ぞっと…笑って下さい。道化猫くっきーの小説ブログ“笑う猫の夢” -4ページ目

かごの鳥27(コラボ小説)

こころ龍之介先生監修


「ああ~おいしかった!!」

ジョージに軽口を叩き、
時折笹山に談笑と

忙しく自身の唇を動かしていた美保が
真っ先に空にしたケーキの皿をテーブル脇にガチャンと寄せて
こちらに微笑み掛ける。

「ねえ笹山さん。ここのケーキ本当においしいでしょ?」

「うん!昔、母さんがよく作ってくれたケーキの味がするな…」

ふんわりとしたスポンジの感触と、
あっさりとした甘味に舌鼓を打つ笹山が
丸い顔を綻ばせる。

「なかなか鋭いわね。ここのマスターは一切添加物を使わない主義なの。だから正真正銘ホームメイドの味!」

「そうか!」

「そうよ。」

最後の塊を
名残惜し気に咀嚼する笹山を
微笑みながら見詰めていた美保が

不意に
自身の黒ぶち眼鏡に手を掛け、
それを静かにテーブルの上に折り畳む。

「!!」

――これは意外だ…

「笹山さんよ…そんなに驚くなよ。こいつはこう見えて学生時代は“ミスキャンパス”の座を3年間も死守したんだぜ。」

「昔の話よ。」

笹山の脇腹を軽く突き続けるジョージを
軽くいなした美保が

白い顔をこちらへ向ける。

「それじゃあ本題に入りましょう。笹山さんは私に何を聞きたいのかしら?」

――この前テレビで見た野生の雌豹みたいだな…

こちらを凛と見据える
美保の切れ長の双貌に圧倒された笹山は、

しばしの間ぽかんとそれを見返した…

かごの鳥26(コラボ小説)

こころ龍之介先生監修


「いや…僕は別に気にしてないよ…」

差し向かえで、
立て板に水の如く

すらすらと言葉を羅列させる婦警にたじろぐ笹山に、

ジョージがニヤニヤと
追い討ちを掛ける。

「笹山さんよ…こいつもまだ独り身だ。ちょうどいいんじゃねえのか?」

「な…!」

「このぐらいパンチの効いた女の方が、あんたにはお似合いだと思うぜ。」

「な…!ぼ…ぼかぁね…!!」

ゆでだこの如く
丸い顔を紅潮させる笹山に、
軽く片方の目をつむって見せた相原が

くすりと笑ってジョージに向き合う。

「ジョージ。私達の事を心配してくれるのはありがたいけど…あなたの方こそ、いい人出来たの?」

「い…いや…俺は…」

瞬時に
先程の笹山以上に
激しく赤面したジョージに
微かに微笑み掛けた相原が
片手を上げる。

「笹山さん…ケーキはお好きかしら?」

「え?ああ…大好物だよ…」

「それは良かったわ!ここのロールケーキは自家製でとてもおいしいの。先日のお詫びと言ったら失礼だけど…ごちそうさせて頂くわ。」

「いや…!そ…そんな…」

「ちょっとみっちゃん!ロールケーキ3つに、ジョージはモンブランも食べるでしょ?モンブランも1つね!」

笹山の制止など
まるで耳に入っていないかのように

片手を上げた相原が
馴染みらしいウェイトレスに
さっさとケーキを所望する。

「美保さんダイエット言ってっけど…やめたんですかぁ?」

みっちゃんと呼ばれた
ウェイトレスが
そばかすだらけの顔を傾げ
軽いなまりで訊ねる。

「ちゃんと続けてるわよ。あなたのお父さんが作るケーキは、お砂糖のかわりに蜂蜜を使ってるでしょ?ダイエッターでも安心して食べられるわ。」

「そっかぁ…」

チェックのエプロンが厨房に消えるのを確認した相原が、
笹山に耳打ちする。

「ジョージはこう見えて大の甘党なのよ。」

「おい!美保…」

耳の付け根を赤く染めたジョージの制する声を
さらりと流した相原美保が
更に続ける。

「でもこんな風体でケーキ屋さんや和菓子屋さんなんかとても行けないでしょ?」

「あ…そうだね…」

――強盗と間違えられるに決まってるだろ!

思わず吹き出した笹山を

相変わらず
紅潮したままのジョージが狂犬のように吊り上げた目でじろりと睨む。

「あ!来たわ!みっちゃんここに置いといて。はい笹山さん。早く召し上がって!本当においしいんだから!ジョージもいつまでも膨れてないで早く食べなさいよ。」

――やれやれ…ますます別れたかみさんそっくりだな…

苦笑を浮かべた笹山は、
美保の白い手から渡されたケーキの皿のフォークを、
追い立てられるように取り上げた…

かごの鳥25(コラボ小説)

こころ龍之介先生監修


――遅いな…あいつ何してるんだよ?まさか…本当に…!?

自身の時計を覗き込みながら
貧乏揺すりの止まらない笹山が、
いっぱいになった小振りの灰皿に吸殻をすりつぶした時だ。

「待たせて悪かったな…」

不意に扉のベルが鳴り、
見覚えのある巨体が店内に押し入って来たのを確認した笹山が、
安堵の息をついた後に
発する。

「遅いよ!!何して…」

「こいつを連れ出すのに時間が掛かってね…」

その巨体に似合わず、
敏捷な動きで笹山の横に屈んだジョージの背後からこちらへ近付く人影を認めた笹山が、
ぽかんと口を開く。

「あれ…?」

「既にご対面のようだな。」

「初めまして…のご挨拶はおかしいわね…ジョージなんて言ったらいいのかしら?」

「『お久しぶりです。』でいいんじゃないか?」

「き…君は!」

「そうは行かないわ。ジョージのお知り合いとは知らずに失礼しちゃったんだから…カインド笹山さん。あの節はごめんなさい。交通課の相原です。ジョージとは大学時代に随分親しくさせて頂いたわ。」

小柄な体を
笹山の差し向かえの椅子にしゅっとおさめて微笑む
眼鏡を掛けた制服姿の女は、

まごうことなく、
先日、
笹山を応接室にいざなった後に
お茶汲みを頑なに拒否した
中年婦警だった…