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★社労士kameokaの労務の視角

ー特定社会保険労務士|亀岡亜己雄のブログー
https://ameblo.jp/laborproblem/

少し前に、JR東海が従業員の一時帰休を行うとのニュースがあった。今回は、このニュースを素材に、一時帰休の性質や問題について述べたいと思う。

 

 

JR東海は24日、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、9月1~30日に1日当たり約200人規模の一時帰休を実施すると発表した。JR東海は1~6月にも一時帰休を実施しており、今回が2度目となる。

 

 同社は9月の東海道新幹線の臨時列車を350本程度減便する検討をしており、業務量の減少が見込まれるため。対象は新幹線の乗務員の拠点や車両の保守・検査をする車両所、工場などで勤務している社員約9800人。

                                 〔2021年8月24日 共同通信〕

 

記事は短めなのでさーっと通り過ぎそうになるが、「1日あたり200人の一時帰休」とある。「一時帰休」と登場しても、多くの方はわかるようでわからないといったところかもしれない。

 

1 一時帰休ってどういうもの

 会社が仕事量を減らすことになり、そのため一時的に従業員を休ませることを一時帰休と言っている。

あらためて聞けば、ああ、どこの会社でもよくある、「仕事減ったから休んで」ということか・・・とピンとくるかと思う。通常は、一時帰休という言葉をあまり口にしないことから、一瞬、面食らうのかもしれない。

 

一時帰休を実施する理由でよくあるのが、売上減少など会社の経営困難だ。従業員にとってはいいことではないものの、リストラや賃金カットされるよりはましというのも事実である。

 

法的には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合に、平均賃金の60%以上の手当を支払うことになっている(労働基準法第26条)。この「使用者の責に帰すべき事由による休業」は一時帰休と同義と理解していい。

 

ちなみに、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」は、経営サイドには厳しいが、不可抗力以外はすべて含まれると考えておいていい。

 

会社の判断で従業員に休んでもらうわけであるから、会社の責任に帰すわけである。ただし、多くの会社では、法律上の最低保障の60%止まりの支払いのようだ。

 

2 一時解雇との違い

 一時帰休は、休みになるだけで雇用が維持されていることが特徴である。したがって、休業保障60%以上も対象になる。

 

しかし、よく似た言葉で、一時解雇というのがある。一時解雇はレイオフということばでも言われるので、聞いたことが有る方も多いのではないかと思う。これは、解雇の名の通り、雇用は継続されない。したがって、賃金の支給保障もない。一時帰休とは次元が異なる。

 

ただ、一時帰休になったことで、会社が危ういと考える従業員等では、休みの間に次の就職先を探す活動をする場合も有るようだ。この辺はそれぞれの任意活動である。、

 

3 理由を含めて説明を

 JR東海でも、新型コロナウィルス感染症の感染拡大の影響で一時帰休を思考するようだ。正式な経営状況までは調べていないが、おそらく、コロナの影響で乗客が減少し、売上低下になっていることが原因なのだろうと推察する。

 

リストラや賃金減額措置よりは、まだ柔らかい措置と考え、踏ん張るという策が一時帰休とも言える。

 

会社の労務対策として重要なのは、従業員は様々な受け止め方をするので、誤解のないように、具体的な理由を含めて説明をすることだ。いつからいつまで一時帰休を実施するか、実施期間も重要になる。

 

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】

 

 

 

 

7月23日の夜、待ちに待ったオリンピックの開会式が行われた。ここに至るまでには紆余曲折があったものの、国民の多くがワクワクしながらテレビにかじりついていたかと思うと感慨深い。

 

ところで、社会保険労務士としては、子どもたちがたくさん出演して、開会式の盛り上げ役を担ってくれたことは喜ばしい一方で、この時間に働かせて大丈夫かと思ってしまった。

 

ここで言う子供は、法律が定める18歳未満の年少者であるが、原則として、22時から5時までの深夜に働かせることは禁じられている。

 

さらに、児童(法律で言う、ざっくりとした括りでは中学生以下)は、禁止される深夜時間帯が、20時から5時となっている。

 

どう見ても、働かせてはいけなかったという結論になってしまう。それでも、オリンピックの開会式の出演だけだよとの意見もありそうだが、たった、1日でも、1時間でも、雇用にあたる場合は、労働基準法の深夜労働の禁止があてがわれてしまう。

 

また、青少年の健全や育成の概念からは、正当な理由がある場合以外、青少年を深夜(この場合の深夜は23時から4時)に外出させないようにとの努力義務がある【東京都青少年の健全な育成に関する条例第15条の4】。

 

健全育成条例の深夜時間は、同様の条例がある都道府県により異なる場合があるが、東京都では、労働基準法の規定を考慮して23時から4時となっているようだ。

 

続けて条例は、、正当な理由がない場合は、青少年を深夜に連れ出し等してもいけないとある。子供たちに賃金が出たのかどうかは不明であるが、何回か大人の指揮のもとに稽古を繰り返して準備をし、開会式本番に出演したのだろうから、臨時ではあるものの実態は雇用は雇用と考えられるのだろう。

 

オリンピックの開会式でふと、こんな景色を見ていたことは、職業病かもしれない。

 

しかし、開会式は自分でもワクワクと胸躍るものがあった。スポーツはいい。

 

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】

 

 

 

まずは、今回とりあげます事案の新聞記事です。

 

雇い止めを巡る労働審判の内容を口外しないよう長崎地裁の裁判官らでつくる労働審判委員会に命じられたことで、支援してくれた元同僚らに解決内容を伝えられず精神的苦痛を受けたとして、長崎県大村市の男性(59)が慰謝料など150万円の国家賠償を求めた訴訟の判決で、長崎地裁は1日、口外禁止条項を付けたのは違法と判断した。男性が明確に口外禁止を拒否していたのに命令したことで「過大な負担を強いた」と指摘した。

 

 原告代理人の中川拓弁護士によると、労働審判で裁判官らが口外禁止を命じたことを違法と判断したのは初めて。労働審判は毎年3000件以上が申し立てられており、判決が今後の労働審判に影響を与える可能性がある。一方、地裁は労働審判委が口外禁止条項を盛り込んだのは「早期解決の道を探るためで、審判に違法または不当な目的があったとは言えない」として、国賠請求を棄却した。

 

 男性は2016年4月から県内のバス営業所に有期雇用の運転手として勤務していたが、同僚と共に会社に待遇改善などを訴える要望書を作成したところ、17年3月に雇い止めにされた。男性は同11月、会社に地位確認と損害賠償など約270万円の支払いを求める労働審判を長崎地裁に申し立てた。

 判決などによると、18年1、2月にあった労働審判の審理で、審判官の武田瑞佳(みか)裁判官(現大阪高裁裁判官)は、会社側が要望した「内容を第三者に口外しない」とする口外禁止条項を盛り込むことを条件に会社が解決金230万円を支払う調停を男性側に打診。男性は泣きながら「同僚の励ましが精神的な支えになってきた」などと述べて拒否したが、武田裁判官は同条項を盛り込んだ労働審判を言い渡した。

 

 判決で古川大吾裁判長は「労働審判法上、労働審判の内容は事案の解決のため相当なものでなければならない」と指摘。そのうえで、男性が涙ながらに拒否した経過を踏まえ「原告が将来にわたって口外禁止条項に基づく義務を負い続けることからすれば、原告に過大な負担を強いるもので、原告が受容する可能性はなく、相当性を欠く」と判断した。

 判決について、男性は「お金と引き換えに口をつぐむように言われて苦しかったが、主張が認められて良かった。判決をきっかけに労働審判を申し立てる労働者たちが口を封じられるようなことがなくなってほしい」と話した。

                                     (毎日新聞 2020年12月1日)

 

そもそもの労働紛争の内容は3段落目に出ている通りなのですが、労働審判はあくまで調停よる和解になりますので、何を条件に合意するかなどは各事案ごとに様々なわけです。

 

支援してくれた同僚の励ましが支えになってきたことから、申立人の男性は口外禁止条項を拒否しています。会社側はどのような態度を示したかは明らかになっていませんが、最終的に裁判官が合意文書に口外禁止上条項を盛り込むことを決定したとのことです。

 

男性にしてみれば、事件が終結すれば、こういう内容で終わったよと報告もしたいし、支援してくれた同僚からは遅かれ早かれ聞かれるでしょう。一生口外できない合意条項は厳しいものがあると言えます。

 

ただ、和解の口外禁止の争点について初めて判決がなされた点で非常に貴重だと考えられます。小職がお手伝いさせていただく、労働局や労働委員会のあっせんにおける和解でも、合意文書に必ず、口外しないことというのが盛り込まれますので、思わず感がさせられましたし、参考にせざるを得ないところです。

 

労働審判での口外禁止条項の問題ですので、労働審判の和解の際に影響してくる可能性が考えられますが、あっせんにおける和解でも、口外禁止条項という点では同様ですので、影響してくる可能性はあります。

 

あっせんの和解の際には、労働者側から口外禁止条項の拒否を主張してみることは可能ですので、主張する労働者が増加してきて、どこかで主張が通った例がでてきますと変わってくることにもなるでしょう。

 

会社側が拒否に応じないとの姿勢を貫くと、あっせん委員も動かない可能性はありますが、今回の裁判所の判決を根拠に(特別の事情があればなお根拠づけができますが・・)主張してみる価値はありです。

 

少し補足しておきますと、あっせんというのは、裁判外の紛争解決の手法で、労使(労働者と会社)が譲り合って解決をする、例えるなら、双方ともに手ぶらで帰ることがないようにして、握手して終了(本当に握手をするわけではありません)・・というようなものです。

 

小職の経験では、あっせんにおける口外禁止条項は、期限など尽きませんから未来永劫禁止という意味です。禁止条項は、あっせん委員から自動的にかつ無条件に盛り込まれる形になることが多いと言えます。ただし、事案内容や被申請人(会社側)の意向などにより、郊外禁止条項でも表現や内容が微妙に異なってくることもあります。

 

こうした郊外禁止条項つきの合意文書を交わしても、実務レベルでは、後日、社内で従業員にあっせんの内容等が広まっていたというのもあるようです。こうした場合には、会社側が話していると考えられます。

 

また、退職者のあっせんの場合は、元同僚などとLINEや電子メールなどのやり取りをすることで伝わっていることもあるかもしれません。

 

いずれにしましても、労使双方とも、未来永劫、誰に対しても口を閉じていることが現実になることは考えにくいわけです。今回の判決ではないですが、そもそも、苦痛をかなり伴うというのはその通りかと思います。

 

応援してくれた仲間がいれば、仲間は当然聞いてくるわけで、その際に黙秘すれば、人間関係の破壊になる可能性があります。特別な事情がなくても相当な苦痛になることは間違いありません。

 

こうしたことが現実かと思われます。その点で、今回の毎日新聞のニュースは、一つの指針を示してくれたと言えます。今回の判決が端緒となって、労働者側が、合意文書への郊外禁止条項を拒否してくるパターンが増えるかもしれません。

 

企業からすれば、紛争とされ金銭要求されていることで、もう抵抗感いっぱいですから、実際実現するかどうかに関係なく、その和解の場では、何が何でも口外禁止を遵守させたいと強く思うでしょう。

 

あっせんでも、労働者のほうから積極的に口外しませんということは、まずありませんから、そのような構図になるのが一般的です。

 

今後は、和解の場で口外禁止条項を拒否する労働者が出てくる可能性が考えられるところですが、今回の事案では、支援してくれた者に伝えたいという事情が絡んでいるからこそ、口外禁止条項の盛り込みが違法とされたともみることができます。

 

その点では、一事案を素材に、やたら口外禁止条項を拒否すればいいということになるものでもないと考えておくべきかもしれません。

 

もちろん、紛争解決の合意文書に口外禁止条項が入った場合には、労使双方とも「はい、わかりました」との態度に徹する必要があることはいうまでもありません。

 

参考になりましたら幸いです。

 

                特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄

 

 

三菱電機は25日、労務問題を防止するための追加対策を発表した。上司のほか、部下や同僚からも人事評価を受ける「360度評価」を2021年4月に導入する。パワハラの事例や件数、心の健康を損なった人数などの従業員への開示も始める。

 

 長時間労働の抑制など、働き方改革に取り組む姿勢を「労使共同宣言5か条」としてまとめた。全ての役員と従業員に、パワーハラスメントなどを行わないとする宣言書を提出させる。

 三菱電機では昨年8月に20歳代の男性新入社員が、上司から「死ね」などと言われたと記した遺書を残して自殺した。他にも長時間労働が原因の自殺などが複数認定されている。

 

 これを受け、1月に社員教育の充実などを盛り込んだ防止策を発表したが、外部の弁護士らから「有効性が十分ではない」との指摘を受けたため、労働組合も交えて追加策を決めた。

                                             (読売新聞 2020年11月25日)

 

 

パワハラ対策もここまでやるかといった領域になってきました。11月25日の読売新聞のニュースです。働き方改革に取り組む姿勢に関して、「労使共同宣言5か条」にまとめたと言います。

 

このことは模範的な姿勢と言えます。働き方改革は立法措置が絡む話ですので、遵守は当然かもしれません。実務上の注目点は、こうした宣言条項が存在した場合、その宣言が守ることができているかの点です。労務・労働の世界は実態で評価されるだけに、気を引き締めないと宣言のみが立派だったということにもなりかねません。

 

今回の大きなテーマは働き方改革ではなく、パワハラの関する同社の方針・姿勢についてです。三菱電機は、全役員と従業員にパワハラを行わないとする宣言書を提出させるとしています。

 

小職の知る限り、そうそう例がない対応かと思われます。効果としましては、全役員と従業員という以上、外れる者がなく、全員としたことで、抑止力になる効果が大きいと考えられることです。

 

パワハラは、上司から部下だけではなく、同僚同士、部下から上司へのケースもありますますので、漏れなく全員を対象にしたことは首肯できます。

 

加えて、こうしてニュースになって駆け巡っていますので、さらに抑止効果があると言えます。ただ、実務でパワハラ問題を対応していて言えることは、どんなに宣言しても、決まりを作っても、パワハラの多くが、業務範囲や指導等の範囲を超えているかの問題になります。

 

ひとたび加害行為者とされる者が、被害者とされる者に対して行為する場合、ほとんどが感情の世界になっています。嫌がらせ行為ですから、その人物の何かが嫌だとか、気に入らないとか、頭にくるとか、そうした感情が表面化して行為となっています。

 

三菱電機の宣言書に、実務上、大人の世界とはいえ、感情をコントロールできる効果が、どこまであるかはわからないと言えます。うまく効果が得られるように願うばかりです。

 

こうした取り組み自体には拍手を送りたいと思います。なかなかここまで対策できるものではありません。仮に、社労士が同じことを企業に提案した場合に、企業体質や社風、パワハラの規制強化への意識にもよりますが、抵抗がある企業のほうが多いと推測します。受け入れてもらえないのではないか思います。

 

人間は「○〇をしない」ことを約束することに対して、ただでさえ抵抗感があります。ましてや役員や従業員でも役職者ともなれば、相当な抵抗感はあるでしょう。だからこそ、全役員と従業員とすることで抵抗感をかなり下げる効果もあるのでしょう。みんな宣言するんだからと。

 

こうした例に触れてみると、パワハラにあたる例とあたらない例をいくつか事例を挙げて全員に対して社内研修をしておくことは効果的でありますし必須事項だと考えます。

 

「パワハラはいたしません」と宣言はしたものの、業務上の必要な範囲で叱責する場面が絶対にないわけではありません。どのような行為ならセーフに転ぶのか、逆にどのような行為ならばアウトになるのかは、完全ではなくても、相応に抑えておくことが必須であると考えます。

 

また、セーフの行為でも、部下はパワハラされたと主張するかもしれません。全員に対し、共通の研修をしておうことが、効果的かと思われます。

 

もっとも記事になって出てきていないだけで、すでにこうした内容も専門家などからレクチャーを受けているのかもしれません。

 

ここまで三菱電機を駆り立てたものは、記事になっていましたが、上司からの「死ね」などのパワハラ行為が原因で死者を出していたり、長時間労働でも死者を出していたりするという事実です。

 

昨今は、裁判例でも自殺の裁判例を多く目にするようになっています。ここまでの事実にならないと、上記のような対策にならないのかとも言えます。これからの時代は、世の中の企業が、従業員の物心両面の幸福を考えるような大義名分のもとに経営する、利己ではなく利他の精神で経営する企業であってほしいと思います。

 

さすれば、宣言などなくても健康な企業になるのではないかと考えます。

 

最後までお読みいただきましてありがとうございます。

 

                                    特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄

 

 

 

 

ニュース記事(毎日新聞)

 

またしても、穏やかではないタイトルの記事が目に飛び込んできました。記事内容は以下の通りです。

 

 山形大職員組合は2日、山形大有機エレクトロニクス研究センター(米沢市)で、複数の教授らが4人の男性教授らに対して、着任前に約束した内容とは異なる業務をさせるなどのパワーハラスメントを行っていたと発表した。

 

 組合によると、パワハラを行っていたのは同センターに所属する教授ら4人。被害に遭った男性教授の1人は、当初、豊富な研究費があることや、ベンチャー企業設立に関わる補助などの業務があると誘われ、昨年11月に採用された。だが、実際にはベンチャー企業設立の責任を負わされ、業務が遅れると、「こんなに遅れていたら来期は雇用できない」などと告げられたという。

 

 他にも、国や企業から研究費として獲得した財源を研究とは関係の無い設備の購入に流用したり、実際の研究者が正当な評価をされず、一部の教授らが成果を上げたように報告したりするなどの行為もあったという。

 

 また、今年6月の同センターでの火災のあと、パワハラを受けていた別の男性研究員が、その数日後に亡くなっていたことも明らかになった。男性は機能不全の機械の運用などを任されていた。

 

 組合によると、大学側からの事情聴取の申し出に対し、組合は被害者4人が一緒に聴取を受けることを条件にしていたが、大学側はこれを拒否したという。ただ、同大のハラスメントに関する規定では、複数人で聴取を受けることは禁止していないとしている。組合の仁科辰夫教授は県庁で開いた記者会見で「大学側には被害者の権利を不当に侵害しない形式での手続きを求める」と訴えた。

 

パワハラの法律が施行された

2020年6月1日からパワハラに関する法律が施行されているところですが、パワハラを行う企業の景色は、法律云々ではないようです。いつになっても起きています。我々社会保険労務士もパワハラの相談を受けない時がない状況です。

 

まず、6月1日から適用になっている法律は以下の通りです。法律ですので、少々、小難しい文言が並んでいますが、一応、このようになっていると知っていただければと思います。

この法律により、パワハラ対応の整備や必要な措置を講じることが義務となっています。

 

ただし、2020年6月1日から義務になったのは大企業です。中小企業の義務化は、2022年4月1日からで、それまでは努力義務です。

 

努力義務というと安易に考えがちですが、努力義務でも「義務」なわけです。努力しなければいけないわけで、何もしなくていいというわけではないのです。

 

【労働施策総合推進法第30条の2(抜粋)】

第30条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 

「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう」

 

どうやら、ここまでの部分をとらえて、パワハラの定義との案内も散見されますところですが。パワハラは、定義ありきで考えても、簡単に白黒つくものではありません。実務では、やたらと定義に該当しないするでもめるケースも多くあります。

 

一応の基本的な概念としては、「優越的関係による言動で」「業務上の必要な相当の範囲を超えて」「職場環境が害される」行為ということではあります。

 

ただ、どちらかというと、これはパワハラの定義というよりは、「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」という、そういう行為がないように措置義務を講じなさいというつながりであると解釈できます。

 

その意味では、パワハラの問題は、定義ありきで考えることはお勧めできません。

 

パワハラは、職場環境を害される行為を受けたと被害者が主張すればパワハラになるわけではなく、また、加害行為者やその者が属する企業がパワハラではないと主張すればパワハラにならないというものでもありません。

 

国が典型的なパワハラの6類型(身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害)を示していますが、この6類型もこれに当てはまる、当てはまらないありきで決定できるわけでもありません。典型的な事案の場合の目安にはなり得るかと思います。6類型については、別な機会に詳細に触れたいと思います。

 

定義や6類型については、今後もパワハラのお話の際には、ブログで登場するかと思います。ちなみに、この6類型にあたらないからパワハラにならないわけではないことは、意外に重要事項です。

 

その意味で、6類型にあたる当たらないありきで考えることもお勧めできません。

 

本事案を見てみる

以下は、あくまでも記事から見える範囲においてということになります。

 

さて、今回の山形大学の事案をあらためて見てみましょう。記事の終盤で出てきますが、被害者とされる教授は4人です。

 

勤務についてみたら、約束した内容と違う業務だったという点は、まず、第一の問題点になります。これはよくないです。勤務日が訪れる前の約束、つまり、正式に雇用契約が始まる前にした約束であっても、これこれこういう仕事をしてもらうと約束をしたものです。

 

働く側とすれば、そういう仕事をすることになるんだと、全面的に受け止めるのは当然です。もちろん、期待もするでしょう。そういう意味では、契約締結前の信頼利益が害された行為ともいえるわけです。ここは大学側に過失ありと言えるでしょう。

 

そのうえ、約束と異なる業務が、約束した当初予定されていた業務よりも過大な業務または過小な業務ということにでもなれば、割りと明確な形でパワハラの典型的な類型にあてはあまることにもなるわけです。

 

被害者と言い得る教授がどのような業務を遂行する予定であったかを見てみますと、「豊富な研究費があることや、ベンチャー企業設立に関わる補助などの業務があると誘われ」とありますから、研究者として、潤沢な資金の基での、ベンチャー企業設立に関係する業務であったと考えられます。

 

しかし、「実際にはベンチャー企業設立の責任を負わされ、業務が遅れると、「こんなに遅れていたら来期は雇用できない」などと告げられた」ということです。

 

これは、過大な業務もしくは過小な業務の問題ではなく、ベンチャー設立責任を押し付けられた、業務の遅れも教授の責任にされた、来期は雇用できないと言われたという、教授への責任転嫁をするというパワハラ行為です。

 

何か企業が被りたくない部分をすべて新しく雇用した教授に押し付けたと受け止められても致し方ないかもしれません。

 

「国や企業から研究費として獲得した財源を研究とは関係の無い設備の購入に流用したり、実際の研究者が正当な評価をされず、一部の教授らが成果を上げたように報告したりするなどの行為」の点です。

 

財源を研究とは無関係な設備購入に流用していた、遂行した研究者は評価されず、別の教授らが成果を上げたように報告していた点ですが、前半の財源の流用は、被害者と言い得る教授が何か被害を被っていたかが厳密には不明ですが、ニュースの活字通りに読むと、被害者と言い得る教授へのパワハラとは言えないかと思われます。

 

後半の他の教授の成果にされたことが被害者と言い得る教授の業務遂行の成果についてそうなのであれば、これはパワハラになると考えられます。成果の横取りは、普通の民間企業でも時折みられるケースです。

 

大学側の対応

大学側の対応の点をみてみましょう。被害者4人の事情聴取ですが、組合の4人一緒の聴取申出を大学は拒否しています。

 

大学のハラスメント規定では、複数名で聴取することは禁止していないということなので、大学側は、4人での事情聴取を受け入れるか、もしくは、規定にない聴取の仕方を希望するのであれば、組合と話し合って決定すべきです。

 

この大学のハラスメント規定の現物をみないと何とも言えませんが、ハラスメント規定に聴取の方法にあたる内容を規定した条項があったとしても、小職の経験では、普通に考えると、1人ずつ聴取か、複数名でも行うのか、あるいは、複数名は行わないのかなど、聴取対象者の人数規模まで規定しているケースはほとんどないのではないかと思われます。

 

仮に、そうだとすれば、会社は早く聴取に応じるようにしなければいけないということになります。

 

こうした一連の態度は、事後対応の部分になるわけですが、まさに、最初に示しました労働施策総合推進法第30条の2の措置義務違反につながることになります。

 

 

今回の事案に関しましては、総合的に見ますと、企業側にマイナスになる点が多く見受けられると言えます。パワハラに関しては、なおのこと、事前措置が非常に重要であることが突き付けられた事案と言えます。また、いくら事前措置ができていても、事が生じた後の事後対応の仕方が非常に問題になることをも示唆している事案ではないかと思います。

 

企業は、しっかり対策・対応をしたいものです。

 

参考になりましたら幸いです。

 

(社会保険労務士 亀岡 亜己雄)