福田事務次官(現時点では元事務次官でしょうか)のセクハラと言い得る行為で世間が騒いでいます。音声内容が週刊誌に掲載されたことでインパクトを強めていますが、本人は否定しています。世間的、財務省的、政府的には、様々な感覚、見方があるかと思いますが、労務的、法的にはどうなのでしょうか。あくまでも客観的にみてみたいと思います。
セクハラは、男性から女性(その逆もあり)への性的行為があり、女性が嫌がっていることでセクハラという位置づけになるとされています。小職も、セクハラの損害賠償や労災申請などを仕事柄おこなっていますが、今回の騒動は、法的な受け止め方と差があるようです。労災認定のための請求は、「業務との因果関係の中で受けたセクハラ行為により、精神疾患を発症した」という主張が一般的です。請求先は労働基準監督署です。行政は、「女性が非常に嫌な思いをした」だけでは、セクハラによる発症とはなかなか認定しません。
当該女性が嫌がっていたか、嫌がっていたとして、どのように嫌がっていたか、あるいはどのように抵抗したかなどを見ます。女性の心の中では嫌がっていても、嫌がっている行為が見えないものは非常に認定されにくいのではないかと感じています。精神疾患の労災認定は、受けた精神的負荷が弱・中・強のどれに評価されるかで決定され、結果として強に評価されないものはゼロなのです。50%だけ認めるなどというぐあいになっていません。ゼロか100しかありません。しかし、抵抗した状況が非常に薄いと評価される場合は、弱・中・強以前にセクハラにあたらないと評価された例もあります。
この点、今回のセクハラ行為では、流れている音声源は一部だけなのだと思いますが、部分的でも、女性が受け入れていないことは判明できるのではないでしょうか。嫌がっている程度の問題は、記者であり、業務の特性上、飲食の場にまで取材のために張り付くことは通常行われていることであり、その中での行為であることは考慮しなければいけないかと思います。
複数名いた場所、他人もいたなどを考えますと、抵抗しにくい環境だったのかもしれません。それよりも、あからさまに抵抗すれば、自分も自分と同じ財務省を取材している同僚も、取材できないように歯止めがかかることも頭をよぎるということもあるのでしょうか(実際はどうなのかわかりませんが)、など思いを巡らせますと、取材しながらのなかなか難しい中での精いっぱいの嫌がる態度を示していたということでしょう。
一方、精神的ダメージを受けたと主張して、慰謝料や逸失利益(たとえば、退職を余儀なくされて得られなくなった将来の給料)などの損害賠償を求めることが考えられます。現在は、必ずしも裁判にしなくても、ADR(裁判外紛争解決手続)によって、請求し解決する方法が用意されています。小職の業務範囲で言えば、あっせんが典型です。簡単に言えば、白黒つけて、勝ち負けつけてというよりは、喧嘩両成敗のような仲直りの手法です。
いずれにしても、損害賠償請求においても、いつ、だれから、どのようなセクハラを受けたか、どのように嫌がったか、勤務先には申し立てたか、申し立てた後の勤務先や上司の対応など、詳細に明らかにする必要があります。加えて、セクハラが起きないように普段から事前措置がとられていたか、セクハラ発生後の事後対応はどうだったかなどが問われるところです。これらは、職場という組織に求めることになります。
加害行為者に対しては、違法な行為があり、被害者が損害を被り、これらに因果関係がある場合には、違法な行為として、損害賠償請求することになります。
さて、ここまでの話では、「じゃ、セクハラされた、抵抗したと言えばいい」式になりがちですが、そう簡単ではありません。まず、加害者とされている者が、セクハラをやりましたと認めることはまずありません。テレビのコメンテーターの中には、「認めて謝ってしまえば楽だし、ごまかす必要もないのに、なぜそうしない」などと言っているものが散見されますが、人は保身に走ります。自分の地位、名誉、立場など失うことを考えますし、認めれば世間体も悪くなるなども考えます。保身から絶対と言っていいほど認めないのです。真意はわかりませんが、福田事務次官も同様のように映ります。
小職がセクハラ問題を処理していて、加害行為者と言い得る者が認めたケースは1件もありません。企業も職場でセクハラがあったことを否定することが非常に多くあります。もちろん、セクハラの録音やメールが残っているケースもあります。でも、「確かに〇〇〇〇と言っているが、それはそんな指摘されるような卑猥なことを意識してのものではない。△△の意味で言っただけだ」などと主張して認めることはありません。今回の騒動でも、福田事務次官は「言葉遊び」などと言って、認めない方向です。音声が自分の声であることは、明確に否定する言葉も言っていませんが、認めてはいません。流れてる内容を言ったことも否定しています。
ただし、全体をみてくださいなどの発言には、自分が発した言葉全体をみてといったようにも受け止められ、そうだとすると、半ば認めているのではないかとも読めます。何か、世間でセクハラと騒がれて、そうなのかぐらいの意識で、福田事務次官としては、いろいろな人との飲み会で、それまでも気軽に言っていたようなことでセクハラと騒がれるようなことではないと言いたいようにも見えます。
だとしますと、セクハラの認識の温度がまったくずれていると言われても仕方ないかもしれません。こうした態度に必ずくっついてくるのが、「東大でて、主計局までやったエリートが・・」というものです。とかく、世間、マスコミは、権力者や高地位者に対しては、何かぼろが出ると叩くような傾向があります。特に、マスコミは、自分が当事者になったときは非常に弱いのに、当事者でなくて攻めるときは非常に強いように思います。
さて、そこで、問題ですが、「セクハラを受け、嫌な思いをさせられた。でも、事情があって名乗り出られない」「財務省の顧問弁護士のところには、協力でもいけない」・・果たしてこれは一般社会でどうなのでしょうか。
企業でセクハラがあった場合は、被害者が特定されないことはないかと思います。言いにくい場合には、会社にも申告しないということになっているようにも思いますが、これも少ないと思います。少なくても、被害者から申し立てる行為があって、初めて、被害者主張段階では、セクハラを受けたという状況にあることがわかります。
誠実な企業は、まず、被害者を呼び出して、セクハラの行為内容(場所、態様、頻度、時間など)、加害行為者、本人はどうしたか、どのような苦痛を受けたか、病気は発症しているかなどを詳細に聞き取りします。それを受けて、加害行為者、周囲の者からもすべて聞き取りします。そのうえで総合的に審査することになります。
ここで重要なのが、聞き取りや審査は誰が、どこが行うかです。企業のセクハラで、外部の第三者機関に委ねるというのはまずありませんし、企業の顧問弁護士がいる場合は、顧問弁護士が行います。たいていは、コンプライアンス委員会や人事部などが実施するケースが多いと思います。
もし、加害行為者が、取締役や部長など上位役職者である場合は、企業の人事部やコンプライアンス委員会が聞き取りなどを行っても、誠実に調査しない姿勢も多く見られます。経営側の者たちが集まって聞き取り、審査をしても、セクハラが起きた会社だとう評判が出ることを防御する姿勢にでるからだと思います。実際に、損害賠償請求の場面では、被害者がセクハラの詳細な事実を主張しようとするのに対し、企業側は、セクハラの事実の有無には関心がなく、騒ぐことを止めることに意識があり、企業の汚点になることを回避するための主張に終始することが多いように思えます。話はかみ合うはずもありません。
希に、誠実に中立な立場で対応するホワイトな企業もあります。当事者は、ハラスメントが起きたことで、「ブラック企業」と言うようですが、小職は、ハラスメントが起きたからブラック企業なのではなく、起きないようにどれだけ職場環境調整に努力していたか、起きた後対応をどれだけきちんとしたかが、ブラック企業かホワイト企業かの分岐点であると考えています。
では、申立てが無駄かというと、そう考えることがよくありません。まず、声を上げないことには、企業側に「本人から何も言ってきていないから対処も何も・・」などと主張されるでしょう。今回の騒動でもマスコミを通して言われていますが、言いにくい状況にあった、抵抗しにくい状況にあったという感情的に理解できる部分はあっても、とにかく、声をあげないとだめなのです。あっせんなんかでも、「パワハラを受けたからなんとか対応していただきたいということは、いつ、だれに言ったのですか」と聞かれるのが当たり前になっています。企業内で申告もせずに、ひどい目にあった、パワハラだ、セクハラだだけ言っても、なかなか厳しいものがあります。
小職の経験も踏まえながらですが、概ね、このような構図にあるのではないかと思います。最後に、今回のセクハラ騒動で、「被害女性は、財務省の弁護士に協力できない、おかしい」などとの声も多くありますが、少なくとも、企業では、聞き取りするのも審査するのも、企業側の組織で、企業側の弁護士なのです。企業の職場環境の問題であるにもかかわらず、企業側の調査に協力することになります。時には、経営トップ自ら加害行為者で、コンプライアンス委員会の責任者であることが就業規則に規定されていることもあります。
少なくと、法的には、被害者とされる者、加害者とされる者、周囲の者などすべて特定して、聞き取りなど調査し、そのうえで、企業が対応を考えるというのが通常かと思います。被害者が誰かもわからないとすれば、企業の内部でセクハラが起きたとの話が起きても、企業も対応しようがなく、仮に加害行為者は〇〇だと言われても、加害行為者も誰がセクハラを受けたと言っているのかわからいのでは、何も始まらないということになります。「セクハラを受けて協力できるわけないじゃないですか」は、企業のセクハラ問題を法的にみる場合、労務管理上の対応を行う場合は、なかなか厳しいものになります。
もっとも、今回は、福田事務次官の取材で関係していた被害者の記者ですから、お互いに心の中では鮮明になっているのでしょう。ただし、相手に、示す場合は、いつ、どこでは外せない内容であることは確かなので、加害者は否定するだけですので、被害者が明確に示さないといけないでしょう。
一般に、加害行為者とされる者は、否定し、企業も否定する方向に動きます。企業は「知らなかった」などのコメントがよく出ます。否定するから、企業が何も動かないから云々ではなく、とにかく、申告する、声を上げることがスタートです。その時点で被害者とされ得る者が特定されることになります。付言しますと、ハラスメントの具体的な5W1Hでの記録をした資料を示せることが有効かと思います。
企業としても、福田事務次官の騒動は参考になりませんので、声があがったら、詳細な事実報告書をさせて、丁寧に詳細に聞き取り調査を行うことが肝要です。伊調選手のパワハラ騒動ででも、あれだけ時間を経て結論がでています。昨今のハラスメント問題では、ハラスメントを受けたことを主張しても、加害行為者、企業とも否定する態度をとることが散見されることから、企業対応が問題にされるケースが増えています。まず、きちんと丁寧に中立に対応することをここがけてほしいと思います。
企業、労働者とも、少しでも参考になりましたら幸いです。