一昨日(2022年11月8日)付日経新聞記事『4社に1社が最高益』の中で、2022年度上期(4‐9月期)の決算で、「円安や資源高が追い風となり」、決算発表した全社のうちの4分の1の企業が、過去最高の純利益を稼ぎ出した、と報告しています。

 

 その中で、トヨタ自動車は円安で収入が増える一方で資材費が増加して、結果として(連結)純利益は1兆1,710億円と前年同期比で23%減ったと報告しています。今までは、円安は製造業の収益を拡大するということが「常識」とされてきましたが、それが今期は否定されたという事態に陥りました。

 

 そしてその翌日、昨日、の同じく日経新聞には、『EV・高級路線「稼ぐ力」に テスラ1台利益、トヨタの8倍 ドイツ勢も堅調と題する記事の中で、今年7-9月期において、トヨタ自動車が他の世界の主要メーカー、特にEV製造を専らとするアメリカのテスラに較べてとても貧弱な成績を残したことが報告されています。

 

 下に、主要メーカーの売上高と純利益率を較べたグラフを示しています(但し、1ドル=138円で円・ドル換算)。

 

 

出典:上記日経新聞記事中に示されたデータを素に作成。

 

 トヨタの売上高はVW(フォルクス・ワーゲン)と並んでほぼ世界1の値を獲得していますが、純利益率は4.7%とVWに次いで特に低く、その低さはテスラの15.3%と比べると特に見劣りしています。というより、テスラが、15.3%という高い値を叩き出したことに驚愕します。

 

 純利益額については、テスラは世界の主要自動車メーカーとほぼ同じ水準にまで達した、ということが衝撃的です(下のグラフを参照ください)。

 

出典:上記日経新聞記事中に示されたデータを素に作成。

 

 テスラは長年多額の巨額投資を続けてきたことから、純利益率は2019年度まで(年度はトヨタに合わせて4~3月期としています)はマイナスであったのですが、その前後共に直線的に純利益率を向上させており、今年7-9月期についてはついにトヨタを逆転して、トヨタの純利益率が4.7%に落ちたことを横目に前年度(トヨタと同じ9.1%)よりはるかに高い15.3%を達成したということなのです(下のグラフを参照ください)。そして、この純利益率が直線的に上昇しているということが、テスラのEV生産がいよいよ成熟期に入ってきたということを示唆しています。

 

出典:テスラについてはアメリカのmacrotrendsが提供するデータを素に、トヨタについては業界動向SEARCH.COMが提供するデータを素に作成。

 

テスラのの主力車モデル3(左)とトヨタの主力車ヤリス(右)

【画像出展、Wikipedia File:2019 Tesla Model 3 Performance AWD Front.jpg、Author:Vauxford(テスラモデル3)、、Author:Tokumeigakarinoaoshima(トヨタヤリス)】

 

 長期的な動向を見ると、テスラの自動車販売台数が加速しつつ増加傾向にあるのに対して、トヨタの販売台数は2020年上期のコロナウイルス禍による大きな影響を除いても(テスラは、中国市場での販売が大きく落ちなかったので、トヨタのような下落をしていません)、2020年代に入ってから明らかに長期低落の傾向を見せています。

 

出典:テスラについてはアメリカのStatistaの提供するデータを素に、トヨタについてはトヨタ自動車の結城証券報告書に記載されたデータを素に作成。

 

 トヨタとテスラの自動車生産についての大きな基本的態度の違いが、2社の各種指標を比較して、テスラ/トヨタの比率を計算して見ると如実にわかります。それを示したのが、下のグラフです。

 

出典:筆者作成。

 

 テスラの販売台数はトヨタの0.13倍しかないのですが、売上高はトヨタの0.32倍、そして純利益は1.05倍とトヨタを凌ぎ、そして株式時価総額は昨日現在2.71倍に達しています。ちなみに、自動車1台当たりの売上高はトヨタの2.48倍もあり、テスラが利益率の高い高級車の販売拡大に成功していることがわかります。

 

 この結果、日本では超優良企業と理解されているトヨタですが、その販売台数と実質ドル(名目ドルをアメリカの消費者物価指数で割り戻して計算した値)で示した販売高は、2020年度末をピークに急速に下落し続けているのです。なお、さらにその下に、名目円表示のトヨタの売上高と実質ドル表示の売上高の推移の様子の違いを表すグラフを示しています。これは、名目円で表されて売上高の推移データだけで、世界を市場とする企業の業績を評価することは勘違いを誘導する恐れがあることを示しています(名目円表示の売上高と販売台数の推移は整合していません)

 

出典:トヨタ自動車の有価証券報告書に記載されたデータを素に作成。但し、売上高は名目円表示値を筆者が実質ドル(2021年ドル)に換算して作成。

 

 

出典:筆者が作成。

 

 このように、コロナウイルス禍に襲われて以降、そしてまた急激な円安に襲われて以降、トヨタの業務体質は急速に悪化し始めており、そのことは特にテスラとの比較の中ではっきりと観測されます。

 

 私は、従来より何度もトヨタがEV開発・販売に消極的であることは間違いであると指摘してきましたが、トヨタは当面はハイブリッド車、そして中・長期的には燃料電池車生産を社の大黒柱とするという基本方針を変えていません。しかし、その頑固な柔軟性のなさが、今のトヨタを激しく襲っているのだ、ということをトヨタの人たちに感じて欲しい、と私は願っています。