労働基準監督署何をどこまでやるところなのか | ★社労士kameokaの労務の視角

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ー特定社会保険労務士|亀岡亜己雄のブログー
https://ameblo.jp/laborproblem/

ほとんどの労働者や企業が、労働基準監督署というものをきちんと理解していないと感じることがあります。それは、労働基準監督署という名称のなかに、「労働」と「監督」という単語が存在していることが要因ではないかと個人的には思います。

 

今さらながらではありますが、いつかは整理しておくべきことですので、今回、整理しておきたいと思います。労働者、企業ともこのブログをお読みいただきぜひ参考にいていただきたいと思います。

 

まず、全体、つまり、森をみておきたいと思います。大元は国、厚生労働省になります。厚生労働省の下に、労働局があります。労働局は、各都道府県に一つあります。だいたい県庁所在地にあるかと思います。

 

労働局の下に、労働基準監督署と公共職業安定所(ハローワーク)がぶらさがっております。労働基準監督署や公共職業安定所(ハローワーク)は、都道府県により数は区々です。おそらく東京が最も多いのではないかと思います。小職の事務所がある埼玉県では、そんなに数はありません。

 

なにしろ埼玉県の東部地区だけで春日部労働基準監督署1箇所で対応しています。東部地区はかなり縦長なエリアで広いのですが、東部地区で1か所なのです。他にさいたま市、川口市など管轄ごとにあります。数は多くはありません。

 

ちなみに、多くの方が口にする「労働基準局」という名称の行政機関はありません。あるのは、「労働基準監督署」「公共職業安定所(ハローワーク)」です。労働基準局と言われると、労働局と労働基準監督署が合体したような単語なので、労働基準監督署ですか、労働局ですかと質問することになります。

 

それから、都道府県の労働局のホームページはありますが、労働基準監督署ごとや公共職業安定所(ハローワーク)ごとのホームページはありませんので、念のため、知っておいたほうがいいかと思います。

 

ここまでで、森の話になります。次に、木の話です。木と言っても今回は、労働基準監督署の話です。冒頭触れましたが、「労働」「監督」という2つの単語が、一般の人のイメージを決めてしまっているようです。多くの労働者や企業は、労働に関することを全て監視したり、対策したり、問題を解決したりと行って

いるところというイメージなのではないかと思います。特に、労働者のみなさんに、そのイメージが強くあるようです。

 

実は、労働基準監督署の役割はまったく違います。労働基準監督署が業務の対象にするのは、安全衛生や労災以外では、労働基準法の条文に書いていることだけが業務範囲なのです。それも、明確に書いてあることだけです。

 

労働基準法のほとんどは、違反の程度により罰則がついており、行政機関の取り締まり法規になっています。違反しないように遵守しなさいと法が言っているのは企業=使用者なのです。ただし、そうなっているのは、労働基準法だけなのです。つまり、労働契約法、男女雇用機会均等法、派遣労働法、雇用保険法、健康保険法、年金法などは労働基準監督署の業務対象ではありません。

 

小職が実務をやっていますと、労働基準法よりも労働契約法の対応問題ほうが非常に多いように思えます。労働契約法の解釈やあてはめにより分析・検討することが多くあります。その点で、小職は、労働契約法を非常に重くみて労務対応、労働問題対応しています。

 

現代社会で問題が多発しています、パワハラは、そもそも法律も行政通達もありませんので、いうまでもなく、労働基準監督署の管轄ではありません。

 

さらに、労働基準法の条文に書いていることがすべて労働基準監督署の業務対象になるわけではありません。たとえば、判断を必要とすることなどは、労働基準監督署に言っても解決できないことが多くあります。以下に、労働基準監督署で解決できない、あるいは、扱えないことを例示列挙しておきます。

 

・休憩時間に業務を命じられる、仮眠時間に仮眠がとれない・・労働時間か

・タイムカードも時間の記録もない・・残業が毎日あると言えるか

・給料が2万円減額された・・不当な減額と言えるか

・「やってもらう仕事はない、こなくていい」・・解雇されたと言えるか

・就業規則はないが、年次有給休暇を24日要求したら10日だと言われた・・24日とれるか

・会議でみんなの前で恫喝され、仕事外しにあった・・パワハラか

・明日から××の部署へと配転命令をうけた・・不当な配転命令か

・いじめがひどく就労不能になり退職届をだした・・自己都合退職か

・派遣先で自分だけ指示命令がない・・不当な扱いと言えるか

・派遣先でセクハラにあった・・セクハラがあったと言えるか

・パワハラでうつ病になった・・損害賠償の対象になるか

・元従業員が競業他社に勤務した・・損害賠償の対象にしてよいか

・規則を守らない従業員を懲戒処分にしてよいか

 

とりあえず、これくらいにしておきます。また、ブログの中で触れるときもあるかと思います。あげれば、いくつでもずーといってしまいますので止めておきます。

 

このように、労働基準監督署では対応できないことが山のようにあります。だいぶ、おわかりいただけたかと思いますが、労働基準監督署で対応できることは、ほんのわずかなのです。労働基準法にはっきりと書いていることだけです。

 

はっきり書いていないことは、判断を必要とするグレーな事柄なので、労働基準法に関する事項でも、労働基準法の条文の解釈とあてはめに委ねることになります。この点は労働基準監督署は行いません。また、条文の解釈とあてはめのためには、労働法の研究者の見解や裁判例の考え方が拠り所になります。

 

最も大切なことがあります。労働基準監督署のスタッフは公務員です。そう、警察と同じで民事不介入です。おそらく、労働者と企業が向き合う問題のほとんどが一般民事の世界かと思いますので、労働基準監督署は民事不介入でタッチできないのです。労働基準監督署に相談に行った際に、はっきり労働基準監督署の方が言わないと感じたことはないでしょうか。確定的なことは言えませんが、それは、業務管轄外だということもですが、民事不介入であるためかもしれません。

 

もし、労働基準法に明確に書いてあることがあり、それに違反することがあると判断した場合、労働基準監督署は企業に指導票の交付または是正勧告命令書の交付を行って、直ちに改善を指示します。労働基準監督署の「署」は「とりしまる」という意味ですから、労働基準監督官には司法警察権の役割も与えられています。つまり、逮捕できるのです。もっとも、かなり悪質な場合になりますが・・。税務署や警察署も「署」なので同じ意味です。

 

相談について触れておきますが、労働基準監督署に相談するにしても、電話ではなくきとんと出向くようにしましょう。労働基準監督署のスタッフは、行けば、業務管轄外のことでも話を聞くまではすると思います。ただ、最近は、業務管轄外などの場合、労働局のあっせんを紹介する、あっせん紹介所と化していますが・・・。相談ごとは、顔を見ながらのほうが伝わりやすくなります。めんどうだからと時間の節約だからと電話で簡単に聞こうとする姿勢は解決には適していないかと思います。資料などをもって確認してもらい話をするのは解決に向かう姿勢の表れかと思います。

 

以上、労働基準監督署についてざっくりしたことを整理してみました。参考になりましたら幸いです。