不動産関連商品などの営業をやっていた社員(X)が、歩合給が未払いであるとして、会社(Y)に支払いを求めた事件です。
【事 実】
Xは、平成21年7月5日雇用契約を締結し、平成24年4月15日に退職しています。
賃金規程には、基本給、諸手当(役付手当、職務手当、資格手当、精皆勤手当)、時間外手当(時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働手当)及びその他手当(業務手当、営業手当、企画手当、通勤手当)が定められていますが(3条)、歩合給の定めはありません。
歩合給に関しては、別に歩合規定が存在します。雇用契約締結時は、固定給25万円との定めでしたが、後に19万3千円(基本給10万円、業務手当8万円、研修手当1万3千円)としています。
平成23年4月分までは、固定給以外に歩合給が支払われており、同年5月分以降未払いとなっています。
一方、Y社には、仕入や給料の支払をして安定して経営を維持するために月間最低入金を6億円とし、6億円を下回った場合は歩合を支給しないとする文書(本件文書)が存在します。
しかし、募集広告では基本給と歩合給を支給する旨の記載があり、面接の際も営業社員に歩合給が支給されることを示しています。また、Xは、月間売上が6億円に達しなければ歩合給が支給されない話を聞いたことはなく、Y社の月間売上が営業社員に公表されたことはありませんでした。
Y社は、Xに、平成23年5月分以降は、売上があがらないので待ってほしいと述べていました。さらに、給与明細書では、総支給額から所得税の源泉徴収をしていました。平成23年5月分以降の明細書でも、歩合給を記載して源泉徴収している明細書の交付をしています。
【裁判所の判断】
判決で裁判所は、上記事実を認めたほか、本件文書は、入社前の21年5月21日に作成されており、その内容を雇用契約の内容として適用しようとすれば、入社前の段階で認識させる必要があり、そうすることが可能であったことを指摘しました。
そのうえで、このルールを説明しXが同意した事実は認められないこと、歩合給を支給する前提で明細書から所得税を源泉徴収していること、平成23年5月分以降、明細書通りの支払をしないことに関し、本件ルールを理由とした説明もないままに一部を支払い、残余については売上が上がらないことを理由に支払いの猶予を求めていることに照らせば、歩合の支給において本件ルールによるという意思を有していたと認められず、むしろ、明細書に記載した結果を歩合給として支払う意思であったと認められるとしています。
なお、Y社は、実際に支払う歩合給は明細書記載の金額より小さいと主張していますが、平成23年4月分まで明細書に記載した金額を支払っているのだから、支払われるべき歩合給の額は、明細書の金額と推認されるとしています。
結果として、明細書記載の合計296万0467円から支払済みの46万3000円を引いた249万7467円の支払い命令が出されました。Y社は、支払うにしても、源泉徴収後の金額である旨を主張しましたが、裁判所は、所得税の源泉徴収義務は、給与等の実際の支払の際に成立するものである(所得税法183条1項、国税通則法15条2項2号)として、認めませんでした。
(ZKR(旧全管連)事件 大阪地裁 平成26年1月16日判決)
今回のような事案に接しますと、あらためまして、可能なときに、企業側に説明と同意が要請されており、適切に行うことが必要であり、それが無い場合は企業側にとって不利な要素になり得るのだと言えます。
今回の事案のように、企業側に様々なもくろみや考えがあって取り決めをしているケースわあるのですが、その内容を明示せずに、後付で理由を付けても通るものではなく、リスクになることを知っておく必要があります。
また、労働者のほうは、会社が正しい内容を通知するかどうかは別としまして、しっかり労働条件の確認を求めその時の会社の回答や態度などを記録しておくようにすることが対抗手段として肝要です。
細かい点まで判断がなされていますので、参考になるかと思います。