ぞっと…笑って下さい。道化猫くっきーの小説ブログ“笑う猫の夢” -3ページ目

かごの鳥30(コラボ小説)

こころ龍之介先生監修


「美保…」

旧知の異変を察したジョージがその様子を伺う。

「一体何が…」

その時、
店の扉がカランと音を立てた。

「大池さん!」

美保の表情が一変する。

「んだ?美保ちゃんかぁ。こげな所に彼氏を2人も引き連れて…あ!あんた!」

「あ…!」

こちらに足を向ける丸い顔と対面した笹山が小さな目を見開く。

「駐在さん!」

「あら!笹山さん?大池さんとお知り合いだったの?」

美保がぽかんと2人を見比べる。

そう…

笹山の目前で
ぽかんとこちらを見詰める丸い顔の巡査は、

沼鵜所長の愛息子
沼鵜実の“上司”である
駐在に他ならなかった…

かごの鳥29(コラボ小説)

こころ龍之介先生監修


「え?」

瞬時にこちらをぽかんと凝視する笹山を
静かに見返した美保が、
しばしの沈黙の後に、
小さく口を開く。

「評判は悪くないのよ。確かに自分の息子を随分と溺愛してるけど…それ以外は…そうね…若い愛人が居るという噂を聞いた事があるけど、署長は奥さんを亡くしてて今は独身だし…特にこれと言って問題ないわ。」

「そうか…」

目で促すジョージに
小さく頷いた美保がしばしの巡情の後に、

再び形の良い唇を開く。

「はっきりとは説明出来ないけど…なんか嫌な感じがするの…」

「なるほどな…」

「私がここに赴任して来た時に、他に赴任して来た何人かと歓迎会があったの。それで…二次会が終わった後に署長が車を呼んで男子職員だけを三次会へ連れて行ったわ。」

「それって…アレだよね?」

若干赤面して言葉を濁す笹山に
ジョージが応じる。

「だろうな。あんたがよく世話になる所だな…」

「ぼっ!僕は風俗なんかっ…!!」

「あんたは冗談が通じねえ男だな…それで本当に“お笑い芸人”なのか?」

「なっ!なんだとぉ!?」

「ジョージ…話のこしを折るのはやめてちょうだい。」

眉をしかめてこちらを軽く睨む美保に

ジョージが小声で応じる。

「悪かった…」

「私もそうだと思ったわ。どこへ行くんですか?って訊ねる方が野暮だから、もう1人の女の子とタクシーを呼んで帰ったわ。」

「なるほどな…」

合いの手を入れるジョージと
真剣な面持ちの笹山と
交互に目を合わせた美保が

小さく固唾を飲む。

「そこまではよくある事だわ…でもね…次の日出勤して来た、歓迎会に参加していた男子職員達の様子が一様に変だったわ。」

「変だった?」

オウムのように自身の言葉を繰り返す笹山を
再び凝視した“雌豹”が続ける。

「挨拶しても返事がなかったり、一切目を合わせて来なかったり…私だけじゃなくて、観察してたら他の女子職員達に対してもそうだったわ。先輩にそれとなく聞いたら、歓迎会に出席した男性職員は翌日、いつもあんな風になる。どうせ署長に品のない所に連れて行かれたから決まりが悪いんでしょって…」

「それは…その先輩の言う通りじゃないの?」

自身も経験がある事に
紅潮した顔を
“雌豹”から反らせた笹山が、
小さな声で応じる。

「私もそう思ったわ…でも…」

どこかひび割れたハスキーな声に、

恐る恐る
自身の面を上げた笹山を、
若干潤んだ切れ長の瞳が
こちらを静かに見据えていた…

かごの鳥28(コラボ小説)

こころ龍之介先生監修


「それは随分おかしな話ね…」

事の顛末を一気に話し終え、
冷め切ったコーヒーで喉を潤す笹山を、

“雌豹”が
じっと凝視する。

「おい美保。こいつが言ってる事は全部間違いねえ事だ。」

「分かってるわ。ジョージ。あなたの事だからきっちりと裏は取ってあるんでしょ?」

「まあな…」

「あなたにはやっぱり戻って来て欲しいわ…」

「それは出来ねえな…」

「言い出したら聞かないところは昔から変わってないわね。」

――なんだ…!?この2人まさか…

ぽかんと口を開く笹山の心中を読んだかの如く、

美保が片手を振る。

「違うわよ!ジョージは別の女の子に夢中で私なんか相手にさえしてくれなかったわ。」

「えっ!!?」

思わず
目前で足を組む“雌豹”と
横を陣取る巨体を
まじまじと見比べる笹山に

ジョージが吹き出す。

「笹山さんよ…あんた本当に真面目だな。相手にされなかったのは俺の方に決まってるだろ。“ミスキャンパス”にはいつも100人ぐらいの男が取り巻いてたぜ。」

「それは大袈裟よジョージ。せいぜいその半分ぐらいだわ。」

さらりとかわした美保が、
細い指でメンソール煙草に火を付ける。

「もっとも…あなた達が探してる“香織ちゃん”にはそれ以上の取り巻きが居たかもしれないけど…」

「まあな…いい女が皆幸せとは限らないがな…」

ジョージの目に
ちらりと浮かんだ
連憫とも取れるものから
さっと目を背けた美保が
ゆっくりと紫煙をくゆらせる。

「沼鵜署長か…余り良い感じは受けないわ…」