★社労士kameokaの労務の視角 -7ページ目

★社労士kameokaの労務の視角

ー特定社会保険労務士|亀岡亜己雄のブログー
https://ameblo.jp/laborproblem/

 1 今回の内容と一般的な構図

今回取り上げます事案は、時事通信社のニュースソースから取り上げます。タイトルが強烈に目に飛び込んできました。

 

事案概要は、ホテル内のすし店に勤務する従業員が、体に入れ墨があるとの理由で解雇されたというものです。

 

労務実務では、労使ともに、体に入れ墨があることを理由に解雇に踏み切る行為が、妥当なのかどうかわからないまま事が進んでいってしまうことになっていくことが考えられます。

 

企業は、入れ墨=やくざ者的なイメージ等のみで、職場にそのような者がいたのでは、職場秩序が乱れるとの評価をしてしまうのでしょう。

 

一方、労働者の方は、入れ墨を体にしていたからといって、それを理由に解雇され、いきなり収入の道を断たれるのは、当然、納得するはずがありません。

 

ただ、こうして、労使で食い違っている状態のままでは何の解決にもならないことも確かです。では、さっそく、ニュース概要からみてみましょう。

 

2 今回の事案

 ホテルニューオータニ=東京都千代田区に入る高級すし店で板前補佐として勤務していた

男性(20)が1日、体にタトゥー(入れ墨)があるとの情報で解雇されたのは違法などとして、店を運営する紀尾井久兵衛=同=に計580万円の損害賠償と係争中の賃金支払いを求める労働審判を東京地裁に申し立てた。  男性の代理人弁護士によると、男性の友人は7月26日、すし店店長に男性にタトゥーがあることを示唆。その話を聞いた紀尾井久兵衛社長は2日後、事実確認をしないまま男性を解雇した。同月末には、男性が住んでいた杉並区内の寮も退去するよう求めた。 男性と紀尾井久兵衛双方の代理人の協議後、解雇は8月に撤回されたものの、体にタトゥーが入っている間は調理準備の仕事しかできないと告げられたという。 男性の代理人弁護士は、男性にタトゥーがあるかは明らかにしていない。弁護士は「就業規則でタトゥーは禁じられておらず、解雇は違法。退去の強要行為も損害賠償の対象となる」としている。 (時事通信社記事より)

                        

 記事で記載されている範囲でしか読み解くことができませんが、ポイントになる点を挙げてみたいと思います。

 

3 ポイントになる事実と争点

➀X(=申立人)は、板前補佐が業務だった。

②(=被申立人)は、ホテルニューオータニに入っている高級すし店であった。

③7月26日、Xの体にタトゥーがあることをXの友人がすし店店長に何らかの形で通知したらしい。

④Yの対応は、

 ㋐Xのタトゥーの事実を確認しなかった。

 ㋑7月28日、Xがタトゥーをしているとの情報のみでXを解雇した。

 ㋒7月末、Xが住んでいるYの寮をXに対し出ていくように求めた。

 ㋓8月に解雇を撤回した。

 ㋔YはXに対し、体にタトゥーが入っている間は調理準備の仕事しかさせないことを告げた。

⑤Xの代理人によれば、就業規則にタトゥーを禁じる規定は存在しない。

 

以上がこの事案ではポイントになってくると考えられます。労働者の行為が、服装や身だしなみなどに関する企業秩序違反にあたるかという点が争点になると考えられます。

 

4 先行事例にみる考え方

これまでも類似の事案としまして、ハイヤー運転手がひげを生やしたまま乗務したことに対し、身だしなみを整えることを求める会社の規定のうちの、髪を整えひげをそることに反したとして戒告処分をした例【イースタン・エアポートモータース事件・東京地判昭55.12.5労判354号46頁】などがあります。

 

この事案では、口ひげをそるべき旨を命じたことに関し、身だしなみの規定の合理性を認めたものの、口ひげは無精ひげ、異様・奇異なひげにはあたらないため、労働者はひげをそるという命令に従う必要がないとされました。

 

また、トラック運転手に茶髪を改めるように命令した事案【東谷山家事件・福岡地判小倉支平9.12.25労判732号53頁】でも、業務命令権の範囲外とされています。

 

こうした服装や身だしなみに関することの企業対応が正当と評価されるのかどのような場合か、逆に、労働者のどのような行為があると企業秩序違反となるのか。ここを見る必要があります。

 

一般的に、服装や身だしなみなどが企業としては、奇抜だ、違和感があるなどとして受け付けないことから、解雇や懲戒処分にすることはできないと考えられます。また、その服装や身だしなみを強制的にやめさせる、やめないことを理由に解雇や懲戒処分にすることもできないと考えられています。

 

5 企業秩序と懲戒処分の関係

 一般に、企業はその秩序を作り維持する権限があるとされています。従いまして、就業規則にある企業秩序及び懲戒処分の規定を根拠に、企業秩序を乱した従業員を懲戒処分にする権利があるとは言えます【国鉄札幌運転区事件・最二小判昭54.10.30労判329号12頁】。

 

しかし、労働者が「労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負う」からといって、「企業の一般的な支配に服するものということはできない」と考えられています【富士重工業事件・最三小昭52.12.13労判287号7頁】。

 

企業秩序の紊乱(びんらん)にあたる行為があって、実際に業務などに支障をきたしたなどがある、かつ、懲戒処分が必要であると会社の主観ではなく客観的に認められることが求められるとされています。

 

企業からみれば、ハードルが高いとの心証になるかと思いますが、そうさせているのは、服装や身だしなみなどのことは、労働者の個人の自由に属することで、人格権との関係から慎重な姿勢が要請されているからと考えられます。

 

会社の業務服を着用しないなどは服務規律違反になるなどが明確ですが、個人のひげ、髪、プライベートな服装などはよくよく慎重になることが求められます。

 

まず、大きな枠組みでは、今回のタトゥーの事案でも同様に考えることができます。

 

6 詳細な点の評価のポイント

これまでの内容に照らして考えますと、以下の点が気なるところです。

➀男性のタトゥーはどこに入っていたかにもよる

 記事では、「体にタトゥー」としか記載されていませんので詳細は不明ですが、たとえば、タトゥーが手首や腕、首など板前補佐の制服を着用した際に、完全に露になり、かつ、その状態がお客様に多大な不快感を与えて、店の客の入りやすしという商品を食する行為、しいては売上に影響するということになれば、企業秩序が重視される可能性があります。

 

ただし、前提として、すし職人あるいは板前補佐としての服装や身だしなみ等にふさわしくないものは認めないことを規定しておく必要があること、また、懲戒処分することはないにしても、念のため懲戒処分規定にも規定しておくことが必要になります。

 

しかし、板前補佐の服装になれば、外からはまったくタトゥーが見えないという状態であるならば、客観的に業務に支障をきたすとの評価にはなり得ないと考えられ、解雇や懲戒処分などを措置した場合には違法となる可能性があります。

 

板前補佐の服装になれば支障ないとはいえ、仮に、企業が、板前補佐という位置づけ上、外から見えなければいいというものではないとの主張をした場合には、認められるのでしょうか。

 

やはり、業務上で支障をきたす部分がない以上、Xに何か措置を講ずることは難しいと言えます。もっとも、タトゥーをなくように努力してほしいと伝えることは自由です。

 

②YがXのタトゥーの事実を確認しないで解雇に踏み切った行為の問題

 これまで触れてきましたように、業務に支障をきたした、業務上解雇の必要があったということでなければ、YのXの解雇は違法なものと評価される可能性があります。

 

加えて、今回の解雇はXの友人から店長に情報が示唆されてから2日後であるという点で、大きな問題になると考えられます。情報の信ぴょう性含めた事実を何ら確かめようともせず、タトゥーを入れているとの情報だけで即刻、解雇したことの疎明となり、労働者の主張として大きく取り上げられる要素になると考えられます。

 

それよりも、社長はタトゥーの事実をXに確認しないで解雇したことがかなり重い行為です。Xの友人からの情報にすぎませんから、YはこのことをXに確認、必要ならばXに説明して調査に着手ということになります。

 

しかし、それをしなかったことは、汚点が残ります。一般的に、当事務所で労働問題を扱う際にも多いのですが、企業が調査すべき案件で調査もなにもしないで処分などの措置に踏み切っている例があります。

 

企業の調査能力、調査に対する理解などの問題も見えるところではありますが、行為として調べる、聞き取りをするなどは必要になります。

 

③YがXに退寮を求めた問題

 ➀②の延長線上の話として、退寮を求めたことが問題です。解雇=寮も出て行ってもらうのは当然だとの構図なのでしょう。しかし、情報入手の2日後に解雇、5日後の末日には退寮を伝えています。

 

Yに寮規則というものが存在するのか記事からは不明です。しかし、仮に、ある場合には、寮規則に従って命じているかが問われるところです。また、仮に、解雇が正当であった場合、寮規則の有無にかかわらず、退寮日によっては、退寮との命令が有効かどうかが問題となります。

 

労働者のほうでは、荷物をまとめること、次の居住場所を探し決めることなどが必須になります。退寮日まで余裕がなくなる場合には、そのような状況を考慮することがYには求められると言えます。

 

④体にタトゥーがある間は調理準備の仕事しかさせない問題

 小職はタトゥーについてほとんど知識を持ち合わせておりませんが、聞いたところによると、一度、タトゥーをすると消すのは大変になるとのことです。

 

つまり、タトゥーがある間は調理準備の仕事になるとは、Yによるタトゥーを消すことの義務付けになるわけです。消さなければ板前補佐の業務ができないことになったわけですからそのように考えざるを得ません。

 

一つ目は、タトゥーを消すことを義務にすることの問題があります。そもそもタトゥーは技術的にもそう簡単に消すことが困難らしいとすれば、それを命じることはXにとっては酷なものとなります。

 

二つ目は、タトゥーを消すことを命じることができるかという問題です。

個人的な服装や身だしなみなどに関することを、業務に支障があるわけでもないのにやめろと命じることは難しいと言えます。

 

以上から、タトゥーがある間は板前補助の業務を外して調理準備の仕事しかさせないは、認められない可能性があります。

 

 

以上、ざっと時事通信の記事から読み取れる範囲で触れてみました。服装や身だしなみなどに関することは、企業が違和感があるなどの理由のみで、解雇や懲戒処分などの措置をすることは難しいことになります。

 

また、妥当性はともかく、主張するのであれば、最低限、就業規則に業務に支障があることとその対象となる内容(今回で言えばタトゥーを入れる)について規定しておく必要があることが求められます。

 

これらを柱に従業員の人格権にかかわる領域の問題は、身長に考えるべきかと思います。労働者からみれば主張できる要素がいくつかありますので、整理して組み立てることになります。

4月29日の読売新聞ニュースに新型コロナ関連の記事があったので、少し触れさせていただきます。

まずは、記事を掲載します。

 

                                                                

マスクを着けずに会議に出席したことなどを巡り、大阪電子専門学校(大阪市天王寺区)を運営する学校法人木村学園(同)が、嘱託職員の男性(60)を出勤停止の懲戒処分にしていたことが28日、わかった。同校職員らの労働組合は「行きすぎた処分」として同日、法人側に団体交渉を申し入れ、来月には抗議文を提出する方針。

 

組合などによると、男性は今月7日、新年度の授業内容を話し合う会議にマスクを着けずに出席。会議後、法人幹部に未着用の理由を聞かれ、「どこに行っても買えない」と返答したという。後日、男性は面談した幹部から「感染源になったらどうするんだ」などとただされ、顛末(てんまつ)書を提出して説明しようとしたが、「受け取れない」と言われ、4日間(5月12~15日)の出勤停止の懲戒処分を受けた。

 

法人側は取材に「学園内のことであり、お答えできない」としている。

                                                                

 

あくまでも記事になっている限度で触れることになりますので、ご了承ください。

 

 

新型コロナウイルスに対する受け止め方が如実に表れた例です。医療専門家の多くは、マスクで防止できるわけではないことを話しています。マルクは、自分ののどなどの保湿、感染した場合に他人に飛沫が飛んでしまうことを少しでも防止する点を指摘してるだけで、万能ではないようです。問題の短所は、学校法人木村学園も世間一般と同様に、”マスクありき”で受け止めていたことにあると思われます(「思われる」とは、そうだと決めつけているわけではなく、推測にすぎないという意味です)。

 

今回の例では、X(処分を受けた嘱託男性)は、努力してもマスクを買えなかったというやむを得ない事情にありました。また、賢明に顛末書で説明しようともしていました。こともあろうにYは顛末書の受け取りを拒否しています(顛末書にウイルスがついていることを想定しているのかもしれません)。

 

仮にそうだとすれば、「マスクなしイコール顛末書ウィルス」、こんな見方をしていること自体に問題があります。そもそも、ウィルスが顛末書などペーパーについていて、それに触れたからといってウィルスが体内に入るわけではありません。接触感染は、ウイルスに触れた手で目・鼻・口などの粘膜を触ってしまってそこから入ることとされています。

 

いずれにしても、Y(学校法人木村学園)は、有無を言わず、懲戒処分にしたという経緯です。ここが本件の問題行為になります。Xの事情を考慮する必要があったことは明らかです。また、Y内で、Xがマスクを着けなかったことが原因で感染者が出て、事業に支障がでる状態に至ったわけでもありません。出勤停止の処分をするにしても、Xの状況や言い分をよく聞いたうえで、Yとしてマスクがないと勤務することができないなどの事情があるのであれば、マスクを入手できる段取りを考えるほうが先だったと言えます。

 

そもそも、懲戒処分の規定がどうなっているのかが関係してきます。就業規則の懲戒処分規定で、処分検討にあたって弁明の機会を与える内容の規定があったのか否かが重要です。もし、ないのであれば、弁明の機会なくても処分できるということになり、懲戒処分そのものが妥当か否かは別としまして、処分手続き上の違法性はないと言えます。

 

さらに、ウイルス蔓延防止を対象にマスクあるいはそれに代わるものを装着して勤務しなければならないことが雇用契約上の義務になっていたかが重要です。推測ですが、「ウイルス蔓延のために・・・」を想定した規定があることは考えにくいところですので、Xの雇用契約上の義務とは言えないのではないかと思われます。

 

付言すれば、新型コロナに対する過剰反応が不適切な行動になったとも言えます。事情を聞いてマスクがないのがやむを得ないものであることを確認したうえで、「申し訳ないが、話すと飛沫が飛ぶため、万一に備えて、今日は会議中は話をするな。参加して聞いておいてくれればいい」などと指示すれば、その日は済んだのではないかと思います。

 

世の中の人々がみんなマスクをしていることばかりがインパクトとなり、マスクありきにとらわれすぎた例で、新型コロナウイルスに対する知識を正しく会得して、正しく対応しなかったことが誤った行き過ぎた対応になったものと考えます。

 

今回の事案は職場環境の例でしたが、労働問題のテーマから脱線して、新型コロナに限ったことではないために少し補足しておきたいと思います。みな自分が感染したくないために、近くにいる人間がマスクをしていないだけで一瞬、煙たい目になりがちです。

 

しかし、感染症の領域だけではなく、様々な専門家の見方・意見などをよーくよみますと、くしゃみや咳を浴びたり、ある程度の時間マスクなしで会話をしたりしない。つまり、口を開かないのであれば飛沫を浴びることはないと考えられますし、接触感染も手や衣類についただけでは目・鼻・口からはウィルスは入らないと考えられます。

 

事実、日本感染症学会では、一般向けに、”手を念入りに洗うまでは、不特定なものに触れた手で、目・鼻・口をさわらいように注意しましょう”といった旨がいくつも書かれています。小職は医療の専門家ではありませんが、医療の研究者のみなさんの見解やコメントを読むと、防止の急所は、近距離で飛沫を浴びないことと自分の手で目・鼻・口に触らないことにあると思えます。なぜかテレビではこのことをほとんど言っていません。

 

とは言っても、無意識のうちに人間は1時間に23回も顔を触っているそうですので、触らない意識を持てといっても無理だとなり、わかりやすのは、「人に近づくな」、「2メートルは開けろ」となるのかもしれません。

 

ただ、この案内ばかりが毎日強調されたために、人間が人間に近づくと感染するかのような出来事になって普及しているのかとも思います。

 

補足が長くなりましたが、本件の懲戒処分は行き過ぎであり、権利濫用にあたると考えます。

 

ご参考になりましたら幸いです。

 

【2020.05.01】

福田事務次官(現時点では元事務次官でしょうか)のセクハラと言い得る行為で世間が騒いでいます。音声内容が週刊誌に掲載されたことでインパクトを強めていますが、本人は否定しています。世間的、財務省的、政府的には、様々な感覚、見方があるかと思いますが、労務的、法的にはどうなのでしょうか。あくまでも客観的にみてみたいと思います。

 

セクハラは、男性から女性(その逆もあり)への性的行為があり、女性が嫌がっていることでセクハラという位置づけになるとされています。小職も、セクハラの損害賠償や労災申請などを仕事柄おこなっていますが、今回の騒動は、法的な受け止め方と差があるようです。労災認定のための請求は、「業務との因果関係の中で受けたセクハラ行為により、精神疾患を発症した」という主張が一般的です。請求先は労働基準監督署です。行政は、「女性が非常に嫌な思いをした」だけでは、セクハラによる発症とはなかなか認定しません。

 

当該女性が嫌がっていたか、嫌がっていたとして、どのように嫌がっていたか、あるいはどのように抵抗したかなどを見ます。女性の心の中では嫌がっていても、嫌がっている行為が見えないものは非常に認定されにくいのではないかと感じています。精神疾患の労災認定は、受けた精神的負荷が弱・中・強のどれに評価されるかで決定され、結果として強に評価されないものはゼロなのです。50%だけ認めるなどというぐあいになっていません。ゼロか100しかありません。しかし、抵抗した状況が非常に薄いと評価される場合は、弱・中・強以前にセクハラにあたらないと評価された例もあります。

 

この点、今回のセクハラ行為では、流れている音声源は一部だけなのだと思いますが、部分的でも、女性が受け入れていないことは判明できるのではないでしょうか。嫌がっている程度の問題は、記者であり、業務の特性上、飲食の場にまで取材のために張り付くことは通常行われていることであり、その中での行為であることは考慮しなければいけないかと思います。

 

複数名いた場所、他人もいたなどを考えますと、抵抗しにくい環境だったのかもしれません。それよりも、あからさまに抵抗すれば、自分も自分と同じ財務省を取材している同僚も、取材できないように歯止めがかかることも頭をよぎるということもあるのでしょうか(実際はどうなのかわかりませんが)、など思いを巡らせますと、取材しながらのなかなか難しい中での精いっぱいの嫌がる態度を示していたということでしょう。

 

一方、精神的ダメージを受けたと主張して、慰謝料や逸失利益(たとえば、退職を余儀なくされて得られなくなった将来の給料)などの損害賠償を求めることが考えられます。現在は、必ずしも裁判にしなくても、ADR(裁判外紛争解決手続)によって、請求し解決する方法が用意されています。小職の業務範囲で言えば、あっせんが典型です。簡単に言えば、白黒つけて、勝ち負けつけてというよりは、喧嘩両成敗のような仲直りの手法です。

 

いずれにしても、損害賠償請求においても、いつ、だれから、どのようなセクハラを受けたか、どのように嫌がったか、勤務先には申し立てたか、申し立てた後の勤務先や上司の対応など、詳細に明らかにする必要があります。加えて、セクハラが起きないように普段から事前措置がとられていたか、セクハラ発生後の事後対応はどうだったかなどが問われるところです。これらは、職場という組織に求めることになります。

 

加害行為者に対しては、違法な行為があり、被害者が損害を被り、これらに因果関係がある場合には、違法な行為として、損害賠償請求することになります。

 

さて、ここまでの話では、「じゃ、セクハラされた、抵抗したと言えばいい」式になりがちですが、そう簡単ではありません。まず、加害者とされている者が、セクハラをやりましたと認めることはまずありません。テレビのコメンテーターの中には、「認めて謝ってしまえば楽だし、ごまかす必要もないのに、なぜそうしない」などと言っているものが散見されますが、人は保身に走ります。自分の地位、名誉、立場など失うことを考えますし、認めれば世間体も悪くなるなども考えます。保身から絶対と言っていいほど認めないのです。真意はわかりませんが、福田事務次官も同様のように映ります。

 

小職がセクハラ問題を処理していて、加害行為者と言い得る者が認めたケースは1件もありません。企業も職場でセクハラがあったことを否定することが非常に多くあります。もちろん、セクハラの録音やメールが残っているケースもあります。でも、「確かに〇〇〇〇と言っているが、それはそんな指摘されるような卑猥なことを意識してのものではない。△△の意味で言っただけだ」などと主張して認めることはありません。今回の騒動でも、福田事務次官は「言葉遊び」などと言って、認めない方向です。音声が自分の声であることは、明確に否定する言葉も言っていませんが、認めてはいません。流れてる内容を言ったことも否定しています。

 

ただし、全体をみてくださいなどの発言には、自分が発した言葉全体をみてといったようにも受け止められ、そうだとすると、半ば認めているのではないかとも読めます。何か、世間でセクハラと騒がれて、そうなのかぐらいの意識で、福田事務次官としては、いろいろな人との飲み会で、それまでも気軽に言っていたようなことでセクハラと騒がれるようなことではないと言いたいようにも見えます。

 

だとしますと、セクハラの認識の温度がまったくずれていると言われても仕方ないかもしれません。こうした態度に必ずくっついてくるのが、「東大でて、主計局までやったエリートが・・」というものです。とかく、世間、マスコミは、権力者や高地位者に対しては、何かぼろが出ると叩くような傾向があります。特に、マスコミは、自分が当事者になったときは非常に弱いのに、当事者でなくて攻めるときは非常に強いように思います。

 

さて、そこで、問題ですが、「セクハラを受け、嫌な思いをさせられた。でも、事情があって名乗り出られない」「財務省の顧問弁護士のところには、協力でもいけない」・・果たしてこれは一般社会でどうなのでしょうか。

 

企業でセクハラがあった場合は、被害者が特定されないことはないかと思います。言いにくい場合には、会社にも申告しないということになっているようにも思いますが、これも少ないと思います。少なくても、被害者から申し立てる行為があって、初めて、被害者主張段階では、セクハラを受けたという状況にあることがわかります。

 

誠実な企業は、まず、被害者を呼び出して、セクハラの行為内容(場所、態様、頻度、時間など)、加害行為者、本人はどうしたか、どのような苦痛を受けたか、病気は発症しているかなどを詳細に聞き取りします。それを受けて、加害行為者、周囲の者からもすべて聞き取りします。そのうえで総合的に審査することになります。

 

ここで重要なのが、聞き取りや審査は誰が、どこが行うかです。企業のセクハラで、外部の第三者機関に委ねるというのはまずありませんし、企業の顧問弁護士がいる場合は、顧問弁護士が行います。たいていは、コンプライアンス委員会や人事部などが実施するケースが多いと思います。

 

もし、加害行為者が、取締役や部長など上位役職者である場合は、企業の人事部やコンプライアンス委員会が聞き取りなどを行っても、誠実に調査しない姿勢も多く見られます。経営側の者たちが集まって聞き取り、審査をしても、セクハラが起きた会社だとう評判が出ることを防御する姿勢にでるからだと思います。実際に、損害賠償請求の場面では、被害者がセクハラの詳細な事実を主張しようとするのに対し、企業側は、セクハラの事実の有無には関心がなく、騒ぐことを止めることに意識があり、企業の汚点になることを回避するための主張に終始することが多いように思えます。話はかみ合うはずもありません。

 

希に、誠実に中立な立場で対応するホワイトな企業もあります。当事者は、ハラスメントが起きたことで、「ブラック企業」と言うようですが、小職は、ハラスメントが起きたからブラック企業なのではなく、起きないようにどれだけ職場環境調整に努力していたか、起きた後対応をどれだけきちんとしたかが、ブラック企業かホワイト企業かの分岐点であると考えています。

 

では、申立てが無駄かというと、そう考えることがよくありません。まず、声を上げないことには、企業側に「本人から何も言ってきていないから対処も何も・・」などと主張されるでしょう。今回の騒動でもマスコミを通して言われていますが、言いにくい状況にあった、抵抗しにくい状況にあったという感情的に理解できる部分はあっても、とにかく、声をあげないとだめなのです。あっせんなんかでも、「パワハラを受けたからなんとか対応していただきたいということは、いつ、だれに言ったのですか」と聞かれるのが当たり前になっています。企業内で申告もせずに、ひどい目にあった、パワハラだ、セクハラだだけ言っても、なかなか厳しいものがあります。

 

小職の経験も踏まえながらですが、概ね、このような構図にあるのではないかと思います。最後に、今回のセクハラ騒動で、「被害女性は、財務省の弁護士に協力できない、おかしい」などとの声も多くありますが、少なくとも、企業では、聞き取りするのも審査するのも、企業側の組織で、企業側の弁護士なのです。企業の職場環境の問題であるにもかかわらず、企業側の調査に協力することになります。時には、経営トップ自ら加害行為者で、コンプライアンス委員会の責任者であることが就業規則に規定されていることもあります。

 

少なくと、法的には、被害者とされる者、加害者とされる者、周囲の者などすべて特定して、聞き取りなど調査し、そのうえで、企業が対応を考えるというのが通常かと思います。被害者が誰かもわからないとすれば、企業の内部でセクハラが起きたとの話が起きても、企業も対応しようがなく、仮に加害行為者は〇〇だと言われても、加害行為者も誰がセクハラを受けたと言っているのかわからいのでは、何も始まらないということになります。「セクハラを受けて協力できるわけないじゃないですか」は、企業のセクハラ問題を法的にみる場合、労務管理上の対応を行う場合は、なかなか厳しいものになります。

 

もっとも、今回は、福田事務次官の取材で関係していた被害者の記者ですから、お互いに心の中では鮮明になっているのでしょう。ただし、相手に、示す場合は、いつ、どこでは外せない内容であることは確かなので、加害者は否定するだけですので、被害者が明確に示さないといけないでしょう。

 

一般に、加害行為者とされる者は、否定し、企業も否定する方向に動きます。企業は「知らなかった」などのコメントがよく出ます。否定するから、企業が何も動かないから云々ではなく、とにかく、申告する、声を上げることがスタートです。その時点で被害者とされ得る者が特定されることになります。付言しますと、ハラスメントの具体的な5W1Hでの記録をした資料を示せることが有効かと思います。

 

企業としても、福田事務次官の騒動は参考になりませんので、声があがったら、詳細な事実報告書をさせて、丁寧に詳細に聞き取り調査を行うことが肝要です。伊調選手のパワハラ騒動ででも、あれだけ時間を経て結論がでています。昨今のハラスメント問題では、ハラスメントを受けたことを主張しても、加害行為者、企業とも否定する態度をとることが散見されることから、企業対応が問題にされるケースが増えています。まず、きちんと丁寧に中立に対応することをここがけてほしいと思います。

 

企業、労働者とも、少しでも参考になりましたら幸いです。

 

 

 

 

産経ニュースの記事を読んでいたところ、すごい主張に出会えました。取り上げてみたいと思います。これは、法律、裁判、事実・・・こうした領域であてはめて解決される事案ではないかもしれません。まず、記事全体です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「会社の法律は俺」…残業代不払い「ブラック企業」、長時間労働当たり前のエステ業界

産経ニュース / 2017年12月7日 12時6分

写真写真を拡大する

運営会社に残業代の支払いを求め提訴し、会見に臨むエステティックサロンさくらのエステティシャンら=東京都千代田区

 

 「固定給23万円プラス諸手当」の求人募集に応募したが、残業代はいっさい支払われなかった-。東京都内で「エステティックサロンさくら」を経営する化粧品販売業「ベルフェム」で働いていたエステティシャン7人が会社に残業代支払いを求めて、東京地裁に相次いで提訴した。残業代を支払わず長時間労働を強いる職場は「ブラック企業」と呼ばれているが、エステティシャンらは「私たちを大切にしないことは、お客さまを大切にしないことだ」と訴える。女性に美を提供する華やかなイメージがあるエステ業界は、実は、休憩も取れない長時間労働が当たり前といわれる。提訴で改善に向かうのか。(社会部 道丸摩耶)

「勝てる勝てないの問題じゃない」

 「だれが言っても出せないものは出せない。逮捕されても出せない」

 今年8月10日ごろ、「エステティックサロンさくら」代官山店に現れたベルフェムの佐々木徹会長は、従業員約10人を前に、強い口調で話し始めた。当時、会社は銀座店(閉店)のエステティシャンに残業代を支払っていないことなどが労働基準法に違反するとして、品川労働基準監督署から是正勧告を受けていた。佐々木氏の発言は、労基署が支払うよう求めた残業代を払わないと宣言したようなものだ。

 佐々木氏は「弁護士に相談しても俺の言ってることが間違ってるって。裁判やっても勝てないって言うけど、勝てる勝てないの問題じゃない」と持論を展開すると、衝撃的な一言を放った。

 「会社の法律は俺だって思ってるから

 現場に居合わせた20代の元エステティシャンは「あぜんとしました。こういう人だから、会社はこんな実情になっているんだと思いました」と振り返る。

 その後、渋谷労基署も同社の代官山店のエステティシャンに残業代を支払うよう是正勧告を出している。しかし、残業代はいまだに支払われていないという。

 

典型的なブラック企業

 

 一連の事案を「典型的なブラック企業の被害事件だ」と語るのは、エステティシャンらを支援する労働組合「エステ・ユニオン」だ。訴状などによると、今回提訴した7人は平成26〜28年にかけて求人サイトの募集を見て同社に入社。そこには「実働8時間」「月給23万円プラス諸手当」などの記載があったという。

 しかし、実際には午前9時〜午後9時ごろまでの長時間労働で、休憩も十分に取れない労働環境だった上、残業代は一切支払われず、月給が23万円を超えることもほぼなかった。しかも「風邪で1日休んだら、4万円近く引かれてしまった」(元エステティシャン)という。ユニオンは「求人詐欺に遭ったようなものだ」と指摘する。ユニオンとの交渉の過程で、会社側は「残業は固定残業代だった」と主張したが、従業員はそうした条件を一切知らされていなかったという。

 約1年8カ月勤めているという20代のエステティシャンは「休憩が取れないことがすばらしいとされていた。お客さまがそれだけ入っているということだから」と打ち明ける。別の20代の元エステティシャンも「技術を学んでいる、教えてもらっているという意識が強く、(厳しい労働環境について)そういうものだと思っていた」と話す。

 

業界全体の問題は?

 

 エステ・ユニオンは「こうした厳しい労働環境はエステ業界全体で行われてきた」と今回の事例が特別ではないと強調。その上で「業界全体で少しずつ改善はされてきている。しかし、まだ遅れている部分も多い」と指摘する。

 ユニオンではこれまで、「エステティックTBC」や「ミュゼプラチナム」などの大手から中小エステサロンまで従業員の労働環境改善に取り組み、「たかの友梨ビューティクリニック」のように、労使の話し合いが奏功して働きやすい職場に生まれ変わった例もある。

 果たして、「エステティックサロンさくら」も同様に従業員が働きやすい会社となるのか。同社はこれまでに2度、労基署の是正勧告を受けているが、厚生労働省によると「是正勧告は企業に自主的に改善を促すために行っている。粘り強く指導していくが、重大、悪質なものは書類送検することもある」という。

 7人は残業代として総計1500万円を求め、東京地裁で係争中。会社側はこの件について「裁判の中で話し合いをしていく」としており、裁判の行方が注目される。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 7人の未払残業代の合計が1500万円との公表です。時効の関係で請求できるのは2年分です。一人当たりも相当な金額です。裁判はまだ地裁ですから、まだまだ決着はつきませんが、こうした態度を平気でとる企業なので、金額の多少にかかわらず、仮に、支払えとの判決が出ても支払わない可能性があります。裁判所は、未払金の回収まではやってくれませんから、回収に一苦労しそうです。

 

それにしても、「会社の法律は俺」「逮捕されても出せない」とは究極の主張を物語る言葉という印象です。おそらく、経営者の方々の中には、内心ではそう言いたいケースはままあるのかもしれませんが、堂々と口にするケースはそうそうないかもしれません。しかも、残業代を支払わないという行為があっての発言と考えますと、究極のご都合主義でしかありません。この点では、企業の社会的責任をまったく果たしていないと言えます。

 

労務的には、労働時間の記録がどうなっているのかが記事では一切登場してませんので不明ですが、労働者を雇用している普段から、「払わない」を貫いているようですから、ひょっとしたら労働時間の管理などまったくしていない企業実態にある可能性があります。

 

一方、7人のエステシャンのほうで、何らかの労働時間の記録を提出しているのであれば、時間記録の程度にもよりますが、確認可能と判断される労働時間記録に基づいて判定されることになる可能性があります。”〇〇〇時間の時間外労働があると推認される”ということになるかもしれません。

 

加えて、記事には、風邪で1日休むと4万円近く控除されたことが書かれています。小職も、これまで無鉄砲な企業に出会ったことは少なからずありますが、わけがわからずに引いたとしても数千円とか1万円といったものです。4万円近いという金額がすごいです。23万円を超えることがなかった賃金からしますと、破天荒な行為と言えます。

 

賃金から控除していた行為だけではなんとも言えませんが、支給単位は月給、日給、時給なのかを踏まえてノーマルな状況を考えますと、そもそも、時給や日給の場合は、労務提供していない場合、賃金の支払い義務が企業に生じないと考えます。ということは月単位の取り決めの給料から4万円近い控除をしたとも考えられます。

 

時給や日給で風邪で休んだ分賃金発生がないのに、4万円引いたとすれば、非常に悪質な行為にもなるところです。この辺は、記事から実態が不明ですので、ケースとして考えられるというだけです。

 

さらには、記事からは、労働条件を明示していなかったのではないか、求人広告の労働条件と違っていたことなどがうかがい知ることができます。企業の「固定残業代だった」という主張は、残業代を固定で支払うこと自体に違法性はありませんが、固定残業代で金額がいくらであったのか、どの支給項目がそれにあたるのかなどについて、労働条件の明示をしていないことの問題があります。

 

典型的な問題としては、固定残業代であったとしても、ある支給項目がいくらで何時間分の残業代みあいなのかが明らかになっていないと、企業側に不利に働く要素になり得ること、また、仮に、明らかであったとしても示すことができる証拠がない場合は、企業に不利に働く可能性があることなどが考えられます。

 

もし、ある支給項目が、通常賃金と残業代が混在している場合には、さらに厳しい判断にさらされます。通常賃金部分と残業代部分が区別されていない点で問題になる可能性があります。

 

記事をこうしてみていきますと、発言の破天荒さにも驚きますが、法的に追っていった場合、企業側の不利な要素が目立っております。もっとも、労働者の方で、どのレベルの労働時間の記録が提出できているかによって心証は変わってきますが、複数名の働き方の証言や日常の働き方がある程度明らかになると思われる状況から、訴訟に耐えうる記録が示されることになると考えてもいいかもしれません。

 

長時間労働をめぐっては、昨今、とりわけ厳格になっていますので、企業に厳しい判決になることが想定されます。今後の動向に注目したいと思います。

 

 

限定正社員制度が増えている理由

限定正社員の雇用、限定正社員制度の導入などを行っている企業が増えています。限定正社員が増加の一途をたどっている背景には、昨今の人材不足があると言われています。人材不足については、少子化に原因があると従前より問題視されていますが、最近の就労状況をみますと、雇用されない働き方を模索する就労者が増えていることなども少なからず影響しているものと思われます。

こうした状況下で企業が必要な人材を確保するための戦略の一つが限定正社員制度になっています。パートや派遣社員は、有期雇用であるがゆえに、労働者はいつ契約が終了するか不透明で不安をかかえながら働かなければならない、というデメリットがあります。

また、企業側も臨時性の点から、合法的に雇用契約の解除ができるということで、この雇用形態を選択してきたのですが、これからはより応募者を集めやすくするためという観点から正社員になることを案内している現状があります。
しかしながら、ほとんどの場合、非正規雇用労働者を限定正社員化する雇用のようです。これまでも、ユニクロ、スターバックスコーヒージャパン、オリエンタルランド、グルメ杵屋等が実践しています。

限定正社員制度の形態とメリット・デメリット

限定正社員制度は一様ではありませんが、典型的なものとして職種限定、勤務地限定、勤務時間限定などがあります。

職種限定は、キャリア形成が必要な高度な専門的職種においてメリットがあり、勤務地限定は、転勤が難しい人材や無期転換雇用のステップアップでの活用においてメリットがあり、勤務時間限定は、育児・介護の事情をかかえる人材、業務配分や長時間労働防止を重視する手段としてメリットがあると考えられます。

文字通り多様な正社員制度であり、雇用する労働者のほうもワークライスバランスの点でメリットがあるとされています。一方で企業側の労務管理が複雑化するなどのデメリットになる可能性もあります。

雇用する際の法的な留意点

限定正社員制度は、採用以前、採用時、採用後のステージで企業側の適切な対応が求められます。

採用前の求人段階では、限定正社員でも職種・勤務地・勤務時間など何を限定する募集かを明確にし、不信感のない誠実な求人であることを通知する必要があります。採用時には、労働条件や働き方について明確に通知し、応募者が自己決定しやすくする必要があります。

採用後ですが、一部には、限定した勤務形態が存在しなくなれば解雇できるとの話もささやかれているところもあります。限定正社員だからと解雇しやすくなるルールにはなっていないこと、解雇回避が要請されることに変わりはないこと、雇用維持の努力が求められる可能性のあることなどを踏まえ、限定正社員にすれば決して解雇できるわけではないことに注意する必要があります。もっとも、労働問題の分野では、限定正社員が普及する以前より、配置転換が合理的なものではないことの事実として、職種や勤務地を限定した採用だったとの主張がなされてきた経緯があります。その状況に鑑みますと、勤務地に加え職種や勤務時間の限定もあり、トラブルが生じやすくなると言えます。

以上の諸点を踏まえますと、メリット・デメリット双方が存在するがゆえに、労働者や企業は、それぞれの立場や状況、目標等から是非を検討する必要があると考えます。