『黄金』(1948)、『アフリカの女王』(1951)のジョン・ヒューストン監督が1985年に撮った『女と男の名誉(Prizzi's Honor)』は、リチャード・コンドンの小説「プリッツィの名誉(Prizzi's Honor)」を映像化したコメディ・タッチのノワール作品です。
本作は、ゴールデングローブ賞の作品賞(ミュージカル・コメディ部門)、監督賞、主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)、主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)と、アカデミー賞助演女優賞をアンジェリカ・ヒューストン(※)が受賞しております。
ジャック・ニコルソン(役名:チャーリー・パルタンナ)は、年老いた’ドン’ウィリアム・ヒッキー(役名:コラード・プリッツィ)率いるニューヨーク・マフィア一家のヒットマンです。
ファミリーの仕事の殆どは、’ドン’ウィリアム・ヒッキーの息子達リー・リチャードソン(役名:ドミニク・プリッツィ)とロバート・ロッジア(役名:エドアルド・プリッツィ)、そして彼の長年の右腕であるジャック・ニコルソンの父親であるジョン・ランドルフ(役名:アンジェロ・"パパ"・パルタンナ)と息子のジャック・ニコルソンによって執り行われています。
内輪の結婚式の席で、ジャック・ニコルソンは見覚えのないキャスリーン・ターナー(役名:アイリーン・ウォーカー)に惹き付けられます。
ジャック・ニコルソンはリー・リチャードソンの別居中の娘で幼馴染の元婚約者アンジェリカ・ヒューストン(役名:メイローズ・プリッツィ)に、その女性に関して尋ますが、アンジェリカ・ヒューストンの自分への想いが残っていることに気付きません。
ジャック・ニコルソンは、ネバダのカジノで盗難を働いた男を殺害する為にカリフォルニアへと向かいます。
彼は、ジョセフ・ラスキン(役名:マークシー・ヘラー)が結婚式で出会ったキャスリーン・ターナーの別居中の夫であることを知り、彼女に盗んだ金を返す様に言います。
ジャック・ニコルソンがキャスリーン・ターナーが盗難に関与していないものと信じていることから、彼女は夫のジョセフ・ラスキンが手にした金の半額だけ返済しようとします。
この出逢いでジャック・ニコルソンとキャスリーン・ターナーは恋に落ち、結婚する為にメキシコに出発します。
嫉妬したアンジェリカ・ヒューストンは、キャスリーン・ターナーの裏切り行為を証明する為に単身西海岸に向かいます。
このことは、ジャック・ニコルソンとの過去により秋風が吹いていたアンジェリカ・ヒューストンの父親と’ドン’ウィリアム・ヒッキーとの関係を改善させます。
ジャック・ニコルソンの父親ジョン・ランドルフは、キャスリーン・ターナーがジャック・ニコルソンと同じ暗殺請負人であることを突き止めます。
一方、’ドン’ウィリアム・ヒッキーの息子リー・リチャードソンは、娘のアンジェリカ・ヒューストンがジャック・ニコルソンへの嫉妬と恨みからジャック・ニコルソンから暴行を受けた過去があると告げられたことから、ジャック・ニコルソンの妻となったキャスリーン・ターナーの素性を知らずに、フリーのヒットマンであるキャスリーン・ターナーにジャック・ニコルソン殺害を依頼します。
ジョン・ランドルフは息子であるジャック・ニコルソンの側に立ち、兄リー・リチャードソンの行動に憤ったロバート・ロッジアと共に、リー・リチャードソンを家族から永久追放することを決めます。
キャスリーン・ターナーとジャック・ニコルソンは、ファミリーが株主となっている銀行の金を悪用している頭取を誘拐することで、誘拐保険金を得る計画を実行します。
しかし、誘拐しようとしたホテルでキャスリーン・ターナーは警察署長の妻を射殺してしまったことで、組織と警察の関係を危険に晒してしまいます。
’ドン’ウィリアム・ヒッキーは、ネバダのカジノで盗難した金を手許に置いているキャスリーン・ターナーに圧力をかけますが、応じようとしない彼女に対し’ドン’ウィリアム・ヒッキー、はジャック・ニコルソンに極罰の実行を命じます。
愛する妻とファミリーの一員としての葛藤にジャック・ニコルソンの心は煩悶します。
シチリア出身のファミリーの結束が描かれる本作は、キャスリーン・ターナーの素性を知りながらも彼女を愛するジャック・ニコルソンと、彼の’ドン’であるウィリアム・ヒッキーの葛藤と煩悶が綴られます。
それは、アルフレッド・ヒッチコック監督の『汚名』(1946)で、クロード・レインズが母親のレオポルディーネ・コンスタンチンにスパイと結婚したことに対する慚愧の告白に通じる、組織や’血の結束の忠誠'に愛憎が交錯する様が描かれます。
この映画では、キャスリーン・ターナーへの激情に駆られるジャック・ニコルソンに対し、幼馴染の元婚約者アンジェリカ・ヒューストンが濃紺の底流の様な存在感を示します。
愛し合う男女が互いのターゲットになってしまうプロットが描かれる映画ですが、アンジェリカ・ヒューストンとの愛や肉親とファミリーの結束が絡むことにより、幾重にも織りこまれた人間ドラマを観ている感覚を覚えます。
ジャック・ニコルソンが峰不二子的なキャスリーン・ターナーに翻弄される流れが展開する中で、判っていても惹かれてしまうファム・ファタール(傾城)さに、非情な手段も辞さないファミリーの姿が、ジャック・ニコルソンの抑揚豊かな表情を筆頭とするコメディ・タッチで進行します。
マフィアを描いたノワール作品であることから、誘拐や市民発砲等のバイオレンス・シーンが登場しますが、他のギャング映画に比べるとサスペンス・タッチはドライで希薄な様に感じます。
それは、ヒットマンとして裏の顔を持つ女性が、シチリア・マフィアに絡む恋愛コメディのユニークさを醸し出す為だと思いますが、ファミリーの愛情(結束)と男女の愛(恋愛)を浮き立たせる演出の一つとして印象に残ります。
ジョン・ヒューストン監督のキャリア最晩年を飾る作品として、これからも観続けて行きたい作品です。
(※)ジョン・ヒューストン監督の娘。母親はリッキー・ソマ。
§『女と男の名誉』
ジャック・ニコルソン、キャスリーン・ターナー↑
アンジェリカ・ヒューストン、ジャック・ニコルソン↑
キャスリーン・ターナー、ジャック・ニコルソン↑
ジャック・ニコルソン、ジョン・ランドルフ↑
アンジェリカ・ヒューストン↑
ジャック・ニコルソン、キャスリーン・ターナー↑
リー・リチャードソン、ウィリアム・ヒッキー↑
アンジェリカ・ヒューストン↑
キャスリーン・ターナー↑
ウィリアム・ヒッキー、キャスリーン・ターナー↑
キャスリーン・ターナー↑
キャスリーン・ターナー、ジャック・ニコルソン↑