リエゾンの患者さん | kyupinの日記 気が向けば更新

リエゾンの患者さん

総合病院に往診して治療しているいろいろな患者さんについて紹介すると、読者の皆さんの参考になるのではないかと思った。過去ログにもたくさん出てきている。

過去ログから 
精神科の診断の偏向について
乳癌全身転移
失明の女性患者とルーラン
やっべ~(小島よしお風に)
光がまぶしい?
老年期のうつ病は
セロクエルがあるとないとでは大違い
ヒルトニン

ちょっと思い出しただけでこれだけある。最近、「おしりから背中にかけて温い」という体感異常~幻覚のじいちゃんを診察した。今風に言えば、「身体表現性障害」くらいになるんでしょうなぁ。

ところで、身体表現性障害という名前、ちょっとダサ過ぎだと思う。できれば、誰でもすぐそれとわかる名前が良い。

体感異常でも疼痛の訴えが強い人は概ねうつ状態の人が多いが、このような漠然とした変な症状に悩んでいる人はうつ状態が見えない人もいる。例えば歯の違和感だとか。去年くらいに来たおばちゃんは、歯に何か付いている感じがしてならないと訴えていた。彼女は話し方は明るいし仕事もバリバリやっていた。なかなか変な違和感がとれず、歯科のドクターショッピングをしているうちに偶然うちにやって来たのであった。

歯自体は触覚みたいなものはないが、何か触っている感じは歯肉の感覚からわかると思うので、広い意味の体感異常(幻覚?)なんだろうと思う。この人はエビリファイの少量(1.5mg)で全体の70%の症状が消失した。しかし、その後来院しなくなったんだな。このおばちゃんの場合、うつなんて全然なかった。僕は去る者は追わないので、その後の経過は不明だ。

今回のじいちゃんの場合、背中からおしりにかけての「暖かさ」が主訴だった。痛みはないらしい。うつ状態はあまり目立たないが、悩みをいう口調はその雰囲気はある。もちろん深刻な感じではない。

この人、最初はドグマチールで治療されていたんだが全くの無効だった。こういう症状ってドグマチールも効いておかしくないと思うのだが無効のケースもしばしばである。現実は甘くない。だいたい、このようなセネストパチー系の症状はドグマチールの有効率が高いなら苦労はしない。ドグマチールは精神科から内科まで普及率が高く、すぐに処方されるような薬だからである。 

その症状は2年くらい前からあったという。僕が往診したときは、ドグマチール、ノイロトピン、レンドルミンの組み合わせだった。個人的に、ノイロトロピンは鋭いと言うか発想が良いと思った。このケースでは痛みがほとんどないので不発に終わっているのだろう。初診時は、そのじいちゃんはドグマチールの副作用でフラフラの状態だったのである。(参考

最初、ドグマチールを中止するように指示しレスリン25mgとレンドルミンだけで様子をみるように伝えた。しばらく、ドグマチールの影響がなくなるまで待っておく方針だった。ドグマチールを中止してしばらくすると、フラフラ感は消失してきたが、背中の暖かさは変わりがなかった。そこで最初にテトラミドを処方してみた。こういう症状は抗うつ剤が有効なことが多い(参考1参考2

ところが、テトラミドを処方したところ、副作用で翌日起きられないほどだったのである。すぐに中止したが、この時2日ほど背中の暖かさがほぼ消失していたので、何か抗うつ剤を選べばうまくいくと思った。結局、デプロメールで治療をすることにした。デプロメールは老人には服用しやすい薬だからだ。徐々に増やして75mgまで増量したが、そこまで行って食がかなり細ったため、それ以上の増量は難しいと感じた。しかし背中の暖かさがちょっとは緩和したのである。

その後しばらくそのまま様子をみたが、ぱっとしなかった。それ以上が良くならないのである。そこでルジオミールを10mgほど追加することにした。ルジオミールとテトラミドの10mg錠は今はうちの病院でもストックがある(いつの間にか入っていた)。少しずつ増量して20mgになったとき、遂に背中の暖かさの80%が改善した。今は症状がない日も数日続くこともあるらしい。

デプロメール  75mg
ルジオミール  20mg


セネストパチー系の症状って、SSRIのようなセロトニンを増やす系の薬が良さそうに見えるのだけど、ルジオミールのようなノルアドレナリンしか作用がない薬が奏効したり、定型の抗精神病薬(セレネースなど)やSDAも有効なこともある。そのメカニズムは謎の部分が大きいと思う。