何と、亜鉛はクエン酸回路の補因子ではなかった
今までの自分の記事では、
ピルビン酸デヒドロゲナーゼの補酵素は、B1、B2、ナイアシン、パントテン酸、αリポ酸、
クエン酸回路の補酵素は、B群、Zn 、Mg、
電子伝達系にはFe が必須、
と述べてきた。
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本の執筆に際して、生化学の先生に見て頂いたところ、下記の指摘を受けました。
1)ビタミンは「補酵素」で良いが、ミネラルは「補因子」と呼ぶ。
2)亜鉛(Zn)について
クエン酸回路でのZnは除いた方が良いと思います。
クエン酸回路での各々の酵素反応においてZnが必須な酵素はないと思います。
念のため、クエン酸回路のすべての酵素について調べましたが、Znが補因子になっている酵素は少なくともヒトでは存在しないようです(むしろ、アコニターゼ、スクシニルCoAシンターゼではZnは阻害剤として働きます)。
ということで、クエン酸回路にZnを入れたのは何かの間違いかと思います。
「健康食品サイト」「製薬会社サイト」や、医師が監修しているにもかかわらず間違いが多くて有名な「○○○ケア大学」などでは、「クエン酸回路でZnが必要」と言う記述もありますが、信頼性の薄いサイトですので、全く参考にできません。
もしかすると、マンガン(Mn)や解糖系の酵素と勘違いしているのかもしれません。
なお、Mnはイソクエン酸デヒドロゲナーゼの金属補因子です。これはMgでも代替できます。
なお、Feが関係しないミトコンドリア以外の代謝では、Znは様々な酵素や遺伝子の転写制御で大活躍します。
3)鉄(Fe)について
Znとは逆に、できればクエン酸回路の金属補因子に「Fe」を加えてほしいところです。
クエン酸回路でMgまで入れているので、Feが入ってないのは片手落ちかなと。
どこでFeが必要かと言うと、コハク酸をフマル酸にするコハク酸デヒロゲナーゼ複合体(実質、電子伝達系なので当然)と、クエン酸をイソクエン酸にするアコニターゼにおいてです。
余計な話ではありますが、アコニターゼはミトコンドリア内ではクエン酸回路の酵素として働きますが、細胞質基質ではなんと細胞内のFe濃度を制御する「Fe調節タンパク質」として働きます。
全く同じタンパク質なのに役割が全く違うのです。
例えるなら、工場の生産ラインで働いている人が、工場の外に出ると全く同一人物なのに警察官になるようなものです。
使えるものはとことん使い倒す代謝上の力技を感じざるをえません。
4)銅(Cu)について
細かい所かもしれませんが、電子伝達系では「Cu」も入れた方がより金属補因子の多様性がわかると思います。
まあ、あえてFeを強調したいなら、入れなくてもいいかもしれませんが、やはり電子伝達系のシトクロムcオキシダーゼでのCuの果たす役割は無視できないのも事実。
クエン酸回路であえてMgも入れているので、電子伝達系にCuも入れた方が良心的かなと思います。
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本では、
クエン酸回路の補酵素はB群、補因子はMg、Fe
電子伝達系の補因子はFe、と記載。
出版社では色々な専門家が違う目で原稿をチェックして、正確を期すシステムになっているのですね。
流石プロの仕事ですね。
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