長い期間ブログの新規投稿を休んでいます(その理由は、前回2022年12月8日記事を参照)。しかし、あまりにひどい経済専門紙を含むマスコミ記事が横行しているので、看過できないと思い、本日(2023年7月3日)投稿します。なお、今回の記事は応急臨時記事で、今後の新規記事投稿については依然として新たな方針をもっていないことを承知おきください。

 

 実質賃金は、依然として減少を続けているが(毎月勤労統計調査結果)、株式市場は活発で、バブル崩壊以降、最高値を更新し続けている、と盛んに報道されています。つまり、「日本の株式市場はいま、絶好調である」、と。

 

 しかし、日本の株価はバブル崩壊以降最高値を更新中、という認識は全く非科学的なもので、世界経済の視点からの評価に全く反しています。それを如実に示すのが、下のグラフです。

 

出展:筆者作成

 

 日本の株価(日経平均値)は、バブル期に最高38,916円(毎月終値ベース:1989年12月末)であったのが、現在は33,000円を超えるまでに上昇しています(33,189

円:2023年6月終値)。これだけ見れば、確かに日本の株価は今年に入ってぐんぐんと株価を上昇させています。新聞では、日本の経済の回復に期待を抱いたバフェット氏に代表される海外投資家たちが、日本の株を大量に買っているからだ、などともてはやす向きもあります。

 

 しかし日本の株価を実質ドルベース(名目円表示額を同期の名目ドル表示額に転換したのち、アメリカの消費者物価分を取り除いて計算した額)で表してみると、バブル期に最高月終値231.0ドルであった日経平均株価は、先月末時点で81.9ドルにまで、つまりおよそ3分の1にまで、低下しています。そしてこの株価ベースは、2000年代半ばから2010年代中まで停滞していた株価水準でしかありません。

 

 世界市場から見た日本の株価は、2020年末以降、大幅に低下していることが、上のグラフからははっきりと見て取れます。

 

 これは、2000年代はほぼ類似の傾向を見せていた日本とアメリカの株価(何れも実質ドル表示)が2010年代に入って以降全く違った趨勢にあることを見ると、よりはっきりと認識できます(下のグラフを参照ください。ただし、2023年6月の日米の物価上昇率は同年5月と同じと仮定して算出)。

 

筆者作成。

 

 海外の投資家は、日本の株価をバブル以降急速に押し上げるほどの勢いで買っているわけではなく、2020年末以降、株価が大幅に下落したので、その反動としてわずかに買って短期的な利益を追求しているに過ぎないと考えられます。

 

 日本の株式市場の趨勢をこれはどまで誤って報道しても、それが日本国内で受け入れられるのは、円安で企業利益が増進して、これがさらなる株高を招くといった倒錯的感情がいまだに共有されているからですです。

 

 では、実際の円の価値はどれほどであるのか? 円を名目値ベースと実質ドル換算ベースで換算した値(1970年基準)を比較しながら1970年1月以降の推移を見たのが下のグラフです。

 

筆者作成。

 

 名目値では、1ドルは140円を超えて緩やかに円安基調が続くと理解されていますが、実質ドル値ベースではコロナ禍以降急速に下落し、最近の水準は1970年初頭、つまり半世紀前、の水準にまで「暴落」しています。

 

 また、1990年代半ば以降の円の弱さ(対ドル実質安さ)は、下のグラフ(1995年を100とした主要通貨の対ドル実質価値の推移グラフ)に示すように円がユーロやポンドに比べて独り離れた弱さを更新し続けていることからも理解できます。

 

筆者作成。

 

 この「実質超円安」によって、日本の株価は海外投資家にとってとても安く見えているという次第です。アメリカの経済専門家(名前を記憶していません)の中には、「株価を含む日本のあらゆる財の価格は”歴史的にすこぶるcheap(チープ)”である」と明言する者がいます。

 

 自分の経済事情を世界市場の観点から眺められない政治家や経済学者やマスコミをもった国が自らの経済復興を実現することは難しい、という私の見解は、依然として改められません。

 

 あまりの「誤報」続きに、思わず重い筆を執った次第です。