日本の経済学者、経済ジャーナリスト、そしてマスコミはこぞって、円/ドル為替レートは日本とアメリカの金利差で決まるのであり、日銀の「異次元の金融緩和」策に基づく低金利政策(具体的には、10年国債金利を0.25%以下に抑える)が維持される限りにおいて円安は続く、と主張してきました。また、その主張に基づいて財務省による為替市場介入が行われてきました。

 

 私は、繰り返し、日本の急速な円安は日本経済の弱さが進行しているためであって、日米金利差を根拠として見るのは間違いだ、と主張してきました。

 

 下に、今年(2022年)に入って以降の日米金利差(=日本とアメリカの10年国債金利の差)と円/ドル為替レートの推移をグラフにしていますが、2つの指標の間には、複雑な関係があることが見てとれます。

 

出典:筆者作成。

 

 今年1月以降、6月半ばまでは日米金利差と円/ドル為替レートはほぼ完全な直線相関関係を示していたのですが、その後、日米金利差が縮小したのに円高傾向には戻らず、再び金利差の拡大によって円安になったのですが、財務省の為替市場介入効果も加わって円安が一服した後再び日米金利差とおおいに直線相関しながら円安、あるいは円高に為替レートは動いています。

 

 そして現在は、今年年初以来の日米金利差と円/ドル為替レートの直線相関関係に戻っているように見えるのですが、それが日米金利差と円/ドル為替レートの間に直線相関関係があることの証拠だというなら、上の図で薄緑色で塗りつぶした広い直線相関関係から外れた領域があります。

 

 経済ジャーナリストたちは、日本の貿易収支の赤字が拡大していることが理由だ、などと時折適当にその理由を加えるのですが、しかし日本の貿易赤字が急速に悪化しているのは2021年半ば以降一貫しているのであって(下のグラフを参照ください)、今年半ば以降に突然その傾向が変化してはいないので、その説明はまったく不合理です。

 

出典:財務省『国際収支統計』データを素に作成。

 

 つまり、日米金利差は断続的にほんの短期間中の円/ドル為替レートの変化を説明できるのであって、永続性はほとんどない、つまり、円/ドル為替レートの基本的な変化の構造を説明できものではないのです。

 

 ならば、円/ドル為替レートはいったい何によって決まるのか?

 

 私は、日本とアメリカのGDPの格差の大きさが円/ドル為替レートを決める、と今まで繰り返して説明してきました(例えば、2022年9月9日付『円/ドル為替レートに日米GDP比率で決まる!-日本経済は世界市場から切り離されつつある』)。それは暦年ベースでのデータに基づいたものでありましたが、今回は、四半期ベースでの解析を加えてみました。その結果を示すのが、下のグラフです(データが1994年以降のものになっているのは、それ以前の四半期毎のGDPを内閣府がネット上に公開していないからです)

 

出典:筆者作成。

 

 日本とアメリカのGDP比率(名目ドルで換算した日本の名目GDPとアメリカのGDPの比率)と実質円/ドル為替レート(名目円/ドル為替レートを日本とアメリカの消費者物価指数を使って実質値に置き換えたもの)の相関関係は、直線相関とはなっていませんが、図に示す単純な形の曲線でほぼ完全に2つの指標の相関関係が説明できることが見てとれると思います。

 

 日本とアメリカの名目GDP比率と名目及び実質円/ドル為替レートの推移を示したのが下のグラフです。

 

出典:筆者作成。

 

 改めて、名目円/ドル為替レートが実質円/ドル為替レートとはまったく乖離した世界の市場環境の変化をまったく表していないものであることがわかると思います。

 

 参考のため、日本とアメリカのGDP比率と名目円/ドル為替レートの相関関係を表したのが下のグラフです。その間にはまったく相関関係がないことが一目でわかると思います。

 

出典:筆者作成。

 

 今回の結論は、以下の通りです。

 

 第1に、円/ドル為替レートの変化を名目値で観測することは実質的な市場を観測するにはまったく不適当なものであること。

 

 そして第2にに、円/ドル為替レートは基本的に日本とアメリカのGDP比率の差、つまり日本とアメリカの経済力の差で決まる、ということです。

 

 以上!