2分以内に決断する | kyupinの日記 気が向けば更新

2分以内に決断する

こういうことを書くと、また怒る人もいそうだけど・・
僕はリエゾンを驚異的な速度でこなしている。この年初だが、

3人の新患を含む10人前後を90分以内で診ていた。1人当たり10分もかけていない。

その総人数は12人くらいの日もあった。その日はさすがに90分はオーバーしたけど。新患は1人もいない日の方が珍しい。こういう風にやっているのは色々な理由があるが、1つがそう大きな時間をとれないこと。一刻も早く自分の病院に戻らなければならない。もともと義務でやっているわけではない。

元々、頼まれもしないのにたまたま入院中の自分の患者さんの様子を診に行った時、「この人も診てください」と言われて人数が拡大した経緯がある。往診することの僕への報酬なんてない(もちろん診察料は取るが)。

初診時に、ざっとカルテ、本人を診て、すぐにどうするか決断する。それはたいてい2分以内だ。薬には禁忌があるので、そこはカルテと看護師などに確認する。あやしい時は無理な処方はもちろんしない。

そんな風にやっていても100発100中まではないが、寛解率がかなりのものなのである(過去ログ参照)。特に婦長さん、主任クラスからは、けっこう信頼されている。ある婦長さんによれば、僕の処方はスマートなんだそうだ。

僕は野戦病院のような総合病院で勤めていた時期があり、結果的に短い時間でたくさんの人たちを診るトレーニングをしていたようなもので、こういう風に診ていくのは得意なのである。

僕はその意味では軍医的だ。

ずっと以前、戦争映画を観ていたら、軍医が、まだ生きているのに「この人はもうダメだ、次!」などと言い、ある兵士から食ってかかられる場面があった。彼はそのもう死ぬ寸前の兵士の親友だったのである。ああいう風にしないと救える人も救えなくなるので、軍医の気持ちもわからないでもないと思った。戦場は特殊な世界だから。

その時の兵士への軍医の対応だが、「お前、軍法会議にかけるぞ!」と叱責し負けてはいなかった。確かに彼は数秒以内に決断していたと思う。

スターリングラードの戦いでは、ある劇場(百貨店?)の地下にたくさんのドイツ軍の負傷兵が横たわり、みんな死ぬのを待っているような状況だったらしい。脳をやられた兵士は精神症状が出現し大変な興奮状態になってしまうものもいる。しかも傷が化膿し大変な悪臭である。ドイツ軍兵士は発疹チフスにも悩まされたが、この疾患も大変な悪臭を発する(診たことはないが・・)。

やはり、戦争は医学の点でも極限の異常状態である。

元の話に戻るが、そのリエゾンの病院では老人ばかりで若い人がほとんど入院していないので、せん妄、老年期の幻覚妄想状態、症状精神病、頭部外傷後遺症、脳梗塞・脳出血などの後遺症、うつ状態、慢性疼痛、認知症、わずかの統合失調症などに限られているのである。

こう書くとけっこうありそうだけど、薬物治療的には幅はそう広くはない。

だいたい将棋でも「長考に好手なし」といった諺があり、これは精神科も同じだと思う。僕はよく車で家に帰る際の信号待ちの時、患者さんの良い治療法を思いつくことがある。(緊張が一瞬緩む瞬間がいいんだと思う。)

ただ、今はその時にすぐに3回くらい脳内で反芻しておかないと、家に帰った時に、いったい誰の治療をどうしたかったのか忘れてしまっている。

これはここ1年くらいでそうなってしまったので、記憶力と言う点では僕はもう下り坂もいいところだ。この話を脳外科の友人にしたら、彼も病棟で気が付いたことをすぐにメモしておかないと医局に帰った時には忘れてしまっていると言う。彼もこれには愕然としたらしい。(参考1参考2

お互い、この話には泣けた。

僕はイメージで記憶する能力がたぶん人よりあるんだと思う。これは海外旅行をした時、嫁さんによく言われる。全く知らない町で、土地勘と言うか、方向感覚が良いのである。だから間違って逆に行ってしまったと言うのが滅多にない。最初にざっとその町の地図を見ておくと、道路と建物の配置などが空間的なものまですぐに頭に記憶される。

ラスベガスに行ったことのある人ならわかるが、あそこにあるホテルはどれも巨大すぎる上、ずっと同じようなスロットマシン、バカラ、ルーレット、ブラックジャックのテーブルが並んでいるので、全然、方角がわからなくなる。同じ光景の繰り返しで、ホテルの中はまさに迷宮になっている。(参考1参考2

それでも最短距離でホテルの外に出たり、部屋に戻るエレベータに行き着くので、嫁さんが驚いていた。それはオーストラリアやヨーロッパの町でもそうだった。

この方向感覚だが、嫁さんとうちの母親の方が酷すぎると思う。地図を見ても全然わからないみたいなのである(実践に利用できないという意味)。嫁さんは結婚してこの街に来て長いが、未だによくわかっていない。(やっと10年目くらいに病院まで車で来られるようになった。)

子供の時に、トランプの7並べと神経衰弱をしっかりしなかったのも悪いんだと思う。

今日は脈絡もないしまとまらず書いたが、まあ日記ということで。

おやすみなさい。

参考
リエゾンの患者さん
奇跡があるように言ってはいけない
もう1つの世界
死生命あり、富貴天にあり