かごの鳥21(コラボ小説)
こころ龍之介先生監修
――なんだ!?これは…
康夫の手から受け取った紙切れを
まじまじと覗き込んだ笹山の顔が
瞬時に強張る。
「康夫君…これは…」
「はい…沼鵜の奴に散々付きまとわれて大学に来なくなった女の子です…」
「君は…知らなかったの?」
「はい…どっちの子もそんなに親しくない子だし…学校では、もっちゃんとか、あきちゃんとかだったし…」
「なるほどね…」
――確かに“もっちゃん”と“あきちゃん”だ…
「笹山さん…」
康夫の声にはっと我に返った笹山に、
幼さを残した青年が静かに告げる。
「僕は…偶然ではないような気がします…こんな事って…」
「そうだな…」
「笹山さん!僕からもお願いします!!必ず…必ず!香織さんを助けてあげて下さい!!」
「分かった…約束するよ…」
呆然と件の紙片に見入る笹山は、
目前で延々と語られる熱弁や、
仕事に戻ると暇を告げる言葉に、
間の抜けた相槌を続けた…
「よう!」
1人ぼんやりとキャンパスを歩く笹山は、
突然、背後から肩を叩かれ、
びくりと飛び上がる。
「お…お前!ど…どこ行ってたんだよ!?」
「そんな事どうだっていいだろ。」
相変わらずジャージ姿のままのジョージが
ぶっきらぼうに応じた後、
今しがた笹山の手から落ちた紙切れを
さっと拾う。
「なるほどな…」
――望月香
秋山香緒里
先程
康夫に託された紙には、
2名の女生徒の名前と、
連絡先が記されていた…
――なんだ!?これは…
康夫の手から受け取った紙切れを
まじまじと覗き込んだ笹山の顔が
瞬時に強張る。
「康夫君…これは…」
「はい…沼鵜の奴に散々付きまとわれて大学に来なくなった女の子です…」
「君は…知らなかったの?」
「はい…どっちの子もそんなに親しくない子だし…学校では、もっちゃんとか、あきちゃんとかだったし…」
「なるほどね…」
――確かに“もっちゃん”と“あきちゃん”だ…
「笹山さん…」
康夫の声にはっと我に返った笹山に、
幼さを残した青年が静かに告げる。
「僕は…偶然ではないような気がします…こんな事って…」
「そうだな…」
「笹山さん!僕からもお願いします!!必ず…必ず!香織さんを助けてあげて下さい!!」
「分かった…約束するよ…」
呆然と件の紙片に見入る笹山は、
目前で延々と語られる熱弁や、
仕事に戻ると暇を告げる言葉に、
間の抜けた相槌を続けた…
「よう!」
1人ぼんやりとキャンパスを歩く笹山は、
突然、背後から肩を叩かれ、
びくりと飛び上がる。
「お…お前!ど…どこ行ってたんだよ!?」
「そんな事どうだっていいだろ。」
相変わらずジャージ姿のままのジョージが
ぶっきらぼうに応じた後、
今しがた笹山の手から落ちた紙切れを
さっと拾う。
「なるほどな…」
――望月香
秋山香緒里
先程
康夫に託された紙には、
2名の女生徒の名前と、
連絡先が記されていた…
かごの鳥20(コラボ小説)
こころ龍之介先生監修
「香織さんは…香織さんは…」
長い睫毛がみるみる湿り気を帯び、
うっと鼻を鳴らした康夫が
歪んだ唇から
掠れた声を発する。
「ぬ…沼…沼鵜の奴にひ…ひどい事をされたんだ!調子のいい言葉で香織さんを自分の車に乗せて…あ…あんな奴に…あんな奴に…ぼ…僕…達の香織さんが…!!だ…だから…香織さんは…家出して…」
「康夫君!まだそうと決まった訳じゃない!」
「ほ…他に考えられないじゃないか…!!つ…都合がわ…悪いからって…あ…いつの…ち…父親が…か…香織さんを脅して…県外に…お…い出したんだ…!」
「康夫君…」
笹山の手から
格子柄のハンカチを震える手で受け取った後、
テーブルにうつ伏して嗚咽する康夫の為に、
笹山は席を立ち、
2杯のコーヒーを追加した。
「悪いね…」
「いえ…」
学生課から出て来た康夫が
歯切れ悪く応じる。
――さっきの事を恥じてるのか?
数ヶ月前にも同じような事があった。
用があり、
他事務所へと赴いた笹山は、
偶然見掛けた後輩芸人に愕然とした。
えぐれた頬、
幽霊さながらの
蒼白な顔…
空を見据える虚ろな瞳を支える瞼は
別人のように腫れ上がり、笹山が知る彼の面影は、
どこを取っても見当たらなかった…
笹山は思わず声を掛け、
自身の愛車の中へと彼をいざなった。
件の後輩の焦燥の原因を充分に察していた笹山に、
事情を話すよう促された彼は、
すっかり痩せこけてしまった背中を真っ直ぐに伸ばし、
凛と笹山を見据え、
理路整然と
自らの相方の失踪の経緯について説明し終えた後、
突如その場に崩れ落ち、
子供のように泣きじゃくった…
――恥ずかしがる必要はない…
数ヶ月前に
自身の後輩に発した言葉を、
目の前の青年事務員に発するべく、
笹山が口を開いた時だ。
「さ…笹山さん…これって…」
戸惑いと薄寒さに彩られた面持ちの康夫が、
おずおずと
1枚の紙切れを差し出す。
「香織さんは…香織さんは…」
長い睫毛がみるみる湿り気を帯び、
うっと鼻を鳴らした康夫が
歪んだ唇から
掠れた声を発する。
「ぬ…沼…沼鵜の奴にひ…ひどい事をされたんだ!調子のいい言葉で香織さんを自分の車に乗せて…あ…あんな奴に…あんな奴に…ぼ…僕…達の香織さんが…!!だ…だから…香織さんは…家出して…」
「康夫君!まだそうと決まった訳じゃない!」
「ほ…他に考えられないじゃないか…!!つ…都合がわ…悪いからって…あ…いつの…ち…父親が…か…香織さんを脅して…県外に…お…い出したんだ…!」
「康夫君…」
笹山の手から
格子柄のハンカチを震える手で受け取った後、
テーブルにうつ伏して嗚咽する康夫の為に、
笹山は席を立ち、
2杯のコーヒーを追加した。
「悪いね…」
「いえ…」
学生課から出て来た康夫が
歯切れ悪く応じる。
――さっきの事を恥じてるのか?
数ヶ月前にも同じような事があった。
用があり、
他事務所へと赴いた笹山は、
偶然見掛けた後輩芸人に愕然とした。
えぐれた頬、
幽霊さながらの
蒼白な顔…
空を見据える虚ろな瞳を支える瞼は
別人のように腫れ上がり、笹山が知る彼の面影は、
どこを取っても見当たらなかった…
笹山は思わず声を掛け、
自身の愛車の中へと彼をいざなった。
件の後輩の焦燥の原因を充分に察していた笹山に、
事情を話すよう促された彼は、
すっかり痩せこけてしまった背中を真っ直ぐに伸ばし、
凛と笹山を見据え、
理路整然と
自らの相方の失踪の経緯について説明し終えた後、
突如その場に崩れ落ち、
子供のように泣きじゃくった…
――恥ずかしがる必要はない…
数ヶ月前に
自身の後輩に発した言葉を、
目の前の青年事務員に発するべく、
笹山が口を開いた時だ。
「さ…笹山さん…これって…」
戸惑いと薄寒さに彩られた面持ちの康夫が、
おずおずと
1枚の紙切れを差し出す。
かごの鳥19(コラボ小説)
こころ龍之介先生監修
「あいつに付きまとわれる事になった?もしかして…」
若干鋭さを帯びた目で繰り返す笹山に
康夫が大きく頷く。
「はい!沼鵜です…」
「あ!ちょっと待って!」
康夫に中断の意を告げた笹山が
再度口を開いて訊ねる。
「沼鵜君ってどんな子だったの?」
「すごく気味の悪い奴でした。ほらあの芸人さん!“元祖キモカワ芸人”のなんとかって漫才コンビの、へらへらした方に眼鏡を掛けさせて陰気臭くしたみたいな感じです!」
「“クリームボーイズ”の山中か?」
笹山と同じ事務所の後輩芸人だ…
「そ…そうです!!」
「確かに山中は女性にモテるご面相ではないな…でもね康夫君。あいつは相当努力もしてるし、後輩の面倒見もいいから先輩達からも信頼されてるし、ああ見えて結構モテモテだよ。少なくとも僕よりはね。」
「あ!すいません…」
瞬時に
赤面した康夫が、
ぼそぼそと弁解を始める。
「でも…山中さんはそうかもしれないですけど…あいつは…本当に…うまく言えないけど気持ち悪いんです…陰険でしつこくて…あいつに付きまとわれて大学をやめた女の子も居るんです…」
「え!?」
笹山の顔が
瞬時に強張る。
「沼鵜の奴…ちょっとでも相手にしてくれそうな女の子が居たらしつこく付きまとって…女の子達もあいつが何でも言う事聞くから最初は相手にするけど…いつの間にか大学に来なくなって…多分あいつのせいでやめたんだと思います。」
「康夫君。悪いけどその女の子達の名前と連絡先を教えてくれないか?」
「学生課に戻れば分かります…」
「ありがとう!それで…香織さんも付きまとわれていたの?」
「はい!あいつ僕や香織さんと同じサークルに入ってたんですけど、合宿の時にみんなあいつと同じグループは嫌だって…でも香織さんはかわいそうだからってあんな奴を同じグループに入れてあげて…そしたらあいつ!合宿が終わってからも香織さんにしつこく付きまとって!!」
「そっか…それで香織さんはどうしたの?」
まるで昨日の出来事のように
紅潮した顔で
まくし立てる康夫を
一旦静めた笹山が訊ねる。
「香織さんはどこまでも優しい人なんです…嫌な顔一つせずにあいつにも優しく接してました…」
「そうか…それで君達“親衛隊”は『香織さんが居なくなった事が沼鵜と関係があると思ってる』と言っていたよね?」
無言で頷く康夫を笹山が覗き込む。
「どうしてそう思うの?」
「笹山さん…知ってるかもしれないけど…香織さんが居なくなった日、僕達“香織親衛隊”は香織さんの誕生日を祝う相談の為に揃って授業を抜け出したんです。」
「ああ。香織さんのお父さんに聞いて知ってるよ。」
「その日の夜、香織さんのお父さんから『香織が連絡も寄越さないでこんな時間まで帰って来ない。』と電話が入って…びっくりして仲間を集めて一晩中香織さんを探したんですけど見付からなくて…」
「それから香織さんは…」
「はい…」
康夫が沈痛な面持ちで頷く。
「でも僕達…どうしても心配で…香織さんが居なくなった日の事を調べたんです。そしたら…」
「香織さんは警察署長の息子の車に乗って帰ったんだね。」
「どうして知ってるんですか!?」
康夫が目を丸くする。
「香織さんのお父さんは今でも、香織さんの行方を必死で探してるんだ…」
「じゃあ笹山さんも…」
「ああ…彼女のお父さんに頼まれてね…」
「そうですか…」
康夫の面持ちが更に沈み込む。
「でも…どうして君達はその沼鵜という生徒が香織さんの失踪に関係があると思ったの?確かに香織さんは彼に送ってもらったみたいだけどその後、彼女が1人で外出したのかもしれないよ。」
内心は、
康夫の見解に大いに賛同しながらも
笹山がカマを掛ける。
「香織さんが居なくなってから沼鵜も学校に来なくなりました…」
「え!?」
「はい…あいつ…香織さんが来なくなってからぱたりと大学来なくなって…あいつは前も、付け狙ってた女の子達が居なくなったら、面白くないのかしばらく学校へ来なくなるから…またかと思ったんです。でも、結局それからあいつはとうとう1回も現れなくて…」
――それは確かにおかしいな…
「笹山さん!!」
突然康夫が発した声の大きさに、
笹山の肩がびくりと揺れる。
「あいつに付きまとわれる事になった?もしかして…」
若干鋭さを帯びた目で繰り返す笹山に
康夫が大きく頷く。
「はい!沼鵜です…」
「あ!ちょっと待って!」
康夫に中断の意を告げた笹山が
再度口を開いて訊ねる。
「沼鵜君ってどんな子だったの?」
「すごく気味の悪い奴でした。ほらあの芸人さん!“元祖キモカワ芸人”のなんとかって漫才コンビの、へらへらした方に眼鏡を掛けさせて陰気臭くしたみたいな感じです!」
「“クリームボーイズ”の山中か?」
笹山と同じ事務所の後輩芸人だ…
「そ…そうです!!」
「確かに山中は女性にモテるご面相ではないな…でもね康夫君。あいつは相当努力もしてるし、後輩の面倒見もいいから先輩達からも信頼されてるし、ああ見えて結構モテモテだよ。少なくとも僕よりはね。」
「あ!すいません…」
瞬時に
赤面した康夫が、
ぼそぼそと弁解を始める。
「でも…山中さんはそうかもしれないですけど…あいつは…本当に…うまく言えないけど気持ち悪いんです…陰険でしつこくて…あいつに付きまとわれて大学をやめた女の子も居るんです…」
「え!?」
笹山の顔が
瞬時に強張る。
「沼鵜の奴…ちょっとでも相手にしてくれそうな女の子が居たらしつこく付きまとって…女の子達もあいつが何でも言う事聞くから最初は相手にするけど…いつの間にか大学に来なくなって…多分あいつのせいでやめたんだと思います。」
「康夫君。悪いけどその女の子達の名前と連絡先を教えてくれないか?」
「学生課に戻れば分かります…」
「ありがとう!それで…香織さんも付きまとわれていたの?」
「はい!あいつ僕や香織さんと同じサークルに入ってたんですけど、合宿の時にみんなあいつと同じグループは嫌だって…でも香織さんはかわいそうだからってあんな奴を同じグループに入れてあげて…そしたらあいつ!合宿が終わってからも香織さんにしつこく付きまとって!!」
「そっか…それで香織さんはどうしたの?」
まるで昨日の出来事のように
紅潮した顔で
まくし立てる康夫を
一旦静めた笹山が訊ねる。
「香織さんはどこまでも優しい人なんです…嫌な顔一つせずにあいつにも優しく接してました…」
「そうか…それで君達“親衛隊”は『香織さんが居なくなった事が沼鵜と関係があると思ってる』と言っていたよね?」
無言で頷く康夫を笹山が覗き込む。
「どうしてそう思うの?」
「笹山さん…知ってるかもしれないけど…香織さんが居なくなった日、僕達“香織親衛隊”は香織さんの誕生日を祝う相談の為に揃って授業を抜け出したんです。」
「ああ。香織さんのお父さんに聞いて知ってるよ。」
「その日の夜、香織さんのお父さんから『香織が連絡も寄越さないでこんな時間まで帰って来ない。』と電話が入って…びっくりして仲間を集めて一晩中香織さんを探したんですけど見付からなくて…」
「それから香織さんは…」
「はい…」
康夫が沈痛な面持ちで頷く。
「でも僕達…どうしても心配で…香織さんが居なくなった日の事を調べたんです。そしたら…」
「香織さんは警察署長の息子の車に乗って帰ったんだね。」
「どうして知ってるんですか!?」
康夫が目を丸くする。
「香織さんのお父さんは今でも、香織さんの行方を必死で探してるんだ…」
「じゃあ笹山さんも…」
「ああ…彼女のお父さんに頼まれてね…」
「そうですか…」
康夫の面持ちが更に沈み込む。
「でも…どうして君達はその沼鵜という生徒が香織さんの失踪に関係があると思ったの?確かに香織さんは彼に送ってもらったみたいだけどその後、彼女が1人で外出したのかもしれないよ。」
内心は、
康夫の見解に大いに賛同しながらも
笹山がカマを掛ける。
「香織さんが居なくなってから沼鵜も学校に来なくなりました…」
「え!?」
「はい…あいつ…香織さんが来なくなってからぱたりと大学来なくなって…あいつは前も、付け狙ってた女の子達が居なくなったら、面白くないのかしばらく学校へ来なくなるから…またかと思ったんです。でも、結局それからあいつはとうとう1回も現れなくて…」
――それは確かにおかしいな…
「笹山さん!!」
突然康夫が発した声の大きさに、
笹山の肩がびくりと揺れる。