら。１９６０年版ＫＲテレビ系列の『ナショナルゴールデン・アワー』枠で、『松本清張シリーズ・黒い断層』の１作として２回にわたり放映。出演者は、宇津井健、三井弘次、山岡久乃ら。１９６２年版ＮＨＫの『松本清張シリーズ・黒の組曲』の１作として２回にわたり放映。出演者は、沼田曜一、福田公子ら。１９６３年版ＮＥＴテレビ（現：テレビ朝日）系列の『日本映画名作ドラマ』枠にて放映。映画のテレビ版リメイク。出演者は、江原真二郎、織田政雄、高倉みゆきら。１９６６年版関西テレビ制作・フジテレビ系列の『松本清張シリーズ』枠にて放映。出演者は、高津住男、下条正巳、中村玉緒ら。１９７０年版日本テレビ系列の『ファミリー劇場』内にて６回にわたり放映。出演者は加藤剛、八千草薫、浜田寅彦、江原真二郎ら。ギャラクシー賞第15回期間選奨受賞（八千草薫）。１９７６年版日本テレビ系列の『愛のサスペンス劇場』枠にて２０回にわたり放映された。ドラマタイトル「裁きの夏」。出演者は、林美智子ら。１９７８年版ＴＢＳ系列の『東芝日曜劇場』の『松本清張おんなシリーズ』で放映。出演者は、吉永小百合、荻島真一ら。１９９１年版フジテレビ系列の『金曜ドラマシアター』枠『松本清張作家活動４０年記念』として放映。出演者は、大竹しのぶ、田原俊彦ら。１９９６年版テレビ東京系列『松本清張原案・時代劇スペシャル文吾捕物絵図張込み』として、放映。時代劇に設定を移した。出演者は、中村橋之助ら。２００２年版テレビ朝日系列『松本清張没後１０年記念・ビートたけしドラマスペシャル・張込み』にて放映。柚木をベテランに、下岡を若手エリートに設定。出演者は、ビートたけし、緒形直人、鶴田真由、田辺誠一ら。２０１１年版テレビ東京系列の『水曜ミステリー９』枠にて放映。ドラマの主要な舞台を松本市に設定。出演者は、若村麻由美、小泉孝太郎ら。「ゼロの焦点」原作は、『虚線』のタイトルで雑誌『太陽』に連載され、同誌休刊後、『零の焦点』のタイトルで『宝石』に連載、１９５９年１２月に光文社から刊行され、１９６１年に映画化。２６歳の板根禎子は、鵜原憲一と見合い結婚した。憲一は広告代理店の金沢支店で実績をあげ、近く本社勤務に栄転する予定だった。信州から木曾を巡る新婚旅行を終えた７日後、憲一は、仕事の引継ぎをしてくると言って金沢へ旅立つ。しかし、予定を過ぎても帰京しなかった。やがて、憲一が行方不明になったという知らせが入る。禎子は急遽金沢へ向かい、憲一の行方を追うが、その過程で禎子は、夫の隠された秘密を知ることになる。憲一は元警察官で、敗戦後、連合国軍占領下の日本、立川の米軍基地付近で進駐軍を相手に身体を売る女性たちの取り締まりをしていた。その憲一の過去と事件は密接な関係があった。憲一は、その時の女性と内縁関係で、別名で所帯を持っていた。しかも、その別名の人物は謎の投身自殺をし、葬儀も済まされていた。憲一の足どりが見つからなかったはずである。また、憲一の行方を探っていた憲一の兄は謎の毒殺死を遂げる。一年後、禎子は日本海に迫り出す崖の上で、ある人物と対決する・・・主人公と犯人が崖上で対する演出は、のちに２時間ドラマなどで多用され定番となったが、本作がこの演出の原型と位置づけられている。↓ヤセの断崖。「ゼロの焦点」の舞台となったという、記念碑が建っている。監督は野村芳太郎、脚本は橋本忍と山田洋次。出演は久我美子、高千穂ひづる、有馬稲子ら。音楽は芥川也寸志。撮影は川又昂。その後、２００９年に東宝で再映画化されている。監督は犬童一心、脚本は中園健司・犬童一心。出演は広末涼子、中谷美紀、木村多江ら。犯人との対決は断崖上ではなく、金沢行の車内で展開される。２本の映画作品の他、繰り返しテレビドラマ化されている。１９６１年版フジテレビ系列で１６回にわたって放映。出演者は、河内桃子、鳳八千代ら。１９７１年版ＮＨＫで再ドラマ化。脚本は石堂淑朗、出演者は、十朱幸代、奈良岡朋子、長山藍子ら。１９７６年版日本テレビ系列の『愛のサスペンス劇場』枠で２５回にわたって放送。出演者は、土田早苗、真理明美、女屋美和子ら。１９８３年版ＴＢＳでテレビドラマ化。脚本は橋本忍・山田洋次、監修・野村芳太郎。出演者は、星野知子、大谷直子、竹下景子ら。１９９１年版日本テレビで再ドラマ化。出演者は、眞野あずさ、増田恵子、芦川よしみら。脚本の新藤兼人は原作者の指名を受けたもの。犯人が海上に小舟を漕ぎ出すシーンは、原作者の希望により脚本に導入され、撮影が行われた。１９９４年版ＮＨＫで４夜連続で再ドラマ化。脚本は清水邦夫、出演者は、斉藤由貴、萩尾みどり、永島暎子ら。両作品とも、野村芳太郎と橋本忍のタッグで、重厚でリアルな物語がかっちりした白黒画面で展開する。
15Sep
- プラネタリアＴＯＫＹＯ
  先日、有楽町に出かけ、ここ↓へ。有楽町マリオン。昔、ここには日本劇場（日劇）がありました。１９３３年（昭和８年）竣工。戦時中の空襲による被災や、終戦後の占領軍による接収も免れ、半世紀近く日本興行界を代表する象徴のひとつとして存在しました。戦後は映画と実演の二本立て興行を行い、日劇ダンシングチームのレヴューと歌手のショーが注目を浴びました。１９５３年と１９６０年には、『NHK 紅白歌合戦』も開催されました。「スター・ウォーズ」が公開されたのも、この劇場です。しかし老朽化により、１９８１年２月１５日を以て閉館。跡地には有楽町センタービル（有楽町マリオン）が建てられ、１９８４年１０月６日に開館。１階には２つのデパートが入り、上階には東宝と松竹の映画館が５館入りました。「日劇」の名は、東宝系の映画館「日本劇場」「日劇東宝」「日劇プラザ」に引き継がれ、後に３館は「日劇PLEX」、更に「TOHOシネマズ日劇」へと館名を改め、３４年にわたって上映を続けましたが、近隣に最新設備のTOHOシネマズ日比谷がオープンするため２０１８年２月４日を以て閉館。有楽町で８５年続いた「日劇」の名称は遂に終焉を迎えました。（松竹系の丸の内ピカデリー１・２は今も営業中。）東宝系３館がその後どうなったかというと、１１階の映画館は、２０１８年７月に約９００席の貸ホール「ヒューリックホール東京」に、９階の２つの映画館は、２０１８年１２月にプラネタリウムを中心とした複合型映像体験施設「コニカミノルタ　プラネタリアＴＯＫＹＯ」になりました。行く機会がありませんでしたが、今、『星空夏祭り』というのが開催されており、入場無料で出入りも自由だというので、中の様子を見に出かけました。二つの映画館は、それぞれ「ドーム１」と「ドーム２」となり、『星空夏祭り』はドーム１で開催。ドームの天井にいろいろな映像が映し出されています。↓のようなゲーム屋台も出て、まつりを演出。毎日１８時４５分から、『長岡まつり大花火大会２０２４』の一部の映像を全天で楽しめる、グランドフィナーレを約１０分間上映。フラッシュを使わなければ、撮影は自由。『星空夏祭り』は９月２３日まで開催。ドーム２では、通常映像ショーを上映。意外とお客が入っていました。上映プログラムは、Planetarium Concert - 流星と映画「ハウルの動く城」の音楽-Planetarium Concert - 宮沢賢治と星降る夜のクラシック-名探偵コナン　閃光の宇宙船（ペイロード）ホラープラネタリウムふり返りの旋律星結いの森- 沖縄・国頭村の星空-北海道ヒーリング～おなじ星空の下で～今度どれかを観に行こうと思います。
13Sep
- 『松本清張短編全集０１　西郷札』
  ［書籍紹介］松本清張短編全集全１１巻を２００３年光文社が発刊。収録作品は↓のとおり。第１巻「西郷札」は、ごく初期の短編８作を集めた。「西郷札」「くるま宿」「或る『小倉日記』伝」「火の記憶」「啾々吟」「戦国権謀」「白梅の香」「情死傍観」「西郷札」（さいごうさつ）西南戦争の時、薩摩軍が発行した軍票を政府が買い上げるという偽情報により財産を失う顛末。その背後には、ある男の嫉妬があった。昭和２６年に四十歳を過ぎて書いた、清張のデビュー作。直木賞候補作。「くるま宿」人力車のを派遣する相模屋に吉兵衛という年配の男が雇われる。寡黙で実直な男だったが、相模屋に押し込みがあった時、電光石火で賊を仕留める。その正体は・・・昔の武士の矜持を示して、さわやかな一篇。「或る『小倉日記』伝」森鴎外の小倉時代の活動を調べる人物の話。跛で半顔麻痺の障害を持つ青年が失われた森鴎外小倉時代の研究に一生を捧げる。亡くなった後、小倉日記が発見されて努力は水泡に帰する。芥川賞受賞作。「火の記憶」母と共に火を見た記憶を辿る話。この頃、清張は歴史作家と思われており、推理作家とはされていなかったが、本作は推理小説の大家の雰囲気が漂う作品。「啾々吟」（しゅうしゅうぎん）誕生日が同じ三人の武士の行く末を描く。かなり皮肉が効いている。「戦国権謀」家康の家来として権勢をふるった本多正信、正純親子の凋落の話。「白梅の香」初めて江戸詰めとなった美男の若侍が、夢のような一夜をすごす。翌日、その身についた香木の香りがある事件を明らかにする。「情死傍観」阿蘇山の噴火口に投身する者を救う老人のことを小説にしたところ、ある女性が手紙を寄せて来て・・・「あとがき」で清張自身のそれぞれの作品の書かれた背景と発表雑誌の解説がある。推理小説研究家の山前譲氏の解説、島田荘司氏の、「私と清張」が貴重。
11Sep
- 映画『８番出口』
  ［映画紹介］２年前にインディーゲームクリエイターのKOTAKE CREATE が個人制作でリリースし、世界的ブームを巻き起こしたゲーム「８番出口」の実写映画化。蛍光灯が灯る無機質な白い地下通路を行くが、いつまで経っても出口にたどり着くことができない。同じ通路の繰り返し。壁には奇妙な「ご案内」が。「異変を見逃さないこと」「異変を見つけたら、すぐに引き返すこと」「異変が見つからなかったら、引き返さないこと」「８番出口から、外に出ること」つまり、ポスターや清掃員用のドアや蛍光灯や途中すれ違うオジサンなどに異変がないと認定したら、前に進み、異変を発見したら、後戻りし、それらをクリアすれば、出口の表示は０から１、２、３と進み、８に至ったら脱出できる。というゲーム。そのゲームは映画では、地下鉄車両の中から展開。主人公は退勤時のラッシュアワーの地下鉄に乗っているが、同じ車両で赤ん坊がギャン泣きし、それをサラリーマンの男がうるさいと、怒鳴りつけている。主人公に電話が入り、恋人が身ごもり、病院にいるらしい。今から行くと男は言って、下車するが、地下通路にまぎれこんでしまい、出口に到達できない。男の恋人の妊娠への迷いがそうさせているらしい。地下通路だけのワンシチュエーションで話が展開するかと思えば、将来生まれて来る子供との交流や、途中すれ違うオジサンの事情などが混ざる。う～ん、そう来るか。そんな膨らませ方をしないで、異変だけにしぼったらよかったのではないか。無限回廊から抜け出す男の努力だけで映画は成り立ったような気がするが・・・実際、地下鉄の通路には、これでいいのだろうか、と思うようなものが時々ある。ゲームそのままの通路は、セットを組んだと思われるが、なかなかいい。主人公の“迷う男”を二宮和也、“歩くオジサン”を河内大和が演じる。監督は川村元気。５段階評価の「３．５」。拡大上映中。なお、ゲームの方は異変の数は３６あるのだという。オジサン関連1 ）オジサンが見つめてくる2 ）オジサンが大きくなる3 ）オジサンが笑っている4 ）オジサンの顔がバグる5 ）オジサンが高速で追いかけてくる6 ）オジサンと目が合ってないときだけ付いてくるポスター関連7 ）アルバイトパート大募集のポスターの目が怖くなる8 ）フェスのポスターが怖くなる9 ）ポスターが徐々に大きくなる10）ポスターが全部同じになる11）地下鉄マナーあれこれのポスターが出現する防犯カメラ関連12）防犯カメラが赤く光る13）防犯カメラ作動中の看板の目が動く14）防犯カメラ作動中の看板が左右に動く点字ブロック関連15）点字ブロックが潰れる16）点字ブロックが増えるドア関連17）清掃員詰所のドアが開く18）清掃員詰所のドアノブが中央にある19）従業員専用のドアから女が覗いてる20）分電盤室のドアが消える21）分電盤室のドアが叩かれる蛍光灯関連22）蛍光灯が消えて真っ暗になる23）蛍光灯がチカチカする24）蛍光灯の向きがバラバラになる25）蛍光灯が黄色に光る26）通ったところの蛍光灯だけ消える案内表示関連27）案内看板が上下逆さまになる28）地下広場への案内が「引き返せ引き返せ引き返せ」になるその他29）通路奥から赤い水が流れてくる30）壁の模様に擬態した人が登場する31）壁の模様に擬態した人が覗いている32）謎の二人組が立っている33）通気孔から黒い液体が垂れてくる34）禁煙のポスターが大量に出現する35）０番出口への階段が出現する36）天井に顔のような黒い模様が出現するこれらの異変をちゃんと描くだけで、一本の映画が出来るとは思わなかったのだろうか。
09Sep
- 豊川稲荷
  先日、赤坂見附に行き、国道２４６号線を渋谷方面に向かい、右側にあるのが、豊川稲荷。坂の途中、丘の上に建っています。これが山門。ぐるりと常夜灯が囲みます。実は、ここは、東京別院（江戸参詣所）で、本寺は愛知県豊川市にあり、正式名を「豐川閣妙嚴寺（とよかわかくみょうごんじ）」と称し、山号を圓福山（えんぷくざん）とする曹洞宗の寺院です。日本三大稲荷の一つ。一般的に「稲荷」と呼ばれる場合は、「狐を祀った神社」を想像される方が多数であると思われますが、本寺でお祀りしているのは、豐川だ枳尼眞天（とよかわだきにしんてん。「だ」の文字はパソコンにない）。だ枳尼眞天は、インドの古代民間信仰に由来する仏教の女神ですが、白い狐に跨っておられることから、いつしか「豊川稲荷」が通称として広まっています。「いなり」とは「イナノリ」の音便で、ノリは実登の義で、豊年を意味して稲荷と書くわけです。入って右にあるのが、子宝観音。その周囲の植え込みの中に、こんな記念板が。赤坂の花柳界が近かったこともあって芸道を生業とする人々からの信仰も増え、現在も、著名な芸能人、スポーツ関係者からの信仰を集めています。結構新しいので、作り直したのかも知れません。これが稲荷会館（信徒会館）。稲荷会館の２階は「法輪閣」といわれ、釈迦如来が祀られています。これが本殿。愛染明王。縁結びの祈願。叶稲荷は縁切り専門の稲荷。すべての悪縁を断ち切るとともに、開運招福を授けてくれるといわれています。奥の院。三神殿には三体の神様が祭られています。宇賀神王（うがしんのう）。繁栄を司るといわれる商売繁盛などの神様。太郎稲荷（たろういなり）。健康を守る神様と言い伝えられています。徳七郎稲荷（とくしちろういなり）。円満な対人関係をもたらしてくれるとされています。神社ではないものの、境内の参道には鳥居が立っています。それをくぐると、参道の両脇にそれぞれの願いを込めたのぼりがぎっしりと奉納されています。霊狐塚。八角形の石が積み重ねられた塚に、さまざまなキツネが祭られています。このキツネは祈願成就のお礼の意味合いとして奉納されているもので、以前はこれよりももっとたくさん置かれていたそうです。現在は供養後、地下へと納められています。これは、何？子だき狐。この像をなでながら祈願をすると、子宝のご利益があるとされています。文化会館。茶店が境内に３軒あり、うどん等を食べられる他、境内各所へのお供え物の紅白餅と油揚げ、１合瓶入りの日本酒の3 点セットも販売しています。境内には七福神のすべての像があり、境内で七福神めぐりすることができます。子供の頃、豊川稲荷を知ったのは、三代目柳亭痴楽の落語。「ラブレター」の枕の部分で、女性の美点は声です。映画など鑑賞して幕間に入るアナウンスは女性でなくてはなりません。「お呼び出しを申し上げます。お客様の藤田様、正面玄関までお越し下さいませ」と聞くと、藤田さんがどんなに素敵な人なのだろうと、かってに連想してしまいます。その反対に、ガラガラ声の男性がやると、「豊川稲荷の藤田さん、豊川稲荷の藤田さん、表で狐が待ってます」と、やられると具合が良くありません。と言って、笑いを取りました。
07Sep
- あゝ石破サン
  石破サンが、ようやく辞任表明した。参議院選挙が７月２０日。惨敗の責任をとって、すぐ辞任すればいいものを、５０日も遅くなった。「政治空白を生んではならない」というのが続投のリクツだったが、自ら政治空白を５０日生んだ。辞任の理由はいろいろ挙げているが、そんなもの、まともに受け取る人はいない。真相は、明日（９月８日）の総裁選前倒しの意思表明の票読みで、敗北する見込みが明らかになったからだ。報道機関の票読みで、１７２の過半数は確実、ひょっとしたら、２００を越えるという予測で、みじめな退陣となるなら、自分の意思で辞めたい、介錯で首を斬られるより、せめて自分で切腹させてくれ、ということだろう。しかし、観たかったなあ。明日の午前中。報道陣が見守る中で、党本部に続々詰めかける議員たち。署名捺印した書類を議員本人が提出、その議員名を公表する、という圧力が裏目に出て、議員たちを奮い立たせた。解散をちらつかせた圧力も裏目に出た。当然報道陣は、来た議員の数をカウントする。１０時からほどなく、「今、１７２に達成しました」というニュースが日本中に伝わる。その後に辞意したのでは、遅い。それで、前日の辞意表明になった。史上初の「リコールされた総裁」となる栄誉を免れたのだ。本当は、もっと先も観てみたかった。「総裁はやめても総理はやめない」とゴネ、ついに、「やぶれかぶれ」の解散。そして、自民党はボロ負けし、下野する。そこまで踏ん張ってほしかったよ、石破サン。「しかるべき時に決断する」と石破サンは言ったが、その「しかるべき時」は、昨年の衆議院選挙敗北の時だった。百歩譲っても、今年の参議院選挙敗北の時。それでもやめず、総理の座に「恋々と」した。「この人は、こんな人だったのか」と選んだ議員たちさえ驚いただろう。安倍元総理は、「あいつだけは駄目だ」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　と言っていたそうだが、慧眼だ。国政選挙に負けた総裁は身を引く、というのが自民党の良き伝統だ、と言った人がいたが、その伝統にそむいて居座り、ついに、議員たちにそっぽを向かれて辞任。みっともない。で、次の総裁選び。高市早苗さんか小泉進次郎か。フルスペックの総裁選で、党員票が圧倒的に高市さん支持になれば、高市さんの目はある。しかし、選挙期間が一月もかかるから、国会議員での選出になると、小泉が強い。だが、小泉になっても、自民党の岩盤支持層は帰ってこない。少数与党だがら、政局運営は難しく、困難は続く。小泉はじきにメッキがはがれるから、高市さんは次を待った方がいいかも。高市さんなら、参政党や国民民主党と連携できるかもしれない。積極財政で財務省の思惑を回避し、「失われた３０年」を取り戻すのは、高市さんしかいない。しかし、中国は高市さんだけは避けたいらしい。先は混沌としているが、ただ、あの三白眼の人が世界の首脳たちに並んで顔をさらさずに済むだけでもほっとする。
06Sep
- 映画『砂の器』
  ［旧作を観る］昨日ブログで紹介した「砂の器　映画の魔性」を読んだので、久しぶりに「砂の器」を観てみようと思い、ツタヤディスカスに発注した。旧作はレンタル料がわずか１枚９０円なので、配送料を考慮して、他に松本清張の映画化作品を一緒に注文した。「砂の器」「ゼロの焦点」「張り込み」「黒い画集・あるサラリーマンの証言」「黒い画集・ある遭難」それに、「サラリーマン忠臣蔵」の計６本。「砂の器」は、公開当時、新宿松竹（今の新宿ピカデリーのあるところ）で観た。ボロボロに泣いて、感動のあまり２度続けて観た。まだ全館指定席も入れ替え制もない時代だから、そういうことが出来た。その一年後、３度目に観た時は、ちょっと受け止め方に変化があった。和賀英良は殺人犯。元警官の三木に、療養中の父親に会うことを強要されたとしても、恩人を殺すことはない。三木は和賀の過去を世間にばらすような人ではない。会えない心情を説明すれば、分かる人だ。しかも、殺人の方法がひどい。石での撲殺だ。そういう人物の犯罪を可哀そうな父子の巡礼の映像と哀切な音楽にまぶして正当化していることが見えてしまった。だから、３回目の鑑賞では乗れず、白けた。で、今回の５０年ぶりの再見・・・やっぱり泣かされてしまった。演奏が始まってからの４０数分の展開は見事の一言に尽きる。合同捜査会議の場とコンサート会場と父子の遍歴。その３つの立体構成が編集の妙味で圧倒的な力を持って迫って来る。映画でしかできない表現。これこそ、音楽の力、映像の魔力。その魔法にまたもやられてしまった。ただ、公開当時感じた欠点は同じだった。それは、演奏を終えての和賀英良役の加藤剛の笑顔。あんなさわやかな笑顔はちょっと。もっと陰影のある表情は出来なかったのか。音楽でしか父親と会えない彼が自作を演奏することで父親と会えた後のあの笑顔は違和感がある。監督はどう思ったのだろうか。加藤剛は清潔な善人顔であったために、少でも表情を暗くしようと、監督はサングラスをかけさせた、と「砂の器　映画の魔性」に書いてあった。それと、丹波哲郎が圧倒的にいい。こんなにうまい役者だったのか。さあ、あとは借りた松本清張原作映画を続けて観るとしよう。
05Sep
- 『砂の器　映画の魔性』
  ［書籍紹介］「砂の器」は、１９７４年に公開されて大ヒットした映画。その年の興行収入１位を獲得、キネマ旬報ベストテンでは、「サンダカン八番娼館」に次いで２位となったが、読者選出では１位、「松本清張原作映画の最高峰」とも、「戦後映画のトップ１０に入る映画」とも言われている。本書は映画評論家であり、映画監督でもある樋口尚文（ひぐち・なおふみ）がその製作の秘密に鋭く切り込む、「砂の器」研究の集大成とも決定版とも言える書である。目次序章　『砂の器』とはなんだったのか第一章　『砂の器』の脚本と演出第二章　『砂の器』の音楽第三章　『砂の器』の演技第四章　『砂の器』の宣伝・興行第五章　『砂の器』の影響補章　松本清張映画全作品論終章　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　第一章　『砂の器』の脚本と演出　では、原作から脚本への大きな変化に触れる。原作は清張初の新聞連載小説で、読売新聞に１９６０年５月から１年近く連載、長大な上に詰め込み過ぎてまとまりを欠いており、連載中に脚本化にとりかかった橋本忍は、話が広がるばかりで収拾を見ない原作に業を煮やし、全く独自の切り口で脚本を書くことにした。その結果生まれた、原作には全く描かれていない人間の「宿命」の物語が映画版「砂の器」として観客の胸を打った。私も公開当時、原作に当たったが、あまりにも違うので愕然とした記憶がある。映画を観て、同じ感動を期待して読むと、大きく裏切られる。映画の後半、一時間近くにわたって観客の涙を搾り取る「父と子の遍路の旅路」は、原作では「ある暑い日、この街道を親子連れの遍路乞食があるいてきた。父親は全身に膿を出していた。」と、実に数行しか書かれておらず、「自己の業病をなおすために、信仰をかねて遍路姿で放浪」した姿を大胆にクローズアップして作品の核にした橋本忍の脚色は、その強引な力技ゆえにいくつも難点があるのだが、監督の野村芳太郎は職人芸によってそれをカバーしてみせた。本来はクールで非情な悪漢小説であった原作が、まるで別物の一大メロドラマに生まれ変わったのだ。まず、犯人和賀英良のキャラクターが違う。原作では、クラシックの作曲家ではなく、電子音楽の作曲家。そして、超音波発生装置で２人の人間を殺害している。そのあたりはカット。和賀英良を中心とした傲慢な若者グループ「ヌーボー・グループ」もほぼカット。原作は「戦後の新世代文化人の倨傲さと脆弱さ」に力点を置くが、映画はそれをバッサリと削そぎ落している。刑事二人の捜査の旅は出て来るが、ラストの演奏会と捜査会議と父子の旅路のカットバックの３部構成は、橋本忍の全くの創作。演奏会は原作にないし、逮捕現場も空港で、演奏会会場ではない。放浪の父親が生きていた、というのも、脚色上の創作。成長した息子の写真を見せられて、父親が、こんな病気の父を持っていることを世間が知ることがないように、「こんな人、知らん」と叫んで観客の涙を誘う。そして、逮捕に向かった刑事の口を通じて、演奏中の和賀英良が「彼は、今、父親に会っている。音楽の中でしか父親に会えないんだ」という言葉につながり、更に観客の涙をあふれさせる。この大幅な改変に松本清張は異をとなえなかったのかという疑問がわくが、当時執筆に多忙だった清張は、かまう余裕がなかったようだ。原作を越えた、と言われる映画化では、黒澤明監督の「赤ひげ」があり、原作者の山本周五郎は、「原作より良い」と明言している。清張は映画を観て何と言ったかは、不明。ただ、原作とあまりにかけ離れて、しかもそれが高い評価を得たことには、面白いはずはなかっただろう。いずれにせよ、映画「砂の器」は、原作とは別物で、いわば、橋本忍版「砂の器」と言っても間違いではない。本章の後半は、野村芳太郎監督の演出についてで、本作のプロデューサーだった監督の長男・芳樹氏に対するインタビューが掲載されている。また、野村監督による絵コンテを多数掲載し、そこに書かれた野村監督によるメモで、演出上の意図が分かるようになっている。様々なトリビアが書かれているが、中でも驚いたのは、この映画のチラシやポスターにあるメインビジュアルである親子の遍路の後ろ姿の話が興味深い。普通、映画のチラシなどには、出演俳優の顔写真などが並ぶのだが、この映画は一切なく、この父子の後ろ姿だけ。しかも、狙って撮ったものではなく、スチールの金子正という人が、撮影現場で移動している親子の後ろ姿をたまたま撮ったもの。宣伝用の写真を決める時、スタッフが撮りためたスチールに目を通していた橋本忍が「これだ！」言って選んだものだという。これも橋本忍の熱情が得た幸運と言わざるを得ない。この映画、「構想１４年」と言われているが、一旦は頓挫した企画だった。ハンセン病を扱っているというので、時の松竹社長の城戸四郎がボツにしたのだ。それをねばり強く推し、橋本プロを作って責任を負い、野村監督も松竹から離れることを覚悟して企画を通した。その結果、大ヒットにつながったわけだが、城戸四郎はあまり面白く感じていないようで、試写で後半を観ただけだったという。父子の別れの舞台となる島根県の亀嵩駅は、実際の撮影では一切使われず、近隣の駅で撮影されたという。和賀英良の仕事場で加藤剛が抱いている子猫は、加藤剛の飼い猫で、撮影現場での加藤のアイデアで、連絡を受けた加藤夫人が現場に連れてきたのだという。当初、二部構成で、「第１部　紙吹雪の女」と「第２部　宿命」として、和賀英良の戸籍詐称が判明した時点で、途中休憩を入れる予定だったが、映画が２時間２３分に収まってしまったので、宣伝会議で「インターミッションの必要なし」となったのだという。後に２０１７年から始まったシネマコンサートでは、演奏者を休ませるために休憩入りで上映された。その際は、当初の休憩の箇所が生かされた。「紙吹雪の女」とは、和賀英良の愛人の女が、犯行に使って血の染みこんだ衣服を細かく切って急行の列車の窓から捨てたのを新聞記者が書いて、それを頼りに線路沿いに刑事が拾って歩き、血液型が一致する、という展開だが、焼き捨ててしまえば済む衣服をそんな形で捨てるのはいささか不自然で、黒澤明がこの脚本を読んでナンセンスと批判したという。これもトリビア。第二章　『砂の器』の音楽　では、音楽監督の芥川也寸志がジャスピアニストの菅野光亮（かんの・みつあき）を起用する経緯が書かれている。実は芥川夫人の眞澄が東京芸大作曲科で同期だった。また、「ピアノと管弦楽のための組曲『宿命』」のコンサートのシーンは、浦和の埼玉会館で行われた。３日間かけて、聴衆のエキストラを入れて撮影。演奏は既に録音されていたから、絵コンテに添って演奏家のアクションだけを抜いて撮影。「細かいカットをよどみなく撮っていた」との証言がある。加藤剛の弾くピアノは音が出ないように工夫したし、指揮は、芥川がつきっきりで指導したという。ピアノを弾く手は菅野光亮のもの。録音に参加したフルート奏者の佐々木真へのインタビューで、「スタジオで録音した時、失礼にも『なんだか陳腐な曲だなあ』なんて思ったんですよ。ところが映像と組み合わさったものを観た時に『ああ、こういうことになるのか　これは凄くいい曲だな』と感想が１８０度変わったんです」と映画音楽の本質に触れる発言をしている。第三章　『砂の器』の演技　では、本浦秀夫を演じた子役の春日和秀のインタビューが白眉。小学１年生の冬から２年生の秋にかけて足掛け１０か月、ほとんど学校にも行かず、大人のスタッフに混じって、日本各地のロケに参加したという。今だったら、問題になるが、そういう時代だったのだ。春日は売れっ子の子役だったが、声変わりした１５歳をもって子役をやめて、一般の職業につき、やがてはカスタムカーの会社を経営するようになった。「砂の器」に出演していたことは、妻子にも話していなかったという。（実は妻は気づいていて、　こんなに何も触れないのは、　多分言いたくない理由があるのだろうと、　ふれないでいてくれたのだという。　本名の春日和秀でクレジットされているので、　それで分かったのかもしれない）２０１４年、樋口が春日を探し出し、インタビューをするまで、一切人に話すことはなかった。しかし、樋口のオファーに対して、「自分がこれまで逃げていた作品を長年愛するファンの思いを応えるべきタイミングなのかも」と全面的に協力してくれた。樋口と春日が会ったのは、昭和女子大の人見記念講堂で「組曲『宿命』」が演奏された会場。演奏会終了後、講堂前で待ち合わせた時、遠くで立ち止まった初老の婦人がゆっくり春日に近づいてきて、「あなた、ですね」と言ったという。ちょっと感動的な挿話である。また、和賀英良の愛人役を演じた島田陽子のインタビューで、加藤剛とのベッドシーンで胸が写ることについて、「私があまりに胸がないので、ちょっとお見せするに忍びないなあと思いまして、『監督、ここはカットしてください』」お願いしたところ、野村監督から「だってこんなに幸薄い女性の胸が大きかったらおかしいでしょう」と言われて、何も言えなくなった、というトリビアも披露されている。第四章　『砂の器』の宣伝・興行　では、公開当時の様々が記述される。まず、渋谷パンテオン、新宿ミラノ座、銀座セントラルでロドショー公開、一週間遅れで名古屋、大阪、福岡でロードショー、箔をつけた上で、一カ月後に一般公開。併映はドイツの記録映画「宇宙人は地球にいた」だった。まだロードショー以外は２本立てが主流だったためである。その後、ビデオが普及する前だから、劇場で観ないといつ観れるか分からない、ということで、映画館での再上映が続く。配給収入の利益配分では、松竹は５億円には届かないと見て、配分を松竹側に有利に設定。逆に橋本プロは５億超えの際に有利になる線を選んだ。配収は７億円を超え、橋本プロに多大な利益をもたらした。第五章　『砂の器』の影響　では、中国映画界への影響の大きさについて記述する。その背景には、文化大革命で父親や教師らを「反革命分子」として糾弾したことで、「父親殺し」のトラウマを引きずっていた世代に刺さった、という分析は注目される。最後の松本清張映画全作品論は、戦後の松本清張原作映画の系譜が見られて興味深い。「張り込み」や「影の車」など、名作のほまれ高い作品も多い。通算で３６本の映画化作品があるが、１９８４年の「彩り河」を最後に、２００９年「ゼロの焦点」が再映画化されるまで、清張映画は「２５年の空白」を迎える。それは、世代交代によって、「清張」と共に「戦後」を共有した読者や観客が消滅したからだという。興味深い視点だ。本書の刊行は、今年の３月１０日。まだ最近のことだ。繰り返すが、「砂の器」研究では、これ以上のものは出ないと思われる貴重な本である。
04Sep
- バック・トゥ・ザ・フューチャー　ザ・ミュージカル
  今日は、ここ↓へ。５～６分歩いて、ここ↓へ。劇団四季の劇場。ここには、「春」と「秋」と「自由劇場」があります。ちなみに、劇団四季は都内に５つの劇場を持っており、「春」（収容人員１５００人）「アナと雪の女王」上演中。「秋」（収容人員１２００人）「バック・トゥ・ザ・フューチャー」上演中。「自由劇場」（収容人員５００人）１１月から「恋に落ちたシェイクスピア」上演予定。「海」（収容人員１２１６人）「アラジン」上演中。「有明四季劇場」（収容人員１２００人）「ライオンキング」上演中。他にディズニーリゾートのアンフィシアダーで「美女と野獣」を上演中。本日は、「秋」で上演中の「バック・トゥ・ザ・フューチャー　ザ・ミュージカル」。「秋」の入り口。賞味２時間半の上演時間。本日の出演者。ここで記念写真を撮ります。中に入ると、目を引くのがサーキットボードと呼ばれる装置。回路基板をイメージしたＬＥＤボードが、客席の壁面や天井に設置されており、クライマックスでは、舞台と連結した形で動く。開演前は写真撮影OK。こんな表現も。天井も。休憩中は、色が変わる。２回最後尾の席からは、こう見えます。さて、本日の作品は、１９８５年公開の映画をミュージカル化。カリフォルニア州ヒルバレーに住む高校生のマーティ・マクフライが、町の変わり者科学者の“ドク”が発明したタイムマシンに乗って、３０年前の１９５５年にタイムスリップしてしまう。まだ高校生の父親と母親に出会うと、父親のジョージは内気で弱虫で、同級生のリフにいいように使われている。その上、あろうことか母親・ロレインにマーティは惚れられてしまう。この両親を出会わせ、恋に落としめなければ、自分が生まれない。マーティは二人の仲をとりもつことが出来るのか。そして、ドクに会ったマーティーは、どうやって１９８５年に戻ることが出来るのか。公開当時観たが、タイムスリップものの最高峰と言える、見事に組み立てたストーリー。そして、ロバート・ゼメキス監督の見事な演出。映画は続編があり、「２」では、未来に行ったマーティーはリフが君臨する世界を知り、その原因となった過去の出来事に対処せざるを得なくなる。これもタイムスリップを上手に昇華した、複雑で、見事なクトーリー。更に続編の「３」では、西部劇の時代にタイムスリップしてしまい・・・で、今回の作品は、「１」のミュージカル化。２０１４年、監督のロバート・ゼメキスと共同脚本のボブ・ゲイルは、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」をミュージカルにするという構想を発表。つまり監督自身のプロデュースによる正統的ミュージカル化。２０２０年２月、イギリス・マンチェスターでプレビュー公演が行われ、２１年にロンドン・ウェストエンドで開幕。２２年には、英国演劇界で最も権威あるローレンス・オリヴィエ賞で７部門にノミネートされ、最優秀新作ミュージカル賞を受賞。２３年８月には、ニューヨークのブロードウェイで上演。ミュージカルの演出を務めているのは、２００２年に「ユーリンタウン」でトニー賞ミュージカル演出賞を受賞したジョン・ランド。台本はボブ・ゲイルが、映画に続き担当。音楽を手掛けるのは、映画音楽を担当したアラン・シルヴェストリとグレン・バラード。従って映画で使われた音楽も使用。舞台化にあたっては、映画のストーリーラインを踏まえながら、コメディ色の強いエンターテインメントショーに昇華。歌と群舞がふんだんに取り入れられている。主な改変部は、プルトニウムを巡るリビアの過激派テロリストは登場しない。タイムスリップしたデロリアンは、農家の納屋に突入するが、そこで宇宙人の来訪と勘違いされ、住で撃たれるのは割愛。デロリアンは音声で入力するため、ドクの声でないと「音声認識できません」と言われる。等で、つまり、基本的に映画のストーリーをなぞる形。私は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は好きな映画。何年か前に開催されたオーケストラの生演奏付きの上映会に行ったほど。それがどんな風に舞台化されているか、最後の時計台への落雷シーンはどうやっているか、等の興味で観に行った。まず、技術面では、見事な舞台機構で、次々とストーリーが展開。それは驚嘆した。特に、時計塔落雷のシーンは迫力がある。最後のくだりは、デロリアンが観客席の上を通って劇場後ろに行くのではないかと思わせた。ミュージカルシーンは沢山あるが、困ったことに、歌詞がどうしても聞き取れない。何を歌っているのか、内容が分からない。これは日本ミュージカルの言葉の限界か。そして、音楽的に残るものはなく、ドクが歌う「FOR THE DREAMERS」くらいか。全体的に、キャラクターが生きておらず、これは劇団四季の特徴で、おとなしい。やはり、こういう役はスターがやらないと。そしてなによりの欠点は、感動がない。普通の出来。情熱が舞台からほとばしらない。これも劇団四季の特徴か。３分の１くらい進んだところで、「ああ、これでは、トニー賞は受賞できないな」と思った。ロンドンではローレンス・オリビエ賞を受賞したが、トニー賞では助演男優賞と舞台装置デザイン賞にノミネートされただけで、ミュージカル作品賞はノミネートされなかった。総合評価は、５段階評価で「３」。やはり、劇団四季の作品には、不満が残る。休憩中に１９５０年代の音楽が流れる。映画に出てきた「ミスター・サンドマン」や「オンリー・ユー」など。「パジャマ・ゲーム」の中の「ヘルナンドの隠家」まで流れるのは選曲の妙。なお、劇団四季の公式サイトでは、チケットの入手が困難なので、今回はチケット交換サイトで良席をゲット。ほぼセンターの↓の席での鑑賞となった。
01Sep
- あぶり百貫
  今日のグルメめぐりは、新浦安のイオンの４階にある　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ABURI 百貫。ここは昔、ステーキ屋でした。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　回転寿司ですが、注文はタッチパネルで。目の前で寿司職人さんが握ってくれます。これは、昼のランチセット。単品でも注文出来ます。サーモンハラス炙り　おろし柚子ポン酢。本鮪中トロ。するめイカ。本まぐろ三昧（大とろ・中とろ・赤身）生ホタテ。別の日は、注文がまとめて届きました。普通に食べて、３千円ほど。ネタは回転寿司のレベルではなく、　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　満足度は高いです。
30Aug
- 小説『猫は知っていた』
  ［書籍紹介］「乱歩と千畝」→「明智小五郎事件簿」→「ポー傑作選」ときて、今度は「猫は知っていた」。そう、江戸川乱歩賞第１回受賞作です。「第１回」と書きましたが、江戸川乱歩賞の第１回と第２回は研究や出版に対する賞。第１回は中島河太郎の推理小説評論集、第２回は早川書房に対する実績表彰。現在のような、長編推理小説の公募形式になったのは、第３回から。したがって、現行乱歩賞の第１回受賞作、ということになります。この作品は元々、河出書房（現・河出書房新社）の「探偵小説名作全集」の別巻として公募された新人の書き下ろし長編の第一席に入選した作品。ところが、その発表前に同社が経営破綻して刊行不可能となったため、江戸川乱歩の勧めもあり、公募新人賞の江戸川乱歩賞に回された、という経緯があります。まるで出来レースのように見えますが、読んでみると、受賞に対してどこからも文句の出ようのない、本格的推理小説でした。植物科学生の仁木雄太郎と女子音大生・悦子の兄妹は、医院の２階に下宿することになる。ところが転居２日目に、その家の祖母と患者の男性とネコが一匹、屋敷からいなくなってしまう。出口は正面の表門と脇の裏木戸があるが、どちらからも出た形跡はない。やがて、庭にあった防空壕跡の中から祖母の絞殺死体が発見され、連続殺人事件に兄妹は巻き込まれる・・・医院敷地内という閉ざされた空間での殺人事件、怪しげな電話、秘密の抜け穴、蛇毒の塗られたナイフ、事件現場に現れる一匹の黒ネコ。謎が謎をはらんで進む中、好奇心溢れる悦子のひらめきと、頭脳明晰な雄太郎の推理が真相に迫っていく。庭の防空壕跡とかお風呂やさんとかテープレコーダーとか昭和レトロな雰囲気がなつかしい。カーレンタル屋は当時でもあったんだね。兄妹のユーモアある掛け合いもあって明るい雰囲気で進行する。犯人の動機は今でも通用する内容。仁木雄太郎・悦子兄妹が登場する仁木兄妹シリーズの第１作。初の受賞者が女性で、なおかつ病気でほぼ寝たきりの生活を送り、学校教育を受けておらず兄の教育と戦死後、独学で知識を身に付けたという事実は大いに話題となり、江戸川乱歩賞の名を世間に知らしめた。仁木悦子さんは幼児時に胸椎カリエスを発病し、歩行不能に。児童文学を書くが、１９５７年に本作で江戸川乱歩賞を受賞する。明快で爽やかな作風で、戦後女流推理作家の先駆けとなった。１９５８年に、5 回の手術を受け、車椅子での生活が可能となった。１９６２年に歌人で翻訳家の後藤安彦（本名、二日市安）と結婚した。夫とは入院中に知り合った。１９８１年には「赤い猫」で日本推理作家協会賞を受賞。１９８６年１１月２３日、腎不全のため死去した。５８歳没。本作は、１９５８年に映画化、１９７３年にテレビドラマ化された。
29Aug
- 映画『木曜殺人クラブ』
  ［映画紹介］舞台はイギリスの高級老人ホーム、クーパーズチェイス。引退者ばかりが暮らすその施設には、「木曜殺人クラブ」という同好会があり、迷宮入りした未解決事件の謎を解くことを愉しみにしている人たちがいた。今日も１９７３年にロンドンで起こった女性殺人事件の謎解きに挑んでいた。そんな時、施設が売りに出される話が持ち上がり、施設経営者が殺害されてしまう。クラブのメンバーは、その事件を解決し、同時に施設の身売りを阻止すべく動き始めるが・・・。「木曜殺人クラブ」のメンバーが超豪華。ヘレン・ミレン、ピアース・ブロスナン、ベン・キングズレー、セリア・イムリーヘレン・ミレンの夫役にジョナサン・プライス。それぞれが個性を発揮する。監督はクリス・コロンバス。リチャード・オスマンの世界的ベストセラーを映画化。引退した高齢者たちの話だと暗そうだが、そんな気配はみじんもない。終始アグレッシブでユーモラスでノスタルジック。やはり英国ミステリーは違う。なにしろ、会話が楽しい。最初に提示した古い迷宮入り事件が最後に生きて来る。Netflix で８月２８日に配信開始。本は続編が出ている。
28Aug
- 大鳥神社
  先日、雑司が谷の鬼子母神に行きましたが、その近所にあった大鳥神社にも参拝しました。由緒は、もと鷺明神といい、正徳２年（1712年）鬼子母神境内に創祀せられていました。近くの出雲藩下屋敷で藩主松平公の嫡男が疱瘡にかかって療養中、鷺明神に祈り治ったので厄病除けの神として尊崇されていました。明治の神仏分離により、法明寺と分けられ、欅並木にあった料亭の敷地内に遷座しますが、旧幕臣であった矢嶋昌郁という人物がこの状況を憂い、自己の宅地を社地として奉献、明治２０年に現在の地に遷座し、大正６年に社殿が造営されました。それゆえ鬼子母神との関係は深く、月に１回ペースで開催される「雑司ヶ谷手創り市」というイベントは、鬼子母神堂から大鳥神社に渡って催されます。正面大鳥居。二の鳥居。御祭神は日本武命（やまとたけるのみこと）倉稲魂命（おいなりさま）蛭児大神（えびすさま）手水舎。雑司が谷七福神の恵比寿さまも祀られています。「えびすさま」といえば、商売繁盛の神様。お賽銭箱が巨大な巾着の形をしていています。大鳥神社のご利益は、商売繁盛、病気平癒、芸能上達などのご利益があります。境内社の三杉稲荷神社。鳥居は朱色ではありません。拝殿から振り返ったところ。毎年１１月の酉の日には「酉の市」でにぎわいます。
26Aug
- ポー傑作選
  ［書籍紹介］「乱歩と千畝」→「明智小五郎事件簿」ときて、本家のポーに。エドガー・アラン・ポーの作品を集めた「ポー傑作選」が令和４年２～３月、角川文庫から発刊。全て河合祥一郎氏による、訳しおろし。つまり、新訳。「訳しおろし」という言葉があるんですね。１のゴシックホラー編には、赤き死の仮面、ウィリアム・ウィルソン、落とし穴と振り子、大鴉（詩）、黒猫、メエルシュトレエムに呑まれて、ユーラリー（詩）、モレラ、アモンティリャードの酒樽、アッシャー家の崩壊、早すぎた埋葬、ヘレンへ（詩）、リジーア、跳び蛙を収録。河合氏による作品解題、数奇なるポーの生涯、ポー年譜、訳者あとがきが付いている。２の怪奇ミステリー編には、モルグ街の殺人、ベレニス、告げ口心臓、鐘の音（詩）、おまえが犯人だ、黄金郷（エルドラド）（詩）、黄金虫、詐欺（ディドリング）――精密科学としての考察、楕円形の肖像画、アナベル・リー（詩）、盗まれた手紙を収録。河合氏による作品解題、ポーの用語、ポーの死の謎に迫るが付いている。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　３のブラックユーモア編には、Ｘだらけの社説、悪魔に首を賭けるな――教訓のある話、アクロスティック（詩）、煙に巻く、一週間に日曜が三度、エリザベス（詩）、メッツェンガーシュタイン、謎の人物（詩）、本能と理性――黒猫（評論）、ヴァレンタインに捧ぐ（詩）、天邪鬼（あまのじゃく）、謎（詩）、息の喪失――『ブラックウッド』誌のどこを探してもない作、ソネット――科学へ寄せる（詩）、長方形の箱、夢の中の夢（詩）、構成の原理（評論）、鋸山奇譚、海中の都（みやこ）（詩）、『ブラックウッド』誌流の作品の書き方／苦境、マージナリア（エッセイ）、オムレット公爵、独り（詩）を収録。河合氏による作品解題、ポーを読み解く人名辞典、ポーの文学闘争が付いている。各巻の河合氏による、解説等は、１で８０ページ、２で１０５ページ、３で１１０ページもある長大なもの。河合祥一郎氏は英文学者、翻訳家。東京大学大学院総合文化研究科教授（表象文化論）。専門はウィリアム・シェイクスピア。図書館から借りられた１と２を読了。前にこのブログで、小学２年の時にポーの小説を読んだ、と書いたが、こんな漢字の多い小説を小２の子どもが読んだはずはなく、やはり、子ども向けに書き改めたものを読んだようだ。それにしても、こんな本を子どもに与えたのは、誰だろう。小２だと８歳くらいだから、７０年ぶりに読むことになる。驚いた。「黒猫」の最後は明確に覚えている。「アッシャー家の崩壊」のアッシャー家の不気味を様子や友人の狂気、妹の死からの復活もちゃんと覚えている。そういえば、８歳の時読んだ本の題名が「アッシャー家の没落」で、学校の職員室で何かを手伝っていた時、実家の話が出て、「大石家は没落したんです」と言って、先生たちに爆笑されたのを覚えている。小２でも、「没落」の意味を理解していたらしい。「早すぎた埋葬」は、子ども心に怖かった。「ウィリアム・ウィルソン」のドッペルゲンガーも、その後の私の双子願望を作った。確か大渦に巻き込まれる話がしったと思っていたが、「メエルシュトレエムに呑まれて」が、それだった。そして、世界初の推理小説「モルグ街の殺人」。オランウータンの仕業だということは明確に覚えていた。世界初の暗号解読小説「黄金虫」。様々な記号が使われた暗号文を読み解く時、英語で一番使われる文字がｅで、まずｅの文字を特定、３文字の最後がｅの３文字が頻繁に出て来ることからｔｈｅと見て、ｔとｈを特定するなど、ちゃんと覚えていた。木の上の髑髏は風雪に耐えても色の白さを保つとか、下男が髑髏の左目から黄金虫を落とす際、右目と左目を間違えるなど、記憶の中にあった。「盗まれた手紙」の手紙の隠し場所がわざと表に出ているのは、子どもながら納得した。つまり、小学２年生の心に刺さる話だったのだ。どうやら私の小学２年のポー体験は、本物だったようだ。もしかしたら、中学・高校時代に再読しているのかもしれない。
25Aug
- ドラマ『ザ・レジデンス』
  ［ドラマ紹介］ホワイトハウスでオーストラリア首相を招いた晩餐会が催されている最中に、ハウスを取り仕切るチーフ・アッシャーであるＡ・Ｂ・ウィンターの死体が発見され、首都警察の顧問として、「世界一の探偵」コーデリア・カップが招集される。容疑者はその夜ホワイトハウスにいたアメリカ大統領一家とスタッフ、ゲスト全員の総勢１５７人。カップの要請により、全員が館内に足止めされる中、カップの捜査が進行する。カップの造形がユニーク。太った黒人女性で、バードウォッチングが趣味。カバンの中に大判の鳥類図鑑を持ち歩き、事件の捜査中も双眼鏡で野鳥を観察し、野鳥をスケッチするように、捜査で得た情報をノートにスケッチとして書き留めている。サバやイワシの缶詰が好物。驚異的な観察力、記憶力、分析力を発揮して事件を解決する。一つの見どころは、ホワイトハウスという特殊な職場の人間関係で、チーフの立場を狙うアシスタントアッシャー、総料理長、専属パティシエ、社交行事の責任者、ハウスキーパー、配管技師、庭師などの他、大統領の弟でホワイトハウスに寄宿する者までいる。なにしろ、大統領がゲイで、男性パートナー（ファーストジェントルマン）と一緒に住んでいたり、その母もホワイトハウスに住み、飲んだくれている。捜査の進展で、Ａ・Ｂ・ウィンターに殺意を抱く容疑者が続出する。場面はホワイトハウス内部と公聴会での関係者たちの証言を交互に描きながら進展する。特に、ホワイトハウス内部の描写が詳細で、本物の館内で撮影が許可されるはずがないから、内部を模したセットで撮影したに違いない。そのセットを見るだけでも一見の価値がある。カップを演ずるのは、ウゾ・アドゥーバという知らない俳優。エミー賞のコメディ部問の主演女優賞にノミネートされている。ランドール・パーク演ずるＦＢＩ捜査官も面白く、コーデリアの監視役を命じられ、彼女の言動に困惑させられながら同行する。その他、主席補佐官、首都警察の署長、ＦＢＩ長官、合衆国公園警察の長官などが入り乱れる。オーストラリアを招いての晩さん会なので、オーストラリア首相、外相の他、オーストラリア人のヒュー・ジャックマンまで登場する。（ただし、後ろ姿のみ）ミステリーというよりコメディ仕立てで、軽妙な会話が楽しい。ところどころクスッと笑いを誘う場面がある。膨大な登場人物を組み合わせ、ドラマを構築した脚本が見事。それと、アメリカ演劇界の層の厚さ。知らない俳優が次々と出て来るが、みんなうまい。しっかり自分の役どころを把握して演じている。それを見るのも楽しい。各話のタイトルが「アッシャー家の崩壊」「ダイヤルＭを廻せ！」「ハリーの災難」「第三の男」など、ミステリーの名作のオマージュとなっている。最終話のエンドクレジットにアンドレ・ブラウアーへの追悼という文字が出るが、もともとＡ・Ｂ・ウィンターに役にキャスティングされていたが、撮影が半分ほど終わった時期の２０２３年１２月に亡くなった人物。原案・脚本はポール・ウィリアム・デイヴィス、　　　　　　　　　　　　　　　　　　監督はリザ・ジョンソンとジャアファル・マムード、原作はケイト・アンダーセン・ブラワーの『使用人たちが見たホワイトハウス　世界一有名な「家」の知られざる裏側』NETFLIXで配信中。全８話、７時間４０分。