荒野の女たち
  監督 : ジョン・フォード
  製作 : アメリカ

  作年 : 1965年
  出演 : アン・バンクロフト / マーガレット・レイトン / スー・リオン / ベティ・フィールド / エディ・アルバート

 

 

ジョン・フォード 荒野の女たち アン・バンクロフト


以前ジェームズ・スチュワートの評伝を読んでいると『馬上の二人』に差し掛かったところでもはや往年の卓抜した演出力を失っているジョン・フォードの映画にジミーはよりにもよって3作も出演していると書いてあって(まあ私がクイックキャノン軍曹であったならばこの書き手の尻をいやというほど蹴り上げるところですが)本作でも口あけからモンゴル草原を蹴立てる馬賊の疾駆が(レナード・バーンスタインの、風雲たなびく主題歌を踏み鳴らして)心踊らせますよ。1935年のうららかな日、中国の国境深くに入り込んだ伝導所の門が開きます。医者もなければ文字が読めるものもない僻地にあって近隣の村々には日々あれやこれや起こります。いまも骨折の手当てをして帰ってきたところでこれしきのことは門前の小坊主(じゃなかった、こちらは耶蘇教の尼さん)で見様見真似でやり遂げねば布教は務まりません。そう説くこの女性こそこの伝導所の長でありまさにそれにふさわしい年齢ながら中年女性の、鼻の先がやや上に向いたような自信とその自信の鼻先を不安がゆっくりと円を描いて近づいてくる、そんなところに立っています。それもこれも国境に荒れ狂う馬賊の蹂躙がそこここで囁かれて大きくこの伝導所を取り囲むようにその野蛮な手を狭めているからでしてそうだけに神の御心とともに彼女たちの拠りどころとなっているのが(膝下の中国人たちとは違い)自分たちはアメリカ人であることなんですが神のお叱りも聞こえぬらしい蛮族の耳にさてアメリカの御威光が届きますかどうか。ただ彼女の不安はそのような外的な状況は(神の為されることでもありますから)寧ろ楽観に寄りがちでそれに比べて伝導所に渦巻くもの、しかしそれもこれも彼女の体のなかを吹き荒れる何かが伝導所をこのように際立たせているのです。そのひとつが見習い牧師の夫婦に子供ができたことで高齢ながら子供を授かったことの狂喜と生来の、やや裏声になりがちな気性が相俟っていまや寝ても覚めてお腹のなかの子供のことでかまびすしく神に身を捧げる独身の彼女からすれば神の家で夫婦関係が営まれていることが(神の家の包容力をはみ出して)落ち着かないのです。そしてさらに奥に秘めたものが彼女の堅い信仰を砂糖菓子のようにひと雫ひと雫甘く溶けさせていて... 。ところでフォードゆえにかような邦題ですが原題は(その名も)"7 women"で否が応でも黒澤明のかの作品を横目に見ることになって戦乱の世にその暴力の真っ只中に放り込まれて侍ではなく女性であることに黒澤を見据えて尚野心的に微笑むフォードがいます。女とは何か、宗教とは、ひとを救うとは、ひととは... インディアンと撃ち合うライフルよりもはるかに旺盛に問いの銃弾が飛び交って遺作にあって尚映画の前線に立ってみせるフォードの怯まなさ。

 

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