ぞっと…笑って下さい。道化猫くっきーの小説ブログ“笑う猫の夢” -5ページ目

かごの鳥24(コラボ小説)

こころ龍之介先生監修


「おい…ここって…」

県境のドライブインで
簡単な昼食をとった後、

ジョージの指示する方向へと
ひたすらにハンドルを切り続けていた笹山が、
呆然と後部座席を振り返る。

「ああ…懐かしい場所だろ?」

「な…俺は入れないんだろ?」

数週間前に
署長の沼鵜によって
追い払われるように辞した建物を、
唖然と見上げた笹山が首を傾げる。

「ああ…お前さんはな…とりあえず降りるぜ。」

「な…何をする気なんだ?」

慌ててエンジンを切り、
ロックを確認した後、
小走りに自身を追う笹山を振り返ったジョージが
唐突に口を開く。

「笹山さんよぉ…あんた確か独り者だったよな?」

「あ…ああ?」

「ちょうどいいかもしれねえな…」

「な…なんの事だ!?」

「こっちの話だ。ちょっとそこで茶でも飲んどけよ。」

――あいつ何しに行くんだよ?あんなに人相の悪い奴が警察なんかに入ったら…!知らねえぞ俺は…

混乱する頭を落ち着かせた時には
既にジョージの姿はなく、

自身の頭を殴り付けた笹山は、
痛みに顔をしかめながら
重い足取りで

先程ジョージが指定した喫茶店のドアに手を掛けた…

かごの鳥23(コラボ小説)

こころ龍之介先生監修


「おい笹山さんよ…今度はどこ行くんだよ?」

ジョージの声など
まるで耳に入っていないかのように、
黙々とハンドルを握る笹山に、

肩をすくめたジョージが
再び口を開く。

「言っておくけど…あんたはもうあの警察署内には入れてもらえないぜ。」

――!!!

瞬時にブレーキを踏み、
きしんだ音と共に
愛車を路肩に寄せた笹山が、
唖然と振り向く。

「依頼人の事を調べさせてもらうのも、俺達の仕事なんでね…悪く思うなよ。」

「き…君ねえ…こっ!個人情報保護法というほ…法律が…」

「“法律”より“仕事”の方を優先しろというのがうちのボスの考えなんでね…」

「な…何ぃ~!?」

「笹山さんよ…少し落ち着けよ。ここで言い争っててもなんの解決にもならねえぜ。」

「…」

紅潮したまま、
言葉に詰まる笹山を、

ちらりと一瞥したジョージが
更に続ける。

「俺の仕事はあんたに危険が及ばないように、しっかりとガードする事だ。だが、あんたのやり方じゃあいつまで経っても問題は解決しないぜ。俺としても、いつまでもあんたの“専属”を続けるのは御免だ…」

「そ…それはこっちのセリフだ!」

「笹山さんよ…」

再び瞬間湯沸し器の如く、紅潮する笹山を静かに見据えたジョージが呟く。

「俺のカンではあんた相当ヤバい事に巻き込まれてるぜ…今はお互いに、意地を張り合ってる時じゃねえと思うぜ。」

「…」

「そう膨れるなよ。悪いな…ちょっと待っててくれよ。」

硬い表情でエンジンキーに手を掛ける笹山を制したジョージが、
ロックを解除し、
車外へと這い出す。

――どこに掛けるんだ?

車内に残る笹山から
若干離れたジョージが、
自身のコートのポケットから携帯を掴み出す。

「ああ…久しぶりだな…悪いな…」

愛車の窓を細くスライドさせた笹山が
ぴくりと耳をそばだてる。

――なんて言ってるのかは分からないけど…相当に親しい間柄みたいだな…

携帯を耳に寄せて話すジョージのこわもて面は、
時折、微かな微笑を浮かべていた…

「待たせたな。」

静かに車の扉を開けたジョージが
笹山を促す。

「笹山さんよ。とりあえずG県へ行ってくれよ。そこから先は俺の指示で動いてもらうぜ。」

「ど…どこへ行くんだ?」

「それは着いてからのお楽しみだ。」

「わ…分かった…」

穏やかながらも、
有無を言わせないジョージの口調と、
猟犬さながらの鋭い視線に、

笹山はしぶしぶ頷くより他になかった…

かごの鳥22(コラボ小説)

こころ龍之介先生監修


紙片を引ったくるように
ジョージの手から取り上げた笹山は、
無言でその場を離れ、
自身の携帯を発信した。

「もしもし?望月さんのお宅ですか?ちょっとお嬢さんの事で…え?いや…お嬢さんの友人の父兄の…です。え?おっしゃる意味が…ええ!?居ない!!?失礼ですけど…それはいつから…ええ!!!?そんなに前から…元々ほとんど家にいない子だった!?ま…まあ…プチ家出とか流行ってますけどね…でもね!あなた親でしょう!?年頃の娘さんがそんなに長い事!!おかしいでしょう!!!もしもし?もしも~し!!」

一方的に切られた携帯を手に
笹山は呆然とその場に立ち尽くした…

「4年も前から娘が家出してるってのに…どういう親なんだ!!」

紅潮した顔を幾分静めた笹山が、
深い溜め息と共に、
再び携帯を取り上げる。

秋山香緒里の連絡先は、
局番から察するに県外の番号だ。

「もしもし…秋山さんのお宅ですか?え…違う?そちらは…?“天使の園”?秋山香緒里さんという方…そうですか…秋山さんはご幼少の時にそちらで…あの…秋山さんの身内の方は…?そうですか…いらっしゃらないんですか…秋山さんは今どちらに?分かりました…」

施設の職員らしい女の声に、
丁寧に礼を言って電話を切った笹山が
再び長い溜め息を付く。

――1人は4年も前から家出…1人は身寄りがない施設育ち…八方塞がりか…

肩を落として自身の車へと足を向ける笹山を、

じっと見詰めていた
ジャージ姿のジョージが、
短い溜め息と共に
静かにその背中を追う…