今朝のテレビ東京の経済番組『モーサテ』に出演した大手金融機関のアナリストは、「円/ドル為替レートの変動は、今年(2022年)3月以降、金融政策見通しを反映しやすい2年国債金利の金利差に連動していたが、11月に入って以降景気見通しを反映しやすい10年国債の日米金利に連動するようになった」と下に示すグラフを示しながら「説明」しています。
出典:FRB of St. Louisと財務省が示す国債金利データを素に筆者が計算して、テレビに掲載されたグラフを再現。
私はこのブログで、日米の10年国債金利差を素に、「日米国債金利差が円/ドル為替レートを決めるというのは間違い」と主張してきましたが、件〈くだん〉のアナリストは、今年3月以降、2年国債についての日米金利差が円/ドルを決めていたと上のグラフを使って説明したのです。
しかし、今年1月以降に時間を拡大して同じグラフを作成してみると(下のグラフを参照ください)、随分と違った印象を受けることになります。
出典:筆者作成。
ここからは、今年1~2月期については、円/ドル為替レートは日米2年国債金利より10年国債金利に連動している様が見えます。
日米2年国債金利差と円/ドルの相関関係をグラフにしてみると(下のグラフを参照ください)、今年に入って以降日米10年国債と円/ドルの相関関係(もう一つ下のグラフを参照ください)よりはるかにその連動性は低いように見えます。
出典:筆者作成。
出典:筆者作成。
円/ドルは日米10年国債の金利差に連動していると主張していれば、私が11月22日付ブログ(『円/ドルは日米金利差で決まる、は間違い!-四半期データで新証明』)で主張したように、直線相関関係から外れた広い領域の問題が出てきます(上のグラフを参照ください)。だから、経済ジャーナリストたちは、時に応じて日米2年国債の金利差と10年国債金利差を円/ドル為替レートを決定する要因だと「柔軟に」説明を変化させているのです。
これを私たちは、「結果論」と呼んでいます。その時々のある特定の統計値の変動を「短い期間に限って」整合する別の統計値を見つけてきて、あたかもその間に因果関係があるかのように説明するのです。
そして今回は、アメリカのCPI(10月分)発表後は、「市場の関心が金利見通しより景気見通しに関心が移った」と説明するのです。しかし、アメリカの消費者物価上昇率は6月に最高値(9.1%)をつけた後急速に、且つ着実に、低下し続けているのであり、10月の低下幅(マイナス0.5%ポイント)も、これまでで最大であったわけではありません(下のグラフを参照ください)。「10月にCPI発表があって、突然市場の関心が金利差から景気の動向に関心が移った」ということを説明できる統計はありません。
出典:筆者作成。
では、より安定的に円/ドルを説明できそうな日米10年国債金利と円/ドルの間には、より長期にわたってその関係は維持されているのか? それを見たのが、下のグラフです。
出典:筆者作成。
2000年以降の推移を見てみると、日米金利差と円/ドルが順相関である時期は全期間の半分程度であり、逆相関の時期も4度あり、さらに2047年末から2020年半ば過ぎまでは、2つの指標の間にほとんど相関関係は観測できない、という状況です。
そのことは、2つの指標の相関関係をグラフにしてみると(下のグラフを参照ください)、さらにはっきりとします。
出典:筆者作成。
2021年1月以降に直線相関関係がある、と見ればそうなのですが、しかし全期間を通しては直線相関係はほぼありません(R2=0.2961)。
結局のところ、長期にわたって円/ドル為替レートの推移を安定的に説明できるのは、2022年11月22日付ブログで説明したとおり、日本とアメリカのGDPの比率の変化です(下のグラフを参照ください)。但し、その時に対象とすべき為替レート指標は、名目円/ドル為替レートではなく、日米両国の消費者物価変動の違いを勘案して計算される実質円/ドル為替レートです。
出典:筆者作成。
最後に繰り返しますが、円/ドル為替レートを決めるのは、日米の金利差ではなく、日本とアメリカの経済力の格差の大きさです。