セロクエルがあるとないとでは大違い | kyupinの日記 気が向けば更新

セロクエルがあるとないとでは大違い

最近、往診先にセロクエルとジプレキサが入っているのを発見。ジプレキサはともかく、セロクエルが入っているのは非常に良い。このような総合病院で、セロクエルがあるとないとでは大違いだ。ほんの数ヶ月前にはなかったので、誰かこの病院のドクターが希望したのだろう。しかしセロクエルなどの非定型抗精神病薬は他科のドクターは扱いを慣れていないと思うので、統合失調症などの患者さんが内科あるいは外科疾患で転入院した時、処方できるように便宜を図ったのかもしれない。少なくとも僕が希望したわけではない。セロクエルなどが入ったので、家族がわざわざうちの病院まで薬を取りに来なくても良くなった。

認知症によるせん妄を始め、そうでないせん妄にしてもセロクエルは有用である。このあたりは、セロクエル、レスリン、グラマリール、普通の眠剤、抑肝散(ツムラ54)くらいが無難だ。この中では抑肝散は最も副作用が少ない。これはもともと神経の高ぶり、平凡に言えば興奮を抑える。抑肝散については、改善の点でそう確率が高くはないけど、フィットした時には副作用の点でメリットが非常に大きいので、最初の時点で使ってみることが多い。

これ以外にも、ジプレキサ、ルーラン、リスパダール、セレネース、コントミンなども使われることがある。リスパダール液も推奨されているのだろうけど、リスパダールを老人のせん妄に使った場合、流涎、振戦、嚥下障害くらいが出やすく、外のしかも総合病院のリエゾンで使うにはあまりに心証が悪過ぎる。せん妄、徘徊がみられる老人にリスパダールだと転倒、骨折を来たすこともあるから。

だから、僕は老人にリスパダールのような力価の高い薬物はなるべく使わないほうにしている。まあ使わざるを得ないこともあるけどね。

古典的には、こういう際にテトラミドが推奨されていた時期がある。まだレスリンが発売される前の話だ。今でもテトラミドが良い人もいるだろうけど、レスリンもそうだけど、老人だと持ち越しの眠さが出すぎて傾眠状態になってしまう人がいる。

セロクエルは究極にコントミンの副作用を減らしたような薬物で、老人にも使いやすく、このような使い方をされている処方件数は全国でもかなり多いのではないかと思っている。

セロクエルを老人に使った場合、肺炎などの感染症、突然死、心不全などを引き起こしやすくなり内科的予後が悪いという警告がある。この警告の元祖はアメリカFDAである。セロクエルだけでなく、リスパダール、ジプレキサ、アビリファイ(エビリファイ)などにも同様に警告されている。つまり非定型抗精神病薬を老人に使った場合、死亡率が高まるというのである。これについては、僕はあるような気がしている。特にセロクエルは。ただ、そのメカニズムは謎だ。

しかし、感染症、突然死、心不全のリスクは旧来の抗精神病薬だって十分にあるのである。旧来の薬物は少なくともセロクエル以上に嚥下を悪くするし、嚥下性肺炎に限ればむしろ多いに違いない。ただ、これらの非定型抗精神病薬はもうちょっと違ったメカニズムで老人の健康にマイナスに作用しているようにも見える。

重要な点は、これら非定型抗精神病薬は老人にはマイナスかもしれないが、せん妄や興奮を放置もできないということであろう。非定型抗精神病薬が悪いからと言って、老人のせん妄に旧来の薬物(セレネース、コントミン、ロドピンなど)を使うのはナンセンスだと思う。

結局、なにがしか手当てをせざると得ないというのがポイントである。こういう風に考えていくと、鎮静的な抗うつ剤や抑肝散の有用さが理解できる。