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★社労士kameokaの労務の視角

ー特定社会保険労務士|亀岡亜己雄のブログー
https://ameblo.jp/laborproblem/

今回のテーマはテレワークに関する労災適用の問題です。テレワーク、主に在宅勤務が主流かと思いますが、テレワークが原因と思われる腰痛が業務災害として扱われるかという、問題です。

 

この問題を聞かれると、労災認定されるのかと迫られることが多くなります。しまし、いかなる専門家でも二つ返事で「イエス」「ノー」などと答えられるものではありません。もちろん、労働基準監督署も同様です。

 

「何だ、じゃ、誰もわからないのか」と言いたくなるかもしれません。そもそも、調査・審査の結果で判断することですので、だれも結論づけはできないのです。とはいっても、これで終えてしまうと、白けてしまいますので、このブログでは考え方を示したいと思います。

 

【作業環境のガイドラインがある】

テレワークにおける腰痛ということに限定しますと、関係してくるガイドランがあります。「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元年7月12日付け基発0712第3号)です。

 

●情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/content/000539604.pdf

●同 パンフレット

https://www.mhlw.go.jp/content/000580827.pdf

 

 

このガイドラインでは、作業環境として、照明、情報機器の選択(ディスクトップかノート型か、そのほかか)、ディスプレイ、入力機器、ソフトウェア、机や作業台などについて、作業環境を適切にするように示されています。

 

そして、椅子についても示されています。次のようになっています。

㋑安定しており、かつ、容易に移動できること。

㋺床からの座面の高さは、作業者の体形に合わせて、適切な状態に調整できること。

㋩複数の作業者が交替で同一の椅子を使用する場合には、高さの調整が容易であり、調整中に座面が落下しない構造であること。

㋥適当な背もたれを有していること。また、背もたれは、傾きを調整できることが望ましい。

㋭必要に応じて適当な長さの肘掛けを有していること。

 

なぜこのようなガイドラインを知る必要があるかと言いますと、ガイドラインが示されている以上、労働基準監督署の労災課もガイドラインに沿って検討せざるを得ないことから、必ず、作業環境の安全ラインをどの程度確保していたかは見られるからです。

 

●作業環境イメージ

https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000546922.pdf

 

 

【テレワークを行う労働者への配慮事項も示されている】

「会社が提供している作業場以外でテレワークを行う場合に、事業所衛生基準規則、労働安全衛生規則及び情報機器ガイドラインの衛生基準と同等の作業環境となるよう、テレワークを行う労働者に助言等を行うことが望ましい」というものです。

 

これは、「情報技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(平成30年2月22日付け㋖基発0222第1号、雇均発0222第1号「情報技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドラインの策定について」を参照して必要な健康確保措置を講じることというものです。

 

●情報技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/content/000545678.pdf

 

●同 パンフレット(簡易版)

https://www.mhlw.go.jp/content/000545706.pdf

 

正式に示すと何やら細かくて厳格なようですが、本来は、テレワークをスタートする前に検討してガイドラインに沿った環境で就労させるようにしておくことが適切とされています。

 

ガイドラインであっても、労災保険の適用審査の段階では、問われますので必要となります。

 

【腰痛の労災認定の実務】

 一般に、労災、つまり 業務災害と認められるためには、㋐業務遂行性と㋑業務起因性が必要になります。この2点はけっこう有名ですから、耳にしたことがある方も多いかと思います。

 

㋐は、業務中に生じたかというものです。仕事中に、捻った、躓いた、落ちたなど災害性が明確な場合は、それによってケガした場合は、労災の㋐の要件はクリアと言えます。しかし、明確でないもの、たとえば、精神疾患、脳・心臓疾患、そして、今回の腰痛などでは、災害性との結びつきが明確でない部分が多くあるため、業務遂行性でさえ、グレーになります。

 

腰が痛いのは、仕事をしている時間帯だけではなし、休んでいても痛みがあるのであれば、果たして、症状の原因は仕事だと言い切れるのかということです。

 

たとえば、もともと、潰瘍性大腸炎などの持病があって、症状がひどく就労できなくなったという場合は、症状が業務中に頻繁に起きているからといって、どう考えても業務災害にはあたりません。

 

㋑は、さらに難易度を高くします。症状の原因は、仕事であるかということです。これは判断が非常に難しくなります。

 

たとえば、業務中に脳梗塞で倒れたとします。脳梗塞は病気だから仕事は無関係だとは出来ないのです。もしかしたら、会社の長時間労働やその月にたまたま業務過多になっていたことから起きたかもしれないからです。ただし、脳梗塞の経験があるなどの場合は、判断はグレーになります。

 

〔予見可能性〕

労災の判断において、予見される事故として発生したかという点が重要になります。端的に言えば、そのような状況で仕事をすれば多くの人がけがをすることが想定されるなどが典型です。精神疾患がわかりやすいのですが、そのようないじめであれば多くの人が疾患を発症するだろうと判断できるか、その人が発症しても他の人たちはまず疾患を発症するほどのものではないだろうと判断されるかです。

 

つまり、労災は、被災者の主観で決まるものではないということが重要な点になります。

 

【テレワークの腰痛をどうみたらよいか】

そこで、テレワークの腰痛ですが、とても判断は難しくなります。

 

椅子自体の高さが合っていないために疲れやすかったとか、椅子を変えたばかりで慣れていないとか、座り方が腰によくない座り方だったとか、椅子に問題になくても机の高さなどとの関係で腰に影響した可能性がみえるとか、様々な要因が考えられてしまうからです。

 

この辺の状態になりますと、かかりつけの医師はわかりません。医師は仕事で使用している机や椅子などの作業環境を知りませんし、実際に見てもいないからです。医師にとっては患者が診察室の数分間で伝えた内容がマックスです。

 

こうしたことが原因だとなれば業務災害だとは認められない可能性が高くなります。また、作業場所とプライベートで座る椅子が同じだったなどもそうです。たとえば、ダイニングテーブルで仕事をしていて、いつもその椅子で仕事をしていたが、コーヒーを飲んだり、食事をしたりするのも同じ場所、同じ椅子だったなどが典型です。

 

【業務災害を主張するための対策】

㋐可能ならば、プライベート空間と業務用空間を別にする。部屋を区分けする、部屋が区分けできない場合は部屋に間仕切りを設置して区別するなどです。要するに、プライベートと業務空間を共用しているという状態をなくしておくことです。

 

㋑仕事の記録を細かく残しておくことです。在宅勤務の場合は、上司が業務場所の様子や業務の様子を一切見れませんので、会社からの指示の有無にかかわらず、自分の就労状態などを自分で記録に残す工夫が必要です。

 

記録があることで必ず業務災害と認められるわけではありませんが、客観的なある程度の記録で示し主張できることは、まったく何も示すことができない状況とは比べものになりません。

 

㋒テレワークのガイドラインに沿って行っておくことです。先に示しました、ガイドラインを参考に、可能なかぎり、それに沿った作業環境で頑張っておくことが重要です。

 

逆に、あまりにもガイドラインからかけ離れた作業環境で業務遂行していた場合には、労災認定は厳しいものになる可能性があります。

 

【どう対応したらよいか】

㋐会社は、前掲のガイドラインに沿って、在宅勤務の作業環境を指示する。環境の報告を受け、助言をしておく。

 

㋑テレワークのルールを細かく定め、通知しておく。テレワーク実施前の研修などを行っておく。

 

㋒テレワーク原因の腰痛と言われたら、「労働基準監督署に労災の書類を出す手続きは協力する」・・・これで大丈夫です。

「労災はやらない」「労災だから出すよ」・・・これはよくない発言です。

 

当事務所でも、これまで腰痛の労災事案は扱ってきておりますが、さすがに100%労災とはなりません。腰痛の内容にもよりますし、業務内容なども関係します。腰痛は労災になるということでもないし、労災にならないということでもないのです。

 

ちなにみ、労災請求は、請求人は労働者です。労災の様式に会社の押印がなくても、労働基準監督署への労災請求は可能です。一応、労使ともに知っておくといいかと思います。

 

お読みいただきましてありがとうございます。

今回取り上げますニュースは、新型コロナウイルス感染症の中で起きている典型的な例といます。

 

【ニュース記事の掲載】

「まいどおおきに食堂」「串家物語」などの飲食チェーンを運営する「フジオフードシステム」(大阪市)が経営するカフェ店のパート従業員らが3日、東京都内で記者会見を開き、同日から2週間のストライキに入ったと発表した。新型コロナウイルスの影響で店舗が休業した際、不払いとなっている休業手当の支払いを求めている。

 労働組合「飲食店ユニオン」(東京都)によると、パート従業員らが働く「デリス タルト&カフェ」が緊急事態宣言の発令で4月8日~5月末に休業。休業手当は、シフトが決まっていた4月の数日分のみ支給され、5月分は支払われなかった。6月以降はシフト数が減り、7月からは人員が減らされ、業務過多になったという。団体交渉で同社は、店が入居する商業施設の営業停止が休業の理由であり、休業手当の支払い義務はないと回答。一方で正社員には支払っていると明かしたという。

 ストに入った従業員は、子育て中の30代の女性2人で時給は1100円台。会見で「正社員は守られているのに、日々の店舗を支える非正規の私たちは使い捨てなのか」と訴えた。

 ユニオンは、大企業の場合、企業の支払った休業手当を国が助成する制度の助成率が低く、利用せず支払わないケースが多いとし、国が従業員に直接支給する休業支援金も中小企業の従業員だけが対象であることから「大企業の非正規労働者が補償制度から事実上、排除されている」と問題視した。

 

【ニュース記事から判明している事実】

㋐企業はカフェ店で「フジオフードシステム」(以下「会社」という)が経営している。

㋑対象労働者はパートタイマー2名で、子育て中の30代女性である。

㋒パートタイマー従業員らは、休業手当の支払いを求めている。

㋓カフェは新型コロナウイルスの影響で休業した。

㋔パートタイマー従業員らの休業は、4月8日から5月末であった。

㋕賃金は4月の数日分だけ支払われた。

㋖6月以降はシフト数が減少した。

㋗7月から人員数が減少となった影響で業務過多になった。

㋘会社は、商業施設の営業停止が休業理由なので休業手当の支払い義務はないと主張。

㋙会社は、正社員には休業手当を支払っていると話している。

㋚パートタイマー従業員らの賃金は時給1100円である。

㋛パートタイマー従業員らは、2週間のストライキを実行した。

 

以上のほかに、確定的ではないですが、補足事項として、ユニオンのコメントからは、会社は少なくとも中小企業ではないらしい。

 

【今回の問題点の検討】

パートタイマー従業員らは、新型コロナウイルスの理由で休業になったと言い、会社は、商業施設の営業停止が休業の理由だと主張している。この休業原因が争点です。

 

ニュースからは、休業の理由が新型コロナウイルスなのか商業施設の営業停止なのかが判明できません。商業施設の営業停止だったとしても、時期が重なっていることを考えますと新型コロナウイルス感染症によるものの可能性はあります。

 

休業手当の法的な根拠を確認しておきますと、労基法26条になります。簡単に言えば、経営者にとって不可抗力に当たらない理由で従業員を休業させた場合は、平均賃金の60%以上を支給しなければならないというものです。

 

やや、難しい法的な表現を使用しますと、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合は、使用者に責任が生じるということになります。

 

整理しますと、労基法26条の所得保障は、労働者の最低生活保障の意味で6割以上とし、さらに使用者の帰責事由を広い範囲で認めているものとみることができます。今回の問題のテーマはここが一つの急所になります。

 

では、不可抗力に該当するものとは何か。たとえば、竜巻、台風、洪水、地震などの自然災害や会社建物の火災などが典型です。会社の建物、たとえば店舗に車両が突っ込んだため営業できなくなった場合も該当します。

 

しかし、会社の機械設備の故障、取引先の経営難に起因する資材・資金の困難などの場合は、不可抗力にあたらないとされています。

 

ようするに、会社としてどうやっても防ぎようがなかったことが不可抗力にあたると解釈されています。では、新型コロナウイルス感染症に関係する場合はどうでしょうか。

 

新型コロナウイルスにかかり発症した従業員を休業させる場合は、不可抗力ではないものの、会社に責任はありません。従業員の病気休業と同様の扱いとなり、健康保険の傷病手当金の支給を受けさせることで足ります。

 

しかし、新型コロナウイルスにかかっていない従業員を休業させる場合には、会社の判断で休業させていますので、企業責任で休業手当を支払う必要があります。つまり、新型コロナウイルスに感染していない従業員を休業させる行為では、新型コロナウイルス感染症の蔓延だけで不可抗力にはならないのです。

 

2020年のこれまでを振り返りますと、実務的には、新型コロナウイルス感染症を理由に企業に責任はない不可抗力との主張が横行した実態が少なくありません。

 

また、自治体などの要請で、就業制限となって従業員を休業させる場合には、会社に責任はありませんので、会社が休業手当を支払う義務はありません。

 

会社が主張する商業施設の営業停止の場合はどうでしょうか。一般に、会社の取引先の経営不振や企業そのものの経営不振から休業となる場合でも、不可抗力には当たらないため休業手当の支払いが必要と判断されています。

 

商業施設の営業停止によってカフェの休業となった場合でも、不可抗力とは言えない可能性があります。ただし、商業施設の停止状況や関係などを検討して実態によっては、不可抗力になる場合もあり得る可能性もあります。ここは実態によりグレーな点が残ると思われます。実態の詳細が不明なためいすれもが考えられるところです。

 

ただ、通常、商業施設はカフェを経営する会社と契約関係にあると考えるのが自然です。つまり、取引先が営業停止するためにカフェが休業となることは、不可抗力になる可能性はないと考えられます。ここでは、とりあえず通常の状況で見ておきたいと思います。

 

このように考えますと、会社はパートタイマー従業員らに休業手当を支払う義務があるということになります。4月分の数日分は支払っているとすれば、残りはすべて60%以上の賃金を支払わなければいけないことになります。

 

さらに、今回の事案で休業手当を支払う必要があると結論付けらえるのは、上記の労基法26条の検討をするまでもない事実においてです。

 

会社に責任がある休業か否かに関係なく、正社員には休業手当を支払っていると会社自ら話して認めている事実です。それで、パートタイマー従業員らには休業手当は支払っていないというのは、全く通らない話と言われても仕方ない点です。

 

ユニオンが主張する通りの大企業だとすれば、2020年4月1日から同一労働同一賃金がスタートしていますから、それに抵触する可能性があります。パートタイマーだからというだけで休業手当を支払っていないようですから、それ以外に支払っていない正当な理由がないのであれば抵触していると考えられます。

 

正社員には、新型コロナウイルスの影響か商業施設の営業停止かを問わず休業手当を支払っていますから、労基法26条の支払い義務の有無に関係なく、パートタイマー従業員らにも支払わなければなりません。ここは決定的と言えます。

 

また、逆の論理でいきますと、正社員に休業手当を支払っているということは、会社は不可抗力による休業ではなく会社責任の休業であると受け止めているとも言えなくはないということにもなります。

 

いずれにしても、休業手当の支払い義務ありという結論にならざるを得ないかと思います。

 

さらに付加的な事項として、今後の労働問題の火種になるリスクがあります。7月から人数を減らしている影響で、パートタイマー従業員らが業務過多になっている点です。

 

正社員の業務や他のパートタイマー従業員らの業務の状況がわかりませんので、今回の当事者であるパートタイマー従業員らだけが業務過多なのかは断定できません。また、従前と比べてどのくらい業務量などが増したのかも断定できません。

 

しかし、少なくとも、パートタイマー従業員らは業務過多であることから、休業前に比べて過酷な労働を強いられていることは確かなようです。

 

会社にとっての労務リスクは、業務過多の状況を改善することなく、就労を継続させた場合でパートタイマー従業員らが何らかの疾病を発症するに至った場合には、使用者責任が問題となってきます。

 

もちろん、業務に関係して疾病が発症した可能性があれば労災保険の適用の問題も降りかかってきます。

 

従業員の健康を害さないように配慮して働かせるという雇用契約に付随する義務に抵触することになります。安全配慮義務、職場環境配慮義務の違反が問われることになります。

 

一般に、企業では、企業側が指示・命令を発して仕事をさせるという構図で物事を考えがちであるため、休業や賃金の支払い、人員コントロールまで企業の裁量で自由にできるし、実施していいとの感覚に慣れすぎている点のほころびが出やすくなります。

 

今回のケースも典型的な例と言えます。わずか数行のニュースでしかありませんが、思わぬところに潜む、大変な問題を知っていただけたかと思います。

 

最後までお読みいただきましてありがとうございます。少しでも参考になりましたら幸いです。

 

ワタミで立て続けに不祥事が起きているようです。起きているというのは正しくはありません。自社内での行為が招いた結果としか言いようがないからです。まずは、ニュースソースを2つそのまま掲載します。

 

                                                                                                      

2020年10月02日

外食大手ワタミ(東京)が、社員への残業代未払いで労働基準監督署から是正勧告を受けた問題で、ワタミは2日、未払いのあった40代の女性社員の勤務記録を上司が書き換えていたと明らかにした。同社の広報担当者は「重大な問題と認識している。社内調査が終わり次第、厳正に対処する」と説明している。

 

 女性と女性が加入する労働組合「ブラック企業ユニオン」は2日、東京都内で記者会見を開き、女性は長時間労働が常態化していたのに会社は対応せず、勤務記録も勝手に修正、削除されていたとし「同じことが社内にまん延している。組織を見直してほしい」と訴えた。

                                                                                         

                                                                

2020年9月30日 上毛新聞

外食大手のワタミ(東京)が、群馬県内で弁当宅配事業「ワタミの宅食」の営業所長を務める女性社員に対し残業代の未払いがあったとして、高崎労働基準監督署から是正勧告を受けていたことが29日、同社への取材で分かった。勧告は15日付。女性の加入する労働組合「ブラック企業ユニオン」によると、女性の時間外労働は最長で月175時間に上った。精神疾患を発症して休職中という。

 

 ブラック企業ユニオンによると、女性は県内の二つの営業所で所長を兼任、計約20人の配達員らを管理していた。業務連絡や配達の代行などの仕事に追われ、長時間の残業が発生した。

                                                                 

 

 

記事が非常にコンパクトにしか書かれていませんので、推測の部分も多くなります。

 

記事から明らかに言える事実

➀労働基準監督署から是正勧告を受けたこと

②残業代の未払いがあったこと

③少なくとも40代女性社員の残業代が未払いであったこと

④③の女性の勤務記録を上司が書き換えていたこと

⑤勤務記録の書き換えは是正勧告の後でワタミが明らかにしたこと

⑥未払い問題か勤務記録書き換え問題かで社内調査を行う方針であること

⑦女性が労働組合に加入していること

⑧女性は、長時間労働・勤務記録の修正・削除が蔓延しているので組織の見直しを切望していること

⑨女性の残業時間は最長で月175時間であったこと

⑩女性は精神疾患を発症して休業中であること

⑪女性は県内の二つの営業所で所長を兼任し計約20人の配達員らを管理していたが、業務連絡や配達の代行などの仕事に追われて残業が発生していたこと

 

ざっとこれらが記事から言えるかと思います。

 

あくまでも記事から読み取ることができる範囲においてになります。

 

残業代の未払いは、労働基準監督署が最も厳格に確認をするメニューと言っても過言ではありません。一般に、労働者が残業代の未払いがあると主張する場合には、九分九厘そのような実態があったとみることになります。

 

なぜなら、実務上、労働者が時間と労力を使って、まったく残業がないのにいい加減に主張することは考えにくいからです。また、労働問題が浮上した際には、被害者の方は、事の事実をそのまま主張する傾向にあり、事実を歪曲することは考えにくいこともあります。

 

ただし、いい加減に主著することは考えにくいとは言っても、実際の労働時間を明らかにする明確な記録がない場合には、実態としての時間記録を資料として示すことができないという点で、「いい加減に」があてはまることもあり得ます。今回の事案は記事からはこの点が不明です。

 

今回の大きな問題は、ワタミにおける勤務時間の改竄問題です。この事実は是正勧告命令を受けた後にワタミ側から伝えていますので、揺るぎない事実としてクローズアップされています。

 

これは推測ですが、勤務記録は改竄していたとうことは、おそらく賃金台帳の記載要件である時間外労働時間、休日労働時間、深夜労働時間などの記録も、勤務記録に一致させるように改竄などがされていた可能性も否めません。

 

勤務時間の記録簿、賃金台帳は労基法が定める法定帳簿です。その点で改竄行為はかなり重大な問題です。

 

記事では、上司が勤務記録を書き換えていたとされていますが、実態は、人事部、役員、あるいは、経営者からの指示等があったのかどうかも疑念になるところです。この点は明らかに記載されていません。

 

補足しておきますと、勤務記録の改竄行為を行った者が上司だとすれば、ワタミはこの上司の処分を検討すべきかと思います。ただ、被害者とされる40代女性には、処分請求権はないので、ワタミ次第とは言えます。

 

女性は、労働組合に加入しているのは確かのようですが、労働組合がすでにワタミと交渉行為を行ったのかどうかは記事からは不明です。

 

ワタミは、残業代未払い問題か、勤務記録の改竄問題か、その両方かを調査する方針とのことです。残業代未払い問題を調査する方針の場合には、必然的に長時間労働問題を調査することになるかと思います。

 

少なくとも、労働基準監督署から是正勧告が出ていますので、長時間労働及び残業代の未払いがあったことは確定しています。また、自ら自白したことで勤務時間の改竄行為があったことも確定しています。

 

今回の事案では、女性の残業時間の最長が175時間となっています。労災認定の基準を満たす水準であることが明らかです。

 

参考までに、長時間がある場合の労災における評価方法です。今回の事案に関係する箇所のみになります。

 

●発症直前の極めて長い労働時間の評価

 ・発症直前の1か月におおむね160時間以上の時間外労働

 ・発症直前の3週間におおむね120時間以上の時間外労働

●発病前の1か月から3か月間の長時間労働の評価

 ・発症直前の2か月間連続して1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働

 ・発症直前の3か月間連続して1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働

 

女性は、精神疾患を発症して休業中とのことですから、発症前の長時間労働に起因する精神疾患で業務上災害の労災請求をすることも考えられます。ただし、記事からは最高が175時間残業ということしか判明していませんので、発症前のどの月の残業時間なのか、他にも要件をみたすことにつながる残業時間がみられる月があるのかは明らかではありません。

 

数年前に、電通事件があって、各企業はリスクを十分に認識し、学習したはずでしたが、「のど元過ぎれば・・・」ということなのでしょうか、不祥事が出てきます。

 

今回の事案では、明らかに企業に汚点が残る内容です。

長時間労働及び残業代の未払いの問題は、労使で主張する労働時間数に食い違いがあったにしても、これは、一般的に主張が一致することのほうが少ないためですが、残業代の未払いとの苦情や問題が提起されないような労務管理に精進したいものです。

 

改竄のない堂々と提出できる労働時間の記録を残し管理することを肝に銘じてといったところです。

 

長時間労働の問題が起きた際には、発症まえの労働時間の状況にもよりますが、労働者から労災請求される問題にもなります。日頃から労働時間の長時間化を防止する対策を意識し実施しておくことが必要です。

 

労働者のほうとしましては、やみくもに主張しても社会的には認められませんので、労働時間の記録などを詳細に残しておくこととそれが提出できることが重要になってきます。

 

1 合意解約の類型

一般的には、労働者からの会社を辞めるとの意思表示があった場合に、会社の承諾があることで雇用契約の解約が成立する場合が典型です。

 

ただし、これは労働者からの退職の申し込みの場合です。皆さんも耳にしたことがあるかと思いますが、「退職勧奨」というステージがあります。これは、一般的には、使用者つまり企業から労働者への退職の申し込みの意思表示をし、それに対し、労働者が承諾(応ずる)ことで雇用契約の解約が成立するものです。

 

労使双方の意思の合致により成立しますので、成立した場合には、合意解約の領域となります。退職勧奨については、別なページであらためてお話をさせていただきます。ここでは、合意解約の類型の一つとして知っておいていただければと思います。

 

しかし、労働者が明確な辞めるとの意思表示を通知していないケースも多くあり、そもそも「合意」と言えるのかが問題になります。

 

2 雇用契約の合意解約の例

〔杢和事件・東京地判平27.9.30 LEX/DB 25541252〕

 

【事案概要と当事者】

 経理事務アルバイトとして勤務していたX(原告)がY(被告)から解雇され、解雇無効を主張して、労働契約上の地位確認と解雇後の賃金の請求をした事案です。Yは、土木、建設設計、施工及び監理等を目的とする従業員10人に満たない企業です。

 

【認定された事実の関係部分】

Yの取締役cはXに対し、「それで経理として信用できるかって。どうして信用しろっていうんですか・・・」「・・何回いっても結局同じ。同じ話をしてるんです。それいつまでやるんだって話なんです。で、被害者が生まれるんですよ。」「ほかの人間の生活もあるんです。みんな被害者なんです。加害者だけが私はもうだからやる、金ももらう、もっともらう。やってもないけど、職場放棄もしてみんなに迷惑かけてもやるっていう精神ってことでいいですね。もうやるやる詐欺で、きてるんですよ」などと非難した上で、「すべてもう事実でもう確固たる事実があるので、これでもう自分で辞表が書けないんだったら僕はもう社労士さんに任せようと思ってるんで」「あなたが辞表書けないならもう社労士さんに言って、社労士さんがどういう順序を組んでいくかって話なんです」などと話をしました。YはXがYの経理としての適格性を欠くとして辞表(退職願)を書くことを要求したのです。

 Xは、「うん、私は生活あるし。うん」「抜かりなく経理とかやってるんだけど」「うん、生活のために。っていうか経理は楽しいし」「じゃあ社労士さんを通してもらっていいですか」などと言って要求を拒否しました。

 

Xは、同じ日に代表取締役bに電話し「私は本当に辞めなくてはならないんですか。社長はどう思ってるんですか」と真意を尋ねたところ、bはXに対し「Yを辞めてもらいたい」旨回答した。

Xは、3日後に私物整理のために出社したが、解雇について異議を述べなかった。この翌日、bは、メールで離職手続の進捗状況を連絡し、Xはbに対し、「お手数かけます。ご存じのとおり経歴や年齢的にも私の再就職は多難でしょう。どうか厚いご配慮をお願いします」と返信した。

 

なお、Xは辞表を提出していません。離職票の「被保険者番号」「事業所番号」「離職者氏名」離職年月日」「事業所名称・所在地・電話番号」「離職者の住所または居所」「事業主住所・氏名」の各欄はXが記載したものです。

 

【判断】

裁判所は、上記事実にありますXの言動から、「外形的に退職勧奨を受諾し、退職することを前提とした客観的な行動をとっていると評価することができる」としています。

 

Xがbと電話で話をした際に、「退職勧奨に応じて本件労働契約を解約する合意をしたものと推認でき」るとしています。

 

雇用契約解約の合意の問題の場合、めんどうな問題がくっついています。それは、退職するかどうかの意思表示をする機会や自由を阻害されたかどうかの点合意解約の意思表示の枠を超えた解雇の意思表示がなされたと言い得るかどうかの点です。

 

まず、の点ですが、一般に、退職勧奨においては、企業からの退職勧奨は自由に行うことができ、それに労働者が応じるか否かも自由とされています。ただし、退職に応じるか否かを自由に決定する自己決定権を侵害するような退職勧奨や行為に行きすぎがある態様でなされた退職勧奨などは違法と評価される可能性があるとされています。

 

はこの点を意味しています。そこで、今回の例でこれをみてみますと、面談の時に、Xの勤務態度上の問題点やXを非難する発言をするcに対し、Xが臆することなく自己主張し、反論していたことから、裁判所は、「Xにおいて退職をするか否かの意思表示の自由を著しく阻害された状況があったと認められることができない」としています。

 

続いての点ですが、退職勧奨の行為の際に、退職を促すだけではなく、他に発言等に圧力をかけるようなことがあって退職に至ったなどの状況があったような場合には退職勧奨の域を超えている可能性も出てくるわけです。

 

今回の例では、cがXに退職勧奨をした際にXを非難する発言があった点をどう扱うかということになるわけです。裁判所は、この点について、「やや穏当を欠く点があった」としつつも、「退職勧奨を超えて、本件解雇の意思表示が黙示にされたと評価できる事情があったということはできない」としました。

 

さらに、金銭給付の提示や労働者の辞表の提出の合意解約との関係がポイントになってきます。

 

裁判所は、「退職勧奨に伴う金銭給付の提示及び労働者の辞表(退職願)の提出は、労働契約が合意解約されたことを推認させる積極的事実であるといい得るとしても、労働契約が合意解約される際の必須の条件であるとまでいうことはできず」と一般的な枠組みを示しています。

 

そのうえで、「Xが外形的に退職勧奨を受諾し、退職することを前提とする客観的な行動をとっていた」との評価であるから、合意解約されたことの認定が左右されるものではないと結論付けています。

 

また、「bが解雇と合意解約との区別を意識しないで、本件離職票の離職理由を記載したことが推認され」「・・本件離職票上のXの離職理由の記載」についても評価したうえで、同様に、合意解約されたことの認定が左右されるものではないと結論付けています。

 

 

今回の事例をあらためてみますと、Xが受けたcからの非難の言葉はかなりのものだと言えるかと受け止めることができます。もし、Xがこれに委縮したり、恐怖を覚えたりして、発言ができない状況になって退職に至っていた場合には、評価が違っていた可能性があります。

 

Xを追い出す意図の存在を評価されたか、退職勧奨といえども恐怖感を煽って圧力をかけているとの評価になり、解雇若しくは違法な退職勧奨と結論づけられた可能性も否定できないところです。

 

解雇の結論は、Yの追い出す目的に行ったものと評価される場合になりますが、その可能性がまったくないわけではなかったと言い得るような、Yのcの非難の言葉だと言えるかと思われます。Yにとっては、Xが反論を言っていることで、リスクが軽減されたとみたほうがいいかと思います。

 

退職勧奨の違法性は、Xが反論などが言えないくらいダメージを受けたとすれば、自由に退職するか否かを決定できる状況ではなくなっているものですから、そのようにさせてしまった態様でなされた退職勧奨に違法性が生じるとの評価になることは否定できないかと思われます。

 

少し掘り下げてみますと、労働者の態度、使用者の言動の在り方などによって、評価は分かれるということを認識しておく必要があると言えます。

 

最後までお読みいただきましてありがとうございます。

 

 1 今回の内容と一般的な構図

今回取り上げます事案は、時事通信社のニュースソースから取り上げます。タイトルが強烈に目に飛び込んできました。

 

事案概要は、ホテル内のすし店に勤務する従業員が、体に入れ墨があるとの理由で解雇されたというものです。

 

労務実務では、労使ともに、体に入れ墨があることを理由に解雇に踏み切る行為が、妥当なのかどうかわからないまま事が進んでいってしまうことになっていくことが考えられます。

 

企業は、入れ墨=やくざ者的なイメージ等のみで、職場にそのような者がいたのでは、職場秩序が乱れるとの評価をしてしまうのでしょう。

 

一方、労働者の方は、入れ墨を体にしていたからといって、それを理由に解雇され、いきなり収入の道を断たれるのは、当然、納得するはずがありません。

 

ただ、こうして、労使で食い違っている状態のままでは何の解決にもならないことも確かです。では、さっそく、ニュース概要からみてみましょう。

 

2 今回の事案

 ホテルニューオータニ=東京都千代田区に入る高級すし店で板前補佐として勤務していた

男性(20)が1日、体にタトゥー(入れ墨)があるとの情報で解雇されたのは違法などとして、店を運営する紀尾井久兵衛=同=に計580万円の損害賠償と係争中の賃金支払いを求める労働審判を東京地裁に申し立てた。  男性の代理人弁護士によると、男性の友人は7月26日、すし店店長に男性にタトゥーがあることを示唆。その話を聞いた紀尾井久兵衛社長は2日後、事実確認をしないまま男性を解雇した。同月末には、男性が住んでいた杉並区内の寮も退去するよう求めた。 男性と紀尾井久兵衛双方の代理人の協議後、解雇は8月に撤回されたものの、体にタトゥーが入っている間は調理準備の仕事しかできないと告げられたという。 男性の代理人弁護士は、男性にタトゥーがあるかは明らかにしていない。弁護士は「就業規則でタトゥーは禁じられておらず、解雇は違法。退去の強要行為も損害賠償の対象となる」としている。 (時事通信社記事より)

                        

 記事で記載されている範囲でしか読み解くことができませんが、ポイントになる点を挙げてみたいと思います。

 

3 ポイントになる事実と争点

➀X(=申立人)は、板前補佐が業務だった。

②(=被申立人)は、ホテルニューオータニに入っている高級すし店であった。

③7月26日、Xの体にタトゥーがあることをXの友人がすし店店長に何らかの形で通知したらしい。

④Yの対応は、

 ㋐Xのタトゥーの事実を確認しなかった。

 ㋑7月28日、Xがタトゥーをしているとの情報のみでXを解雇した。

 ㋒7月末、Xが住んでいるYの寮をXに対し出ていくように求めた。

 ㋓8月に解雇を撤回した。

 ㋔YはXに対し、体にタトゥーが入っている間は調理準備の仕事しかさせないことを告げた。

⑤Xの代理人によれば、就業規則にタトゥーを禁じる規定は存在しない。

 

以上がこの事案ではポイントになってくると考えられます。労働者の行為が、服装や身だしなみなどに関する企業秩序違反にあたるかという点が争点になると考えられます。

 

4 先行事例にみる考え方

これまでも類似の事案としまして、ハイヤー運転手がひげを生やしたまま乗務したことに対し、身だしなみを整えることを求める会社の規定のうちの、髪を整えひげをそることに反したとして戒告処分をした例【イースタン・エアポートモータース事件・東京地判昭55.12.5労判354号46頁】などがあります。

 

この事案では、口ひげをそるべき旨を命じたことに関し、身だしなみの規定の合理性を認めたものの、口ひげは無精ひげ、異様・奇異なひげにはあたらないため、労働者はひげをそるという命令に従う必要がないとされました。

 

また、トラック運転手に茶髪を改めるように命令した事案【東谷山家事件・福岡地判小倉支平9.12.25労判732号53頁】でも、業務命令権の範囲外とされています。

 

こうした服装や身だしなみに関することの企業対応が正当と評価されるのかどのような場合か、逆に、労働者のどのような行為があると企業秩序違反となるのか。ここを見る必要があります。

 

一般的に、服装や身だしなみなどが企業としては、奇抜だ、違和感があるなどとして受け付けないことから、解雇や懲戒処分にすることはできないと考えられます。また、その服装や身だしなみを強制的にやめさせる、やめないことを理由に解雇や懲戒処分にすることもできないと考えられています。

 

5 企業秩序と懲戒処分の関係

 一般に、企業はその秩序を作り維持する権限があるとされています。従いまして、就業規則にある企業秩序及び懲戒処分の規定を根拠に、企業秩序を乱した従業員を懲戒処分にする権利があるとは言えます【国鉄札幌運転区事件・最二小判昭54.10.30労判329号12頁】。

 

しかし、労働者が「労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負う」からといって、「企業の一般的な支配に服するものということはできない」と考えられています【富士重工業事件・最三小昭52.12.13労判287号7頁】。

 

企業秩序の紊乱(びんらん)にあたる行為があって、実際に業務などに支障をきたしたなどがある、かつ、懲戒処分が必要であると会社の主観ではなく客観的に認められることが求められるとされています。

 

企業からみれば、ハードルが高いとの心証になるかと思いますが、そうさせているのは、服装や身だしなみなどのことは、労働者の個人の自由に属することで、人格権との関係から慎重な姿勢が要請されているからと考えられます。

 

会社の業務服を着用しないなどは服務規律違反になるなどが明確ですが、個人のひげ、髪、プライベートな服装などはよくよく慎重になることが求められます。

 

まず、大きな枠組みでは、今回のタトゥーの事案でも同様に考えることができます。

 

6 詳細な点の評価のポイント

これまでの内容に照らして考えますと、以下の点が気なるところです。

➀男性のタトゥーはどこに入っていたかにもよる

 記事では、「体にタトゥー」としか記載されていませんので詳細は不明ですが、たとえば、タトゥーが手首や腕、首など板前補佐の制服を着用した際に、完全に露になり、かつ、その状態がお客様に多大な不快感を与えて、店の客の入りやすしという商品を食する行為、しいては売上に影響するということになれば、企業秩序が重視される可能性があります。

 

ただし、前提として、すし職人あるいは板前補佐としての服装や身だしなみ等にふさわしくないものは認めないことを規定しておく必要があること、また、懲戒処分することはないにしても、念のため懲戒処分規定にも規定しておくことが必要になります。

 

しかし、板前補佐の服装になれば、外からはまったくタトゥーが見えないという状態であるならば、客観的に業務に支障をきたすとの評価にはなり得ないと考えられ、解雇や懲戒処分などを措置した場合には違法となる可能性があります。

 

板前補佐の服装になれば支障ないとはいえ、仮に、企業が、板前補佐という位置づけ上、外から見えなければいいというものではないとの主張をした場合には、認められるのでしょうか。

 

やはり、業務上で支障をきたす部分がない以上、Xに何か措置を講ずることは難しいと言えます。もっとも、タトゥーをなくように努力してほしいと伝えることは自由です。

 

②YがXのタトゥーの事実を確認しないで解雇に踏み切った行為の問題

 これまで触れてきましたように、業務に支障をきたした、業務上解雇の必要があったということでなければ、YのXの解雇は違法なものと評価される可能性があります。

 

加えて、今回の解雇はXの友人から店長に情報が示唆されてから2日後であるという点で、大きな問題になると考えられます。情報の信ぴょう性含めた事実を何ら確かめようともせず、タトゥーを入れているとの情報だけで即刻、解雇したことの疎明となり、労働者の主張として大きく取り上げられる要素になると考えられます。

 

それよりも、社長はタトゥーの事実をXに確認しないで解雇したことがかなり重い行為です。Xの友人からの情報にすぎませんから、YはこのことをXに確認、必要ならばXに説明して調査に着手ということになります。

 

しかし、それをしなかったことは、汚点が残ります。一般的に、当事務所で労働問題を扱う際にも多いのですが、企業が調査すべき案件で調査もなにもしないで処分などの措置に踏み切っている例があります。

 

企業の調査能力、調査に対する理解などの問題も見えるところではありますが、行為として調べる、聞き取りをするなどは必要になります。

 

③YがXに退寮を求めた問題

 ➀②の延長線上の話として、退寮を求めたことが問題です。解雇=寮も出て行ってもらうのは当然だとの構図なのでしょう。しかし、情報入手の2日後に解雇、5日後の末日には退寮を伝えています。

 

Yに寮規則というものが存在するのか記事からは不明です。しかし、仮に、ある場合には、寮規則に従って命じているかが問われるところです。また、仮に、解雇が正当であった場合、寮規則の有無にかかわらず、退寮日によっては、退寮との命令が有効かどうかが問題となります。

 

労働者のほうでは、荷物をまとめること、次の居住場所を探し決めることなどが必須になります。退寮日まで余裕がなくなる場合には、そのような状況を考慮することがYには求められると言えます。

 

④体にタトゥーがある間は調理準備の仕事しかさせない問題

 小職はタトゥーについてほとんど知識を持ち合わせておりませんが、聞いたところによると、一度、タトゥーをすると消すのは大変になるとのことです。

 

つまり、タトゥーがある間は調理準備の仕事になるとは、Yによるタトゥーを消すことの義務付けになるわけです。消さなければ板前補佐の業務ができないことになったわけですからそのように考えざるを得ません。

 

一つ目は、タトゥーを消すことを義務にすることの問題があります。そもそもタトゥーは技術的にもそう簡単に消すことが困難らしいとすれば、それを命じることはXにとっては酷なものとなります。

 

二つ目は、タトゥーを消すことを命じることができるかという問題です。

個人的な服装や身だしなみなどに関することを、業務に支障があるわけでもないのにやめろと命じることは難しいと言えます。

 

以上から、タトゥーがある間は板前補助の業務を外して調理準備の仕事しかさせないは、認められない可能性があります。

 

 

以上、ざっと時事通信の記事から読み取れる範囲で触れてみました。服装や身だしなみなどに関することは、企業が違和感があるなどの理由のみで、解雇や懲戒処分などの措置をすることは難しいことになります。

 

また、妥当性はともかく、主張するのであれば、最低限、就業規則に業務に支障があることとその対象となる内容(今回で言えばタトゥーを入れる)について規定しておく必要があることが求められます。

 

これらを柱に従業員の人格権にかかわる領域の問題は、身長に考えるべきかと思います。労働者からみれば主張できる要素がいくつかありますので、整理して組み立てることになります。