最近は、労働問題と言えば必ず「パワハラ」が関係すると言っていいほど、「パワハラ」が多い。当事務所でも年間を通してかなりの件数のパワハラ問題を取り扱う。何回もパワハラ対応を行っているのだが、いたってマンネリ化せず、新しい手法に驚かされる。
今回、取り上げる事案もそうである。場所は京都刑務所で、加害行為者とされるのは刑務官、被害者とされ得るのは2名の受刑者である。刑務官から受刑者へのパワハラ行為自体があってはいけないのだが、奇妙なのは行為内容である。以下に記事を掲載しておく。
去年、京都市山科区にある「京都刑務所」で刑務官が複数の受刑者に対して、マスクがずれていたことを理由に“一発芸”をするように強要していたことがMBSの取材でわかりました。 京都刑務所の元受刑者の男性によりますと、去年冬ごろ、男性刑務官が受刑者2人に対して、一発芸をするよう強要するハラスメント行為をしたということです。 男性がいた雑居房には当時5人の受刑者がいて,声が大きいなど問題行為がある場合に減点されて、テレビを見ることができなくなっていたということです。男性刑務官は、受刑者のマスクがずれて鼻が出ていたことを指摘し、「減点されたくなければ一発芸をしろ」などとして、受刑者2人に女優や怪獣の真似をさせたということです。 (被害を受けた元受刑者の男性) 「ゴジラが出てきたところで、びっくりするものまねなんやろうと刑務官が言い出して、お前がしろといわれたんです。刑務官が楽しがっているのか何のためにやっているのか僕にも理解ができないですけど」 京都刑務所は、関係者に謝罪して刑務官を注意したということですが、MBSの取材に対して「公表する事案ではないので回答は差し控える」としています。
こうした事案もコロナ騒動の一幕を彩るシーンと言えるかもしれない。受刑者のマスクがずれていただけで一発芸を強要している行為なのだ。真実はわからないが、何かマスクを餌にして本音では一発芸をさせて楽しんでいる行為のようにも受け止められる。
受刑者の「刑務官が楽しがっているのか何のためにやっているのか僕にも理解ができないですけど」
といったコメントにも現れている。
もし、本当にマスクがずれているだけで芸を強要しているのなら裁量権逸脱であろう。芸をさせていいことにはならないし、マスクをきちんとすることが刑務所でのルールだとしても、注意喚起で足りるはずである。
さらに、5人の受刑者の声が大きいという問題で減点されテレビを見ることができなくなっていた状況は、そのような減点になるルールだったということ、大声の問題があったことなどから頷けるものである。わからないのは、このことと2名の鼻だしマスクとの関係である。記事からはよくわからない。
減点されたくなければ芸をしろとの事実がみえる。減点が多くなることで、さらなるペナルティがあるのかもしれない。
いずれにしても、刑務所で鼻だしマスクが禁じられて、減点の対象になるのであれば、そのことを告知すれば済むだけである。
加えて、強要している内容がすごい。女優か怪獣の真似とは、刑務官が受刑者を利用して遊んでいるとしか思えない行為だ。パワハラの行為アイテムに「ものまね」が・・・いじめ・嫌がらせ行為は違いない。
少なくとも、受刑者に規律を指導することなどとは程遠い行為である。つまり、刑務官の業務上の必要行為ではない。
法的なパワハラに該当するとされる代表的な類型にあてはめると、「人格を否定するような侮辱的な言動」にあたる精神的な攻撃であろう。勤務に直接関係のない作業(この場合はものまね)を命ずるという過大な要求にもあたるかもしれない。
受刑者は勤務している者ではないが、パワハラの内容やグレードとしては、勤務者である刑務官が、受刑者の服役に直接関係ないことを強要している点で過大な要求の例にあたる可能性もある。
刑務所内の珍事件ではあるが、社労士としては、また、珍しいパワハラの手口であると、こうして検討せずにはいられない。
数年前にニュースになったパワハラ事件、確か、静岡県警だったと記憶しているが、LINEの仲間にならないことからパワハラが始まったという事案があった。その時もパワハラの内容に目が点になった。腕立て伏せ150回や鍋の熱々豆腐を頬につけるなどの行為だった。警察ならではと言えるパワハラ行為に唖然とした。調査の結果、複数名の警察官が処分を受けた。
京都刑務所内のパワハラ行為もそれに匹敵するほどの珍事件パワハラと言えるであろう。
【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】