ドグマチールと老人 | kyupinの日記 気が向けば更新

ドグマチールと老人

もう10年以上前の話だ。NHKでドグマチールの副作用、パーキンソン症候群のためほとんど動けなくなった老人について特集していた。その高齢の男性患者さんは車椅子の状態でほとんど歩けず、食事も介助が必要な状態であった。この老人がこのようになった理由だが、単にドグマチールを1日150mg服用していただけだ。おそらくすべての老人がこうなるわけではないと思う。老年期になると、何もしなくてもパーキンソン症候群になる人もいるくらいなので、その疾患に親和性があるか、あるいはよほど薬に弱かったのだと思われる。

このNHKの番組では、この老人患者が薬を抜いた後もなかなか回復せず、時には半年から1年くらい回復に時間を要することもあると言っていた。こういう状態で長期に放置されていると、転倒などで骨折しADLが更に下がって寝たきりに近い状況になるか、あるいはそうでなくても次第に体が弱って肺炎で死んだりする(誤嚥を起こしやすいのもある)。 老人ホームなどを訪問すると、そういう薬剤性パーキンソン症候群になっている患者さんを目撃することがある。

なぜこんなことになるかと言えば、若年~中年患者さんの場合、ドグマチールのこのような副作用は滅多にないことが大きな理由と思われる。だから、ドグマチールはそういう副作用が出現すると知っていても、ちょっと気付きにくい。同じ人でも、最初の数年は何も副作用がないこともあるからである。これは薬が貯まっていくというより、単に老化などにより受け手のレセプターに問題が生じているように見える。

上手い内科医は、神経症っぽい訴えの人にドグマチールやデパスを処方して良い評判を得ていることがある。胃腸薬ないし神経症の薬物として漫然と老人にドグマチールを処方していると、時間が経ってこういう副作用が出現しうる。最初の数年は良かったのだが、徐々に体が動かなくなっていくパターンである。こういうのは実際に加齢でADLが下がっているのか、薬の副作用なのかわかり辛い。まして老人ホームなどの施設にいた場合はなおさらである。

最近、ちょうどこのようになろうとしていた患者さんが来院した。その老人の男性患者さんは、最近になりふらついて転倒しやすくなったという。複雑な内科、精神科薬の多剤併用だったのだが、最も疑わしいのはドグマチール100mgであった。一見、有罪の薬剤がなさそうに見えても、プリンペランくらいでも同じような副作用が出現しうる。ドグマチールとセレナールと眠剤の一部を中止したら、1ヶ月もしないうちにかなり体が軽くなり動きも良くなってきた。やがて、杖もいらなくなったのである。しかも、血圧も下がってきたので降圧剤も減量が可能になった。

もともとうちに来た時に、精神科薬はドグマチール、セレナール、アモバン、デパスと言った感じで処方されていた。これは明らかにドグマチールを使い慣れている処方だと思う。

今の精神科の処方は、メイラックス1mgとアモバン7.5mgの半錠のみである。

なぜこうなるのかというと、精神科薬物でこの人のようにパーキンソン症状が出るくらいに服用していると、それだけで不眠になるので、眠剤もしっかり飲まないとバランスがとれないのである。だから、精神科薬を減らせば、それに応じて少なめの眠剤で十分になる(ことが多い)。なぜメイラックスかというと、ドグマチールが処方されるような元気がない老人はメイラックスは気のせい?くらいは意欲を出すのと、副作用の少なさによる。

複雑な内科&精神科多剤併用が、シンプルな処方にかわったのであった。