山形大学のパワハラ対応から見えるもの | ★社労士kameokaの労務の視角

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ー特定社会保険労務士|亀岡亜己雄のブログー
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 現代の雇用社会は、パワハラの例が後を絶ちません。真実、パワハラ行為が横行しているのか、なんでも”パワハラ”と言われるようになったのか・・・その真偽は別としまして、パワハラと言われる要素や要因が職場に浮上しないようにすることは、企業の労務管理にとって、最重要課題になっていることは間違いようです。
 
今回、取り上げます例は、どちらかというと、あまり見聞きしたくない品のない例なのですが、ニュース記事から取り上げてみたいと思います。企業の最重要課題との意識に基づくと、事前措置、つまり、パワハラが起きにくいように事前に対策することが大切になりますが、今回の例は、事後対応の不適切さが目立っている例となっています。
 
ニュース記事から事実です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・山形大学リチウムイオン電池研究施設xEV飯豊研究センター(山形県飯豊町)で、職員が「パワーハラスメントパワハラ)」を受けたとされる問題で、山形大学職員組合が9日、昨年秋に職員の机に残されていたという書き置きの画像を明らかにした。「役立たず」「ボケが」などと記されており、組合は同センター長が書いたとみている。
 組合はこれまでに3回、パワハラの実態把握や対策などを問う質問書を小山清人学長宛てに提出したが、大学側は全職員に注意喚起したとした上で「個別の事案には個人情報保護の観点から答えられない」などと回答している。
 記者会見した品川敦紀執行委員長=理学部教授=は「大学側の回答はいずれも通り一遍。対策内容も明らかでなく、引き続き真剣な対応を求めていく」と話した。
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記事の記述はこれだけしかありませんが、それでも不適切な点をうかがい知ることができます。
 
まず、組合がセンター長の行為とみている点ですが、普通に問題なく勤務しているのであれば、組合が事実をねつ造しようとしない限り、センター長が書いたとの疑念は浮上しないと考えるのが筋です。
 
ましてや組合が事実を作出するとは考えにくいところです。このあたりに、職場の問題、職場環境の問題、センター長の言動の問題が日頃からあった、若しくは、全く問題がなかったとは言えないのではないかと考えられてしまうことになります。労働者にとって、この点が疑念となるところです。
 
このような疑惑や疑念が残っていると被害者を中心とする労働者は、抗戦する姿勢を強めることにもなります。パワハラなどのハラスメントでは、この傾向が顕著であるように思えます。
 
多くの企業では、パワハラの事実の有無を主張することが散見されますが、この点では事実の有無を主張しても、労働者の納得性は得にくい状況になっていると言えるでしょう。
 
次に、組合は学長に、実態把握や対策を問う質問書を3回提出しているとあります。実態調査の要求、浮上したパワハラ疑惑に対する対策を大学のトップに求めているわけです。これに対する大学側の事後対応が問題です。
 
全職員に注意喚起したとコメントしている行為ですが、注意は、普段の労務管理の中で行われるべき段階のもので、問題が浮上した場合は、まず、被害者から詳細な事情を聴きとり、次に、加害行為者や関係者から詳細な事情を聴きとり、周囲の者からも念入りな聞き取りを行うとする方針を示し、その通り行為するのが筋です。
 
ハラスメントの場合、企業が今回のような態度に出ることが多いようですが、やはり企業対応として不適切との評価になってしまいます。浮上したハラスメントの出来事に対応した、向き合ったとは言えないでしょう。
 
企業からすれば、注意したと言って事実に触れずに済まそうともとれるわけですが、被害労働者からは、ハラスメントの事実の有無以外に、企業対応の問題点を指摘されることにもなるわけです。かえって、問題点を増殖させてしまっています。実際、こうした対応は割と多いと思います。
 
事実には向き合わないといけないのです。企業内で生じた、疑念が浮上したとなれば、対応が求められます。上記の調査、聞き取りで重要なのは、加害行為者や周囲の労働者は、聞き取りの中で、ハラスメントの事実を否定するのが常です。
 
したがいまして、企業調査では、結果的に判明できるか否かは別としまして、否定することの信ぴょう性をも含めて明らかにしてく姿勢で臨むことが肝要になります。実務的には、こうした姿勢でハラスメントに向き合う企業は少ないように思えます。
 
加害行為者は、あくまでも「やってない」を貫こうとし、周囲の労働者は、「ハラスメントのこと知っています」などと通知すれば、企業から自分が排除されることになる可能性があると考え、本当のことを通知しない可能性があるわけです。いわゆる「保身」です。今回の例では、大学側の対応の仕方は、大学の保身の現れとも言えます。
 
個別の事案には個人情報保護の観点から答えられないとの対応は、さらによくないと言えます。調査などを行って事実を明らかにし、ハラスメントの疑いに向き合う行為と個人情報は関係ないかと思いますが、こうした発言にも対応しないとの姿勢、調査をして明るみになれば大学としてまずいとの思惑がうかがい知ることになるわけです。
 
近年は、様々な労働問題に対応していますと、最初から理由をつけて対応しないバージョンが増えたように思います。しかし、こうした企業態度が被害労働者の感情を逆なですることになっているようで、結果的に労働問題をエスカレートさせているように思えます。
 
さて、一般的なハラスメントの話を交えてみましたが、今回の例のように、大学のようなアカデミックの現場でのハラスメントは多くみられるようになりました。世間の注目を浴びるだけに、対面や評判の意識が先にきて、事を明らかにする姿勢が欠如していると感じることがあります。
 
企業側は、パワハラの事実を明らかにしなければいい、事実を否定すればいいとの姿勢が強いように思うのですが、被害労働者が指摘するのは、ハラスメントの事実よりも、企業の事前措置と事後対応の問題であることが多くなりました。
 
ぜひ気を引き締めて企業に適切に事前措置と事後対応を行ってほしいと思います。厚生労働省の明るい職場応援団は非常によくできていますので、これを参考に考えてもいいかと思います。
 
ハラスメントの事実、申告、疑惑から逃避・回避するのではなく、受け止め向き合うことで、きちんと対応する企業との評価を得ることも一つの道であると考えます。また、まったく問題のない企業体はないでしょうから、問題に向き合う姿勢が評価されることで、「ここなら信用できる」との尺度になったほうが企業の利益になるとも考えます。