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★社労士kameokaの労務の視角

ー特定社会保険労務士|亀岡亜己雄のブログー
https://ameblo.jp/laborproblem/

 

今回は、パートタイマー労働者の健康診断についてです。パートタイマー労働者は関係ないとの趣旨で対応されている労務が様々見られるところで、パートタイマー労働者からは疑問が指摘されることも少なくありません。

 

 パートタイマーは健康診断は関係ないと安易に考えている企業が散見されます。企業にとっては、パートタイマー労働者から苦情になりやすいうえに、法的にリスクにもなっていることを知っていただく必要があります。

 

まず、前提としまして、雇用保険の対象者で、㋐社会保険(健康保険・厚生年金)に加入していない場合と㋑社会保険に加入している場合に分かれます。

 

㋐だから社会保険の適用を外れるとは限らず、企業側がパートタイマー労働者だからというだけで、社会保険を適用していないケースもあるからです。その逆は考えにくいところです。したがいまして、実際に社会保険加入の有無ではなく、加入対象者か否かで考えることが大切です。もし、加入対象者であれば、週の労働時間は正社員の4分の3以上と考えらえます。

 

※少し前までは、正社員の「概ね4分の3」でしたが、現在は、「4分の3」とグレーでなくなりました。

これを踏まえて説明します。ケースによりますが、概ね一般的な基本は説明通りに理解していただいていいのではないかと思います。

健康診断には、2種類あって、法定健康診断と会社指定の健診です。通常、会社が言っているときの定期健康診断は、法定健康診断のことかなあと推察したします。

 

おそらく就業規則をみても、法定健康診断という表現は使っていないかもしれません。もし、就業規則などに定期健康診断と記載があった場合は、法定健康診断のことか否か確認しておくのがいいでしょう。

 

もっとも、企業もそこまできとんとした意識で就業規則を規定していないことが多く、質問しても回答が得られない可能性がありますが、定期健康診断の他に健康診断の規定がないのであれば、法定健康診断のことと解釈するのが自然ではないかと思われます。

話を戻しますが、この法定健康診断は、労働安全衛生法で決まっています。名前のとおり、立法上の義務なので、会社は必ず実施しなければならないことになっており、健診項目まで決まっています。そこで、法定健康診断の対象者にパート労働者が対象になるかです。

労働安全衛生法は、「常時使用される労働者」に健康診断を実施せよと決めています。そこで、「常時使用される労働者」にパートは入っているのかということになります。

健康診断の実施対象である「常時使用される労働者」の考え方として、厚生労働省が通達を発しています。それが、

㋐契約期間が1年以上の従業員(または1年以上雇用される予定の従業員)

㋑週の所定労働時間(会社が規則で決めている労働時間)が同種の仕事に就く通常の労働者の4分の3以上というものです。

※アとイの両方を満たす必要があるというのが行政です。

※「通常の労働者」の解釈は、問題で、複雑です。

この行政通達は、所定労働日数がひどく少ないパート労働者を「常時使用される労働者」に該当させていいかという点から、考え方を示しているものです。

※通達は、厚生労働省が示した指針、考え方であって、権利義務が発生する法律ではありません。

この行政の考え方に沿いますと、週の労働時間が正社員の4分の3いっていないパートタイマー労働者は法定健康診断の対象者から外れることになります。会社がもし、「社会保険がないものは受けられない」などと言っている場合には、これだけで確定はできませんが、このことであると推察いたします。

次に、行政通達上、健康診断の対象者から外れるとして、会社の就業規則や安全衛生などの規定がどうなっているか、労使双方とも何らかの機会に確認されることをおすすめします。労働者は規定内容を把握する趣旨で、企業はリスク回避の趣旨でということになります。

就業規則等で、健康診断を実施すると規定があり、対象者が特に限定されていないこともあります。また、パート用の就業規則等がない場合は、正社員用が規定されることになると考えられます。別途パート用の規定がある場合は、パートタイマー労働者用の就業規則に従うことになります。

パートタイマー労働者を対象にの健康診断の実施が規定されていると判断できる場合には(条文の表現や文脈などから読み解く必要がありますが)、会社は健康診断を実施する義務があり、パートタイマー労働者は、健康診断を受ける権利があるということになります。

さらに、パートタイマー労働者の健康診断について就業規則に明記されていなくても、当該労働者と同じ、あるいは似たような働き方のパートタイマー労働者に対し、これまで、健康診断を実施してきたような実態にあるかどうかを確認する必要があります。

 

もし、そのような実態にあれば、そのことが契約内容になると考えられる可能性が出てきます。企業側もこの点に、留意する必要があります。労働の世界では、労使慣行が重要になります。

 

このことは、企業からすればあまり意識されないことも多くあり、突然リスクになり得ますので確認しておくことは重要です。労働者からみれば、健康診断の対象者ではないとおもっていたことは、そうではなく受診できる可能性が出てくるわけですので重要になります。


なお、行政通達は、週の労働時間が通常の労働者の2分の1以上4分の3未満のパートにも健康診断を実施することが望ましいともいっています。「望ましい」という行政の考えです。権利や義務は発生しません。

ここからは補足ですが、会社に対する安全配慮義務や健康配慮義務の点からですが、何かあったときを考えますと、会社は、社会保険の有無にかかわらず、パートにも健康診断を実施しておくべきということは言えます。

先に触れました行政通達の話とは別に、法的な責任が発生する問題ですので、先に触れました行政通達の話とは別になります。従業員の安全や健康を害さないように配慮する義務です。

たとえば、健康を害して、そのことと法定健康診断を受けさせていなかったことに何らかの関係が生じるような場合などを想定しますと、健康診断を受けさせないことに、安全配慮義務や健康配慮義務に関する法的な問題は残ると考えられます。

 

パートタイマー労働者の健康診断につきましては、「パートタイマー労働者に健康診断を受けさせなければいけないか」と問われれば、労務リスクや労務管理を踏まえますと、このような説明をすることになります。

 

参考にしていただければ幸いです。

 

 

2017年10月25日

解決!アスクミー JIJICO

セクハラの多発と違法性の判断

ハリウッドのプロデューサーが女優にセクハラ行為をしたとの話が有名になりました。セクハラはともすれば人生を狂わす大事に発展しますが、加害行為者、被害者ともに著名人ですと、双方が負う社会的なダメージはより大きくなります。

日本においては、「セクハラ」という言葉の定義づけがされ、厚労省の告知が普及したこともあり、セクハラはいけない行為であることは十分に浸透しているかに見えます。しかしながら、セクハラ事件は後を絶たず、近年は、大学や医療のアカデミックな職場などでも多発しているところです。

セクハラは職場におけるいじめ・嫌がらせ行為のうち、相手の意に反する不快な性的言動を指しているものです。たとえば、性的要求を拒否したら雇用契約上の不利益を受けた、性的嫌がらせによって職場環境が悪化したなどが大きな区分けになります。

ただし、こうしたセクハラの概念に法的な意味はありませんので、当てはまることで違法となるものでもありません。違法性の有無は、セクハラと言い得る行為があり、その因果関係のもと損害が生じた場合、具体的には健康や良好な職場環境で就労する雇用契約上の権利などを侵害された場合などに、それらの要件に照らして判断されることとなります。

セクハラの問題は多面的、対応によっては労働問題に

セクハラの法的問題は、「被害者から加害行為者に対する違法行為を根拠とする損害賠償請求(違法行為とそれに起因する損害)」、「被害者から企業に対する違法行為を根拠とする損害賠償請求(使用者責任、雇用契約上の義務違反など)」が典型です。

しかし、「セクハラの加害行為者が企業から受けた懲戒処分の合理性を争う事件」も多発しています。加えて、「精神疾患が発症した」ケースでは、業務に起因した災害として労災申請の対象にもなってきます。つまり、多面的に法的問題になり得るのがセクシャル・ハラスメントであるとも言えます。

たとえば、セクハラ行為を予見できたのに、十分な予防措置をしなかった場合や、上司のセクハラ行為を職場の問題と捉えず、加害者と被害者の個人間の問題として、セクハラ被害者を退職に追い込んだ場合、また、被害者の申告がありながら(あるいはセクハラがあったことを知りながら)、加害行為者に対する十分な調査をせずに、被害者を加害行為者のそばで継続勤務させた場合などでは、労働問題に発展する可能性があります。

企業ができるセクハラ防止対策

これらセクハラ問題の防止については、まず企業に対し、性的言動の対応により労働者の労働条件が不利益になったり、就業環境が害されたりすることがないように、企業に必要な措置を講じることを義務付けています(均等法11条)。関連して、セクハラの周知・啓発、相談体制の整備、適切な事後対応などが要請されています。

これらの十分な措置をとっていることは、使用者責任や職場環境配慮義務の点でも、考慮されるものとなるため、防止対策の筆頭と言えます。企業対応の特徴として、「調査した結果、事実は確認できなかった」「証拠がないから」との対応も見られますが、被害者の納得性が得られないため、企業の事後対応の不適切さが職場環境の問題となって、セクハラ問題をエスカレートさせることにもなりますので注意が必要です。

労働者にとっては回避が難しいセクハラ問題

一方、労働者の方は、行為を事前に回避することは困難かと思われますが、注意できるとすれば、セクハラは密室的・閉鎖的行為ですので、普段からその点に用心するに越したことはないでしょう。

セクハラの当事者になった場合は、申告し相談対応、続けて、綿密な調査を要求することになります。企業が誠実に対応しない場合でも、要求行為を行った事実を残すことは有効です。

 現代の雇用社会は、パワハラの例が後を絶ちません。真実、パワハラ行為が横行しているのか、なんでも”パワハラ”と言われるようになったのか・・・その真偽は別としまして、パワハラと言われる要素や要因が職場に浮上しないようにすることは、企業の労務管理にとって、最重要課題になっていることは間違いようです。
 
今回、取り上げます例は、どちらかというと、あまり見聞きしたくない品のない例なのですが、ニュース記事から取り上げてみたいと思います。企業の最重要課題との意識に基づくと、事前措置、つまり、パワハラが起きにくいように事前に対策することが大切になりますが、今回の例は、事後対応の不適切さが目立っている例となっています。
 
ニュース記事から事実です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・山形大学リチウムイオン電池研究施設xEV飯豊研究センター(山形県飯豊町)で、職員が「パワーハラスメントパワハラ)」を受けたとされる問題で、山形大学職員組合が9日、昨年秋に職員の机に残されていたという書き置きの画像を明らかにした。「役立たず」「ボケが」などと記されており、組合は同センター長が書いたとみている。
 組合はこれまでに3回、パワハラの実態把握や対策などを問う質問書を小山清人学長宛てに提出したが、大学側は全職員に注意喚起したとした上で「個別の事案には個人情報保護の観点から答えられない」などと回答している。
 記者会見した品川敦紀執行委員長=理学部教授=は「大学側の回答はいずれも通り一遍。対策内容も明らかでなく、引き続き真剣な対応を求めていく」と話した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
記事の記述はこれだけしかありませんが、それでも不適切な点をうかがい知ることができます。
 
まず、組合がセンター長の行為とみている点ですが、普通に問題なく勤務しているのであれば、組合が事実をねつ造しようとしない限り、センター長が書いたとの疑念は浮上しないと考えるのが筋です。
 
ましてや組合が事実を作出するとは考えにくいところです。このあたりに、職場の問題、職場環境の問題、センター長の言動の問題が日頃からあった、若しくは、全く問題がなかったとは言えないのではないかと考えられてしまうことになります。労働者にとって、この点が疑念となるところです。
 
このような疑惑や疑念が残っていると被害者を中心とする労働者は、抗戦する姿勢を強めることにもなります。パワハラなどのハラスメントでは、この傾向が顕著であるように思えます。
 
多くの企業では、パワハラの事実の有無を主張することが散見されますが、この点では事実の有無を主張しても、労働者の納得性は得にくい状況になっていると言えるでしょう。
 
次に、組合は学長に、実態把握や対策を問う質問書を3回提出しているとあります。実態調査の要求、浮上したパワハラ疑惑に対する対策を大学のトップに求めているわけです。これに対する大学側の事後対応が問題です。
 
全職員に注意喚起したとコメントしている行為ですが、注意は、普段の労務管理の中で行われるべき段階のもので、問題が浮上した場合は、まず、被害者から詳細な事情を聴きとり、次に、加害行為者や関係者から詳細な事情を聴きとり、周囲の者からも念入りな聞き取りを行うとする方針を示し、その通り行為するのが筋です。
 
ハラスメントの場合、企業が今回のような態度に出ることが多いようですが、やはり企業対応として不適切との評価になってしまいます。浮上したハラスメントの出来事に対応した、向き合ったとは言えないでしょう。
 
企業からすれば、注意したと言って事実に触れずに済まそうともとれるわけですが、被害労働者からは、ハラスメントの事実の有無以外に、企業対応の問題点を指摘されることにもなるわけです。かえって、問題点を増殖させてしまっています。実際、こうした対応は割と多いと思います。
 
事実には向き合わないといけないのです。企業内で生じた、疑念が浮上したとなれば、対応が求められます。上記の調査、聞き取りで重要なのは、加害行為者や周囲の労働者は、聞き取りの中で、ハラスメントの事実を否定するのが常です。
 
したがいまして、企業調査では、結果的に判明できるか否かは別としまして、否定することの信ぴょう性をも含めて明らかにしてく姿勢で臨むことが肝要になります。実務的には、こうした姿勢でハラスメントに向き合う企業は少ないように思えます。
 
加害行為者は、あくまでも「やってない」を貫こうとし、周囲の労働者は、「ハラスメントのこと知っています」などと通知すれば、企業から自分が排除されることになる可能性があると考え、本当のことを通知しない可能性があるわけです。いわゆる「保身」です。今回の例では、大学側の対応の仕方は、大学の保身の現れとも言えます。
 
個別の事案には個人情報保護の観点から答えられないとの対応は、さらによくないと言えます。調査などを行って事実を明らかにし、ハラスメントの疑いに向き合う行為と個人情報は関係ないかと思いますが、こうした発言にも対応しないとの姿勢、調査をして明るみになれば大学としてまずいとの思惑がうかがい知ることになるわけです。
 
近年は、様々な労働問題に対応していますと、最初から理由をつけて対応しないバージョンが増えたように思います。しかし、こうした企業態度が被害労働者の感情を逆なですることになっているようで、結果的に労働問題をエスカレートさせているように思えます。
 
さて、一般的なハラスメントの話を交えてみましたが、今回の例のように、大学のようなアカデミックの現場でのハラスメントは多くみられるようになりました。世間の注目を浴びるだけに、対面や評判の意識が先にきて、事を明らかにする姿勢が欠如していると感じることがあります。
 
企業側は、パワハラの事実を明らかにしなければいい、事実を否定すればいいとの姿勢が強いように思うのですが、被害労働者が指摘するのは、ハラスメントの事実よりも、企業の事前措置と事後対応の問題であることが多くなりました。
 
ぜひ気を引き締めて企業に適切に事前措置と事後対応を行ってほしいと思います。厚生労働省の明るい職場応援団は非常によくできていますので、これを参考に考えてもいいかと思います。
 
ハラスメントの事実、申告、疑惑から逃避・回避するのではなく、受け止め向き合うことで、きちんと対応する企業との評価を得ることも一つの道であると考えます。また、まったく問題のない企業体はないでしょうから、問題に向き合う姿勢が評価されることで、「ここなら信用できる」との尺度になったほうが企業の利益になるとも考えます。
 
 

不動産関連商品などの営業をやっていた社員(X)が、歩合給が未払いであるとして、会社(Y)に支払いを求めた事件です。

 

【事 実】

Xは、平成21年7月5日雇用契約を締結し、平成24年4月15日に退職しています。

 

賃金規程には、基本給、諸手当(役付手当、職務手当、資格手当、精皆勤手当)、時間外手当(時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働手当)及びその他手当(業務手当、営業手当、企画手当、通勤手当)が定められていますが(3条)、歩合給の定めはありません

 

歩合給に関しては、別に歩合規定が存在します。雇用契約締結時は、固定給25万円との定めでしたが、後に19万3千円(基本給10万円、業務手当8万円、研修手当1万3千円)としています。

 

平成23年4月分までは、固定給以外に歩合給が支払われており同年5月分以降未払いとなっています。

 

 一方、Y社には、仕入や給料の支払をして安定して経営を維持するために月間最低入金を6億円とし、6億円を下回った場合は歩合を支給しないとする文書(本件文書)が存在します。

 

しかし、募集広告では基本給と歩合給を支給する旨の記載があり、面接の際も営業社員に歩合給が支給されることを示しています。また、Xは、月間売上が6億円に達しなければ歩合給が支給されない話を聞いたことはなく、Y社の月間売上が営業社員に公表されたことはありませんでした

 

Y社は、Xに、平成23年5月分以降は、売上があがらないので待ってほしいと述べていました。さらに、給与明細書では、総支給額から所得税の源泉徴収をしていました。平成23年5月分以降の明細書でも、歩合給を記載して源泉徴収している明細書の交付をしています。

 

【裁判所の判断】

 判決で裁判所は、上記事実を認めたほか、本件文書は、入社前の21年5月21日に作成されており、その内容を雇用契約の内容として適用しようとすれば、入社前の段階で認識させる必要があり、そうすることが可能であったことを指摘しました。

 

そのうえで、このルールを説明しXが同意した事実は認められないこと、歩合給を支給する前提で明細書から所得税を源泉徴収していること、平成23年5月分以降、明細書通りの支払をしないことに関し、本件ルールを理由とした説明もないままに一部を支払い、残余については売上が上がらないことを理由に支払いの猶予を求めていることに照らせば、歩合の支給において本件ルールによるという意思を有していたと認められず、むしろ、明細書に記載した結果を歩合給として支払う意思であったと認められるとしています。

 

なお、Y社は、実際に支払う歩合給は明細書記載の金額より小さいと主張していますが、平成23年4月分まで明細書に記載した金額を支払っているのだから、支払われるべき歩合給の額は、明細書の金額と推認されるとしています。

 

 結果として、明細書記載の合計296万0467円から支払済みの46万3000円を引いた249万7467円の支払い命令が出されました。Y社は、支払うにしても、源泉徴収後の金額である旨を主張しましたが、裁判所は、所得税の源泉徴収義務は、給与等の実際の支払の際に成立するものである(所得税法183条1項、国税通則法15条2項2号)として、認めませんでした。

 

(ZKR(旧全管連)事件 大阪地裁 平成26年1月16日判決)

 

今回のような事案に接しますと、あらためまして、可能なときに、企業側に説明と同意が要請されており、適切に行うことが必要であり、それが無い場合は企業側にとって不利な要素になり得るのだと言えます。

 

今回の事案のように、企業側に様々なもくろみや考えがあって取り決めをしているケースわあるのですが、その内容を明示せずに、後付で理由を付けても通るものではなく、リスクになることを知っておく必要があります。

 

また、労働者のほうは、会社が正しい内容を通知するかどうかは別としまして、しっかり労働条件の確認を求めその時の会社の回答や態度などを記録しておくようにすることが対抗手段として肝要です。

 

細かい点まで判断がなされていますので、参考になるかと思います。

 

今回、取り上げる事例は、労働者がパワハラと主張して声をあげたものの、司法判断において、否定されたものです。いかなる要素が欠如あるいは加味されると、パワハラが否定あるいは肯定されるのかについて検討するのに参考になるかと思います。

 

 原告Xは、平成19年7月1日に被告Yと雇用契約を結び、サービス部門の車検、点検、自動車の修理業務に携わり、平成23年2月10日に退職しています。

 

Xからは、上司によるパワハラ行為により退職を余儀なくされたことが主張されています。本件の争点は、Xの上司がパワハラ行為を行ったかの事実とそうであった場合のY社の責任です。

 

Xの主張する上司Dのパワハラ行為を整理してみます。

 

➀Dは、後輩が仕事上のミスをすると、自分の指示の曖昧さ、不的確さにも原因があるのに、Xに責任転嫁し、お前の能力が低い、段取りが悪いなどと罵って、人格への非難を加えた。

 

➁Dのパワハラによって、入社間もないEやKが退職した。Dは両名の退職はXのせいであるように責任転嫁した。

 

➂Dは、Xがリフトに自動車を入れて作業をしていたところに強引に割り込み、Xの作業を後回しにさせ、客を長時間待たせた。Dはその振る舞いを棚に上げ、「お前の作業が遅いから客に文句言われたやないか」などと叱責した。

 

➃XはY代表者に対し、Dの行為を止めさせるべく善処を求めたが、代表者は具体的な対応をしなかった。

 

➄XはDから徹夜での作業を命じられ、翌日も通常勤務を命じられたが、「お前の仕事が遅いから・・俺がせにゃあかんようになった」と罵られ、謝罪を要求された。

 

➅新車の納車作業に関して引継ぎノートに書いたが、Dは、「書いてあることが分からんから何もやってへん」などと言いがかりをつけられた。

 

➆➅のDの対応について苦情を述べたが、代表者は「協調性がない。上司の言葉は神様の言葉に等しいから素直に聞き入れろ」とXを非難し、Dの対応を我慢するように要求した上、「頭を冷やせ」と強制的に2日間休業させた。

 

その他にも、作業中に怒鳴られる、ブレーキパッドを投げつけられるなどのハラスメントを受けたことをXは主張しました。

 

 裁判所は、Xの主張について、具体的な時期と経緯が特定されたエピソードとは異なり、時期も特定されていない概括的なものであり、本人の供述も具体的にいついかなるどのような言動を受けたことを指してるのかは明らかではない。

 

いくつかの点では、Xの陳述書の記載以外これを裏付ける証拠はない旨を述べ、パワハラの事実は否定されています。

                          〔下線は社労士亀岡が付す〕

 

パワハラなどのハラスメント行為の主張がされた場合は、発した言葉は録音などが証拠になり得ますが今回はそうしたものはありませんでした。

 

ハラスメントでは音で記録化できない言動も多くあるわけですが、具体的な内容をメモや日誌に記録してあるなどされていると供述の信憑性が出てくる可能性があります。

 

企業としては、「どうせ録音など証拠なんかないs、否定すればいい」と真剣に受け止めないでいますと、詳細なパワハラ記録(メモ、ノート、日記など)が提出され、心証が労働者に大きく傾く可能性もあります。

 

本件のような、責任転嫁のシーンなどは証拠があるわけないと安心しないようにすべきかと思います。労働者にとっては、「心証」で勝負できることも念頭におき、録音や動画がないからと、泣き寝入りするだけが採るべき道ではないことも思考していいかと思います。

 

このハラスメントの記録については、別な機会にこのブログで、詳細に記載したいと思います。

 

本件は、Xが上司のパワハラ行為について懸命に主張をしているのですが、労働者の主張がなされた場合の裁判所の取り扱いについて学ぶよき素材であると言えます。

 

(ホンダカーズA株式会社事件 大阪地裁平成25年12月10日判決/労判1089号82頁)