第79本 『大学入試マグナム 精説英文読解』 和田孫博 (駸々堂) | 一遊一夜〜語るに足らぬ私について語るときに私があえて語ること〜

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遊戯三昧の書評。
本の批判はここではナシよ。

『大学入試マグナム 精説英文読解』
和田孫博 (駸々堂)

 本書は大学入試の参考書になる。
 高校の時分から本が好きであったから、私が参考書をかき集めるようになるまで、そう時間はかからなかった。
 特に英語の参考書は熱心に収集した。100冊近く持っていたが、部屋のスペースの関係で絶版の参考書以外は売り払った。伊藤和夫先生の御本はオリジナルも含めほぼ全て集めたし、伊藤先生以降の参考書はかなりの量を持っていた。ポレポレ、透視図、基礎英文解釈100、リーディング教本、ネクステ、やっておきたい英語長文300、500、700、1000・・・。ネクステなんか5冊あったし、アップグレードは10冊持っていた。
 2008年頃に山貞、小野圭の伝説の参考書が次々復刊したときは、喜び勇んで買いに走った。最近の英語参考書のような消費者第一主義の丁寧な作りではなく、これは著者の自己満足ではないか・・・と思われるような中身がたまらなかった記憶がある。
 授業でお世話になった先生は東進(現・代ゼミ)の横山雅彦先生だ。東外大の院で小浪充先生に薫陶を受け、予備校講師の道に進まれた。最近、中経から参考書も久々に出版された。
 代ゼミに移籍される以前は、語学春秋社から参考書を出しておられたが、今では絶版になってしまった。もちろん、これも持っている。

 その語学春秋社には、実況中継CDセミナーという参考書もある。これは、実況中継シリーズ参考書を買ってみて、ぜひこの先生の授業を聞きたい!と思う勇者ないしモノ好きが注文する音声教材だ。GOES 実況中継セミナーという名前で売り出している。さすがに先生方は超一流の方ばかりだ。GLコースは古典文法・望月先生、英文解釈・宮崎尊先生とくるからこれは素晴らしい。GSコースの日本史は、泣く子も黙る石川先生だ。もちろん、GLコース英文速読・横山雅彦先生の教材は高い金出して高3の頃に買った。自腹だった。よく45000円もだしたなぁと思う。

 これは、当時は東進の横山先生の授業だけで精一杯だったから、結局聞いていない。笑

 
 話は変わるが、単語王という英単語帳をご存知だろうか。


この本の著者である中澤一(ナカザワハジメ)先生が出版されているOSPという(早慶受験生には超有名な)音声教材があるのだが、こちらも、なぜか持っている。こちらも自腹で買ったと思う。

 そんなこんなで参考書や音声教材を買い集めていたから、出版社のいい鴨であった疑う余地なく今もそうであろう。

 

 珍しく前置きが長くなったが、今日の一遊一夜に入りたい。
 通常、受験界には隠れた名著など存在しないはずである。なぜなら、受験生がそれこそ鵜の目鷹の目になって優れた参考書を探しているから。しかし、世の中はよくできたもので、受験参考書にも例外というものが存在する。それが本書・・・ではなく、『思考訓練の場としての英文解釈』だ。

 こちらも知る人ぞ知る英文解釈の参考書になる。著者のとめどない毒舌。激ムズの英文。そして容赦なしの文章量。もはや現在の大学入試の範囲なんかは軽く逸脱している。中身はこのような感じだ。

 これが数百ページにわたって続く。
 というか、まず参考書を活字・10ポ且つ1ページ2段組で書こうとする意味が私のような凡人には理解できなかった。しかし、いい意味で受験生を置き去りにしたような参考書をみるとなんとなくワクワクする。
 今ヤフオクを覗いたら、2冊揃って3000円で出ていた。格安だ。
 この参考書ももちろん中身は激ムズなのだが、それ以上に受験生をイジメ抜く英文解釈の名著が存在する。
 それが本書だ。
 まず出版社は駸々堂。読み方がわからないなら、各自で調べておくれ。駸々堂は1881年、明治14年の創業。京都の書店である。受験参考書の出版もしていたのだが、業績不振のため2000年に破産した。
バブル時代に売れない本を企画して売っていた出版社らしく、当たり外れの非常に大きい参考書出版を得意としていた。英語参考書では、LUSTERというシリーズが有名。長年英語教師をやっている先生であればその名前は聞いたことがあるはずだ。知り合いの先生に本書を見せたら「あぁ、ラスターだ。懐かしい・・・」とおしゃっていた。
 

 そんな出版社から出た本であるが、これは超アタリでもあるし、凄まじくハズレでもある。なにしろ、まず出典英文の著者たちがオカシのだ。
 マーガレット・ミード、スティーブン・ホーキング、HGウェルズ、ピーター・マーシュ、ジョージ・オーウェル、エドウィン・O・ライシャワーそしてバートランド・ラッセルとくれば、この参考書の持つ一種の異様さがわかるだろう。
 ライシャワーは美文家であるからよく大学入試の素材にもつかわれるので、参考書にいれるのはまだ理解できる。本書に収められているものもThe Japaneseからの文章であるので、なんとか大丈夫だ。
 しかし、バートランド・ラッセル、ホーキング、レイチェル・カーソンまで出てきたら、もうお手上げだ。確かに、ラッセルの『幸福論』は格調高い文章だから、文句はない。しかし、ここまでくると文句のないことに文句がある。笑

 試しに一題解くためにペンを走らせてみたが、予想と寸分違わず、全くダメだった。ペンが進まない進まない。動かざること山の如し。
 
 本書ももちろん絶版である。ヤフオクでは3万円ほどであったが、大学入試なんかどうでもいい。最悪でもマーチには受かるから残り1ヶ月くらいは本を読んでたい。そんなことを思う受験生がいたら本書をすすめたい。お年玉で買えばいいだろう。


 ちなみに、ライシャワーの
The Japaneseはお読みになったほうがいい。私は原典と文藝から出てる邦訳版の両方を持っている。
 邦訳はなんと、あの國弘正雄先生だ。原文を読み自分でペンを走らせ、そして國弘先生の訳を絶対のものとして自分の訳文に朱をいれると、これ以上、自分の訳の拙さを実感することはない。同時通訳の神の英語を肌で感じられるなら、それは受験という枠組みを超えて、慶祝なことだろう。