橘 白扇 のひとりごと -7ページ目

「国立メディア芸術総合センター」 (仮称)

現在国会で議論が開始いされようとしている補正予算案の


なかに「国立メディア芸術総合センター」(仮称)なるものの


建設が盛り込まれているそうである。


この施設はお台場に土地の取得費こみで117億円の予算


で延床面積1万平方メートル、4~5階建の建物を建設する


という物らしい。そして完成後は一般公開し、年間60万人の


入場者目標とするらしい。


収容されるのはアニメなど通信、放送作品のようである。


お台場の土地の所有者は東京都かあるいは民間なのか、


良くわからない。


既にNHKのアーカイブをはじめとして民間の美術館や、


作者個人の記念館などもあり、新しい施設を作らなければ


ならない必然性が説明されているとは思えない。


施設を作れば当然ながら維持管理に費用がかかる。


年間60万人の目標が達成できたとしても、利用料収入は


入場料ひとり千円としても6億円である。入場料500円なら


当然その半分である。そして、毎年60万人の来客を維持


するためには、企画展などを頻繫に開催する必要もあろう。


そのためには、いわゆる学芸員等の従事員の数はいったい


どれほど必要であろうか。


建物の維持管理と、従業員の人件費等を考慮すれば、


たとえ目標人数を達成しても、赤字になるおそれは非常に


高いのでは無いか。


そうだとすれば、今後毎年のように税金をつぎ込むことに


なるおそれがある。


こんな施設を緊急の補正予算で建設する必然性は無い。


新聞、テレビ等のマスコミは政府の発表する予算案の概要


のみに頼り、予算案を熟読しているとはとても思えない。


平成21年4月に財務省主計局が未定稿として発表した


「平成21年度補正予算(第1号 特第1号お呼び機第1号)


等の説明」を覗いてみたが、いわゆる役人言葉で内容を


すんなり理解することは、すくなくとも、私には出来ない。


政府の発表をそのまま伝えるばかりでは、マスコミの自殺


ではないかと、危惧もせざるを得ない。


政府発表を鵜呑みにして、補正予算の早期成立を主張


するにいたっては、まるで幇間である。




法は顕かなるに如くは莫く、術は見わるるを欲せず。


                         韓非子

エコカー減税の効果について

4月の新車総販売台数が前年同月比23%減となった。


4月からエコカー減税が始まったが、効果はなかったと言える。


5月以降、対象車の拡充により、効果が現れるのではとも言われるが、


果たしてそうであろうか。


エコカー減税は対象車の自動車取得税と重量税を減免するものだが、


車両の本体価格、燃料や自賠責保険、任意保険といった維持費が


かかることには何らの変化も無い。自動車取得税と重量税が減免された


からといって新車を購入する動機付けにはなるまい。


エコカー減税は、一見環境対策のようでありながら、ETC利用による


高速道路利用の推進をあわせて考えれば、けっして二酸化炭素の排出


削減を目的とするものとは思われない。



ETCに限定したのは、当然別の思惑があり、自動車取得税、重量税の


減免にも自動車産業の救済という目的があることは明白である。



世間一般の役に立つという大義名分の影で特定の産業分野、企業への


救済という姑息な方法をとることは、最近の政府の常套手段となっているが、


国民はこれを見抜けないほどおろかでは無い。




国の将に亡びんとするや、必ず制多し


                        春秋左氏伝 昭公6年

公訴時効と除斥期間

東京都足立区における小学校教諭(石川千佳子さん)殺人・


死体遺棄事件に関する、遺族の民事損害賠償請求を最高裁


は民法の「除斥期間」を適用せず、4,200万円の賠償を命じた


二審判決を認め、公訴時効完成後に出頭した元警備員の上告


を棄却した。


4月28日のこの判決は事前に予想されたとおり、長期間殺人の


事実さえ知り得なかったという特殊事情に配慮したものとされる。




この判決を理解するためには時効と除斥期間の違いを見てみよう。



 時効とは、


    一定の期間が経過することにより、権利を取得したり、


    権利の消滅の効果を生ずる制度である。


    前者を取得時効、後者を消滅時効と言う。


    刑事訴訟法の公訴時効は消滅時効の一例である。


    民法ではその162,163条で所有権と、所有権以外の


    財産権の取得時効を規定している。


    民法上の時効は、時効の利益を主張、つまり援用しなければ、


    裁判上は時効に基づいて裁判することは出来ない。


    消滅時効とは、権利の不行使が一定期間継続することにより、


    権利が消滅する時効のことをいう。


    消滅時効は債権と、債権以外の財産権の一部に認められるが、


    所有権、占有権、特許権などには適用されない。


 除斥期間とは、


    ある種の権利について法律上定められた存続期間であり、


    予定期間または失権期間とも呼ばれる。


    権利関係の速やかな確定のために定められている消滅時効に


    似ているが必ずしも一定の事実状態が継続していることや、


    当事者の援用を必要としない。


 除斥期間か消滅時効かの判別は、文言が「時効ニ因リテ」とあるか


 否かによるとする見解と、権利や規定の性質によるとする見解にわかれる。




今回の最高裁の上告審判決は、民法724条の不法行為に対する損害賠償


請求権に対する除斥期間を適用しなかったものである。


この殺人事件は昭和53年(1978年)に実行され平成16年(2004年)に


元同校の警備員が出頭して犯罪の事実が明らかになったものである。


遺体もその供述どおり、元警備員宅の床下から発見されたため、


殺人の犯人であることは間違いがないとされるものである。


殺人の公訴時効は既に完成しており、損害賠償だけが、判断される状況


となったものである。


 今回の判決は、出頭が無ければ殺人の事実さえ知りえず、単なる失踪、


行方不明として処理されてしまうものて゛あった事を最大限考慮し、遺族の


救済を図ったもので、個別事案に対するものとしては、妥当な判断と言える。





 判決のもたらす影響についても、考えてみよう。




以前に公訴時効を巡って、公訴時効完成を3つのケースに分類した。


  ① 事件が認知されていなかったケース


  ② 被疑者が指名手配されていたケース


  ③ 事件の被疑者が特定されていなかったケース


の3分類である。


犯罪は、その発生が認知され、捜査が行なわれ被疑者が特定され、


被疑者を逮捕し、検察官が裁判所に起訴し、裁判所が有罪か無罪か


を判断し、刑罰を決定する。そして刑罰が実行されるという形で処理


される。


まず大前提となるのは犯罪の事実、事件を認知しなければ、それ以降


の段階に進む事はありえないのである。



 今回の判決の対象となった事件は、実行者の出頭が無ければ認知


されなかったと考えるのが自然である。


 わが国の行方不明者は警察への捜索願いの件数などから、年間


10万人を超えるとも言われる。もちろんこの数字には、無事発見され、


あるいは自分で戻るなど、解決されたものが多いと思われるが、


何らかの事件、事故に巻き込まれた行方不明者も存在していると


思われる。事故、事件の場合、何らかの手がかりが無ければ、


解決の道は無い。


 今回の判決で損害賠償義務を課された結果、犯行を悔い、遺族に


謝罪しようとして、犯行の事実を告げ、警察に出頭する事例は


今後、その例を見なくなるのでは無いか。


誰にも告白することなく、犯罪実行者が、その生を終えるまで、沈黙


を貫く事となろう。


せめて犯罪の事実であっても、消息を知りたいという、遺族の希望は


かなえられなくなる。




 判決のもうひとつの影響


裁判は個別の事案につき、法律判断を下すものではあるが、


これまでに除斥期間を認めて請求を棄却してきた、戦後補償訴訟、


公害訴訟との整合性をどう取るかという疑問である。


ことに海外からの戦後補償訴訟は、訴えたくても国交の問題や、


言葉、費用の問題で訴えられなかったという事情を斟酌しなければ、


今回同様、著しく正義、公平の理念に反するということになるのでは


ないか。


 今後、近隣諸国から戦後補償請求が多数提起されるであろうことは


予測しておくべきである。



 

公訴時効完成前後

ドラマでは公訴時効完成直前に逮捕されるケースがよく展開される。


しかし、現実には公訴時効完成直前に逮捕された事例は極めて少ない。




直前逮捕の事例を探してみた。


 松山ホステス殺人事件


    平成9年7月29日逮捕、昭和57年発生。


    公訴時効完成11時間前に起訴。


    犯人は福田和子、容疑者として指名手配、逃亡中に整形手術。



 足立区佐野路上殺人事件


    事件発生平成2年11月12日未明。


    平成17年11月2日逮捕。


この2例以外には事例を探すことが出来なかった。




それでは、公訴時効完成後に犯人が判明した事例はと、捜してみた。


3つの類型で事例が、各1件見つかった。



① 事件発生が認知されていなかったケース




  東京都足立区における小学校女性教諭(石川千佳子さん)殺人・


  死体遺棄事件




   平成16年8月に元同じ学校で警備員として働いていた男が


  昭和53年に殺害したとして、警察に出頭。


  刑事上は公訴時効完成のため不起訴となったが、遺族からの損害賠償 


  の請求を受け、二審東京高裁が4,200万円の賠償を認めた。


  平成21年4月28日に際高裁が判決を下す事となっている。二審の判断


  が維持される見込み。




② 被疑者が指名手配されていたケース




  福岡県北九州市におけるタクシー会社警備員強盗殺人事件




  昭和63年1月発生、平成19年1月判明。


同社に勤務する男を被疑者として指名手配。平成19年家裁に失踪宣告


  取消の申し立てをしたことにより判明。




③ 事件の被疑者が特定されていなかったケース




  東京都昭島市における主婦殺人事件  


  昭和63年11月発生、平成16年1月に窃盗罪の容疑で逮捕された男が


  取調べにおいて供術、判明。



現実を見る事なしに公訴時効を議論ことの虚しさ、少しは理解していただけますか。






③ 東京都昭島市における主婦殺人事件  




数字で見る殺人事件の公訴時効問題

殺人事件の公訴時効について被害者遺族が撤廃を求めていることなど


により、世間の耳目を集め、法務省も公訴時効勉強会、公訴時効ワー


キンググループにより検討を進めている。



そして法務省は平成21年3月31日に


    「凶悪・重大事件の公訴時効の在り方について


       ~当面の検討結果の取りまとめ~」


                                     を発表した。



この報告書や犯罪白書、検察統計年報によって、殺人事件に限定して


数字を集計して見た。但し公訴時効に関連する年のみを表示する。

         


 発生年   認知件数 検挙率   時効完成年  時効完成数 時効完成率


昭和57年  1,764件  97.11%   平成 9年    44件     2.49%   

昭和58年  1,745   97.31     平成10年    43       2.46   

昭和59年  1,762  97.16     平成11年    33       1.87

昭和60年  1,780    96.46     平成12年    60       3.37
昭和61年  1,676  96.66     平成13年    65       3.88

昭和62年  1,584  97.98     平成14年    47       2.97

昭和63年  1,441    97.09     平成15年    48       3.33

平成 元年  1,308 95.95   平成16年    37       2.83

平成 2年  1,238   96.69     平成17年    44       3.55

平成 3年  1,215   95.97     平成18年    54       4.44

平成 4年  1,227   96.58     平成19年    58       4.72


 発生年   認知件数 検挙率   検挙件数   未検挙件数

平成 5年  1,223   97.30     1,190      33

平成 6年  1,279   95.78 1,225      54

平成 7年  1,281 96.49     1,236      45

平成 8年  1,218 98.28     1,197      21

平成 9年  1,282 95.55     1,225      57

平成10年  1,388 97.69      1,356      32

平成11年  1,265 96.36     1,219      46

平成12年 1,391   95.04      1,322      69

平成13年  1,340 94.10     1,269      71

平成14年  1,396 95.70      1,336      60 

平成15年  1,452 94.08     1,366      86

平成16年  1,419 94.57     1,342      77

平成17年  1,392 96.62     1,345      47 

平成18年  1,309 96.79     1,267      42

平成19年  1,199 97.33     1,167      32

平成20年  1,297 95.37     1,237      60



 検挙率は当該年中の逮捕件数を認知件数で除して算出されているため、


必ずしも発生年の事件ばかりではないため、正確では無い。


発生から5年以降は逮捕・検挙が困難とされているが、それ以前の検挙は


統計上検挙の年の数値に含まれるためである。




時効完成率は完成数を認知件数で除して、私が求めたものであり、当然


ながら認知されていない事件を含むことはできない。


時効完成後に犯人が判明した事例のうちに、事件発生が認知されていな


かったものがあることは、最近裁で民事の損害賠償事件の判決期日が


指定された事例で明らかとなっている。




昭和57年から平成4年の間に認知された殺人は合計16,740件、


この期間に認知され、時効完成によって不起訴となった件数は533件である。


時効完成率は3.18%となる。


但し、平成17年から19年の3年の数字を見ると時効完成率は、高くなりつつ


あるといえよう。




平成7年から平成15年の公訴時効15年に関わる未検挙件数を検挙率から


推定すると、認知件数12,013件のうち487件4.05%となり、これが将来


時効完成数の基礎となる数字である。


平成16年については全て時効25年と仮定して平成16年から20年の認知


件数6,616件中、未検挙件数は258件、3.90%である。




時効完成率を3.18%と仮定して、今後検挙が期待できる件数を推定してみる。


公訴時効15年分12,013件のうち時効完成予想件数382件、時効25年分


6,616件のうち時効完成予想件数210件、したがってこれらの未検挙件数


のうち、今後検挙が期待できるのは、時効15年分に対して105件、時効25年分


に対して48件となる。


時効完成率の上昇傾向からすれば、期待値以上の検挙は望み薄かもしれない。

いつまで続く縁座制

中村雅俊、五十嵐淳子夫妻の長男俊太(31歳)が4月4日


大麻不法所持の疑いで逮捕された。


翌日の各新聞には「中村雅俊の長男が逮捕」との見出しで


報道されていたようである。

 


親子関係に間違いはないが、どうしてタレント中村俊太とか、


役者の中村俊太とのみ掲示しないのであろうか。


確かに知名度では、両親のほうが上であろうが、逮捕された


のは、あくまで俊太である。両親がお詫びの会見を開くというか、


開かされるのは本当に必要なことなのであろうか。


確かに子弟が未成年の場合には親に一端の責任はあろうが、


成人した子弟の行動に全て親が責任を持つ必要は無いし、


子弟の全てを管理、監視する事など不可能である。


親がどれほど厳しく教育、躾をしても、子弟が親の意のままに


ならない事は、私を含めて全ての子を持つ親は熟知している事柄


では無いのか。


有名税などという表現ですまして良いものではあるまい。


我が子がいつ犯罪の容疑者、あるいは被害者になるのか、予測


することなど出来まい。


律令制度下の連座制、とくに江戸時代の親族に関する連座、縁坐


の制度は、現在の刑罰法規の採るところでは無い。




全ての犯罪者の家族が、職をうしない、転居を余儀なくされ、あるいは


離婚、破談の憂き目を味わう社会は、そろそろおしまいにしたいものである。

小沢一郎のどこが悪い。西松建設問題続編。

政治論か法律論かで紹介した毎日新聞専門編集委員の金子秀敏氏が


4月2日夕刊のコラム【早い話が】で「小沢一郎のどこが悪い」のタイトルで


西松建設の小沢一郎に対する献金を巡って書いている。




必ずしも毎日新聞購読者ばかりでは無いはずなので、少し紹介し、その後


論評を付け加えようと思う。



金子氏の文章を引用する。


 世論調査をすると「小沢代表の説明に納得がいかない」という意見が圧倒的に

多い。同感だ。だが、説明を求める相手は、まず西松建設ではないのか。

 西松建設は、多額の「裏金」をダミーの政治団体を通じて、小沢代表の資金

管理団体「陸山会」に合法的な「表金」として献金した。西松建設内部で

行なわれた資金洗浄だが、受け取った小沢代表の公設秘書も政治資金

規制法違反に問われた。……

…西松建設は、なにが目的で陸山会に多額の献金をしたのか……

公共事業の受注に便宜を図ってもらおうとしたのか。入札で天の声をだして

もらったのか。もしそうであるなら、野党の国会議員でも公共事業の入札に

関与できる仕組みがあることになる。

 もしそのような仕組みがあるなら、秘書は、あっせん利得処罰法違反や

収賄罪に問われなければならない。そのような仕組みがないとすれば、

小沢代表にはこれ以上説明のしようがない。

 小沢代表は、陸山会の献金処理が適切に行なわれたかどうかについては

説明をしている。しかし、西松建設がなにを期待したのかまで説明する筋合い

ではない。……

……この事件では、姿の見えない「関係者の話」 「西松建設関係者の話」

がメディアにさかんに流れている。……

……与党もメディアも小沢たたきには熱心でも、政治浄化には不思議と

腰が引けている。




 

小沢一郎の秘書は、政治資金規正法違反の容疑で逮捕されたが、贈収賄事件、


あっせん利得処罰法違反の容疑で逮捕されたわけでは無い。


贈収賄でいえば、小沢一郎には職務権限があったことを証明できるはずはなく、


贈賄側として立件できるかが問われようが、証明は冨可能であろう。


 西松建設内部の資金移動は、すぐれて西松建設の問題であって、政治家


をそのゆえに政治資金規正法違反で逮捕、起訴することは無理であって、


検察にとって汚点となる可能性がある。



 政治献金を打診された政治家側は、広く浅く献金してもらえるよう要望する


ことは、むしろ自然な姿では無いのか。各業界、企業グループが政治団体を


結成するのは、寄付金の限度額も当然検討されてのことと考えるのが自然


であろう。



巧妙に政治献金を受け取る方法としてパーティが利用され、あまり問題とされ


ていないようだが、こちらの方が不自然では無いのか。


通常、政治家が開くパーティ以外で会費制の場合は、事前には出欠の確認


のみで、会費の支払いは当日パーティ会場で行なわれるのが普通であろう。


パーティで多額の収益があがるのは、出席しない人に売ったパーティ券の


多さによるのである。これはパーティ参加者が個人であることを隠れ蓑とする


企業献金にほかなるまい。これをなぜマスコミは問題視しないのか、不思議


ではある。




金子氏が折角メディアに警鐘を鳴らされても、氏の属する毎日新聞全般に


その声が広がっていない感じがする。まして、西松建設を巡っては二階俊博


経済産業相との関係について小沢一郎のときと同様の報道を繰り返しては


いないだろうか。

遡及適用には異議有り。

公訴時効見直しに関する議論が、法務大臣の勉強会の検討結果発表


により、活発化しそうとのことである。



凶悪・重大事件の公訴時効の廃止には反対であることは、以前このブログ


ニ書いたので、あらためて述べるのは省略する。



しかし、遡及適用については、あらためて書くこととしたい。



憲法はその第39条で、下記のとおり規定している。



第39条〔刑罰法規の不遡及、二重処罰の禁止〕


何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、


刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任


を問はれない。



大阪高裁昭和52年8月30日の民事裁判の判決は、刑罰法規については


本条によって事後法の制定が禁止されている旨を述べている。



刑法は第31条で刑の時効の効果を、第32条で刑の時効期間を定めている。


そして、刑事訴訟法が公訴時効を第250条によって定めている。




4月4日の毎日新聞では、安冨潔慶応義塾大学教授は


「事件時の法を事後に変えるのは刑事法の原理に反する」


と遡及適用に反対の見解を示し、諸沢英道常盤大大学院教授は


「犯行時に犯罪でなかったものを、後から犯罪に改正して裁くわけではない。


時効は犯人に与えられた権利ではなく、政策で決められた恩恵にすぎないので、


遡及しても問題はない」


と語ったとされていて、同じ慶應義塾大学で学んだふたりが異なる見解と


なっている。




時効は決して、政策による恩恵では無い。刑事訴訟法というれっきとした法律


によって法制されたものである。そのなかで、刑法の規定する刑罰の軽重に


より、公訴時効の期間を区別してさだめているのである。


重大、凶暴な事件に限って遡及適用を可とする論拠が示される事なく、遡及


適用を可能とするのは、あまりにも暴論といえよう。



遡及適用を法改正のみによって可能とすることは、憲法第39条の規定に


違反すると考えるのが法律学上当然の議論となろう。民事に関するものでは


あるが、大阪高裁の判示内容に反することは明確である。




刑法及び刑事訴訟法は裁判規範であるばかりではなく、行為規範、行動基準


のひとつと考えるべきであり、事後の不利益変更がもたらす悪弊は、


計り知れないものとなろう。





税法が遡及されて過去の所得に対する税率が上げられるなど想像だにできない


が、過去に行なわれた犯罪に限って遡及法を許すという論理は、危険な道に


踏み出す第一歩となろう。



消費税の納税義務者

所得税の確定申告が3月16日に期限を迎えたのに続き、


個人事業者の消費税の申告期限、納付期限が明日となっている。


現在の消費税法では、年間課税売上が1千万円以上の場合に納税


の義務がある。


この限度額は消費税導入当初は3千万円だったものが、支払った


消費税を納めなくてよいのは不当だとする、いわゆる世論を背景に


法改正がなされた結果である。



しかし、本当にこれで良かったのであろうか。


昨年の途中まで実感なき経済成長とよばれる事象があったが、それは


一部の大企業が、下請けなどの取引業者に徹底した価格低下を強制し、


労働者の給与を徹底的に押さえ、使い捨ての非正規労働を利用した


結果にすぎなかったものである。まさに一将功なって万骨枯るの状況を


産み出していたと言えよう。この歪みが金融危機を契機として、現在の


閉塞状況の主因であろう。



政府は2年後を目途に消費税の税率を挙げようと目論んでいる。


しかし、個人事業者の事業所得は全般的に減少の一途をたどっている


ように思われる。


極端な場合、事業所得が赤字となっている場合すら見受けられる。


それでも、サービス業等で人件費比率の高い業種では、簡易課税方式


による消費税計算によった場合にも、納付不能なほどの消費税額と


なっている。本則課税の場合にはもっと高い税額の場合もある。



消費者の声を全能とすることなく零細企業、零細個人事業者対策として


消費税の納税義務者を、せめて当初の3千万円以上とすべきでは無いか。


零細企業は業績が赤字の場合が多く、法人税率の引き下げが行なわれても


何らの恩恵もない。各種特別措置によっても実質的には救済されていない。



このまま税率が上がれば、シャッター商店街の増加が予測される。


税率が上がっても、競争力のない業者が、価格転嫁できるとはおもえないから


である。



正義、正論を振りかざすことは容易い。しかし、廃業するしかない零細事業者


を見捨てて、いや首吊りの足をひっぱるような正義感は百害あって一理なし


である。

吉田松陰の辞世

最近立て続けに吉田松陰の辞世として、


    親思う心にまさる親心、


        けふの音づれ


      何ときくらん


がそれなりの地位の方が述べているのを見た。



 しかし、この句は一説には、松蔭21歳のとき江戸留学に際して


詠んだものとも言われる。



吉田松蔭の辞世としては漢詩によるものと、和歌による、もっと重要


名ものがある。


憂国の士としての面目躍如たるものがあるこれらをこそ、二十一回猛士


の辞世として記憶しておきたいものである。


    吾今爲國死、


死不背君親。


    悠悠天地事


    鑑照在明神。



                身はたとひ


                武蔵の野辺に


                朽ちぬとも


                留め置かまし


                大和魂