広汎性発達障害のように見える統合失調症は存在する | kyupinの日記 気が向けば更新

広汎性発達障害のように見える統合失調症は存在する

日常臨床で広汎性発達障害の色彩を持つ統合失調症の患者さんを目撃することがある。

彼らを統合失調症と診断するか広汎性発達障害と診断するかは精神科医のタイプによるが、普通、幻覚妄想が一定期間以上続いていて、ひきこもりなどの陰性症状っぽい所見も伴っていれば、統合失調症と診断する医師が多いと思われる。

実際に、そのレベルの患者さんは成人していれば「統合失調症」として障害年金を貰っていることが多い。彼らが「統合失調症ではない」という確実な証拠はない。

僕は、全く別な所見で統合失調症と診断しているので、トータルで言えば、統合失調症の人もいれば広汎性発達障害の人もいるといったところだ。(過去ログ参照)

基本的に、明確に「広汎性発達障害」と診断できるほどの子供が将来「統合失調症」に移行するのは極めて難しいと考えている。これは過去ログに出てくる「知的発達障害の子供が統合失調症になりにくい」ことに関係が深い。また、てんかんの人が統合失調症を発症しないことや、ECTが統合失調症に有効なこととも関係がある。(参考

つまり器質性の背景の大きさが関係していると思う。


僕が広汎性発達障害っぽいが、なお統合失調症と診断する人は、幼少時から大学在学~就職するくらいまで、何も広汎性発達障害的な所見がなかった人が多い。しかし大学在学中または大学卒業後就職してから、一気に統合失調症的な所見が噴出する。例えば緊張病症候群や幻覚妄想である。

診察すると、あちこちに自閉症を思わせる所見がみられる。例えばコミュニケーションの障害である。普通、統合失調症の人にもコミュニケーションの障害がみられるが、少し様相が異なるのである。例えばエコラリア(おうむ返し)がみられることもある。

この人は何なんだ!

といったところである。家族にいろいろ聞いてみると、広汎性発達障害的な生活歴ではない。病前性格もそうである。しかし本人を診ると、統合失調症に間違いない。最初はいったいどうなっているのか意味不明であった。

普通、統合失調症でも荒廃してくればエコラリアは出ておかしくない。しかし、まだ20歳代後半くらいで、発病して2~3年なのである。短い期間に急速に進行しているとしか言いようがなかった。(治療の仕方もたぶん悪かったと思う。リスパダール単剤というのがなぜか多い)

これは最近ようやく考え方がまとまってきた。

このような経過になった理由だが、極めて軽微な脳器質性障害があったために、統合失調症発症の発病の遅延(delay)が生じたのであろう。同様なケースでは30歳代発病の人でもみられる。言い換えると、ごく軽微な広汎性発達障害と診断されないほどの器質性背景があるために、統合失調症発病を防いでいたのだが、遂に爆発してしまったといった感じだ。(「遅延」は僕のネーミング)

つまり器質性背景があまりに軽すぎると、統合失調症は防げないということになる。(逆に言えば広汎性発達障害が重い場合、もちろん統合失調症にはなりにくい。最初に書いた通り)

もちろんいったん破綻してしまえば、器質性要素があるため、二重の要因で急速に荒廃する人がいることを示してもいる。これはそれまでの遅延の分を取り戻す感じになっているのかもしれない。(参考←重要)

統合失調症は内因性とは言われるが、家族歴を調査すると孤発例に見える家庭があんがい多い。だから、「全く家族歴がないのに統合失調症が発症するわけがない」という言い方は少しおかしい。今は同胞(つまり兄妹)や叔父伯母、従兄弟が少ないので、なおさらそういう風に見えるのである。

つまり、統合失調症に関しては、遺伝にヤル気がない。

このような人は、生来に微細な器質異常が存在していたとしか思えないが、元々、広汎性発達障害とは診断されていないし、またそういう生活歴でもないので、単に統合失調症が発病したと考える方が医学的にも正しいと思う。こういう人はその色彩があったとしても、広汎性発達障害とは言わないのである。

ここで重要なことに気付いた。

近年の統合失調症の患者さんの子供にあまりに統合失調症の発病が稀なのは、この遅延delayがけっこうありふれて存在しているからのような気がする。3人くらい子供がいて、すべて優秀で社会的にも成功している家系も見かける。つまり家庭を持っているレベルの統合失調症の人の子供さんが統合失調症を発病することはあんがい稀なのである。

特に僕の患者さんで子供が統合失調症になってしまったと言う人は、本人(親)が少なくとも統合失調症ではないことがほとんどである。あまりにも遅れすぎて、発病時期を完全に逸している。

統合失調症の遺伝のヤル気のなさに、更に拍車がかかるのであった。

広汎性発達障害の家系は、家族歴に全く何もないか、せいぜい神経症、あるいは境界例、かつて軽いうつ病だった、くらいしかないことが多い。(昔は広汎性発達障害の診断はなかったのでその診断はされていない)

そのような人々を診ていると、現在の食品、環境汚染かなにか原因はわからないが、すべての人たちの脳が微妙に変わり、従来型の発病パターンが崩されているように思う。(統合失調症の家系に限ればむしろプラスになっている。問題は次世代であろう。脳のあり方が更に変化するから。)

問題は、はっきり広汎性発達障害と診断されていた人で、時間が経って幻視・幻聴や幻覚妄想が出てくる人たちである。(重要な点はしばしば「幻視」が伴うこと)

一般に、広汎性発達障害系の人でこじれつつ時間が経つと、幻覚妄想が出てくることがある。これは無治療でもそうなる人もいるようなので、必ずしも薬のせいとは言えない。ここが家族にいくらか誤解されているところであろう。

普通、不登校くらいで激しい症状がない広汎性発達障害の子供は、家族が薬物治療を嫌うこともあり、カウンセリング程度の消極的な治療しかしていない人が多い。そういう人でも時間が経って、あたかも統合失調症の陽性症状っぽい症状が出てくることがある。

一方、広汎性発達障害でも、激しい興奮や家庭内暴力、学校内での不適応などが多彩に診られるような子供は、やむなく薬も投与されている。このようなタイプの人は薬物治療をしないと病状が酷いので、薬を使わないで経過観察することは難しいため、家族も服薬させることを了解している事が多い。(普通、措置入院でもならない限り、服薬するかどうかは任意のものである)

このような激しいタイプも時間が経つと統合失調症のような幻覚妄想が出現することがある。

結局、薬はどうなのかと言うと、無関係な人もいるが、一枚噛んでいるとしか思えない人もいるといったところだ。

これらの幻視、幻聴、身近な人との被害関係妄想は、元々これら広汎性発達障害には出てきておかしくない所見なんだと思う。一方、そこまでの症状が出現せず、慢性的希死念慮や、双極2型、あるいは今風の非定型うつ病?のような病態に留まる人も多い。

個人的には、広汎性発達障害に賦活的な薬を投与する場合、時に幻覚を惹起するという感触は持っている。つまり、広汎性発達障害の人のコントロールに、

ジプレキサ
クロフェクトン
エビリファイ
および
パキシルなどのSSRI


などの安易な処方は危険ではないかと考えている。(もちろん良いケースもある)。

クロフェクトンは危険だが、クレミンはそれほどではない。これは経験的にそう思うのだが、実際クロフェクトンよりクレミンの方がEPSが出やすく、より強力であるため多分リスクが下がるんだと思う。そこまで自信はないが、まだクレミンは安全な方なのである(危険な中ではまだ安全な方という意味)

エビリファイは広汎性発達障害のフラッシュバックに有効と言う意見もあるし、実際、有効なこともあるが、強迫を悪化させるようなタイプでは良い方角には行かない。結局は個人差があるということだ。

このような処方で幻覚が惹起した場合、主治医からセレネースやコントミン、リスパダール液などの精神病薬を併用されることが多く、次第に処方がメチャクチャになる。あまりエフェクティブでなく、いたずらに多くなるからだ。結果的に副作用が出るだけ、という感じになる。またリスパダールなどの大量を投与された場合、減量で希死念慮、焦燥、暴力が生じ、減量、脱出が難しくなる。

このような経緯で出現した幻覚妄想は、できるだけ疑わしい抗精神病薬を中止し、できれば力価の高いベンゾジアゼピンか、デパケンR、リボトリール、ラミクタールなどの気分安定化薬で対応した方が実際的である。ここでセレネースやリスパダールの高力価抗精神病薬の更なる投与は実は悪い方角に行っていると思われる。

実はこのような軽いはずの薬を減薬する際も危ない。だから抜去する際には家族が素人判断で安易に減薬するのは好ましくない。おそらくデパケンRなどの気分安定化薬を加えるか、むしろ抗精神病作用が強く離脱が生じにくい薬を少量だけ併用しつつ減量すべきと思う。

だったら、最初から定型抗精神病薬の大量はどうかというと、たぶん良くはない。(←当たり前)

というのは、彼らの脳はガラスのように繊細にできているから。

最近のエントリの「ADHD的所見はいろいろな疾患で見られる」を参考にしてほしいが、広汎性発達障害系の人で著しい興奮状態(神田橋先生がフラッシュバックと呼んでいる)の場合、たぶん脳の基底核、扁桃体あたりが暴走を来たしているので、中心部を抑えるような薬物を投与するか、あるいは抑制系を活性化するしかない。もちろん後者の方法が断然難しいし、失敗も多いと思われるので、一般的には前者が行なわれる。(簡略化して言っている。実際はもっと複雑と思うが)

このような定型大量処方は、特に前の脳の機能を更に低下させるので(もともと低下しているというのに)、次第に脳の中心部は暴走まではいかないまでも、機能の不調が相対的に残る感じになる。

つまり抑制系を潰す形になっているので、変な幻視、幻聴などが出て来やすくなるのであろう。これらは内因性の幻覚というより器質性の幻覚と言った方が良いと思う。由来は統合失調症ではないのである。

これは出現のあり方が、あたかもパニックまたはてんかん的なので、神田橋先生の言うフラッシュバックに見えてもおかしくないし、訴える内容的も僕も同じようには思う。(同じことを言っているのだが、考え方が僕はそんな風なのである)

このような考察から、長期間、漬物石のように大量処方を放置した場合、変な幻視、幻聴や衒奇的行動が出てきてもおかしくはない。かつてはこういう人がけっこう多かったように思われる。しかしこれらの人は、幻覚妄想があれど、統合失調症とはまた異なる別な疾患である。(たぶん、広汎性発達障害~生来性の器質性疾患のこじれた人々)

こういうタイプで、幻覚妄想があり、動けない(つまり不活発な人)が統合失調症と操作的に診断されているので、一見、統合失調症も減っていないように見えるのである。

その視点では、今のエビデンスが高いと言われている調査はそこまでアテにならないということになる。なぜなら、母集団が既に間違っているからである。

次の項目中何個以上という錯覚。エビデンスというにはあまりにもおこがましい。精神科はそういう時代にはまだ入っていないのであった。

今や統合失調症の人の子供にすら統合失調症が発病しにくくなっている時代に、このような人たちが統合失調症のはずはなかろう。

こういうことを考えていくと、今の精神医療、特に薬物療法がいかに難しいかがわかる。

参考
統合失調症は減少しているのか?
躁うつ病は減っているのか?
「頭部外傷から統合失調症になるのか?」リターンズ
眼科のポリクリ
現代的幻視・幻聴と希死念慮は似ているのか?