老人の食欲を出すこと | kyupinの日記 気が向けば更新

老人の食欲を出すこと

リエゾンでは高齢者の食欲を出してほしいと言う依頼がある。

これは珍しくなく食欲が落ちる状況では内科、外科的治療が進められなくて困っていることが稀ではない。(手術ができないなど)

過去ログでは食欲不振に加え、介護する奥さんへの暴力が酷く困っていた老人の男性にヒルトニンを投与し治癒した例が出てくる。

食欲がない場合、どのような疾患に由来するものかが重要である。一見、食欲不振の理由がないように見えることも珍しくない。

過去には、このような人にドグマチールが良く使われていたが、実際、リエゾンを受ける際に、既に内科医によりドグマチールが処方されていることもある。

ここで重要なのは、高齢者の食欲不振にドグマチールを投与するのは時代遅れであること。

過去ログのドグマチールのテーマを読むと、ドグマチールの副作用で全く動けなくなったり、歩けなくなった老人の話が出てくる。高齢者にはやはりドグマチールはEPSの副作用が重く出ることがあり、デメリットが上回ることも多い。現代社会では、打つ手がない場合に、試す価値がある程度の薬物になっている。

ドグマチールだけでなく、EPSを生じやすい抗精神病薬は当初はあまり問題がなかったのに、時間の推移とともにEPSが出てきて、姿勢が悪くなったり、歩行がおぼつかなくなるとか、嚥下が悪くなる事態に至る。結局は誤嚥性肺炎を生じ死期を早める結果になる。

ドグマチールは特に若い人や中年~60歳くらいまでは問題なく投与できる人がほとんどなので、医師も錯覚しやすい。

まず、食欲不振の原因の評価をすること。もしうつ状態が原因なら、今ならリフレックスが良いと思う。うつ状態の程度にもよるが、高齢者なら半錠から開始する。これで結構食べるようになる人多数。服用するかどうかで大違いである。もしリフレックスがない場合、ルジオミールでも良い。

疼痛が前景にあり、うつも多少ある人ではリフレックスかリリカの少量が優れている。リフレックスではうまくいかなかったのに、リリカで劇的に食欲やうつが改善するケースがある。量は25mg程度で良い(高齢者なので)。

老年期の精神病性の興奮を伴う食欲不振では、リフレックスも悪くないが、稀に興奮や暴力を悪化させることがある。ここで、このタイプの患者になぜリフレックスが良いのか不思議に思う人もいるかもしれない。

リフレックスはある意味、非定型抗精神病薬のMARTA的な薬物の色彩を持ち、うつ状態ではなく、興奮性要素のある病態に有効なことがあるからである。これは老年期の興奮は本来うつ病的背景があることも稀ではないこともたぶん関係している。

老年期の興奮かうつ病性の興奮(焦燥)なのか不明なケースは、セロクエルかリフレックスが勧められるが、セロクエルは糖尿病に禁忌なので、そういう人はセロクエルが投与できない。糖尿病ではない人は、セロクエルは投与可能だし、EPSも比較的少ないので推奨される。

この曖昧な病態で、稀にリフレックスで興奮、暴力などが生じた場合は、食欲を出す視点ではセロクエルかジプレキサが良いが、セロクエルを優先すべきだ。ジプレキサはやはり老人には重い薬だからである。

ジプレキサは末期癌などにより生命予後が不良で、しかもセロクエルで抑えられない、あるいは効かないケースでは推奨される。

食欲不振では、ぺリアクチンシロップなども良いが、高齢者の場合、この薬による抗ヒスタミン作用に伴うせん妄を惹起するケース(理論で考えるほどほど多くないが)もある上、今は適応外で主治医によく説明しなくてはならないため、処方し辛い。

西洋薬が全て使えない状況だと、ツムラ41(補中益気湯)かツムラ48(十全大補湯)くらいだが、服薬しない人は漢方薬はなお更服薬しない(拒食と拒薬がセットの人も稀ではない)。

サプリメント系では、レスキューレメディーやオリーブ(ともにバッチフラワー)も効いておかしくないが、リエゾンでは不適切である(説明するのが面倒)。(参考

意識障害が前景にある場合、ヒルトニンも良い可能性があるが、リエゾンでは適応外処方であることや、療養型病棟も多いことから、医療経済的に不適切である。興奮が強い場合、デパケンシロップやセロクエルを投与し時間を待つ方針くらいが無難。デパケンシロップは若い人では食欲を増す傾向があるが、老人の場合、うまくいかず逆の作用も出かねないので、食欲だけならデパケンシロップは優先しない。

明らかに認知症のあるうつ状態のような人はメマリーを使うことで認知や興奮が改善し、以前よりうまく食事が取れるケースがある。つまり、メマリーは老人の食欲不振に対し治療的である。それに対し、アリセプト、レミニールなどのコリンエステラーゼ阻害薬は胃腸に対し良くない薬なので、いったん中止するくらいが良い。

だいたい、アリセプトを中止するだけで食べ出す人がいるほど。

食欲増加に可能性のある薬物群。

オーソドックスなもの
リフレックス
セロクエル
リリカ
ルジオミール
ツムラ41及びツムラ48


慎重に投与すべき薬物
ジプレキサ
ドグマチール
ペリアクチンシロップ


謎の薬物
バッチフラワー