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★社労士kameokaの労務の視角

ー特定社会保険労務士|亀岡亜己雄のブログー
https://ameblo.jp/laborproblem/

 今回取り上げます裁判例は、世間的には残業代、法的には割増賃金となりますが、時間外労働手当の支払を免れる「管理監督者」と言えるかについて争われたものです。管理監督者にあたるとなれば、会社は、時間外労働に対する割増賃金を支払う義務はないとなるため、非常に大きな問題です。そこで、あらためて、いかなる要素によって判断が変わるのかを学ぶえで有益な例かと思います。

 

【事実】

弁当チェーン(ほっともっと)、飲食店チェーン(やよい軒)を営む会社(被告Y)で店長として勤務していた元従業員(原告X)が、未払いの時間外労働手当を請求した事件です。Yが労基法41条2号の管理監督者として扱ってXの時間外労働手当を支払っていなかったことについて、Xの管理監督者性が争点となりました。

 

Xは退職しています。Yでは、店長に係る役職としてOFC(オペレーションフィールドカウンセラー)がおり、店舗業務を統括し、人事や職場管理、服務規律の監督指導を行います。就業規則では、4級以上の者、MGR職及びトレーナー職の者、OFC職及びエリアMGR職の者、直営店店長職の者は管理監督者に該当すると規定しています。

 

Yは、所定労働時間は7時間45分で、平成26年9月17日付けで、栃木労働基準監督署より、Xの時間外労働に対する割増賃金未払いが労基法37条違反であると指摘され是正勧告命令を受けていますが、Yは、労基法の管理監督者にあたるとして労基法違反の指摘は当たらない旨を報告し、労基署は何も手続きを行っていません。

 

Xの業務実態等は、①人事に関して、Xはクルーの採用(募集、勤務時間の決定、面接、適性の判断、雇用契約書の締結)の権限を有していましたが、OFCに相談しながらOFCの決済を経て募集をかけていました。クルーの時給の決定、昇給・昇格、雇止め・解雇の権限も同様でした。また、Xはクルーのなかで正社員を希望する者がいる場合は、OFCに伝えるだけでした。

 

②店舗運営に関して、Xはクルーの勤務シフトを作成しますが、Yから決められていた売上予算に対し使用可能な労働時間の範囲内での配置が求められ、売上の実績値が計画を下回らないようにSVやOFCから指導されていました。食材の仕入れや消耗品の購入は、1000円未満の場合は購入できたが、1000円以上となる場合は、SVやOFCの許可が必要でした。Xには店舗の営業時間やメニューを決定する権限はありませんでした。

 

③他の職位者との関係では、ほっともっとの新規出店の店舗管理を行い、店長と同一の権限と責任を有するオープニングリーダーがいましたが、管理監督者とはされていませんでした。

 

④勤務態様に関して、遅刻・早退の規定、懲戒事由の規定、給与減額の規定などが適用除外されていました。タイムカードの勤怠管理はなく、出勤時間や休日の取得について自己の都合で決定できましたが、クルーが不足するなどの場合、店長は自己が管理する他の店舗や他の店長が管理している店舗の責任者として調理・販売を担当できるとされていたものの、なお不足する場合は、店長自身が担当することが求められていました(シフトイン)。シフトイン時間だけで月200時間を超える月がままあり、相当長時間に及んでいました。

 

⑤賃金等の待遇に関して、基準内給与のほか店舗管理手当(3店舗10万円、2店舗7万円、1店舗5万円)があり、インセンティブとして売上連動手当が支払われることとされていました。

 

 

【裁判所の判断】

裁判所は、①について、人事に関する権限は限定的で、②について、店舗運営に関する裁量の幅は広いものではなく権限は制限されている、④について、連日シフトインがあり、労働時間に関する裁量は限定的で、クルーと同様の調理・販売に従事する時間が相当部分を占めており、勤務態様も、労働時間等に対する規制になじまないようなものであったとはいい難い、⑤について、年齢、勤続、職能などで給与水準が決定され、店舗管理手当のみに着目して管理監督者にふさわしい待遇か否かを判断することは相当でない。

 

また、平成25年度のXの年収は、全体の平均年収を下回っており、約2年において、月300時間を超す実労働時間になっている月が13回あることなど、労働時間の規制をしなくても、その保護に欠けるところがないといえるほどの優遇措置が講じられていたと認めることは困難である。

 

裁判所は、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって、労働時間、休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にあるかを、職務内容、責任と権限、勤務態様及び賃金等の待遇などの実態を踏まえ、総合的に判断すべき」との従来の判断枠組を踏襲し、結果、Xは管理監督者に該当しないとしました。

 

※下線、太文字は亀岡が記す。

 

なお、退職者に対する賃金請求でしたので、遅延損害金について、14.6%(賃確法の利率)の請求でしたが、賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由(労基署が特段の手続きをとっていない)により裁判所または労働委員会で争っている(賃確法施行規則4条2項4号)状況にあるとして、6%(商事利率)を適用している点は注目すべき点です。

 

管理監督者のテーマは、就業規則に規定しても、実態に基づく判断が尺度となり、相応の要素が求められることをあらためて示しています。また、適用された判断枠組みは揺るぎないものでその実態に対するあてはめにより判断されることをあらためて示している事件と言えます。

 

 企業側のイニシアティブ、つまり、企業が「管理監督者だから」と決めれば、法定割増賃金を支払わなくていいことになるわけではないことをこの例を参考に確認しておきましょう。この点は、就業規則にいかなる規定をしてもカバーしきれるものではありません。

 

企業の対策の歩みの中で、第一に実施してほしいステップは、100%判断がつくとは限りませんが、管理監督者性の有無について、労働基準監督署に相談し助言を得ておくことと考えます。

 

【補足】

 遅延利息は、退職者の賃金債権(退職金を除く)については、14.6%が適用になります(賃金の支払の確保に関する法律第6条第1項、同法施行令第1条)。ちなみに、民法上は5%、商事法定利息は6%(相手が商法上の商人の場合)ですが、賃確法が優先されます。これがノーマルなあてはめになるところです。

 

しかし、賃確法第6条第2項に「賃金の支払の遅滞が天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによるものである場合には、その事由の存する期間について適用しない」と定められています。つまり、厚生労働省が定める特別理由がある期間は、14.6%を適用しないとされています。

 

そこで、厚生労働省令ですが、「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争つていること」(賃確法施行規則第4条第2項第4号)と規定されています。今回の判断理由となった「合理的な理由」ですが、労基署が特段の手続きをとっていないということがこれに該当するとしています。

 

よって、賃確法6条の遅延利息の適用対象とはならないものの、相手が商法上の商人であることは間違いないため、商事法定利息6%が適用になりました。

 

遅延利息について、わかりにくいうえに、専門書籍においても、あまり記述がみられないのではないかと思いますので、補足しておきます。

 

使用者にとっては、遅延利息が下がるわけですから歓迎する話ですが、労働者からすれば、労基署が何も手続きをとっていないことが、後々、こんなふうに歓迎しない話になる場合もあることを知っておく必要があります。ただし、労働者がコントロールできることではないし、労働基準監督署も何に影響するかを考えて業務を遂行しているわけでもないと思われます。

 

(プレナス事件/大阪地判平成29年3月30日・LEXDB25448607)

 

 岩手の岩泉町の町長のセクハラニュースが連日流れています。自治体の長や政府関係者のセクハラ騒ぎは、マスコミの話題性もあり、視聴率アップにもつながるとの目論見からマスコミも取り上げるものです。また、政治家というだけで、そのスキャンダルは格好の材料なのでしょう。

まず、岩手日報の言い分もありますのでそのまま記載します。読んでみましょう。見出しから載せます。
 
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 74歳町長、記者にセクハラ 宿泊先訪ねて抱きつきキス 岩手

 

  進退については「辞職も含めて考えていく」とし「町は昨年の台風10号からの復興途中で、(進退について)関係者と協議している」と述べた。


 伊達町長は1999年に初当選。岩泉町は昨年8月の台風10号の豪雨で、関連死を含め23人が犠牲になった。災害復旧・復興業務が続く中、伊達町長は今年2月に心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断を受け、8月末ごろから幻覚や幻聴に悩まされていたという。記者の部屋に入った後の10月30日から12月4日まで休職し、5日に復帰したばかりだった。

 これに対し、伊達町長は会見で「わいせつ目的で会いに行ったのではない」と強調。自宅で起床して顔を洗おうとした際「助けて」という声が聞こえたと感じ、ホテルに駆け付けた。無事だと分かって思わず抱きしめ、われに返ったという。「幻聴、幻覚で飛び込んでいった。病とはいえ社会通念上、許される行為ではない。迷惑行為に対し心から謝罪する」と述べた。キスをしたとの指摘に関しては「記憶にない」と明言を避けた。

 同社によると、伊達町長は10月中旬の早朝、取材目的で泊まっていた町内の記者の宿泊先を訪ね、何度も部屋のドアをノック。記者が開けると部屋に入り、抱きついて複数回キスをしたという。記者はショックを受けて休職しており、刑事告訴を含めて検討中。同社の松本利巧総務局長は「一部事実と異なる文書が出回り、臆測も出始めたことから報道に踏み切った。謝罪と誠実な対応を求めていく」と話した。

 岩手日報社は6日、同社の女性記者が岩手県岩泉町の伊達勝身町長(74)からわいせつ行為を受けたとして、厳重抗議したと同日付の紙面で報じた。伊達町長は同日会見し、記者に抱きついたことを認めながらも、わいせつ目的を否定した。

 

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 小職は社労士ですので、なにも自治体の長のスキャンダルをとりあげて、なにかしたいというものではありません。疑問はそこではないのです。

 

一般に、企業と労働者の関係において、労働者がセクハラを受けたと声を上げると、企業側は、「証拠がないから」「加害者とされる者が否定しているので確認のしようがない」「あまり騒ぐと勤務できなくなるよ」などの対応をするケースが散見されます。

 

もちろん、企業側のこうした対応には問題があります。労務や雇用関係の世界では、証拠ありきではなく、被害者の状況を確認し、調査、今後の対策など適切な対応を求められてしかるべきだからです。法的には、均等法11条のあてはめにより違法性の可能性も出てきますからなおさらです。

 

政治家においては、均等法の問題は除くとしまして、一般的なこの景色が一変して、被害者が声をあげると全面的に加害行為者が悪者にされ、避難を浴びることになります。マスコミの取材からは、「証拠云々」という言葉は全く出てきません。報道になった内容をみる限りでは、被害者女性から証拠について主張するコメントもみえてきません。

 

企業と労働者の間の問題ですと、弁護士が登場し、どうせ画像など証拠などないから否定すればいいという策になるところですが、政治家相手だと証拠なんか関係ないような景色になるのは毎回毎回、とても同じセクハラ問題とは思えないと感じます。

 

声を上げたもの勝ちとなれば、一般の企業の世界でも大変なことになります。しかし、民間企業の領域ではそうはいきません。企業も職場環境の中でセクハラが起きたことを否定する態度をとり、加害行為者も全面否定の態度をとりますので、セクハラを認めることはまずありません。

 

メールでセクハラ行為に及んだ損害賠償請求の事案に対応したことがありますが、メールの内容を送信したことを認めても、「送信した内容はセクハラ目的ではない」などと、今回の町長と同様のような主張をし、あげくの果てに、「そんなに後でいうくらいいやだったのであれば、抵抗したりすればよかったのに」という始末です。

 

こうしたことが現実である以上、加害者、加害者の属する組織、被害者、それぞれの主張などをじっくり聞いて、加害者とされ得る人物がセクハラをやったと報道すべきではないかと思います。まだ、セクハラ行為が事実であったと確定してはいませんし、証拠の話もでていないわけですから・・・。今回の町長を擁護するわけではありませんが、客観的にそう取り扱うべきかと思います。

 

もっとも、火のないところに煙はたたない式に考えれば、町長になんらかの問題行為があったことを否定しにくいところではあります。幻覚云々のコメントはにわかに信用しにくいとうのが世間一般かもしれません。だからといって、現段階でセクハラ行為をしたと断定することも早計のように思います。

 

今回の町長のセクハラ疑惑の報道を受けて、労働者の方は、声を上げたもの勝ちと単純に考えるべきではありませんし、企業の方も公になったらまずいと一概に言えるものではないと考えるべきです。ただ、企業のダメージは真実がどうかではなく、公に広まることでセクハラが起きる企業との評価になることが最大の損失になることです。

 

労働問題になりますと、企業があくまでも保身の姿勢で事実を否定する態度をとるのは、この辺を重視してかと考えます。しかし、否定する態度をとるのみでは、認めなければいいという印象しか伝わらず、問題が終結することが遅くなりますし、労働者がよりエキサイトする原因にもなります。やはり、適切な対応をいついかように行ったかに焦点した思考を持つことも肝要かと考えます。

 

ちなみに、少し前に書きましたセクハラに関するコラム記事で、セクハラの法的問題などを簡単に整理していますので、今回併せて掲載し、かつ、リンクしておきます。参考にしていただければと思います。

 

 ☛ セクハラの法的問題と防止対策

 

ほとんどの労働者や企業が、労働基準監督署というものをきちんと理解していないと感じることがあります。それは、労働基準監督署という名称のなかに、「労働」と「監督」という単語が存在していることが要因ではないかと個人的には思います。

 

今さらながらではありますが、いつかは整理しておくべきことですので、今回、整理しておきたいと思います。労働者、企業ともこのブログをお読みいただきぜひ参考にいていただきたいと思います。

 

まず、全体、つまり、森をみておきたいと思います。大元は国、厚生労働省になります。厚生労働省の下に、労働局があります。労働局は、各都道府県に一つあります。だいたい県庁所在地にあるかと思います。

 

労働局の下に、労働基準監督署と公共職業安定所(ハローワーク)がぶらさがっております。労働基準監督署や公共職業安定所(ハローワーク)は、都道府県により数は区々です。おそらく東京が最も多いのではないかと思います。小職の事務所がある埼玉県では、そんなに数はありません。

 

なにしろ埼玉県の東部地区だけで春日部労働基準監督署1箇所で対応しています。東部地区はかなり縦長なエリアで広いのですが、東部地区で1か所なのです。他にさいたま市、川口市など管轄ごとにあります。数は多くはありません。

 

ちなみに、多くの方が口にする「労働基準局」という名称の行政機関はありません。あるのは、「労働基準監督署」「公共職業安定所(ハローワーク)」です。労働基準局と言われると、労働局と労働基準監督署が合体したような単語なので、労働基準監督署ですか、労働局ですかと質問することになります。

 

それから、都道府県の労働局のホームページはありますが、労働基準監督署ごとや公共職業安定所(ハローワーク)ごとのホームページはありませんので、念のため、知っておいたほうがいいかと思います。

 

ここまでで、森の話になります。次に、木の話です。木と言っても今回は、労働基準監督署の話です。冒頭触れましたが、「労働」「監督」という2つの単語が、一般の人のイメージを決めてしまっているようです。多くの労働者や企業は、労働に関することを全て監視したり、対策したり、問題を解決したりと行って

いるところというイメージなのではないかと思います。特に、労働者のみなさんに、そのイメージが強くあるようです。

 

実は、労働基準監督署の役割はまったく違います。労働基準監督署が業務の対象にするのは、安全衛生や労災以外では、労働基準法の条文に書いていることだけが業務範囲なのです。それも、明確に書いてあることだけです。

 

労働基準法のほとんどは、違反の程度により罰則がついており、行政機関の取り締まり法規になっています。違反しないように遵守しなさいと法が言っているのは企業=使用者なのです。ただし、そうなっているのは、労働基準法だけなのです。つまり、労働契約法、男女雇用機会均等法、派遣労働法、雇用保険法、健康保険法、年金法などは労働基準監督署の業務対象ではありません。

 

小職が実務をやっていますと、労働基準法よりも労働契約法の対応問題ほうが非常に多いように思えます。労働契約法の解釈やあてはめにより分析・検討することが多くあります。その点で、小職は、労働契約法を非常に重くみて労務対応、労働問題対応しています。

 

現代社会で問題が多発しています、パワハラは、そもそも法律も行政通達もありませんので、いうまでもなく、労働基準監督署の管轄ではありません。

 

さらに、労働基準法の条文に書いていることがすべて労働基準監督署の業務対象になるわけではありません。たとえば、判断を必要とすることなどは、労働基準監督署に言っても解決できないことが多くあります。以下に、労働基準監督署で解決できない、あるいは、扱えないことを例示列挙しておきます。

 

・休憩時間に業務を命じられる、仮眠時間に仮眠がとれない・・労働時間か

・タイムカードも時間の記録もない・・残業が毎日あると言えるか

・給料が2万円減額された・・不当な減額と言えるか

・「やってもらう仕事はない、こなくていい」・・解雇されたと言えるか

・就業規則はないが、年次有給休暇を24日要求したら10日だと言われた・・24日とれるか

・会議でみんなの前で恫喝され、仕事外しにあった・・パワハラか

・明日から××の部署へと配転命令をうけた・・不当な配転命令か

・いじめがひどく就労不能になり退職届をだした・・自己都合退職か

・派遣先で自分だけ指示命令がない・・不当な扱いと言えるか

・派遣先でセクハラにあった・・セクハラがあったと言えるか

・パワハラでうつ病になった・・損害賠償の対象になるか

・元従業員が競業他社に勤務した・・損害賠償の対象にしてよいか

・規則を守らない従業員を懲戒処分にしてよいか

 

とりあえず、これくらいにしておきます。また、ブログの中で触れるときもあるかと思います。あげれば、いくつでもずーといってしまいますので止めておきます。

 

このように、労働基準監督署では対応できないことが山のようにあります。だいぶ、おわかりいただけたかと思いますが、労働基準監督署で対応できることは、ほんのわずかなのです。労働基準法にはっきりと書いていることだけです。

 

はっきり書いていないことは、判断を必要とするグレーな事柄なので、労働基準法に関する事項でも、労働基準法の条文の解釈とあてはめに委ねることになります。この点は労働基準監督署は行いません。また、条文の解釈とあてはめのためには、労働法の研究者の見解や裁判例の考え方が拠り所になります。

 

最も大切なことがあります。労働基準監督署のスタッフは公務員です。そう、警察と同じで民事不介入です。おそらく、労働者と企業が向き合う問題のほとんどが一般民事の世界かと思いますので、労働基準監督署は民事不介入でタッチできないのです。労働基準監督署に相談に行った際に、はっきり労働基準監督署の方が言わないと感じたことはないでしょうか。確定的なことは言えませんが、それは、業務管轄外だということもですが、民事不介入であるためかもしれません。

 

もし、労働基準法に明確に書いてあることがあり、それに違反することがあると判断した場合、労働基準監督署は企業に指導票の交付または是正勧告命令書の交付を行って、直ちに改善を指示します。労働基準監督署の「署」は「とりしまる」という意味ですから、労働基準監督官には司法警察権の役割も与えられています。つまり、逮捕できるのです。もっとも、かなり悪質な場合になりますが・・。税務署や警察署も「署」なので同じ意味です。

 

相談について触れておきますが、労働基準監督署に相談するにしても、電話ではなくきとんと出向くようにしましょう。労働基準監督署のスタッフは、行けば、業務管轄外のことでも話を聞くまではすると思います。ただ、最近は、業務管轄外などの場合、労働局のあっせんを紹介する、あっせん紹介所と化していますが・・・。相談ごとは、顔を見ながらのほうが伝わりやすくなります。めんどうだからと時間の節約だからと電話で簡単に聞こうとする姿勢は解決には適していないかと思います。資料などをもって確認してもらい話をするのは解決に向かう姿勢の表れかと思います。

 

以上、労働基準監督署についてざっくりしたことを整理してみました。参考になりましたら幸いです。

 

少し前の例ですが、事案内容にかなりグレーな点がある例で、かつ、最高裁が一定の判断を示しているものですので、取り上げてみます。

 

事案の概要

 この事件は、従業員Bが、会社Y(従業員7名)の中国人研修生の歓送迎会に出席して後、業務目的で会社所有の車を運転して、研修生を送ることも兼ねて会社に戻る際に起きた交通事故で死亡したことは、業務災害にあたるのかが争点になったものです。

 

遺族である妻Xは、Bの死亡を労災として労基署に遺族補償給付及び葬祭料の支給を求めましたが、業務上の事故ではないとして不支給の決定をしていました。地裁判決及び高裁判決は、歓送迎会が私的な会合であり、歓送迎会に付随する送迎のために従業員が任意に行った運転行為が事業主である本件会社の支配下にある状態でされたものとは認められないとして、業務災害を否定していました。

 

事実概要

Yは、定期的に中国人研修生を受け入れており、3名の帰国が近く、新たに2名が来日していることから、歓送迎会の開催が企画されました。全従業員に声をかけたところ、B以外の従業員から参加の回答を得ました。

 

社長業務を代行していたE部長から、Bにも参加の打診がありましたが、Bは、期限までにD社長に提出すべき営業戦略資料を作成しなければならず参加できない旨を回答しました。Eは今日が最後だから顔を出せるなら出してくれないかと述べ、資料が完成していなければ、歓送迎会に自分も一緒に作成する旨を伝えました。

 

歓送迎会当日、Bは、資料の作成を一時中断し、Yの所有する自動車を運転して作業着のまま歓送迎会会場の飲食店へ向かい、終了30分前の20時頃到着して参加しました。Bは、アルコール飲料は一切飲みませんでした。

 

飲食代は、Yの福利厚生から支払われました。Bは、21時ごろ、研修生らを乗せてアパートまで送り、職場の工場に戻る予定でしたが、アパートに向かう途中、交通事故で死亡しました。職場の工場とアパートは、飲食店からはいずれも南の方向にあり、職場の工場とアパートの距離は2㎞でした。

 

最高裁の判断

最高裁は、業務災害の対象になるには、業務上の事由によるものであることが必要で、その要件の一つは、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態で、災害が発生したことが必要であると枠組みを示しました。

 

そのうえで、事故は、Bが、D社長に提出する資料の作成を中断して途中から参加し、業務を再開するためにY所有の車両を運転して工場に戻る際、併せて研修生らを送るために同乗させて、アパートに向かう途中で発生したものである点を重視ました。

 

具体的には、Bが資料の作成を中断して歓送迎会に参加することになったのは、Eから個別に打診されてBが断ったにもかかわらず、Eの強い意向があり、資料作成もEが加わることを伝えられたことにあるもので、歓送迎会参加後に工場に戻ることを余儀なくされたというべきで、Bに対し職務上、一連の行動を要請していたと言えるとしました。

 

また、歓送迎会は、従業員7名のYにおいて、Eが企画し、7名及び研修生の全員が参加し、費用がYの経費から支払われ、アパート及び飲食店間の送迎がY所有の自動車で行われたものであり、歓送迎会は、研修の目的を達成するためにYにおいて企画された行事の一環で、研修生との親睦を図ることにより、Yと親会社等との関係強化に寄与するものとしました。

 

さらに、研修生らをアパートまで送ることは、Eが行うことが予定されていたもので、工場とアパートの位置関係に照らして、飲食店から工場へ戻る経路から大きく逸脱するものではないことからして、Yから要請された一連の行動の範囲内であったと評価しました。

 

以上から、歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、研修生らをアパートまで送ることがEからの明示的な指示のもと行われたことが窺われないことを考慮しても、事故の際、Bは会社の支配下にあったとして業務災害と認定しました。

 

         【国・行橋労基署長事件 最二小 平成28年7月8日判決/労働判例ジャーナル55号】

 

従業員の行動が任意性のないものである場合では、酒席の歓送迎会後の事故でも、会社の支配下にあたり、業務災害になることを示した例として、非常に参考になると思います。

 

また、歓送迎会参加の経緯、業務との関連性をプロセスの事実関係をよく把握して最高裁が判断している点で、一定の評価ができるかと思います。

 

前回に連続して自治ニュースになりますが、取り上げる素材は労務ではありません。しかし、労務問題とまったく態様というか姿勢というか同じであることに一つ指摘しておきたいと思いました。

企業が潔く誠実に応じることが、心証につながることを改めて伝えておきたかったと思った次第です。

まず、毎日新聞の記事をそのまま登用させていただきます。

三菱マテリアルの子会社(三菱電線工業、三菱伸銅、三菱アルミニウム)が自動車や航空機向けなどに出荷した素材製品の検査データを書き換えていた問題は、出荷先が274社と広範囲に及んだ。神戸製鋼所に続く品質データ改ざんで、改めて日本のものづくりのあり方が問われそうだ。

 「不具合があるかもしれないと認識しながら製品の出荷を続けていた」。24日の記者会見で三菱電線の村田博昭社長は、不正を把握した今年2月以降も、10月23日に停止するまで不適合品の出荷を続けていたことを認めた。

© 毎日新聞 記者会見する三菱マテリアルの竹内章社長=東京都千代田区で2017年11月24日午…

 会見では「出荷を止めるのが当然で、売り上げ優先ではなかったか」などと厳しい質問が相次いだ。村田社長は「全容把握に時間がかかってしまった。親会社に報告して支援を仰ぐべきだった。反省している」と陳謝したが、三菱マテリアルの竹内章社長は「詳細にわたることはコメントする立場にない。把握していないので答えようがない」などと人ごとのように述べ、会場の記者をあぜんとさせる場面もあった

 子会社3社の出荷先は計274社に及び、10月に発覚した神戸製鋼所(525社)とデータ改ざんの手口が酷似している。「測定した記録をパソコンに入力する時、実際のデータと違う数字を入れていた。なぜ起きたのかは、弁護士が入った調査委員会に究明をお願いしている」。村田社長は記者会見で不正の実態についてこう述べた。ゴム素材のパッキンなどの寸法や材料の特性が納入先の要求や社内基準を満たしていないのに、現場の社員が基準に合うよう入力していた。

 神戸製鋼は納期やコストを優先した結果、「クレームがない限り、検査や製品の強度などの仕様が軽視され不正につながった」と説明している。この点についても質問が相次いだが、竹内社長は「弁護士らの調査結果を待ちたい」の一点張りだった。

 神戸製鋼では、事業所ごとの専門性を重視し、人事異動が少ないなど「閉鎖的な組織運営」も不正の要因となった。三菱マテリアルは不正が発覚した金属事業とアルミ事業のほか、セメント、電子材料など事業ごとに組織が分かれる「社内カンパニー制」を採用している。竹内社長は「社内カンパニー間の組織の壁が高く、人事の交流はほとんどなかった」と述べており、やはり閉鎖的な組織運営が不正の温床となった可能性が高い。

 「不正が組織ぐるみだったのではないか」という質問に、竹内社長は「本社の関与はないと思う」と強調したが、こちらも子会社の調査委員会にゲタを預けた格好で、真相解明はこれからだ。不正発覚後も不適合品を出荷していた事実は重大で、今後の対応次第では、神戸製鋼と同様に納入先から部品交換の費用負担や損害賠償を求められ、経営問題に発展する可能性もある。【川口雅浩、小原擁】

※斜体文字、下線は亀岡が記す
 
こんな具合に書いてありました。今後もこのような記事を見かけると指摘することがあるかと思います。いざ汚点の残ることをすると当事者とうのは、ほんとうに誠実さを押し殺して、保身に走るというのが印象です。
 
今後、訴訟になったことをも見据えていて、認識しながら対外的には、認めるというふうに受け止められる発言や態度を殺しているのでしょうか。もちろん、記者会見にあたっては、専門家の助言を受けているでしょうから、こうなるだろうと推察されます。
 
記事の冒頭部分を読むと、売り上げ確保を外せなかったことも否定できないところでしょう。そのうでの、竹内章社長のコメントです。決して心証がよくなるものではありませんし、企業の評判を悪くすることにもなりかねません。
 
もっとも、一時的に評判を落としても、あからさまに安易に事実を認める発言をするなという専門家からの助言を受けてのことなのでしょうか。
 
裏舞台の真意は不明ですが、多くの世論は、宜しくないという評価になるのかもしれません。
 
本業話に移りますと、労務問題が発症したときと態度、姿勢がやはり変わりません。今回のような態度等が問題の心証を悪いほうにしてしまっています。
 
把握していないので答えようがない式の態度は、ハラスメント問題の際に見られる典型的な姿勢です。私が言うのも変ですが、あえて指摘させていただきますと、「全体や詳細な点は今後の調査を経てからになりますが、まずは、このような問題が表面化するに至った点について、会社として責任を痛感しております」ぐらいは、一旦、とどめておかないといけないのではないかと考えます。
 
表ざたになったことは、何も問題がなかったわけではないと考えざるを得ないと思われますので、これぐらいは致し方ないかと受け止めないといけないのではないかと思います。
 
発言にあまりの防御の姿勢ばかりが目立ってしまうとよくないでしょう。企業の利益優先で、保身の姿勢で誠実な対応をしない、責任転嫁する、さらには、専門家の証拠ありき主義が読み取れる例として反面教師にすべきかもしれません。
 
労務テーマとしましては、今後、企業の経営が悪化して、人員削減などリストラ策を講じた場合、単なる整理解雇問題では済まない可能性がでてきます。
 
会社法429条の役員等が第三者に対して負うべき損害賠償責任の問題も対象になる可能性があります。神戸製鋼しかりですが、今回のような不祥事が明るみに出るたびにJT乳業事件(名古屋高判平17.5.18労判905号52頁、金沢地判平15.10.6労判867号61頁)が思い出されます。
 
この事件は、牛乳等の製造販売を営んでいたJT乳業(株)が、同社が製造した牛乳を飲んだ児童が食中毒事件を発症したことで、事業を解散し、従業員を解雇しました。元従業員11名と亡くなった従業員の相続人3名が、この食中毒事件は、同社の代表取締役であったY1がクレームを受けて回収した牛乳を牛乳の原料とする違法な再利用を決定して指示するなどの代表取締役としての職務を行うにつき悪意又は重過失による任務懈怠があったため発生したのであり、その結果、同社が廃業に追い込まれ従業員らは解雇され損害を被ったとして訴訟提起したものです。
 
商法266条の3(現行法は会社法429条)は、「役員等がその職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う」とあり、これを根拠とする主張です。
 
この事件は、第一審の判決前に、代表取締役Y1が死亡していましたが、高裁で確定し、Y1の任務懈怠が肯定され、従業員らの解雇後の求職活動相当期間中の解雇前の賃金相当の逸失利益、再就職先における労働条件が解雇前の労働条件を下回った場合における賃金差額相当の逸失利益が、雇用存続想定期間(解雇後2年間)における雇用契約上の権利喪失による損害として認められています。
 
そのほか、Y1の任務懈怠により被った精神的苦痛が相当に重大であったとして、従業員ら一人あたり100万円の慰謝料が認められています。
 

こうして企業の不祥事のたびにこの事件が頭をよぎるのですが、昨今の不祥事は発症した企業においては、このような事態にならないように、対策が急務ではあります。

だからといって、不誠実な姿勢は歓迎できないものであり、世間の非難にもなりかねないし、企業評価を押し下げる要素にもなるところです。

取引先などビジネスに大きく影響するものでしょう。パワハラの事案に向き合うと感じることですが、コンプライアンスの対応組織は、相応の規模になりますと存在しているわけですが、どうも存在しているだけの名ばかりのコンプライアンス組織のように思えます。

構成メンバーが取締役や人事部長など経営側に立つ者だけの場合は、もちろん、きとんと対応している企業もあることはありますが、企業姿勢を貫くことになるケースも散見されるところです。中には、調査をせずに周囲の者に確認したが事実は確認できなかったとして鞘を収めるバージョンも少なくありません。

企業のリスク対策にも寄与するところですので、普段から防止策を厳重に講じてほしいと切望いたします。