映画ひとつ、ジョン・フォード監督『三悪人』

映画ひとつ、ジョン・フォード監督『三悪人』

　　監督：ジョン・フォード
　　製作：アメリカ

　　作年： 1926年
　　出演：ジョージ・オブライエン／オリーヴ・ボーデン／トム・サンチ／フランク・カンポー／ J.ファレル・マクドナルド／ルー・テリジェン

19世紀後半のアメリカの土地政策の底流には迸る移民の存在があることを本作の始まりに（わずか2,3のショットで以て）ジョン・フォードは刻みつけます。フォードにしてもラオール・ウォルシュにしてもアイルランド移民の親たちを出自に世紀半ばにヨーロッパを蹂躙したジャガイモの疫病がアイルランドを深刻な飢饉に陥れると絞り出されるように新大陸へと雪崩込んできたわけです。本作が舞台とする年代が1877年、遠い異邦の観客からすれば軽く聞き流してしまいそうですがウォルシュの父がアメリカに到着したのはそのほんの数年前なんですから（Marilyn Ann Moss "Raoul Walsh: The True Adventures of Hollywood's Legendary Director"）まさに生き血の通った過去です。この年この月そもそも先住民の居留地として割り当てられていたダコタを開放して希望者を横一線に並べると号砲を合図に早い者勝ちで土地を分け与えるという食い詰め者には夢のような告知が出されます。しかもその土地から金が出たという噂がひとびとの心を狂わさんばかりに熱狂させて一攫千金のわが身を追って気の遠くなるような馬車の列がダコタに向かって伸びています。（まあこの壮大な（人生の出直し）競争の顛末を先に触れておきますとスタート地点とされた広大な平地が見切れるところまで犇めいたひとびとが我先にと痩せ馬に鞭打って家財道具を詰め込んだオンボロ馬車を轟々と駆けさせればやがて轅は暴れ車輪は悲鳴を上げて馬車をというよりも鞭を打ち続ける男たちの欲を横倒しに脱落させていきます。そんなひと組みの老夫婦は人生の最後を金色に葺き替える夢を砂塵に掻き消されます。砂まみれに立ち尽くす老人の横で彼の妻はここが自分の土地と決まったその一握の土くれを夫に差し出すと<肥えた土よ>と諭します、穀物に実りをもたらす金以上の豊かさが自分たちの足許には広がっていると。これこそフォードが本作で描くところでいつかは掘り尽くす金ではなくひと粒の実から毎年黄金色に実り続ける農作物の豊かさこそ落ち着いた人生の礎であるわけです。）それにしても欲に目の眩んだひとびとのあるところ悪党たちもまた呼び寄せられて高台に馬を寄せるとのこのこ連なる自分たちの餌食を草原一杯に見下ろしています。そのうちの一台は（この競争に賭ける意気込みにそれまでの生活のすべてを投げ打ったかのように)目を引く競走馬を数頭率いてその馬だけでも奪う値打ちに思わずほくそ笑んでおりますとひと足早く目をつけた他の悪党が猛然と馬車に近づいているのが見えます。出し抜かれてなるかとこちらも一気に駆け出すと早くも馬車を取り囲んで銃弾を浴びせている一団に踊り込んで不意打ちに蹴散らします。あとはゆっくり馬をひとり占めですが襲撃で父を撃ち殺された娘は悪党を追っ払ってくれた恩人を疑うことなく彼らの胸で父を失った悲しみに泣きすがります。ひと皮剥けば同じ悪党だったはずのこの三人組は娘が信じてくれるままに自分たちでも忘れていたひとの気高さを生きることになります。