『鉄道員』(1956)のピエトロ・ジェルミ監督が1950年に撮った『越境者(Il cammino della speranza)』は、ニーノ・ディ・マリアの小説を基に映画化された作品で、 フェデリコ・フェリーニが脚本をトゥリオ・ピネリと共に共同執筆しております。
本作は、2021年カンヌ国際映画祭のクラシック部門で特別上映されております。
硫黄採掘所が閉鎖されたことで、ラフ・ヴァローネ(役名:サロ・カンマラータ)率いるシチリアのカポダルソ鉱山労働者達は、鉱山を占拠しようと地下に集まっています。
闘争が功を奏しないものと諦めかけたグループは地上に戻り、職業斡旋人サーロ・ウルツィ(役名:チッチョ)の斡旋話に耳を傾けます。
サーロ・ウルツィは彼等を高給の仕事のあるフランスに、1人20,000リラで不法出国させることを提案します。
多くの人が自宅の家具や装備を売って手配されたバスに乗り込み、ジュゼッペ・プリオーロ(役名:ルカ)とリリアナ・ラッタンツィ(役名:ローザ)はバスに乗る直前に結婚します。
出発した人々の中には、後に彼等に加わる無法者のフランコ・ナヴァラ(役名:ヴァン二)と婚約者のエレナ・ヴァルツィ(役名:バルバラ・スパダロ)も加わっています。
メッシーナ海峡を渡った後、ナポリに到着した彼等でしたが、サーロ・ウルツィは彼等を置き去りにして別の列車に乗って逃げようとします。
しかし、サーロ・ウルツィはフランコ・ナヴァラとエレナ・ヴァルツィに見つかってしまいますが、サーロ・ウルツィはこれほどの規模の集団が監視網をくぐって国境を越えることは不可能だと言い放ちます。
フランコ・ナヴァラは他の人達には何も云わないことを決めますが、その代わり、サーロ・ウルツィは他の人達をローマに残した後、フランコ・ナヴァラとエレナ・ヴァルツィをフランスへ連れて行くことを約束させられます。
承知したサーロ・ウルツィでしたが、ローマに到着するとフランコ・ナヴァラを警察に通報したことから、サーロ・ウルツィとフランコ・ナヴァラは警備員との銃撃戦の中駅から逃走します。
残った全員は警察に逮捕され、シチリア島への強制退去命令を受けてしまいます。
なんとかエレナ・ヴァルツィに会うことが出来たフランコ・ナヴァラは、国境で再会することを約束して別れます。
移民となった彼等は強制送還書類を破り、トラック運転手の手を借りて不法移民としての旅を続けることを決意します。
エミリアに到着した彼等は、立ち寄った農場で一時的な食事と住居付きの仕事にありつきますが、彼等はそれが農業ストライキ中の’スト破り’行為であることを知りません。
農業労働者のデモに遭遇した彼等は非難の的となり、ラフ・ヴァローネの娘が労働者の投石で重傷を負ってしまいます。
フランコ・ナヴァラに会うために先に出発していたエレナ・ヴァルツィでしたが、他の村人達の差別から彼女を守ってくれたラフ・ヴァローネに対する信頼から、重症の娘を助ける為に彼等の許に医者を連れて来る為に戻って来ます。
意気消沈した一部の人々はシチリア島に戻ることを決意し、残った人々はイタリアとフランスの国境にあるノアスカに辿り着きます。
やがて合流したフランコ・ナヴァラ(役名:ヴァンニ)と共に、猛吹雪の峠を徒歩で越えてフランスに入国しようと歩を進めます。
一行が出発する一方で、エレナ・ヴァルツィがラフ・ヴァローネに惹かれ始めているのを感じたフランコ・ナヴァラは、ラフ・ヴァローネに決闘を申し込みます。
この映画では、ジョン・フォード監督がジョン・スタインベック作品を映像化した『怒りの葡萄』(1940)の農作業のスト破りや、『我が谷は緑なりき』(1941)で描かれた閉鉱により土地を離れざるを得ない人々が登場します。
あと、国境の山岳地帯を超えるシチリアの人々と国境警備隊の姿に、自分は「Clime Every Mountain」へと繋がる『サウンド・オブ・ミュージック』(監督:ロバート・ワイズ 1965)のエンディング・シークエンスを連想します。
閉山や詐欺被害に遭った南のシチリアの人々が北イタリアで更なる暗雲に巻き込まれるこの映画は、スト破り騒動に巻き込まれる流れを経て風吹の山越えをクライマックスにして描かれます。
北海道出身の自分には、温暖な地中海の島に生まれ育った人々を容赦無く襲う壮絶な吹雪のシーンは、実際の吹雪を映像に捉えた『初恋のきた道』(監督:チャン・イーモウ 1999)同様、その過酷なリアルさに身が引き締まります。
本作では、無地のキャンバスに人生を描こうとする新婚夫婦ジュゼッペ・プリオーロとリリアナ・ラッタンツィに、荒くれ者のフランコ・ナヴァラとその恋人エレナ・ヴァルツィに絡むラフ・ヴァローネの三角関係が、ピエトロ・ジェルミ監督によって繊細且つ巧みに紡がれます。
本作では、新婚の若きリリアナ・ラッタンツィとジュゼッペ・プリオーロが、一群の不安と希望に感応するセンサーの様に思えます。
農作業従事が決まった夜、皆が炎の周りで歌い踊る中、リリアナ・ラッタンツィがジュゼッペ・プリオーロを表情だけで繁みに誘い出す流れを観ると、自分には黒澤明監督の『七人の侍』(1954)の津島恵子と木村功の昂揚シーンが重なります。
あと、ラストでフランス国境警備隊の真似をして帽子をベレー帽の様に被り直すシーンは、そのさり気ない演出にピエトル・ジェルミ監督の粋を感じます。
幾度も登場するシチリアの人々のギター伴奏の歌唱シーンに、彼等の喜怒哀楽の心象を感じる、人間模様が巧みに織られたピエトロ・ジェルミ監督作品としてこれからも観続けて行きたい映画です。
§『越境者』
ラフ・ヴァローネ↑
サーロ・ウルツィ(左)↑
ラフ・ヴァローネ(右)↑
エレナ・ヴァルツィ↑
リリアナ・ラッタンツィ、ジュゼッペ・プリオーロ↑
皆が集う炎の輪からジュゼッペ・プリオーロを誘い出すリリアナ・ラッタンツィ↑
リリアナ・ラッタンツィ、ジュゼッペ・プリオーロ↑
ラフ・ヴァローネ、エレナ・ヴァルツィ↑
吹雪の山越え↑