「会社の法律は俺」「逮捕されても出せない」という経営者に言葉なし | ★社労士kameokaの労務の視角

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ー特定社会保険労務士|亀岡亜己雄のブログー
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産経ニュースの記事を読んでいたところ、すごい主張に出会えました。取り上げてみたいと思います。これは、法律、裁判、事実・・・こうした領域であてはめて解決される事案ではないかもしれません。まず、記事全体です。

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「会社の法律は俺」…残業代不払い「ブラック企業」、長時間労働当たり前のエステ業界

産経ニュース / 2017年12月7日 12時6分

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運営会社に残業代の支払いを求め提訴し、会見に臨むエステティックサロンさくらのエステティシャンら=東京都千代田区

 

 「固定給23万円プラス諸手当」の求人募集に応募したが、残業代はいっさい支払われなかった-。東京都内で「エステティックサロンさくら」を経営する化粧品販売業「ベルフェム」で働いていたエステティシャン7人が会社に残業代支払いを求めて、東京地裁に相次いで提訴した。残業代を支払わず長時間労働を強いる職場は「ブラック企業」と呼ばれているが、エステティシャンらは「私たちを大切にしないことは、お客さまを大切にしないことだ」と訴える。女性に美を提供する華やかなイメージがあるエステ業界は、実は、休憩も取れない長時間労働が当たり前といわれる。提訴で改善に向かうのか。(社会部 道丸摩耶)

「勝てる勝てないの問題じゃない」

 「だれが言っても出せないものは出せない。逮捕されても出せない」

 今年8月10日ごろ、「エステティックサロンさくら」代官山店に現れたベルフェムの佐々木徹会長は、従業員約10人を前に、強い口調で話し始めた。当時、会社は銀座店(閉店)のエステティシャンに残業代を支払っていないことなどが労働基準法に違反するとして、品川労働基準監督署から是正勧告を受けていた。佐々木氏の発言は、労基署が支払うよう求めた残業代を払わないと宣言したようなものだ。

 佐々木氏は「弁護士に相談しても俺の言ってることが間違ってるって。裁判やっても勝てないって言うけど、勝てる勝てないの問題じゃない」と持論を展開すると、衝撃的な一言を放った。

 「会社の法律は俺だって思ってるから

 現場に居合わせた20代の元エステティシャンは「あぜんとしました。こういう人だから、会社はこんな実情になっているんだと思いました」と振り返る。

 その後、渋谷労基署も同社の代官山店のエステティシャンに残業代を支払うよう是正勧告を出している。しかし、残業代はいまだに支払われていないという。

 

典型的なブラック企業

 

 一連の事案を「典型的なブラック企業の被害事件だ」と語るのは、エステティシャンらを支援する労働組合「エステ・ユニオン」だ。訴状などによると、今回提訴した7人は平成26〜28年にかけて求人サイトの募集を見て同社に入社。そこには「実働8時間」「月給23万円プラス諸手当」などの記載があったという。

 しかし、実際には午前9時〜午後9時ごろまでの長時間労働で、休憩も十分に取れない労働環境だった上、残業代は一切支払われず、月給が23万円を超えることもほぼなかった。しかも「風邪で1日休んだら、4万円近く引かれてしまった」(元エステティシャン)という。ユニオンは「求人詐欺に遭ったようなものだ」と指摘する。ユニオンとの交渉の過程で、会社側は「残業は固定残業代だった」と主張したが、従業員はそうした条件を一切知らされていなかったという。

 約1年8カ月勤めているという20代のエステティシャンは「休憩が取れないことがすばらしいとされていた。お客さまがそれだけ入っているということだから」と打ち明ける。別の20代の元エステティシャンも「技術を学んでいる、教えてもらっているという意識が強く、(厳しい労働環境について)そういうものだと思っていた」と話す。

 

業界全体の問題は?

 

 エステ・ユニオンは「こうした厳しい労働環境はエステ業界全体で行われてきた」と今回の事例が特別ではないと強調。その上で「業界全体で少しずつ改善はされてきている。しかし、まだ遅れている部分も多い」と指摘する。

 ユニオンではこれまで、「エステティックTBC」や「ミュゼプラチナム」などの大手から中小エステサロンまで従業員の労働環境改善に取り組み、「たかの友梨ビューティクリニック」のように、労使の話し合いが奏功して働きやすい職場に生まれ変わった例もある。

 果たして、「エステティックサロンさくら」も同様に従業員が働きやすい会社となるのか。同社はこれまでに2度、労基署の是正勧告を受けているが、厚生労働省によると「是正勧告は企業に自主的に改善を促すために行っている。粘り強く指導していくが、重大、悪質なものは書類送検することもある」という。

 7人は残業代として総計1500万円を求め、東京地裁で係争中。会社側はこの件について「裁判の中で話し合いをしていく」としており、裁判の行方が注目される。

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 7人の未払残業代の合計が1500万円との公表です。時効の関係で請求できるのは2年分です。一人当たりも相当な金額です。裁判はまだ地裁ですから、まだまだ決着はつきませんが、こうした態度を平気でとる企業なので、金額の多少にかかわらず、仮に、支払えとの判決が出ても支払わない可能性があります。裁判所は、未払金の回収まではやってくれませんから、回収に一苦労しそうです。

 

それにしても、「会社の法律は俺」「逮捕されても出せない」とは究極の主張を物語る言葉という印象です。おそらく、経営者の方々の中には、内心ではそう言いたいケースはままあるのかもしれませんが、堂々と口にするケースはそうそうないかもしれません。しかも、残業代を支払わないという行為があっての発言と考えますと、究極のご都合主義でしかありません。この点では、企業の社会的責任をまったく果たしていないと言えます。

 

労務的には、労働時間の記録がどうなっているのかが記事では一切登場してませんので不明ですが、労働者を雇用している普段から、「払わない」を貫いているようですから、ひょっとしたら労働時間の管理などまったくしていない企業実態にある可能性があります。

 

一方、7人のエステシャンのほうで、何らかの労働時間の記録を提出しているのであれば、時間記録の程度にもよりますが、確認可能と判断される労働時間記録に基づいて判定されることになる可能性があります。”〇〇〇時間の時間外労働があると推認される”ということになるかもしれません。

 

加えて、記事には、風邪で1日休むと4万円近く控除されたことが書かれています。小職も、これまで無鉄砲な企業に出会ったことは少なからずありますが、わけがわからずに引いたとしても数千円とか1万円といったものです。4万円近いという金額がすごいです。23万円を超えることがなかった賃金からしますと、破天荒な行為と言えます。

 

賃金から控除していた行為だけではなんとも言えませんが、支給単位は月給、日給、時給なのかを踏まえてノーマルな状況を考えますと、そもそも、時給や日給の場合は、労務提供していない場合、賃金の支払い義務が企業に生じないと考えます。ということは月単位の取り決めの給料から4万円近い控除をしたとも考えられます。

 

時給や日給で風邪で休んだ分賃金発生がないのに、4万円引いたとすれば、非常に悪質な行為にもなるところです。この辺は、記事から実態が不明ですので、ケースとして考えられるというだけです。

 

さらには、記事からは、労働条件を明示していなかったのではないか、求人広告の労働条件と違っていたことなどがうかがい知ることができます。企業の「固定残業代だった」という主張は、残業代を固定で支払うこと自体に違法性はありませんが、固定残業代で金額がいくらであったのか、どの支給項目がそれにあたるのかなどについて、労働条件の明示をしていないことの問題があります。

 

典型的な問題としては、固定残業代であったとしても、ある支給項目がいくらで何時間分の残業代みあいなのかが明らかになっていないと、企業側に不利に働く要素になり得ること、また、仮に、明らかであったとしても示すことができる証拠がない場合は、企業に不利に働く可能性があることなどが考えられます。

 

もし、ある支給項目が、通常賃金と残業代が混在している場合には、さらに厳しい判断にさらされます。通常賃金部分と残業代部分が区別されていない点で問題になる可能性があります。

 

記事をこうしてみていきますと、発言の破天荒さにも驚きますが、法的に追っていった場合、企業側の不利な要素が目立っております。もっとも、労働者の方で、どのレベルの労働時間の記録が提出できているかによって心証は変わってきますが、複数名の働き方の証言や日常の働き方がある程度明らかになると思われる状況から、訴訟に耐えうる記録が示されることになると考えてもいいかもしれません。

 

長時間労働をめぐっては、昨今、とりわけ厳格になっていますので、企業に厳しい判決になることが想定されます。今後の動向に注目したいと思います。