こころ龍之介先生監修
「あいつに付きまとわれる事になった?もしかして…」
若干鋭さを帯びた目で繰り返す笹山に
康夫が大きく頷く。
「はい!沼鵜です…」
「あ!ちょっと待って!」
康夫に中断の意を告げた笹山が
再度口を開いて訊ねる。
「沼鵜君ってどんな子だったの?」
「すごく気味の悪い奴でした。ほらあの芸人さん!“元祖キモカワ芸人”のなんとかって漫才コンビの、へらへらした方に眼鏡を掛けさせて陰気臭くしたみたいな感じです!」
「“クリームボーイズ”の山中か?」
笹山と同じ事務所の後輩芸人だ…
「そ…そうです!!」
「確かに山中は女性にモテるご面相ではないな…でもね康夫君。あいつは相当努力もしてるし、後輩の面倒見もいいから先輩達からも信頼されてるし、ああ見えて結構モテモテだよ。少なくとも僕よりはね。」
「あ!すいません…」
瞬時に
赤面した康夫が、
ぼそぼそと弁解を始める。
「でも…山中さんはそうかもしれないですけど…あいつは…本当に…うまく言えないけど気持ち悪いんです…陰険でしつこくて…あいつに付きまとわれて大学をやめた女の子も居るんです…」
「え!?」
笹山の顔が
瞬時に強張る。
「沼鵜の奴…ちょっとでも相手にしてくれそうな女の子が居たらしつこく付きまとって…女の子達もあいつが何でも言う事聞くから最初は相手にするけど…いつの間にか大学に来なくなって…多分あいつのせいでやめたんだと思います。」
「康夫君。悪いけどその女の子達の名前と連絡先を教えてくれないか?」
「学生課に戻れば分かります…」
「ありがとう!それで…香織さんも付きまとわれていたの?」
「はい!あいつ僕や香織さんと同じサークルに入ってたんですけど、合宿の時にみんなあいつと同じグループは嫌だって…でも香織さんはかわいそうだからってあんな奴を同じグループに入れてあげて…そしたらあいつ!合宿が終わってからも香織さんにしつこく付きまとって!!」
「そっか…それで香織さんはどうしたの?」
まるで昨日の出来事のように
紅潮した顔で
まくし立てる康夫を
一旦静めた笹山が訊ねる。
「香織さんはどこまでも優しい人なんです…嫌な顔一つせずにあいつにも優しく接してました…」
「そうか…それで君達“親衛隊”は『香織さんが居なくなった事が沼鵜と関係があると思ってる』と言っていたよね?」
無言で頷く康夫を笹山が覗き込む。
「どうしてそう思うの?」
「笹山さん…知ってるかもしれないけど…香織さんが居なくなった日、僕達“香織親衛隊”は香織さんの誕生日を祝う相談の為に揃って授業を抜け出したんです。」
「ああ。香織さんのお父さんに聞いて知ってるよ。」
「その日の夜、香織さんのお父さんから『香織が連絡も寄越さないでこんな時間まで帰って来ない。』と電話が入って…びっくりして仲間を集めて一晩中香織さんを探したんですけど見付からなくて…」
「それから香織さんは…」
「はい…」
康夫が沈痛な面持ちで頷く。
「でも僕達…どうしても心配で…香織さんが居なくなった日の事を調べたんです。そしたら…」
「香織さんは警察署長の息子の車に乗って帰ったんだね。」
「どうして知ってるんですか!?」
康夫が目を丸くする。
「香織さんのお父さんは今でも、香織さんの行方を必死で探してるんだ…」
「じゃあ笹山さんも…」
「ああ…彼女のお父さんに頼まれてね…」
「そうですか…」
康夫の面持ちが更に沈み込む。
「でも…どうして君達はその沼鵜という生徒が香織さんの失踪に関係があると思ったの?確かに香織さんは彼に送ってもらったみたいだけどその後、彼女が1人で外出したのかもしれないよ。」
内心は、
康夫の見解に大いに賛同しながらも
笹山がカマを掛ける。
「香織さんが居なくなってから沼鵜も学校に来なくなりました…」
「え!?」
「はい…あいつ…香織さんが来なくなってからぱたりと大学来なくなって…あいつは前も、付け狙ってた女の子達が居なくなったら、面白くないのかしばらく学校へ来なくなるから…またかと思ったんです。でも、結局それからあいつはとうとう1回も現れなくて…」
――それは確かにおかしいな…
「笹山さん!!」
突然康夫が発した声の大きさに、
笹山の肩がびくりと揺れる。