ワタミで立て続けに不祥事が起きているようです。起きているというのは正しくはありません。自社内での行為が招いた結果としか言いようがないからです。まずは、ニュースソースを2つそのまま掲載します。
2020年10月02日
外食大手ワタミ(東京)が、社員への残業代未払いで労働基準監督署から是正勧告を受けた問題で、ワタミは2日、未払いのあった40代の女性社員の勤務記録を上司が書き換えていたと明らかにした。同社の広報担当者は「重大な問題と認識している。社内調査が終わり次第、厳正に対処する」と説明している。
女性と女性が加入する労働組合「ブラック企業ユニオン」は2日、東京都内で記者会見を開き、女性は長時間労働が常態化していたのに会社は対応せず、勤務記録も勝手に修正、削除されていたとし「同じことが社内にまん延している。組織を見直してほしい」と訴えた。
2020年9月30日 上毛新聞
外食大手のワタミ(東京)が、群馬県内で弁当宅配事業「ワタミの宅食」の営業所長を務める女性社員に対し残業代の未払いがあったとして、高崎労働基準監督署から是正勧告を受けていたことが29日、同社への取材で分かった。勧告は15日付。女性の加入する労働組合「ブラック企業ユニオン」によると、女性の時間外労働は最長で月175時間に上った。精神疾患を発症して休職中という。
ブラック企業ユニオンによると、女性は県内の二つの営業所で所長を兼任、計約20人の配達員らを管理していた。業務連絡や配達の代行などの仕事に追われ、長時間の残業が発生した。
記事が非常にコンパクトにしか書かれていませんので、推測の部分も多くなります。
記事から明らかに言える事実
➀労働基準監督署から是正勧告を受けたこと
②残業代の未払いがあったこと
③少なくとも40代女性社員の残業代が未払いであったこと
④③の女性の勤務記録を上司が書き換えていたこと
⑤勤務記録の書き換えは是正勧告の後でワタミが明らかにしたこと
⑥未払い問題か勤務記録書き換え問題かで社内調査を行う方針であること
⑦女性が労働組合に加入していること
⑧女性は、長時間労働・勤務記録の修正・削除が蔓延しているので組織の見直しを切望していること
⑨女性の残業時間は最長で月175時間であったこと
⑩女性は精神疾患を発症して休業中であること
⑪女性は県内の二つの営業所で所長を兼任し計約20人の配達員らを管理していたが、業務連絡や配達の代行などの仕事に追われて残業が発生していたこと
ざっとこれらが記事から言えるかと思います。
あくまでも記事から読み取ることができる範囲においてになります。
残業代の未払いは、労働基準監督署が最も厳格に確認をするメニューと言っても過言ではありません。一般に、労働者が残業代の未払いがあると主張する場合には、九分九厘そのような実態があったとみることになります。
なぜなら、実務上、労働者が時間と労力を使って、まったく残業がないのにいい加減に主張することは考えにくいからです。また、労働問題が浮上した際には、被害者の方は、事の事実をそのまま主張する傾向にあり、事実を歪曲することは考えにくいこともあります。
ただし、いい加減に主著することは考えにくいとは言っても、実際の労働時間を明らかにする明確な記録がない場合には、実態としての時間記録を資料として示すことができないという点で、「いい加減に」があてはまることもあり得ます。今回の事案は記事からはこの点が不明です。
今回の大きな問題は、ワタミにおける勤務時間の改竄問題です。この事実は是正勧告命令を受けた後にワタミ側から伝えていますので、揺るぎない事実としてクローズアップされています。
これは推測ですが、勤務記録は改竄していたとうことは、おそらく賃金台帳の記載要件である時間外労働時間、休日労働時間、深夜労働時間などの記録も、勤務記録に一致させるように改竄などがされていた可能性も否めません。
勤務時間の記録簿、賃金台帳は労基法が定める法定帳簿です。その点で改竄行為はかなり重大な問題です。
記事では、上司が勤務記録を書き換えていたとされていますが、実態は、人事部、役員、あるいは、経営者からの指示等があったのかどうかも疑念になるところです。この点は明らかに記載されていません。
補足しておきますと、勤務記録の改竄行為を行った者が上司だとすれば、ワタミはこの上司の処分を検討すべきかと思います。ただ、被害者とされる40代女性には、処分請求権はないので、ワタミ次第とは言えます。
女性は、労働組合に加入しているのは確かのようですが、労働組合がすでにワタミと交渉行為を行ったのかどうかは記事からは不明です。
ワタミは、残業代未払い問題か、勤務記録の改竄問題か、その両方かを調査する方針とのことです。残業代未払い問題を調査する方針の場合には、必然的に長時間労働問題を調査することになるかと思います。
少なくとも、労働基準監督署から是正勧告が出ていますので、長時間労働及び残業代の未払いがあったことは確定しています。また、自ら自白したことで勤務時間の改竄行為があったことも確定しています。
今回の事案では、女性の残業時間の最長が175時間となっています。労災認定の基準を満たす水準であることが明らかです。
参考までに、長時間がある場合の労災における評価方法です。今回の事案に関係する箇所のみになります。
●発症直前の極めて長い労働時間の評価
・発症直前の1か月におおむね160時間以上の時間外労働
・発症直前の3週間におおむね120時間以上の時間外労働
●発病前の1か月から3か月間の長時間労働の評価
・発症直前の2か月間連続して1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働
・発症直前の3か月間連続して1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働
女性は、精神疾患を発症して休業中とのことですから、発症前の長時間労働に起因する精神疾患で業務上災害の労災請求をすることも考えられます。ただし、記事からは最高が175時間残業ということしか判明していませんので、発症前のどの月の残業時間なのか、他にも要件をみたすことにつながる残業時間がみられる月があるのかは明らかではありません。
数年前に、電通事件があって、各企業はリスクを十分に認識し、学習したはずでしたが、「のど元過ぎれば・・・」ということなのでしょうか、不祥事が出てきます。
今回の事案では、明らかに企業に汚点が残る内容です。
長時間労働及び残業代の未払いの問題は、労使で主張する労働時間数に食い違いがあったにしても、これは、一般的に主張が一致することのほうが少ないためですが、残業代の未払いとの苦情や問題が提起されないような労務管理に精進したいものです。
改竄のない堂々と提出できる労働時間の記録を残し管理することを肝に銘じてといったところです。
長時間労働の問題が起きた際には、発症まえの労働時間の状況にもよりますが、労働者から労災請求される問題にもなります。日頃から労働時間の長時間化を防止する対策を意識し実施しておくことが必要です。
労働者のほうとしましては、やみくもに主張しても社会的には認められませんので、労働時間の記録などを詳細に残しておくこととそれが提出できることが重要になってきます。