7-12巻・後編 水原千鶴の恋物語 満足度③
水原千鶴の視点で「彼女、お借りします」を振り返るレビュー「水原千鶴の恋物語」です。
■【導入】水原千鶴の恋物語 千鶴は和也が好きなの?いつから?
バカね 私も ‐恋の自覚‐
◆6時からなら行ける 10巻83話
千鶴にとって和也は、自分の味方でいてくれる大切な存在です。レンタル彼女と客という関係ですが、傍にいたいと思う人です。
今日はそんな彼の誕生日。和おばあさん企画の誕生日会に呼ばれます。どうやら千鶴の誕生日も合わせて祝ってくれるとのこと。
しかし開始時刻が、おばあちゃんの見舞いの時間と被ってしまっていました。小百合おばあちゃんの様子も気になります。和也は千鶴を気遣って来なくていいと言ってくれますが、
ちょっと最後まで聞いてよ
だから6時からなら行ける
それまで上手く繋いでて
彼の言葉を制し、早めに切り上げて誕生日会へ行くことを提案します。
誕生日 おめでとう
初めて千鶴の方から提案したレンタルでした。千鶴は「別にあなたのためじゃない」と必死に取り繕っていますが、本音はそうではありません。無理をしてでも会いたい、期待に応えたいと言うのが今の本音です。
◆私のものにしてみせます! 11巻86話
しかし、小百合おばあちゃんの体調がよくなく、病室から離れられません。刻一刻と減っていく和也の彼女でいられる時間。千鶴は時計を見ると、ふぅとため息を漏らします。
そのとき誕生日会への瑠夏の乱入で、ずっと抱えていた瑠夏爆弾が爆発寸前!本当の彼女が瑠夏で、千鶴はレンタルであることが知られてしまいそうになります。
◆レンカノのことだって 言わない保証は… 86話
全然大丈夫じゃないじゃん…!
るかちゃん 大激怒してたけど…!?
これじゃあ 『初詣』の再来…!
レンカノのことだって 言わない保証は…
和也には、何とかするから来なくていいと言われます。それは、お客さんからのキャンセル。しかし、電話ごしの千鶴は気が気ではありません。瑠夏がまた彼女宣言するのではないかと思うと、不安で不安でたまらなくなってしまいます。
もしそうなれば、和也の本当の彼女は瑠夏で、千鶴はただのレンタルであることが知られてしまいます。和也との関係が嘘だとバレてしまえば、千鶴は和也にレンタルしてもらう理由がなくなってしまいます。
◆行かなくていいのに 11巻86話
あのね おばあちゃん
実は今日 和也さん家に行く… 約束があるの…
私の誕生会を してくれるとかで…
自分が行って和おばあちゃんの相手をすれば、瑠夏も静かになるかもしれません。なんとかバレずに済ませられるかもしれない。千鶴は、小百合おばあちゃんに誕生日会のことを相談します。千鶴にとって小百合さんは世界で一番大切な人です。そんな人の体調が悪いのを知って、それでも病院を離れようとするのです。
千鶴にはもう、和也とのデートの時間も、嘘の恋人関係も、和也と繋がれるすべてが大切なものになっていました。
◆この気持ちはいったい? 11巻86話
千鶴はタクシーまで使って大急ぎで誕生日会へ向かいます。
その道中、千鶴は自分の気持ちと向き合います。和也は来なくていいと言ってくれたのに、どうしても不安で、行かなきゃと思ってしまった。
どうして私は こんなに”彼女”でいたいんだろう
千鶴はこれまで、「すべてレンタル彼女としてやってあげている」と考えていました。和也との時間は楽しい、傍にいてあげたいと思っている。でも、それはレンタル彼女としてお客さんの力になってあげたいから、おばあちゃんたちを悲しませたくないからだと千鶴は捉えていたわけです。しかし、それだけではもう自分の気持ちに説明がつかなくなっていました。
おばあちゃんたちを悲しませたくないから?
レンタル彼女としての責任感?
和也が放っておけないから?
千鶴がたどり着いた答えは、あの日の和也の言葉でした。
◆千鶴のたどり着いた答え 「君がいいっ 君がっ!」 86話
君がいいっ 君がっ!
あの日和也に告白され、一瞬でも自分の恋人として彼を見てしまって感じた『何か』。どうしてあんなに戸惑ってしまったのか、ずっと引っかかっていたのかもしれません。膨れ上がっていく彼への思いに戸惑いながら、これは仕事なんだと理由を付け、その『何か』から目を背けてきたのかもしれません。しかしもう、それを認めなければ自分の気持ちを整理できないほど、その『何か』は大きくなってしまっていたのです。
私 和也にずっと恋をしてたんだ
おばあちゃんたちを悲しませたくないからでもなく、レンタル彼女の仕事だからでもなく、ただ千鶴自身が和也の傍にいたいと望んでいたんだ、和也が好きだったんだと気づいたんですね。
千鶴はきゅっと口元を結びます。
◆バカね 私も 11巻86話
千鶴は、和也に恋をしていたと気づきました。ただの『嘘』だったはずの恋人関係。和也にとってはただのレンタル彼女、ただの協力者、恋人でも何でもない。そんな相手を、ひとり勝手に好きになってしまったわけです(千鶴の目線では)。
馬鹿ね 私も…
千鶴はそうつぶやき、和也の元へ向かいました。
このときから、千鶴のこころの一番深い部分にひとつの気持ちが生まれたはずです。
レンタル彼女としてでは いつか傍にいられなくなる
和也の本当の恋人になりたい 嘘を真実に変えたい
頭では理解できていないかもしれません。なかなか認められなかったかもしれません。そんな身勝手は許されないと思ったかもしれません。でも、このとき彼女の心の奥底に、確実にこの気持ちが生まれたわけですね。
(詳しい解説はこちら 【解説】超重要回 水原千鶴が「私 和也が好き」と気づいた瞬間!)
◆ちづるにあんな行きたそうにされたら 11巻90話
いえ 何をおっしゃいますやら 悪いだなんて!
ちづるに あんな行きたそうにされたら お葬式でも優先させるわっ
誕生日会へ行かせて欲しいとお願いした千鶴の様子は、小百合おばあちゃんには『ものすごく行きたそう』に見えたようです。小百合さんは千鶴の気持ちをすべてお見通しです。
◆ジト目で本心を否定する千鶴 11巻90話
本心を周りにバラされてしまったのが恥ずかしくて、千鶴は必死に隠そうとします。和也には必殺ジト目を入れておきました。
もしこの嘘が本物だったら…
その夜病院に戻ると、小百合おばあちゃんの容態がかなり悪いことが分かります。千鶴にとって一番大切な人との時間も、残り数ヶ月ほど。
それを和也に話すと、
◆決まってるだろ! 言うんだよ! 水原のばーちゃんに 俺達の関係が嘘だって! 90話
決まってるだろ! 言うんだよ!
水原のばーちゃんに 俺達の関係が嘘だって!
小百合さんが亡くなる前に、2人の恋人関係が嘘だと明かそうと言います。
◆私 おばあちゃんに 「別れる」って言いたくない 91話
しかし、和也への恋心に気づいた千鶴には、もうその選択はできません。
私 おばあちゃんに「別れる」って言いたくない
千鶴は、嘘の恋人のままでいたいと和也に伝えます。
◆もうとっくに ただの”嘘”じゃないの 91話
もうとっくに ただの嘘じゃないの
千鶴とおばあちゃんの間では、もうこの恋は本物になっていた、と言ったらいいでしょうか。
小百合おばあちゃんは、和也に会えることをいつも楽しみにしていました。和也をとても気に入っています。きっと千鶴の気持ちも本物だと知られてしまっている。だからこそ、おばあちゃんは、大切な大切な『ちづる』の恋をこれまで見守ってくれていたはず。
いま和也との恋人関係を失ったら、辛くておばあちゃんを頼ってしまいそうだと千鶴は察しているんでしょう。おばあちゃんにも余計な心配をかけてしまうし、これから独りぼっちになってしまうとさらに心配をかけてしまいます。
いつの間にか和也に恋をして、おばあちゃんにも付き合わせて、悪いのはすべて自分。でも、自分の失恋する姿なんて、見せるわけには行きません。最期のときに悲しませるなんてできない。おばあちゃんの大好きな和也と「別れる」なんて言えません。
何よりも今は、千鶴自身が和也と過ごす時間を失いたくない。もし「別れる」と言ってしまえば、もうレンタルはしてもらえません。おばあちゃんたちの前で彼女でいることもできません。
私 おばあちゃんに「別れる」って言いたくない
◆付き合ってないだろ…? 俺たち… 91話
付き合ってないだろ…? 俺たち…
和也にはそう言い返されてしまいます。和也の言う通りです。彼は千鶴と恋人になる気なんてないんです。ただ、おばあちゃんたちを悲しませないために協力してくれているだけ。
◆それでいいじゃない 91話
このときほど、『もしこの嘘が本物だったら』と願ったときはなかったかもしれません。嘘の恋人という現実に苦しんだ時はなかったかもしれません。
いいじゃない
おばあちゃんの思い出の中では
私に素敵な人が見つかったって…
それでいいじゃない
そう言って、恋人関係を続けさせて欲しいと和也にお願いします。
◆もしものことになれば 千鶴さんに身寄りがいなくなると聞いた 91話
病院からの帰り際、和也のおばあさんに、20歳の誕生日祝いとして指輪を受け取って欲しいとお願いされます。
もしものことになれば 千鶴さんに身寄りがいなくなると聞いた
金に困ったら 質に入れてくれればいい
気が重いなら 嵌めることもない
儂はただ 千鶴さんに持っていて欲しい
本当にそれだけなんじゃ
そう言って、独り身になってしまう千鶴を気遣ってくれる和おばあさん。
目の前には暖かい家族と、優しい和おばあさん。そして隣には、恋しい人。レンタル彼女としては絶対に受け取ってはいけません。しかし、千鶴は指輪を受け取ることにします。いつかこの嘘が本物になることを願って。
私の映画 撮って
◆もう”夢は叶う”なんて言わないでよっ! 12巻102話
千鶴の夢は、自分が映画に出ている姿をおばあちゃんに見せることでした。生前ずっと応援してくれていたおじいちゃんのためにも、絶対に叶えたい夢でした。レンタル彼女の仕事も、演技のスクールも、すべてその夢のためにやってきたのです。
しかし、小百合おばあちゃんの容態が悪化し、残された時間はもうわずかになってしまいます。期待していたオーディションも不合格。千鶴は張ってきた糸が切れたように、諦めてしまいそうになります。
◆俺が金集める 水原は出ろ! 12巻102話
俺が金集める 水原は出ろ!
しかし、そこに現れたのが和也でした!和也はクラウドファンディングによる映画製作を提案します。
和也の言う通りなら、小百合おばあちゃんに自分がスクリーンに立っている姿を見せられる。夢が叶う。
◆和也と映画を作るか悩む千鶴 103話
千鶴は悩みます。小百合おあちゃんに映画に出ている姿を見せたい。でも、作り上げられる保証なんてどこにもない。夢を諦めれば、その分おばあさんの傍にいてあげることだってできる。もし映画ができなかったら、大切な時間を失うことになる。
きっと和也にも大きな負担を背負わすことになる。クラウドファンディングや映画制作の経験があるわけじゃない。すべてが手探り。上手く行くか分からない。
千鶴は和也の部屋を訪れると、彼に尋ねます。
◆途中で諦めるなら…出来ないなら… 今 言って欲しい… 12巻103話
できる…? 本当に…
残された時間… 無駄にしたくない…
途中で諦めるなら…出来ないなら…
今 言って欲しい…
千鶴の震える手。上手く行く保証なんてどこにもない。でも、どうしても叶えたい夢なんです。レンタル彼女の仕事も、レッスンもすべて夢のためにやってきた。夢がかなわないとしたら、心の底から辛いことなんです。
その姿を見た和也は、彼女を見捨てることはしませんでした。
◆…できる…! やってみせる! 12巻103話
…できる…! やってみせる!
…やる!やってやる!
必ず最後まで!
和也は、千鶴のために映画を作って見せると約束してくれます。
自分の夢を打ち明けたあの日、女優として夢を叶える姿を見たい、だから傍にいたいと言ってくれた和也。クラウドファンディングによる映画製作、それは現実的な千鶴には思いもつかなかった方法です。きっと、最初からそんなの無理と諦めてしまうようなやり方です。でも、和也はあきらめなかった。千鶴のために悩み苦しみ、希望の光を当ててくれた。やってみせると、約束してくれた。
千鶴は和也に、自分の夢を託すことを決意します。
◆私の映画 撮って 12巻103話
お願い… 作って…
おばあちゃんに… 見せて…っ
この瞬間から、千鶴と和也の夢は走り始めました。
千鶴は、上手く行かないときでも前を向き、これまで一度も弱さを見せたことはありませんでした。しかし、このとき初めて和也に頼ってしまいます。少しだけですが、千鶴が初めて和也に弱さを見せてしまった瞬間でした。
(続きは満足度④)
■【導入】水原千鶴の恋物語 千鶴は和也が好きなの?いつから?
7-12巻 感想
ここまで非常に長い解説に付き合っていただきありがとうございました。いやいや、やっと千鶴も恋を始めてくれましたね。ってか12巻、ボロボロ泣く千鶴の前に駆けつける和也、かっこよすぎませんか?それは惚れるわ、と思います。千鶴の視点でレビューを書いていて一番感じることは、千鶴の可愛らしさではなく、和也のかっこよさですね。千鶴と一緒に僕が恋に落ちてしまいました笑。
千鶴は6巻まで、普通ラブコメで見られるような美味しい展開、ようは嫉妬だったり修羅場だったりが皆無、ましてやデレなんていつ来るんだろうと思うほど、恋に落ちないヒロインでした。それが少しずつ恋が走り始めて、千鶴推しとしてはとても嬉しい7-12巻です。
やっぱり千鶴としては「諦めるなんて言うな!」って言葉が一番嬉しかったのではないでしょうか。ここで和也の見方が変わったんじゃないかなと思います。千鶴のおじいちゃんがそうしてきたように、根拠がなくても「できる」と言ってくれる人がどれだけ自分に力を与えてくれるのか、千鶴は知っているのですから。おっとこれは少しネタバレしそうです。
(続きは満足度④へ)