今回取り上げますニュースは、新型コロナウイルス感染症の中で起きている典型的な例といます。
【ニュース記事の掲載】
「まいどおおきに食堂」「串家物語」などの飲食チェーンを運営する「フジオフードシステム」(大阪市)が経営するカフェ店のパート従業員らが3日、東京都内で記者会見を開き、同日から2週間のストライキに入ったと発表した。新型コロナウイルスの影響で店舗が休業した際、不払いとなっている休業手当の支払いを求めている。
労働組合「飲食店ユニオン」(東京都)によると、パート従業員らが働く「デリス タルト&カフェ」が緊急事態宣言の発令で4月8日~5月末に休業。休業手当は、シフトが決まっていた4月の数日分のみ支給され、5月分は支払われなかった。6月以降はシフト数が減り、7月からは人員が減らされ、業務過多になったという。団体交渉で同社は、店が入居する商業施設の営業停止が休業の理由であり、休業手当の支払い義務はないと回答。一方で正社員には支払っていると明かしたという。
ストに入った従業員は、子育て中の30代の女性2人で時給は1100円台。会見で「正社員は守られているのに、日々の店舗を支える非正規の私たちは使い捨てなのか」と訴えた。
ユニオンは、大企業の場合、企業の支払った休業手当を国が助成する制度の助成率が低く、利用せず支払わないケースが多いとし、国が従業員に直接支給する休業支援金も中小企業の従業員だけが対象であることから「大企業の非正規労働者が補償制度から事実上、排除されている」と問題視した。
【ニュース記事から判明している事実】
㋐企業はカフェ店で「フジオフードシステム」(以下「会社」という)が経営している。
㋑対象労働者はパートタイマー2名で、子育て中の30代女性である。
㋒パートタイマー従業員らは、休業手当の支払いを求めている。
㋓カフェは新型コロナウイルスの影響で休業した。
㋔パートタイマー従業員らの休業は、4月8日から5月末であった。
㋕賃金は4月の数日分だけ支払われた。
㋖6月以降はシフト数が減少した。
㋗7月から人員数が減少となった影響で業務過多になった。
㋘会社は、商業施設の営業停止が休業理由なので休業手当の支払い義務はないと主張。
㋙会社は、正社員には休業手当を支払っていると話している。
㋚パートタイマー従業員らの賃金は時給1100円である。
㋛パートタイマー従業員らは、2週間のストライキを実行した。
以上のほかに、確定的ではないですが、補足事項として、ユニオンのコメントからは、会社は少なくとも中小企業ではないらしい。
【今回の問題点の検討】
パートタイマー従業員らは、新型コロナウイルスの理由で休業になったと言い、会社は、商業施設の営業停止が休業の理由だと主張している。この休業原因が争点です。
ニュースからは、休業の理由が新型コロナウイルスなのか商業施設の営業停止なのかが判明できません。商業施設の営業停止だったとしても、時期が重なっていることを考えますと新型コロナウイルス感染症によるものの可能性はあります。
休業手当の法的な根拠を確認しておきますと、労基法26条になります。簡単に言えば、経営者にとって不可抗力に当たらない理由で従業員を休業させた場合は、平均賃金の60%以上を支給しなければならないというものです。
やや、難しい法的な表現を使用しますと、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合は、使用者に責任が生じるということになります。
整理しますと、労基法26条の所得保障は、労働者の最低生活保障の意味で6割以上とし、さらに使用者の帰責事由を広い範囲で認めているものとみることができます。今回の問題のテーマはここが一つの急所になります。
では、不可抗力に該当するものとは何か。たとえば、竜巻、台風、洪水、地震などの自然災害や会社建物の火災などが典型です。会社の建物、たとえば店舗に車両が突っ込んだため営業できなくなった場合も該当します。
しかし、会社の機械設備の故障、取引先の経営難に起因する資材・資金の困難などの場合は、不可抗力にあたらないとされています。
ようするに、会社としてどうやっても防ぎようがなかったことが不可抗力にあたると解釈されています。では、新型コロナウイルス感染症に関係する場合はどうでしょうか。
新型コロナウイルスにかかり発症した従業員を休業させる場合は、不可抗力ではないものの、会社に責任はありません。従業員の病気休業と同様の扱いとなり、健康保険の傷病手当金の支給を受けさせることで足ります。
しかし、新型コロナウイルスにかかっていない従業員を休業させる場合には、会社の判断で休業させていますので、企業責任で休業手当を支払う必要があります。つまり、新型コロナウイルスに感染していない従業員を休業させる行為では、新型コロナウイルス感染症の蔓延だけで不可抗力にはならないのです。
2020年のこれまでを振り返りますと、実務的には、新型コロナウイルス感染症を理由に企業に責任はない不可抗力との主張が横行した実態が少なくありません。
また、自治体などの要請で、就業制限となって従業員を休業させる場合には、会社に責任はありませんので、会社が休業手当を支払う義務はありません。
会社が主張する商業施設の営業停止の場合はどうでしょうか。一般に、会社の取引先の経営不振や企業そのものの経営不振から休業となる場合でも、不可抗力には当たらないため休業手当の支払いが必要と判断されています。
商業施設の営業停止によってカフェの休業となった場合でも、不可抗力とは言えない可能性があります。ただし、商業施設の停止状況や関係などを検討して実態によっては、不可抗力になる場合もあり得る可能性もあります。ここは実態によりグレーな点が残ると思われます。実態の詳細が不明なためいすれもが考えられるところです。
ただ、通常、商業施設はカフェを経営する会社と契約関係にあると考えるのが自然です。つまり、取引先が営業停止するためにカフェが休業となることは、不可抗力になる可能性はないと考えられます。ここでは、とりあえず通常の状況で見ておきたいと思います。
このように考えますと、会社はパートタイマー従業員らに休業手当を支払う義務があるということになります。4月分の数日分は支払っているとすれば、残りはすべて60%以上の賃金を支払わなければいけないことになります。
さらに、今回の事案で休業手当を支払う必要があると結論付けらえるのは、上記の労基法26条の検討をするまでもない事実においてです。
会社に責任がある休業か否かに関係なく、正社員には休業手当を支払っていると会社自ら話して認めている事実です。それで、パートタイマー従業員らには休業手当は支払っていないというのは、全く通らない話と言われても仕方ない点です。
ユニオンが主張する通りの大企業だとすれば、2020年4月1日から同一労働同一賃金がスタートしていますから、それに抵触する可能性があります。パートタイマーだからというだけで休業手当を支払っていないようですから、それ以外に支払っていない正当な理由がないのであれば抵触していると考えられます。
正社員には、新型コロナウイルスの影響か商業施設の営業停止かを問わず休業手当を支払っていますから、労基法26条の支払い義務の有無に関係なく、パートタイマー従業員らにも支払わなければなりません。ここは決定的と言えます。
また、逆の論理でいきますと、正社員に休業手当を支払っているということは、会社は不可抗力による休業ではなく会社責任の休業であると受け止めているとも言えなくはないということにもなります。
いずれにしても、休業手当の支払い義務ありという結論にならざるを得ないかと思います。
さらに付加的な事項として、今後の労働問題の火種になるリスクがあります。7月から人数を減らしている影響で、パートタイマー従業員らが業務過多になっている点です。
正社員の業務や他のパートタイマー従業員らの業務の状況がわかりませんので、今回の当事者であるパートタイマー従業員らだけが業務過多なのかは断定できません。また、従前と比べてどのくらい業務量などが増したのかも断定できません。
しかし、少なくとも、パートタイマー従業員らは業務過多であることから、休業前に比べて過酷な労働を強いられていることは確かなようです。
会社にとっての労務リスクは、業務過多の状況を改善することなく、就労を継続させた場合でパートタイマー従業員らが何らかの疾病を発症するに至った場合には、使用者責任が問題となってきます。
もちろん、業務に関係して疾病が発症した可能性があれば労災保険の適用の問題も降りかかってきます。
従業員の健康を害さないように配慮して働かせるという雇用契約に付随する義務に抵触することになります。安全配慮義務、職場環境配慮義務の違反が問われることになります。
一般に、企業では、企業側が指示・命令を発して仕事をさせるという構図で物事を考えがちであるため、休業や賃金の支払い、人員コントロールまで企業の裁量で自由にできるし、実施していいとの感覚に慣れすぎている点のほころびが出やすくなります。
今回のケースも典型的な例と言えます。わずか数行のニュースでしかありませんが、思わぬところに潜む、大変な問題を知っていただけたかと思います。
最後までお読みいただきましてありがとうございます。少しでも参考になりましたら幸いです。