雇用契約の合意解約1 | ★社労士kameokaの労務の視角

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ー特定社会保険労務士|亀岡亜己雄のブログー
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1 合意解約の類型

一般的には、労働者からの会社を辞めるとの意思表示があった場合に、会社の承諾があることで雇用契約の解約が成立する場合が典型です。

 

ただし、これは労働者からの退職の申し込みの場合です。皆さんも耳にしたことがあるかと思いますが、「退職勧奨」というステージがあります。これは、一般的には、使用者つまり企業から労働者への退職の申し込みの意思表示をし、それに対し、労働者が承諾(応ずる)ことで雇用契約の解約が成立するものです。

 

労使双方の意思の合致により成立しますので、成立した場合には、合意解約の領域となります。退職勧奨については、別なページであらためてお話をさせていただきます。ここでは、合意解約の類型の一つとして知っておいていただければと思います。

 

しかし、労働者が明確な辞めるとの意思表示を通知していないケースも多くあり、そもそも「合意」と言えるのかが問題になります。

 

2 雇用契約の合意解約の例

〔杢和事件・東京地判平27.9.30 LEX/DB 25541252〕

 

【事案概要と当事者】

 経理事務アルバイトとして勤務していたX(原告)がY(被告)から解雇され、解雇無効を主張して、労働契約上の地位確認と解雇後の賃金の請求をした事案です。Yは、土木、建設設計、施工及び監理等を目的とする従業員10人に満たない企業です。

 

【認定された事実の関係部分】

Yの取締役cはXに対し、「それで経理として信用できるかって。どうして信用しろっていうんですか・・・」「・・何回いっても結局同じ。同じ話をしてるんです。それいつまでやるんだって話なんです。で、被害者が生まれるんですよ。」「ほかの人間の生活もあるんです。みんな被害者なんです。加害者だけが私はもうだからやる、金ももらう、もっともらう。やってもないけど、職場放棄もしてみんなに迷惑かけてもやるっていう精神ってことでいいですね。もうやるやる詐欺で、きてるんですよ」などと非難した上で、「すべてもう事実でもう確固たる事実があるので、これでもう自分で辞表が書けないんだったら僕はもう社労士さんに任せようと思ってるんで」「あなたが辞表書けないならもう社労士さんに言って、社労士さんがどういう順序を組んでいくかって話なんです」などと話をしました。YはXがYの経理としての適格性を欠くとして辞表(退職願)を書くことを要求したのです。

 Xは、「うん、私は生活あるし。うん」「抜かりなく経理とかやってるんだけど」「うん、生活のために。っていうか経理は楽しいし」「じゃあ社労士さんを通してもらっていいですか」などと言って要求を拒否しました。

 

Xは、同じ日に代表取締役bに電話し「私は本当に辞めなくてはならないんですか。社長はどう思ってるんですか」と真意を尋ねたところ、bはXに対し「Yを辞めてもらいたい」旨回答した。

Xは、3日後に私物整理のために出社したが、解雇について異議を述べなかった。この翌日、bは、メールで離職手続の進捗状況を連絡し、Xはbに対し、「お手数かけます。ご存じのとおり経歴や年齢的にも私の再就職は多難でしょう。どうか厚いご配慮をお願いします」と返信した。

 

なお、Xは辞表を提出していません。離職票の「被保険者番号」「事業所番号」「離職者氏名」離職年月日」「事業所名称・所在地・電話番号」「離職者の住所または居所」「事業主住所・氏名」の各欄はXが記載したものです。

 

【判断】

裁判所は、上記事実にありますXの言動から、「外形的に退職勧奨を受諾し、退職することを前提とした客観的な行動をとっていると評価することができる」としています。

 

Xがbと電話で話をした際に、「退職勧奨に応じて本件労働契約を解約する合意をしたものと推認でき」るとしています。

 

雇用契約解約の合意の問題の場合、めんどうな問題がくっついています。それは、退職するかどうかの意思表示をする機会や自由を阻害されたかどうかの点合意解約の意思表示の枠を超えた解雇の意思表示がなされたと言い得るかどうかの点です。

 

まず、の点ですが、一般に、退職勧奨においては、企業からの退職勧奨は自由に行うことができ、それに労働者が応じるか否かも自由とされています。ただし、退職に応じるか否かを自由に決定する自己決定権を侵害するような退職勧奨や行為に行きすぎがある態様でなされた退職勧奨などは違法と評価される可能性があるとされています。

 

はこの点を意味しています。そこで、今回の例でこれをみてみますと、面談の時に、Xの勤務態度上の問題点やXを非難する発言をするcに対し、Xが臆することなく自己主張し、反論していたことから、裁判所は、「Xにおいて退職をするか否かの意思表示の自由を著しく阻害された状況があったと認められることができない」としています。

 

続いての点ですが、退職勧奨の行為の際に、退職を促すだけではなく、他に発言等に圧力をかけるようなことがあって退職に至ったなどの状況があったような場合には退職勧奨の域を超えている可能性も出てくるわけです。

 

今回の例では、cがXに退職勧奨をした際にXを非難する発言があった点をどう扱うかということになるわけです。裁判所は、この点について、「やや穏当を欠く点があった」としつつも、「退職勧奨を超えて、本件解雇の意思表示が黙示にされたと評価できる事情があったということはできない」としました。

 

さらに、金銭給付の提示や労働者の辞表の提出の合意解約との関係がポイントになってきます。

 

裁判所は、「退職勧奨に伴う金銭給付の提示及び労働者の辞表(退職願)の提出は、労働契約が合意解約されたことを推認させる積極的事実であるといい得るとしても、労働契約が合意解約される際の必須の条件であるとまでいうことはできず」と一般的な枠組みを示しています。

 

そのうえで、「Xが外形的に退職勧奨を受諾し、退職することを前提とする客観的な行動をとっていた」との評価であるから、合意解約されたことの認定が左右されるものではないと結論付けています。

 

また、「bが解雇と合意解約との区別を意識しないで、本件離職票の離職理由を記載したことが推認され」「・・本件離職票上のXの離職理由の記載」についても評価したうえで、同様に、合意解約されたことの認定が左右されるものではないと結論付けています。

 

 

今回の事例をあらためてみますと、Xが受けたcからの非難の言葉はかなりのものだと言えるかと受け止めることができます。もし、Xがこれに委縮したり、恐怖を覚えたりして、発言ができない状況になって退職に至っていた場合には、評価が違っていた可能性があります。

 

Xを追い出す意図の存在を評価されたか、退職勧奨といえども恐怖感を煽って圧力をかけているとの評価になり、解雇若しくは違法な退職勧奨と結論づけられた可能性も否定できないところです。

 

解雇の結論は、Yの追い出す目的に行ったものと評価される場合になりますが、その可能性がまったくないわけではなかったと言い得るような、Yのcの非難の言葉だと言えるかと思われます。Yにとっては、Xが反論を言っていることで、リスクが軽減されたとみたほうがいいかと思います。

 

退職勧奨の違法性は、Xが反論などが言えないくらいダメージを受けたとすれば、自由に退職するか否かを決定できる状況ではなくなっているものですから、そのようにさせてしまった態様でなされた退職勧奨に違法性が生じるとの評価になることは否定できないかと思われます。

 

少し掘り下げてみますと、労働者の態度、使用者の言動の在り方などによって、評価は分かれるということを認識しておく必要があると言えます。

 

最後までお読みいただきましてありがとうございます。