「覚える」から「考える」授業 大学入試改革を先取り
教科の知識を覚えるだけでなく、社会の課題を考え、対話しながら答えを探る。そんな学力をめざし、情報産業や予備校、塾が映像や教材、講座づくりに乗り出している。新しい中学1年生が初の受験生となる予定の大学入試改革を先取りする動きだ。
■「よのなか科」商品化
大阪府最北部の能勢町にある府立能勢高校。1月末の土曜日、教室のスクリーンに映し出されたのは、東京都杉並区立和田中の民間人校長だった藤原和博さんの「よのなか科」の授業映像だ。
情報サービス会社「リクルートマーケティングパートナーズ」が、動画やワークシートを作成し、1人あたり月980円を標準として学校に売り始めた。「カリスマ講師陣の2千時間の授業をパソコンやスマホで見放題」「苦手を見つける到達度テストを年2回分」などのサービスもついてくるのが売りだ。
ハンバーガー店の店長になったつもりで人の流れを読み、どこに開店するか発表する。自殺と安楽死というテーマから自分の命は誰のものかを議論する――。「よのなか科」では、今後の大学入試で問われる思考力、判断力、表現力や人と協力して答えを探る姿勢を養うのが狙いだ。
この日のテーマは「生徒による授業評価」。高校生たちは映像を見て、賛否をグループで議論した。次の時間は同じ映像で学ぶ中学生に助言した。「メリット、デメリットの両方を考え、中学生に話して意見を引き出すのが面白い」と高2の濱田理生(りお)君(17)は言う。
同社によると、映像と教材のセットを、全国の600校以上が4月から補習や土曜学習で使う。よのなか科のような映像を高校生の個人向けの動画サイトにのせ、無料で学べるようにもした。
■時事を議論 新講座
学校や生徒に教材を提供するリクルートに対し、予備校は大学入試対策として自らの教室で講座やテストを展開する。
「河合塾」は2月、自ら問いを見つけ、議論し、表現する「ジェネリック(汎用〈はんよう〉的)スキル」の連続講座を高校1、2年生向けに開いた。ある日のテーマは「若者の政治参加をどう進めるか」。数人ずつで班をつくり、若者の投票率やネット選挙への意識、外国の選挙制度など一人ひとり違う資料を配った。その後、同じ資料を持つ者同士で集まり、議論した。また最初の班に戻り、各自が持ち寄った情報を組み合わせ主張をまとめた。
神奈川県立希望ケ丘高校1年の池田睦さん(16)は「情報を人に伝えるのは楽しい。意見が違うとき、それぞれの声をどう生かすかが難しい」と話した。
教科の枠を超えて思考力などを問う「未来学力診断テスト」をするのは「駿台予備学校」。高3、続いて中1向けに実施する。新中1生が、2020年度に予定されている大学入試改革の最初の受験生になる可能性があるからだ。
実際の社会で新しい力が求められていることを伝えたいと考えたのは「Z会」だ。JR渋谷駅前に2月、東大生が1対1で教科の指導をする「東大個別指導教室」をオープン。経営や統計学など100冊余りの本を並べ、著者を招き、高校生と語り合う機会をつくる。例えば、ビジネス書の著者に組織や個人がどうデータを分析し意思決定するかを具体的に話してもらう。
「東大に合格する学力をつけるのは最低条件。合格した後の『東大からの力』を育てるのが狙い」と責任者の寺西隆行さんは語る。
■様子見が多勢
大学入試を先取りする動きはどれぐらい広がっているのか。全国にある3万教室余りの塾を検索できるサイト「塾ナビ」を運営する「イトクロ」の清水理英事業企画室長は「塾にとっては従来の教科中心の指導法の否定につながる。具体的な内容がまだ見えないこともあり、様子見が多い」と話す。
同社が教室を複数展開している約150社にアンケートしたところ、52社が答えた。課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ「アクティブ・ラーニング」に取り組んでいるのは17%、大学入試が変わる年度に受験予定の新中1生に対し指導法を変えようと考えているのは34%だった。いずれも5~20教室の小規模塾が目立ったという。
(氏岡真弓)
(朝日新聞より)
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