今回取り上げます裁判例は、世間的には残業代、法的には割増賃金となりますが、時間外労働手当の支払を免れる「管理監督者」と言えるかについて争われたものです。管理監督者にあたるとなれば、会社は、時間外労働に対する割増賃金を支払う義務はないとなるため、非常に大きな問題です。そこで、あらためて、いかなる要素によって判断が変わるのかを学ぶえで有益な例かと思います。
【事実】
弁当チェーン(ほっともっと)、飲食店チェーン(やよい軒)を営む会社(被告Y)で店長として勤務していた元従業員(原告X)が、未払いの時間外労働手当を請求した事件です。Yが労基法41条2号の管理監督者として扱ってXの時間外労働手当を支払っていなかったことについて、Xの管理監督者性が争点となりました。
Xは退職しています。Yでは、店長に係る役職としてOFC(オペレーションフィールドカウンセラー)がおり、店舗業務を統括し、人事や職場管理、服務規律の監督指導を行います。就業規則では、4級以上の者、MGR職及びトレーナー職の者、OFC職及びエリアMGR職の者、直営店店長職の者は管理監督者に該当すると規定しています。
Yは、所定労働時間は7時間45分で、平成26年9月17日付けで、栃木労働基準監督署より、Xの時間外労働に対する割増賃金未払いが労基法37条違反であると指摘され是正勧告命令を受けていますが、Yは、労基法の管理監督者にあたるとして労基法違反の指摘は当たらない旨を報告し、労基署は何も手続きを行っていません。
Xの業務実態等は、①人事に関して、Xはクルーの採用(募集、勤務時間の決定、面接、適性の判断、雇用契約書の締結)の権限を有していましたが、OFCに相談しながらOFCの決済を経て募集をかけていました。クルーの時給の決定、昇給・昇格、雇止め・解雇の権限も同様でした。また、Xはクルーのなかで正社員を希望する者がいる場合は、OFCに伝えるだけでした。
②店舗運営に関して、Xはクルーの勤務シフトを作成しますが、Yから決められていた売上予算に対し使用可能な労働時間の範囲内での配置が求められ、売上の実績値が計画を下回らないようにSVやOFCから指導されていました。食材の仕入れや消耗品の購入は、1000円未満の場合は購入できたが、1000円以上となる場合は、SVやOFCの許可が必要でした。Xには店舗の営業時間やメニューを決定する権限はありませんでした。
③他の職位者との関係では、ほっともっとの新規出店の店舗管理を行い、店長と同一の権限と責任を有するオープニングリーダーがいましたが、管理監督者とはされていませんでした。
④勤務態様に関して、遅刻・早退の規定、懲戒事由の規定、給与減額の規定などが適用除外されていました。タイムカードの勤怠管理はなく、出勤時間や休日の取得について自己の都合で決定できましたが、クルーが不足するなどの場合、店長は自己が管理する他の店舗や他の店長が管理している店舗の責任者として調理・販売を担当できるとされていたものの、なお不足する場合は、店長自身が担当することが求められていました(シフトイン)。シフトイン時間だけで月200時間を超える月がままあり、相当長時間に及んでいました。
⑤賃金等の待遇に関して、基準内給与のほか店舗管理手当(3店舗10万円、2店舗7万円、1店舗5万円)があり、インセンティブとして売上連動手当が支払われることとされていました。
【裁判所の判断】
裁判所は、①について、人事に関する権限は限定的で、②について、店舗運営に関する裁量の幅は広いものではなく権限は制限されている、④について、連日シフトインがあり、労働時間に関する裁量は限定的で、クルーと同様の調理・販売に従事する時間が相当部分を占めており、勤務態様も、労働時間等に対する規制になじまないようなものであったとはいい難い、⑤について、年齢、勤続、職能などで給与水準が決定され、店舗管理手当のみに着目して管理監督者にふさわしい待遇か否かを判断することは相当でない。
また、平成25年度のXの年収は、全体の平均年収を下回っており、約2年において、月300時間を超す実労働時間になっている月が13回あることなど、労働時間の規制をしなくても、その保護に欠けるところがないといえるほどの優遇措置が講じられていたと認めることは困難である。
裁判所は、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって、労働時間、休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にあるかを、職務内容、責任と権限、勤務態様及び賃金等の待遇などの実態を踏まえ、総合的に判断すべき」との従来の判断枠組を踏襲し、結果、Xは管理監督者に該当しないとしました。
※下線、太文字は亀岡が記す。
なお、退職者に対する賃金請求でしたので、遅延損害金について、14.6%(賃確法の利率)の請求でしたが、賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由(労基署が特段の手続きをとっていない)により裁判所または労働委員会で争っている(賃確法施行規則4条2項4号)状況にあるとして、6%(商事利率)を適用している点は注目すべき点です。
管理監督者のテーマは、就業規則に規定しても、実態に基づく判断が尺度となり、相応の要素が求められることをあらためて示しています。また、適用された判断枠組みは揺るぎないものでその実態に対するあてはめにより判断されることをあらためて示している事件と言えます。
企業側のイニシアティブ、つまり、企業が「管理監督者だから」と決めれば、法定割増賃金を支払わなくていいことになるわけではないことをこの例を参考に確認しておきましょう。この点は、就業規則にいかなる規定をしてもカバーしきれるものではありません。
企業の対策の歩みの中で、第一に実施してほしいステップは、100%判断がつくとは限りませんが、管理監督者性の有無について、労働基準監督署に相談し助言を得ておくことと考えます。
【補足】
遅延利息は、退職者の賃金債権(退職金を除く)については、14.6%が適用になります(賃金の支払の確保に関する法律第6条第1項、同法施行令第1条)。ちなみに、民法上は5%、商事法定利息は6%(相手が商法上の商人の場合)ですが、賃確法が優先されます。これがノーマルなあてはめになるところです。
しかし、賃確法第6条第2項に「賃金の支払の遅滞が天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによるものである場合には、その事由の存する期間について適用しない」と定められています。つまり、厚生労働省が定める特別理由がある期間は、14.6%を適用しないとされています。
そこで、厚生労働省令ですが、「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争つていること」(賃確法施行規則第4条第2項第4号)と規定されています。今回の判断理由となった「合理的な理由」ですが、労基署が特段の手続きをとっていないということがこれに該当するとしています。
よって、賃確法6条の遅延利息の適用対象とはならないものの、相手が商法上の商人であることは間違いないため、商事法定利息6%が適用になりました。
遅延利息について、わかりにくいうえに、専門書籍においても、あまり記述がみられないのではないかと思いますので、補足しておきます。
使用者にとっては、遅延利息が下がるわけですから歓迎する話ですが、労働者からすれば、労基署が何も手続きをとっていないことが、後々、こんなふうに歓迎しない話になる場合もあることを知っておく必要があります。ただし、労働者がコントロールできることではないし、労働基準監督署も何に影響するかを考えて業務を遂行しているわけでもないと思われます。
(プレナス事件/大阪地判平成29年3月30日・LEXDB25448607)