目に目にさかけなご
最近こいつおもしろいなって思ったものは、
「ミョゲルピヨヒル後藤」さん
だね。
最高だよ。ミョゲルピヨヒル後藤は。あの日あのとき、肩が2個3個ある気がした、との名言を残したミョゲルピヨヒル後藤。
ついつい言いたくなっちゃうミョゲルピヨヒル。コンビニのレジ待ちの時なんかにはついつい「ああ、ミョゲルピヨヒルか」とつぶやいてしまう昨今のわたし。ミョゲルピヨヒル後藤ってあなた。ミョゲルピヨヒルって。
私のまわりにもミョゲルピヨヒルはうようよいるし、あなたのまわりやあなたの視界の中の視界にミョゲルピヨヒルはいる。そいつはミョゲルピヨヒル後藤かもしれないし、ミョゲルピヨヒル桜井かもしれないし、ミョゲルピヨヒルのママかもしれない。
ミョゲルピヨヒルは………
めんどくせ
「ミョゲルピヨヒル後藤」さん
だね。
最高だよ。ミョゲルピヨヒル後藤は。あの日あのとき、肩が2個3個ある気がした、との名言を残したミョゲルピヨヒル後藤。
ついつい言いたくなっちゃうミョゲルピヨヒル。コンビニのレジ待ちの時なんかにはついつい「ああ、ミョゲルピヨヒルか」とつぶやいてしまう昨今のわたし。ミョゲルピヨヒル後藤ってあなた。ミョゲルピヨヒルって。
私のまわりにもミョゲルピヨヒルはうようよいるし、あなたのまわりやあなたの視界の中の視界にミョゲルピヨヒルはいる。そいつはミョゲルピヨヒル後藤かもしれないし、ミョゲルピヨヒル桜井かもしれないし、ミョゲルピヨヒルのママかもしれない。
ミョゲルピヨヒルは………
めんどくせ
微笑シリーズ。趣味と爆弾
『こないだ知人にいわれたんだ。なにか新しいことを始めなよって』
「それは、趣味とか?」
『趣味だな。そんなもので困ってるんだおれ』
「なんでよ」
『新しい趣味を始めなさいと言われても、おれ今までに一度として“わたしの次の趣味はこれにします!”っていう風に趣味としたものなんてないんだ』
「ああ、趣味を探したことがないんだな。気がついたら趣味と呼べるものになってたものが趣味だと」
『そうなんだよ。だから、困っちゃってね』
「無視すればいいじゃん」
『軽く扱えない人から言われてるから困ってるんだろ。仮にしゃべりたての赤子にこう言われたらね、そりゃそんなものおれも無視できるし、なんならおれの趣味の心配をするまえにお前の趣味の心配をしろとこんこんと言ってやりますけど』
「言うな。しゃべりたての赤子に」
『困ってるんですよ』
「そうか。ちなみに今現在のお前の趣味ってなんだ?」
『そうだなあ、ないね』
「え!?」
『ない。趣味と呼べるものはなに一つない』
「いや、そんなことはないだろ。お前プロレス好きじゃん。あれは趣味だろ」
『うーん』
「学生時代に水道橋のプロレスグッズショップの福袋に大枚はたいて痛い目みたぐらいプロレス好きじゃん」
『ああ、袋開けてみたら小さな箱がいくつか入ってると、その中になにか布状のものが入ってると。“一撃必殺”とか“筋骨隆々”とか刺激的な文字が布状のもののフロントに印字されてて。タオルかリストバンドかなと思って開けてみたら、ビキニパンツが入ってた事件だろ。一袋5000円ぐらいのやつをノリで二袋買ったら、そういうビキニパンツが4枚と海外みやげにおばあちゃんが買ってくるようなどうしようもないTシャツ数枚が入ってた事件な』
「完全に一万円をドブに捨てたよな。お年玉を」
『まあ、翌年も買ったけどね。一万円分』
「なんで買ったんだよ!?。完全に欺かれてるだろ店に!」
『そしたら、なにかなああれは、去年の件で他の客から中身にクレームきたのかなあれは、ビキニパンツが入ってなくて、トランクスが入ってた』
「ビキニがトランクスに変わっただけじゃねえか!」
『いやただのトランクスじゃないよ』
「ああ、なにかプロレスにまつわる」
『いやそんなプロレスショップ視点からみてのただのトランクスじゃなくて、BVDの普通のトランクスだったから』
「駄目だろ!、なんつうか駄目だろそれ」
『グレーの』
「普通だな!」
『次の年も買ってやろうと心に決めて』
「決めるなよ」
『翌年もその店に赴いたら、なくなってた』
「まあ、なあ」
『水道橋ビキニ事件』
「でもまあ、そのくらいプロレスが好きなんだろ?」
『そのくらいってどういうことだよ』
「いや、当時大枚はたいてもいいぐらいプロレスが好きで、今も好きなんだろ?」
『まあ、好きですけど』
「それは趣味だろって話だよ」
『趣味ねえ。プロレスが趣味………でも履歴書に書けるぐらいの趣味ではないよ?』
「それは履歴書の趣味欄にプロレス観戦と書くことが履歴書の書き方における一般常識的にありえないって意味か?」
『いや、そんな体面的なもんじゃなくて、履歴書で表明するほどプロレスはおれの趣味ではないってことだよ』
「なるほど。履歴書で表明するほどのなあ。ほかにもお前の好きなことといや、読書とか」
『あんた今時履歴書の趣味欄に読書って書いて何があるってんだよ。そんなもんネアンデルタール人が趣味欄に火おこしって書くようなもんだろ』
「ネアンデルタール人ってお前。いや履歴書の書き方の話ではないよ?。お前の趣味の話で」
『読書なんか趣味じゃないよ。実際にもうほとんど読んでないしね。確かに以前はバカみたいに本読んでたけど、ここ数年ときたら私事では一冊も読んでないからね』
「なんで?」
『なんでって、読書がおれの趣味じゃないことに気がついたからだよ』
「気がついたからって、それまでずっと読んできたわけだろ」
『まあ』
「なんでそうなった」
『そりゃ読んでても楽しくないからだろ』
「でも読んでた時は楽しかったんだろ?」
『そうなんだけどさ。お前は根本的にわかってないから言うけど、読書が趣味だと言っていい人ってのは、自分の好きな作家以外に、おそろしくくだらねえ本も平気で読了できる人のことを言うんだよ?。読書が趣味なんだから。なにかを読んでる時間が好きな人なんだから。おれはそうじゃない。たまたま人生の行きがかり上おもしろい本があるってことを見つけてそれらを読むことが好きだっただけで、読書自体は好きでもなんでもない。よって読書はおれの趣味ではない』
「めんどくさい奴だなお前は。そんなもの紙の上に書いてあるだけじゃ、相手が本当の読書家か、なんとなく趣味欄に読書と書いたエセ読書家かなんか見破れないだろ」
『見破れるよ』
「え!?。どうやって?」
『どうやってというか、見ればわかるだろ』
「へえ面こかれて、わたし毎日一冊以上読んでますオーラ出してくる奴もいるだろ」
『まあ、そいつも必死だからな』
「どこを見ればわかるんだよ」
『鼻だよ』
「鼻?」
『鼻にイボがある奴は読書家』
「おい」
『ない奴は、嘘』
「なんでだよ。読書家は鼻にイボがある奴ってお前。おかしいだろ」
『おかしくないだろ。逆にきくけど、読書家の鼻にイボがなかったらおかしいだろ?』
「ええ?」
『読書家の鼻にイボがなかったらおかしいだろ?』
「いや……ていうかなんで読書家の鼻にはイボができるんだよ」
『イボって言ったけど、あれはタコなんだけどね。ペンダコと同じで、鼻を酷使してるからできる。あれほど鼻を酷使する趣味もないよ』
「本読むのにいつ鼻を酷使するんだよ」
『じゃあお前は本読んでる途中で眠くなったらどうするんだよと』
「しおり!?、鼻をしおり代わりに挟むの!?」
『だから、鼻の横にイボがある人は、ああこっち向いて寝るクセがあるんだなとわかるわけ。イボの位置と。そんで鼻の頭にイボがある奴は、お前ちょっとどういうかっこうで寝てるんだよと』
「え?、ふつうにというか、こう本をパサッと顔にかけて寝るような」
『そんなバカなこと、そんなしおり挟んだら顔中が、顔全体がひとつの巨大なイボになってしまうだろ』
「本にはどんな成分が配合されてんだよ。まあ趣味がない趣味がないと言ってるけども」
『なに?』
「このブログ自体はどうなんだ?」
『ああ、これは趣味じゃないよこんなもん。こんなもんはあなた、趣味じゃないよ。こんなもんを趣味にされた日にはあなた』
「なんなんだよ」
『このブログは本気ですからね』
「……………」
終わり。というかほぼ途中で投げた。趣味と趣味じゃないものの境界線についてものすごくハッとさせらるようなこと思いついたんだけどその日はそのまま寝て、気がつけばすっかり忘れちまって投げモードに入った。しかししかし、いつにもまして支離滅裂でおもしろいとこが一個もないな………。
禁煙………
………したからかな…。
「それは、趣味とか?」
『趣味だな。そんなもので困ってるんだおれ』
「なんでよ」
『新しい趣味を始めなさいと言われても、おれ今までに一度として“わたしの次の趣味はこれにします!”っていう風に趣味としたものなんてないんだ』
「ああ、趣味を探したことがないんだな。気がついたら趣味と呼べるものになってたものが趣味だと」
『そうなんだよ。だから、困っちゃってね』
「無視すればいいじゃん」
『軽く扱えない人から言われてるから困ってるんだろ。仮にしゃべりたての赤子にこう言われたらね、そりゃそんなものおれも無視できるし、なんならおれの趣味の心配をするまえにお前の趣味の心配をしろとこんこんと言ってやりますけど』
「言うな。しゃべりたての赤子に」
『困ってるんですよ』
「そうか。ちなみに今現在のお前の趣味ってなんだ?」
『そうだなあ、ないね』
「え!?」
『ない。趣味と呼べるものはなに一つない』
「いや、そんなことはないだろ。お前プロレス好きじゃん。あれは趣味だろ」
『うーん』
「学生時代に水道橋のプロレスグッズショップの福袋に大枚はたいて痛い目みたぐらいプロレス好きじゃん」
『ああ、袋開けてみたら小さな箱がいくつか入ってると、その中になにか布状のものが入ってると。“一撃必殺”とか“筋骨隆々”とか刺激的な文字が布状のもののフロントに印字されてて。タオルかリストバンドかなと思って開けてみたら、ビキニパンツが入ってた事件だろ。一袋5000円ぐらいのやつをノリで二袋買ったら、そういうビキニパンツが4枚と海外みやげにおばあちゃんが買ってくるようなどうしようもないTシャツ数枚が入ってた事件な』
「完全に一万円をドブに捨てたよな。お年玉を」
『まあ、翌年も買ったけどね。一万円分』
「なんで買ったんだよ!?。完全に欺かれてるだろ店に!」
『そしたら、なにかなああれは、去年の件で他の客から中身にクレームきたのかなあれは、ビキニパンツが入ってなくて、トランクスが入ってた』
「ビキニがトランクスに変わっただけじゃねえか!」
『いやただのトランクスじゃないよ』
「ああ、なにかプロレスにまつわる」
『いやそんなプロレスショップ視点からみてのただのトランクスじゃなくて、BVDの普通のトランクスだったから』
「駄目だろ!、なんつうか駄目だろそれ」
『グレーの』
「普通だな!」
『次の年も買ってやろうと心に決めて』
「決めるなよ」
『翌年もその店に赴いたら、なくなってた』
「まあ、なあ」
『水道橋ビキニ事件』
「でもまあ、そのくらいプロレスが好きなんだろ?」
『そのくらいってどういうことだよ』
「いや、当時大枚はたいてもいいぐらいプロレスが好きで、今も好きなんだろ?」
『まあ、好きですけど』
「それは趣味だろって話だよ」
『趣味ねえ。プロレスが趣味………でも履歴書に書けるぐらいの趣味ではないよ?』
「それは履歴書の趣味欄にプロレス観戦と書くことが履歴書の書き方における一般常識的にありえないって意味か?」
『いや、そんな体面的なもんじゃなくて、履歴書で表明するほどプロレスはおれの趣味ではないってことだよ』
「なるほど。履歴書で表明するほどのなあ。ほかにもお前の好きなことといや、読書とか」
『あんた今時履歴書の趣味欄に読書って書いて何があるってんだよ。そんなもんネアンデルタール人が趣味欄に火おこしって書くようなもんだろ』
「ネアンデルタール人ってお前。いや履歴書の書き方の話ではないよ?。お前の趣味の話で」
『読書なんか趣味じゃないよ。実際にもうほとんど読んでないしね。確かに以前はバカみたいに本読んでたけど、ここ数年ときたら私事では一冊も読んでないからね』
「なんで?」
『なんでって、読書がおれの趣味じゃないことに気がついたからだよ』
「気がついたからって、それまでずっと読んできたわけだろ」
『まあ』
「なんでそうなった」
『そりゃ読んでても楽しくないからだろ』
「でも読んでた時は楽しかったんだろ?」
『そうなんだけどさ。お前は根本的にわかってないから言うけど、読書が趣味だと言っていい人ってのは、自分の好きな作家以外に、おそろしくくだらねえ本も平気で読了できる人のことを言うんだよ?。読書が趣味なんだから。なにかを読んでる時間が好きな人なんだから。おれはそうじゃない。たまたま人生の行きがかり上おもしろい本があるってことを見つけてそれらを読むことが好きだっただけで、読書自体は好きでもなんでもない。よって読書はおれの趣味ではない』
「めんどくさい奴だなお前は。そんなもの紙の上に書いてあるだけじゃ、相手が本当の読書家か、なんとなく趣味欄に読書と書いたエセ読書家かなんか見破れないだろ」
『見破れるよ』
「え!?。どうやって?」
『どうやってというか、見ればわかるだろ』
「へえ面こかれて、わたし毎日一冊以上読んでますオーラ出してくる奴もいるだろ」
『まあ、そいつも必死だからな』
「どこを見ればわかるんだよ」
『鼻だよ』
「鼻?」
『鼻にイボがある奴は読書家』
「おい」
『ない奴は、嘘』
「なんでだよ。読書家は鼻にイボがある奴ってお前。おかしいだろ」
『おかしくないだろ。逆にきくけど、読書家の鼻にイボがなかったらおかしいだろ?』
「ええ?」
『読書家の鼻にイボがなかったらおかしいだろ?』
「いや……ていうかなんで読書家の鼻にはイボができるんだよ」
『イボって言ったけど、あれはタコなんだけどね。ペンダコと同じで、鼻を酷使してるからできる。あれほど鼻を酷使する趣味もないよ』
「本読むのにいつ鼻を酷使するんだよ」
『じゃあお前は本読んでる途中で眠くなったらどうするんだよと』
「しおり!?、鼻をしおり代わりに挟むの!?」
『だから、鼻の横にイボがある人は、ああこっち向いて寝るクセがあるんだなとわかるわけ。イボの位置と。そんで鼻の頭にイボがある奴は、お前ちょっとどういうかっこうで寝てるんだよと』
「え?、ふつうにというか、こう本をパサッと顔にかけて寝るような」
『そんなバカなこと、そんなしおり挟んだら顔中が、顔全体がひとつの巨大なイボになってしまうだろ』
「本にはどんな成分が配合されてんだよ。まあ趣味がない趣味がないと言ってるけども」
『なに?』
「このブログ自体はどうなんだ?」
『ああ、これは趣味じゃないよこんなもん。こんなもんはあなた、趣味じゃないよ。こんなもんを趣味にされた日にはあなた』
「なんなんだよ」
『このブログは本気ですからね』
「……………」
終わり。というかほぼ途中で投げた。趣味と趣味じゃないものの境界線についてものすごくハッとさせらるようなこと思いついたんだけどその日はそのまま寝て、気がつけばすっかり忘れちまって投げモードに入った。しかししかし、いつにもまして支離滅裂でおもしろいとこが一個もないな………。
禁煙………
………したからかな…。
大小事件
昨夜のことだ。就寝中にのどの渇きを覚えた私は、トロピカルな夜とニコチンに殺意を抱きつつ台所へとむかった。
スーパーに長い廊下をカモシカのような私の駿脚とホタルイカのような発行機能を有した私の眉毛をフルに活用し、真っ暗闇のなかおおよそ3秒で台所にたどりつくと、流しの上についた蛍光灯のヒモを引っ張って明かりをつける。水道水でのどをうるわそうとしたわけだが、冷蔵庫に帰宅時に買った麦茶が冷えていることを思い出し、コップを手にするとそっちを選択した。ペットボトルに直接口をつけて飲めばたちどころに雑菌が繁殖するんだぞ、ニート生活の長い友人高橋の警句に感謝しながら、私はキンキンに冷えた麦茶を地獄のように暑い夜のいけにえに捧げた。科学的にすら思える香ばしい麦茶の香りが鼻腔をつきさす。口に含めば鼻の裏側にジンジンとした淡い痛みを感じつつ、それでもそのとき私はまだまどろみの中を泳いでいた。
しかし、タバコを吸おうとライターを口元に近づけた時、私に起こっていたある異変に気がつくこととなった。
なにか臭いのだ。
はじめはタバコの匂い、もっといえば、水に浸したタバコの灰の匂いかと思った。私は灰皿に水を差しているからだ。
わかる人にはわかったかもしれないが、そう、ライターを口元に近づけた時、私の鼻腔にうんこの臭いが漂ってきたのだ。
それが水に浸したタバコの灰よりもうんこらしい臭いであることに気がついた私は、そっとライターを持った手を見た。第一の容疑者はこの手だからだ。
いた。私は目を疑った。なんと私の右手親指の爪に、うんこが擦過傷のかさぶたのようにひっついていたのだ。眠気が吹き飛ぶ。
私はもう死んじゃおうかなと決めたりした。確か昨日は、死ぬのこええよ、と思っていたはずだが、親指の爪にうんこがついている状況がすべてをひっくり返した。「よし、いっちょ死んでみっか!」てなもんだ。
しかし私には死ぬ前にうんこの発生源を探す役割を負うことになっていた。発生源といえば私か、たまに我が家へと遊びにくる地域猫しかいないが、一体全体いつどこでどうして私の親指の爪にうんこがついたというのだ。私の目はまたいつうんこに触れてしまうかもしれないという恐怖と緊張でギラギラと冴えだし、うんこの源を見つけるまでは眠れないといった状況に陥った。
とにかくうんこの源を探した。まずは論理的に考えてみる。最後にうんこをしたのはいつだ?。それは夕食後のこと。風呂に入る前。嘘みたいな快便だったことを覚えている。肛門を拭いたペーパーはきれいだった。そのあと風呂場に直行し、シャワーを浴びたのち寝支度を整えるとすぐに私は床についた。そのときの私の身は清浄され、うんこを挟む余地はないはずだ。私に寝る前に肛門をいじくる習性はなく、また知らず知らずにいじっていたとして、親指の爪のみにうんこがつくとは考えづらい。肛門もゆるくはない。
謎が私の身を焦がし、頭の中がキィーとしてくる。今度は起きてからの行動を探る。それは上記のとおりだが、怪しいところを探ってみてもうんこ本体はおろかうんこの残り香さえしない。擦過傷のように擦れたうんこをみるに、必ずどこかにうんこがついているはずなのに、体にも服にも部屋にもそのあとがない。
この間、私は別件で小便を漏らし下着と短パンを濡らしたが、自宅にいながら小便を漏らす、この程度のことなどもはやまさしく、大事の中に小事なし、大事の前の小事といった具合で、かまっていられない。二度目になるが、私の肛門はゆるくはない。
空前絶後の一大事にみまわれながら、謎をまったく解明できない私は、部屋をうろうろしたり確認済みの場所を何度となく確認したり、この記事を書いたりと、ただむなしく時を浪費し続けた。
気がつけば朝がやってきて、私は家を出なければならなくなった。職務中、早起きがたたって幾度も眠い目をこすりたくなったが、爪にうんこが、と思うとおちおち眼もこすれない。
家に帰れば、また謎解きアドベンチャーは続く。インドア派の私にはこんなに家へと帰るのが恐ろしくなったことなどない。
果たしてあのうんこは一体なんだったのだろうか。
妖怪親指うんこつけ、の仕業だろうか。アカナメの上位妖怪だろうか。
昔の泥棒は事後捕まらない為の験担ぎとして入った家でうんこをしたというが、私の親指のそれは部屋に泥棒が入ったしるしだろうか。私の親指の上で見知らぬ昔気質のおっさんが糞をちょびっとだけひりだしていたというのか。何度もいうが、私の肛門は決してゆるくなく、自身の肛門をいじくる習性はないのだ。
私の身になにが…。
天気予報では今日もまたトロピカルな夜がやってくるという。
皆さまもゆめゆめ親指の動向に注意を払うのを怠らぬように。
※この話はただの実話です。
そう、ただの実話………。
スーパーに長い廊下をカモシカのような私の駿脚とホタルイカのような発行機能を有した私の眉毛をフルに活用し、真っ暗闇のなかおおよそ3秒で台所にたどりつくと、流しの上についた蛍光灯のヒモを引っ張って明かりをつける。水道水でのどをうるわそうとしたわけだが、冷蔵庫に帰宅時に買った麦茶が冷えていることを思い出し、コップを手にするとそっちを選択した。ペットボトルに直接口をつけて飲めばたちどころに雑菌が繁殖するんだぞ、ニート生活の長い友人高橋の警句に感謝しながら、私はキンキンに冷えた麦茶を地獄のように暑い夜のいけにえに捧げた。科学的にすら思える香ばしい麦茶の香りが鼻腔をつきさす。口に含めば鼻の裏側にジンジンとした淡い痛みを感じつつ、それでもそのとき私はまだまどろみの中を泳いでいた。
しかし、タバコを吸おうとライターを口元に近づけた時、私に起こっていたある異変に気がつくこととなった。
なにか臭いのだ。
はじめはタバコの匂い、もっといえば、水に浸したタバコの灰の匂いかと思った。私は灰皿に水を差しているからだ。
わかる人にはわかったかもしれないが、そう、ライターを口元に近づけた時、私の鼻腔にうんこの臭いが漂ってきたのだ。
それが水に浸したタバコの灰よりもうんこらしい臭いであることに気がついた私は、そっとライターを持った手を見た。第一の容疑者はこの手だからだ。
いた。私は目を疑った。なんと私の右手親指の爪に、うんこが擦過傷のかさぶたのようにひっついていたのだ。眠気が吹き飛ぶ。
私はもう死んじゃおうかなと決めたりした。確か昨日は、死ぬのこええよ、と思っていたはずだが、親指の爪にうんこがついている状況がすべてをひっくり返した。「よし、いっちょ死んでみっか!」てなもんだ。
しかし私には死ぬ前にうんこの発生源を探す役割を負うことになっていた。発生源といえば私か、たまに我が家へと遊びにくる地域猫しかいないが、一体全体いつどこでどうして私の親指の爪にうんこがついたというのだ。私の目はまたいつうんこに触れてしまうかもしれないという恐怖と緊張でギラギラと冴えだし、うんこの源を見つけるまでは眠れないといった状況に陥った。
とにかくうんこの源を探した。まずは論理的に考えてみる。最後にうんこをしたのはいつだ?。それは夕食後のこと。風呂に入る前。嘘みたいな快便だったことを覚えている。肛門を拭いたペーパーはきれいだった。そのあと風呂場に直行し、シャワーを浴びたのち寝支度を整えるとすぐに私は床についた。そのときの私の身は清浄され、うんこを挟む余地はないはずだ。私に寝る前に肛門をいじくる習性はなく、また知らず知らずにいじっていたとして、親指の爪のみにうんこがつくとは考えづらい。肛門もゆるくはない。
謎が私の身を焦がし、頭の中がキィーとしてくる。今度は起きてからの行動を探る。それは上記のとおりだが、怪しいところを探ってみてもうんこ本体はおろかうんこの残り香さえしない。擦過傷のように擦れたうんこをみるに、必ずどこかにうんこがついているはずなのに、体にも服にも部屋にもそのあとがない。
この間、私は別件で小便を漏らし下着と短パンを濡らしたが、自宅にいながら小便を漏らす、この程度のことなどもはやまさしく、大事の中に小事なし、大事の前の小事といった具合で、かまっていられない。二度目になるが、私の肛門はゆるくはない。
空前絶後の一大事にみまわれながら、謎をまったく解明できない私は、部屋をうろうろしたり確認済みの場所を何度となく確認したり、この記事を書いたりと、ただむなしく時を浪費し続けた。
気がつけば朝がやってきて、私は家を出なければならなくなった。職務中、早起きがたたって幾度も眠い目をこすりたくなったが、爪にうんこが、と思うとおちおち眼もこすれない。
家に帰れば、また謎解きアドベンチャーは続く。インドア派の私にはこんなに家へと帰るのが恐ろしくなったことなどない。
果たしてあのうんこは一体なんだったのだろうか。
妖怪親指うんこつけ、の仕業だろうか。アカナメの上位妖怪だろうか。
昔の泥棒は事後捕まらない為の験担ぎとして入った家でうんこをしたというが、私の親指のそれは部屋に泥棒が入ったしるしだろうか。私の親指の上で見知らぬ昔気質のおっさんが糞をちょびっとだけひりだしていたというのか。何度もいうが、私の肛門は決してゆるくなく、自身の肛門をいじくる習性はないのだ。
私の身になにが…。
天気予報では今日もまたトロピカルな夜がやってくるという。
皆さまもゆめゆめ親指の動向に注意を払うのを怠らぬように。
※この話はただの実話です。
そう、ただの実話………。
再投稿シリーズ。姉とトイレと相成った
「いやはや、W杯に盛り上がってる日本ですけども」
『うん』
「やっぱりW杯というものは、大人も楽しむけれど、子供に夢を与えますね」
『果たしてそうかな?』
「そうだよ!。今の日本代表見て、将来代表になりたいと思う子供たちが、未来にW杯の舞台に立つというストーリーが連綿と続くんだから」
『理解不能理解不能』
「なんだよそれは!。機械の心を持った奴かお前は!。子供たちがさ、友だちなんかと一緒に見てさ」
『友…だ…ち………!!』
「ああ!?」
『友情インプット完了!』
「というウォーズマンネタは置いといて」
『勝手に置くな!。よこせそれ!』
「置いたもんとるな!」
『よこせよ!。こんなところに勝手に置きやがって。誰かに置き引きされたらどうすんだよ』
「されねえから安心しろ。というより今時、友情インプット完了は“ご自由にお持ちください”でも持ってく奴いねえよ」
『いるよ』
「いねえよ」
『いるって。額にアナル描いてる奴とか』
「額に米の字書いてるテリーマンな」
『街角で壁に寄りかかってハンバーガー立ち食いしてる奴とか』
「テリーマンな」
『もっとサイドを攻めろとアドバイスしてくれる奴とか』
「テリーマンな」
『さて、サッカー談義は終わりましたね。では、本題に移ってください』
「まさかのテリーマン展開だが、何も言う気が起きねえよ」
『何かおれに言いたいことあったんだろ?』
「ああ、子供の頃の夢の話をしようとな」
『子供の頃抱いてた夢ですか』
「うん」
『そうだなあ、なんつうか、気がついたら大人になってたな』
「いきなり飛ぶなよ」
『そんなもんだろ。大した夢なんかなかったし』
「そうかもしれないけど、あるだろ。子供の頃にあった夢や欲しかった物のひとつやふたつ」
『欲しかった物ね、ああうんうん、まあ、名前、かな』
「なにが起こってたんだ子供時代のお前に!」
『ほらおれ、なんかいつもそばにいる大人から気がつけば勝手に名前を付けられて、呼び捨てされてたから』
「普通じゃねえか!。それが普通の家庭だろ!」
『まあ、そんぐらいかな』
「他にないのかよ」
『いやだって、なかったよ?』
「なんだお前は、ロックフェラー家の息子か!?。何不自由なく育った子供か!?」
『まあ、バキュームフェラ家の』
「何言ってんだお前!」
『バキュームフェラで出来た子だからね』
「できねえよ!。どういう状況だよお前」
『こう、餅吸い名人が如く、ディープスロートだよな』
「知らねえよ!。聞きたくねえ」
『そんでもって勝手に名前をつけられ、呼び捨てよ』
「バキュームフェラとなんか関係あんのかよその話」
『そういうお前はなんかあったのかよ』
「あった。あったんだ。これは夢であり欲しかった物なんだけど」
『なんだよ。もったいつけやがって。ああいいよいいよ。おれが代わりに言ってやるよ』
「は?」
『お前は一人っ子だから、どうせ兄弟、いや、お前は性格的に受け身な奴だから、どうせ姉が欲しかったとか言うんだろ?』
「正解だよ!。びっくりだ!。言うことなくなっちまった!」
『んなもんお前、どたい無理な話だ』
「まあそうなんだけど、いたら良かったのになあと」
『お前が生まれる前に親の精子と卵子を保存しとかなきゃ無理な話だよ』
「いやそれ、保存してたとしてもおれの弟か妹が生まれるだけだろ」
『は?』
「いやだから、たとえおれが生まれる前の精子と卵子を保存してて、それから生まれた子供はおれの弟か妹だろと」
『ああ、うん、間違えた。親が離婚して再婚した相手の連れ子が年上じゃないと無理だねって話』
「どこをどう間違えればそんなに話を違えるんだよ!」
『お前なあ、姉が欲しかっただなんて気楽に言うけど、現実の姉なんてもんはお前、最悪だぜ』
「お前には姉いるもんな」
『これみろよこれ。腕のこれ』
「ホクロがどうした」
『ホクロじゃねえんだよこれは。これは入れ墨だ』
「ああ、鉛筆が刺さるとできるやつね」
『そう。あと、ここだろ。ここだろ。ここだろ。ここだろ。それに耳のこれ。全部入れ墨』
「ほう」
『全部姉に入れられたものだからね』
「え!?」
『弟なんてお前、狂乱の、狂乱の微笑をたたえながら姉にめった刺しにされるもんなんだから』
「いや、普通は刺されたりしないんじゃないか?」
『尖った鉛筆でよお、おれを刺しやがるんだ。耳のとこなんて、おれがよけたから耳に入ったわけで、顔面狙われてたからね』
「どうしてそんな刺したがるんだよお前の姉は!?」
『知らねえよ!』
「お前がなんかしたんじゃないのか!?」
『知らねえ!』
「知らねえってお前そんなことされて、なんか事情ぐらいあるだろ。覚えてないのか?」
『知らねえ!。知らねえんだ!。おれは知らねえんだよ!。当時の記憶が曖昧なんだよ!。気がついたら大人になっていた』
「なにがお前に起こったんだ!?、トラウマレベルで記憶が消えてるのか!?」
『…たまに、尖ったものをみると、その夜の夢に狂乱の微笑をたたえながらおれを刺してくる姉の顔が…』
「フラッシュバック!」
『記憶が…少年時代の記憶がないんだ…』
「姉…」
『気がついたら大人になってて、波打ち際でピアノを弾いてた』
「ピアノマンじゃねえかよそれ!!」
『いつもそばにいた人間から名前をつけられ』
「名前を欲しがる事情が変わってきた」
『社会における日常生活を教えられ』
「カスパー・ハウザーみたいな話だな」
『金を稼げと、郷ひろみのモノマネを仕込まれ』
「ピアノマンから我集院」
『落ち込んだりもしたけれど、私は元気です』
「そしてジブリオチと相成るわけですな」
『姉なんか、姉なんか』
「まあ、ちょっと姉に対する考えを改めたよ」
『姉なんかお前、冷酷な機械だよ。甥と姪を産むための機械だよ』
「まさかの産む機械発言」
『ちくしょう。かわいすぎだろ甥と姪って。ありがとう姉』
「おれには甥姪は産まれないという話だな。じゃあ、平和なまま終わりますか」
『最後に、今までの話と全く関係ないけど聞いてくれ』
「なんなんだよ」
『ストーリー展開に関する話なんだけど、すべての起承転結、序破急は、便意にたとえることができる』
「便意に」
『そう、簡単に言えば、絶体絶命のピンチなんかは、漏れる寸前でトイレに駆け込んだら、中に人がいたとか。ミステリーなんかは、便秘との闘いだよな』
「なるほど、日常のスペクタクルを仮のスペクタクルに当てはめてるわけだ。じゃあ、ラブロマンスなんかどうなるんだ?」
『ラブロマンスはあれだよ。ウォシュレットだよ』
「ウォシュレット?」
『脱糞後の遊戯というかね。こう、男がたまにビデを使ってみたり』
「脱糞後の遊戯ってお前。まあでも、感情の起伏やスペクタクルがトイレに詰まってるのもわかるきがする。トイレだけに詰まってると…………。ま、あれだ。じゃあこの微笑シリーズはどうたとえる?」
『よく聞いてくれた。見事なたとえ方を発見したんだ』
「ほう」
『この微笑シリーズ、というか、おれ、は言うなればあれだ。便器の上で生活してる人だな』
「いつでも垂れ流せるからピンチも何も訪れず、山も谷もないと」
『その通り。じゃあさようなら』
「さようなら」
終わり。すべてのストーリーは便意シチュエーションにたとえることができ、また的確だ。人間そんな複雑なもん持ってねえ。いいね。いっそのこと才能ある人に有名作品を便意シチュエーションに代えて書いて欲しい。「蜘蛛の糸」とか最高におもしろくなるだろ。「ライ麦」とかさ。「坊ちゃん」は駄目だな。絶対タイトルが「ぼっとん」になるから。誰に書いて欲しいかなあ。山田風太郎が生きてたら一択なんだけどなあ。真理をシニカルに書かせたら右に出る者はないよ。
以上、再投稿。
町を歩いてたらたまに塀やら庭にその家の家主が書いた「有名人似顔絵」とか「なんだかよくわからない少なくともパッと見どヘタクソな絵」とか「小学生が作った夏休みの工作よりもちゃちいなにか」が“大量”に展示されてたりするじゃないですか。やるんならもっと本格的にやれよ、なんでそんなヘタクソなもん展示できんだ、いつ上達するんだよ、とかツッコミ入りそうな家。地元じゃかげでちょっと煙たがられているような。言っちゃ悪いけど、ゴミ屋敷に通ずるものがあるみたいな。
ああいった人たちに、私は妙なシンパシーを感じるのですよ。なぜならいま私がやっているこのブログこそ、まさにそれなんですね。逆に言えば彼らのやっていることは過疎ブログと同じだということでもあります。あれはブログなのです。見つけた折に何か感じるものがあったらコメントなりペタ的なしるしなりを残してみたらいかがか。もちろん荒らしはいけません。
ああいった人たちのことを、多くの人は異常だと認識し、何がしかの優越感を感じるでしょう。でなきゃ、「犬が人に噛みついても記事にはならない、人が犬に噛みついたら記事になる」のマスコミでとりあげられたりしません。実際のところ、私も彼らを変だと思います。私自身が彼らと似たようなものだというのにです。
一枚の鏡で自分の横顔を見ることができないように、なかなかどうして「自分の横顔の想像図」と「他人から見た横顔」は乖離しているようです。
このことについて色々と思うこともありますが、それはまた別の機会に。
『うん』
「やっぱりW杯というものは、大人も楽しむけれど、子供に夢を与えますね」
『果たしてそうかな?』
「そうだよ!。今の日本代表見て、将来代表になりたいと思う子供たちが、未来にW杯の舞台に立つというストーリーが連綿と続くんだから」
『理解不能理解不能』
「なんだよそれは!。機械の心を持った奴かお前は!。子供たちがさ、友だちなんかと一緒に見てさ」
『友…だ…ち………!!』
「ああ!?」
『友情インプット完了!』
「というウォーズマンネタは置いといて」
『勝手に置くな!。よこせそれ!』
「置いたもんとるな!」
『よこせよ!。こんなところに勝手に置きやがって。誰かに置き引きされたらどうすんだよ』
「されねえから安心しろ。というより今時、友情インプット完了は“ご自由にお持ちください”でも持ってく奴いねえよ」
『いるよ』
「いねえよ」
『いるって。額にアナル描いてる奴とか』
「額に米の字書いてるテリーマンな」
『街角で壁に寄りかかってハンバーガー立ち食いしてる奴とか』
「テリーマンな」
『もっとサイドを攻めろとアドバイスしてくれる奴とか』
「テリーマンな」
『さて、サッカー談義は終わりましたね。では、本題に移ってください』
「まさかのテリーマン展開だが、何も言う気が起きねえよ」
『何かおれに言いたいことあったんだろ?』
「ああ、子供の頃の夢の話をしようとな」
『子供の頃抱いてた夢ですか』
「うん」
『そうだなあ、なんつうか、気がついたら大人になってたな』
「いきなり飛ぶなよ」
『そんなもんだろ。大した夢なんかなかったし』
「そうかもしれないけど、あるだろ。子供の頃にあった夢や欲しかった物のひとつやふたつ」
『欲しかった物ね、ああうんうん、まあ、名前、かな』
「なにが起こってたんだ子供時代のお前に!」
『ほらおれ、なんかいつもそばにいる大人から気がつけば勝手に名前を付けられて、呼び捨てされてたから』
「普通じゃねえか!。それが普通の家庭だろ!」
『まあ、そんぐらいかな』
「他にないのかよ」
『いやだって、なかったよ?』
「なんだお前は、ロックフェラー家の息子か!?。何不自由なく育った子供か!?」
『まあ、バキュームフェラ家の』
「何言ってんだお前!」
『バキュームフェラで出来た子だからね』
「できねえよ!。どういう状況だよお前」
『こう、餅吸い名人が如く、ディープスロートだよな』
「知らねえよ!。聞きたくねえ」
『そんでもって勝手に名前をつけられ、呼び捨てよ』
「バキュームフェラとなんか関係あんのかよその話」
『そういうお前はなんかあったのかよ』
「あった。あったんだ。これは夢であり欲しかった物なんだけど」
『なんだよ。もったいつけやがって。ああいいよいいよ。おれが代わりに言ってやるよ』
「は?」
『お前は一人っ子だから、どうせ兄弟、いや、お前は性格的に受け身な奴だから、どうせ姉が欲しかったとか言うんだろ?』
「正解だよ!。びっくりだ!。言うことなくなっちまった!」
『んなもんお前、どたい無理な話だ』
「まあそうなんだけど、いたら良かったのになあと」
『お前が生まれる前に親の精子と卵子を保存しとかなきゃ無理な話だよ』
「いやそれ、保存してたとしてもおれの弟か妹が生まれるだけだろ」
『は?』
「いやだから、たとえおれが生まれる前の精子と卵子を保存してて、それから生まれた子供はおれの弟か妹だろと」
『ああ、うん、間違えた。親が離婚して再婚した相手の連れ子が年上じゃないと無理だねって話』
「どこをどう間違えればそんなに話を違えるんだよ!」
『お前なあ、姉が欲しかっただなんて気楽に言うけど、現実の姉なんてもんはお前、最悪だぜ』
「お前には姉いるもんな」
『これみろよこれ。腕のこれ』
「ホクロがどうした」
『ホクロじゃねえんだよこれは。これは入れ墨だ』
「ああ、鉛筆が刺さるとできるやつね」
『そう。あと、ここだろ。ここだろ。ここだろ。ここだろ。それに耳のこれ。全部入れ墨』
「ほう」
『全部姉に入れられたものだからね』
「え!?」
『弟なんてお前、狂乱の、狂乱の微笑をたたえながら姉にめった刺しにされるもんなんだから』
「いや、普通は刺されたりしないんじゃないか?」
『尖った鉛筆でよお、おれを刺しやがるんだ。耳のとこなんて、おれがよけたから耳に入ったわけで、顔面狙われてたからね』
「どうしてそんな刺したがるんだよお前の姉は!?」
『知らねえよ!』
「お前がなんかしたんじゃないのか!?」
『知らねえ!』
「知らねえってお前そんなことされて、なんか事情ぐらいあるだろ。覚えてないのか?」
『知らねえ!。知らねえんだ!。おれは知らねえんだよ!。当時の記憶が曖昧なんだよ!。気がついたら大人になっていた』
「なにがお前に起こったんだ!?、トラウマレベルで記憶が消えてるのか!?」
『…たまに、尖ったものをみると、その夜の夢に狂乱の微笑をたたえながらおれを刺してくる姉の顔が…』
「フラッシュバック!」
『記憶が…少年時代の記憶がないんだ…』
「姉…」
『気がついたら大人になってて、波打ち際でピアノを弾いてた』
「ピアノマンじゃねえかよそれ!!」
『いつもそばにいた人間から名前をつけられ』
「名前を欲しがる事情が変わってきた」
『社会における日常生活を教えられ』
「カスパー・ハウザーみたいな話だな」
『金を稼げと、郷ひろみのモノマネを仕込まれ』
「ピアノマンから我集院」
『落ち込んだりもしたけれど、私は元気です』
「そしてジブリオチと相成るわけですな」
『姉なんか、姉なんか』
「まあ、ちょっと姉に対する考えを改めたよ」
『姉なんかお前、冷酷な機械だよ。甥と姪を産むための機械だよ』
「まさかの産む機械発言」
『ちくしょう。かわいすぎだろ甥と姪って。ありがとう姉』
「おれには甥姪は産まれないという話だな。じゃあ、平和なまま終わりますか」
『最後に、今までの話と全く関係ないけど聞いてくれ』
「なんなんだよ」
『ストーリー展開に関する話なんだけど、すべての起承転結、序破急は、便意にたとえることができる』
「便意に」
『そう、簡単に言えば、絶体絶命のピンチなんかは、漏れる寸前でトイレに駆け込んだら、中に人がいたとか。ミステリーなんかは、便秘との闘いだよな』
「なるほど、日常のスペクタクルを仮のスペクタクルに当てはめてるわけだ。じゃあ、ラブロマンスなんかどうなるんだ?」
『ラブロマンスはあれだよ。ウォシュレットだよ』
「ウォシュレット?」
『脱糞後の遊戯というかね。こう、男がたまにビデを使ってみたり』
「脱糞後の遊戯ってお前。まあでも、感情の起伏やスペクタクルがトイレに詰まってるのもわかるきがする。トイレだけに詰まってると…………。ま、あれだ。じゃあこの微笑シリーズはどうたとえる?」
『よく聞いてくれた。見事なたとえ方を発見したんだ』
「ほう」
『この微笑シリーズ、というか、おれ、は言うなればあれだ。便器の上で生活してる人だな』
「いつでも垂れ流せるからピンチも何も訪れず、山も谷もないと」
『その通り。じゃあさようなら』
「さようなら」
終わり。すべてのストーリーは便意シチュエーションにたとえることができ、また的確だ。人間そんな複雑なもん持ってねえ。いいね。いっそのこと才能ある人に有名作品を便意シチュエーションに代えて書いて欲しい。「蜘蛛の糸」とか最高におもしろくなるだろ。「ライ麦」とかさ。「坊ちゃん」は駄目だな。絶対タイトルが「ぼっとん」になるから。誰に書いて欲しいかなあ。山田風太郎が生きてたら一択なんだけどなあ。真理をシニカルに書かせたら右に出る者はないよ。
以上、再投稿。
町を歩いてたらたまに塀やら庭にその家の家主が書いた「有名人似顔絵」とか「なんだかよくわからない少なくともパッと見どヘタクソな絵」とか「小学生が作った夏休みの工作よりもちゃちいなにか」が“大量”に展示されてたりするじゃないですか。やるんならもっと本格的にやれよ、なんでそんなヘタクソなもん展示できんだ、いつ上達するんだよ、とかツッコミ入りそうな家。地元じゃかげでちょっと煙たがられているような。言っちゃ悪いけど、ゴミ屋敷に通ずるものがあるみたいな。
ああいった人たちに、私は妙なシンパシーを感じるのですよ。なぜならいま私がやっているこのブログこそ、まさにそれなんですね。逆に言えば彼らのやっていることは過疎ブログと同じだということでもあります。あれはブログなのです。見つけた折に何か感じるものがあったらコメントなりペタ的なしるしなりを残してみたらいかがか。もちろん荒らしはいけません。
ああいった人たちのことを、多くの人は異常だと認識し、何がしかの優越感を感じるでしょう。でなきゃ、「犬が人に噛みついても記事にはならない、人が犬に噛みついたら記事になる」のマスコミでとりあげられたりしません。実際のところ、私も彼らを変だと思います。私自身が彼らと似たようなものだというのにです。
一枚の鏡で自分の横顔を見ることができないように、なかなかどうして「自分の横顔の想像図」と「他人から見た横顔」は乖離しているようです。
このことについて色々と思うこともありますが、それはまた別の機会に。
金庫
「OK。そこに置いてくれ」
重量80キロになる古い箱形金庫を、真っ赤な顔をして運ぶふたりの部下に指示を出す。
「ゆっくり置いてくれよ。よもや床が抜ける事態にはならんだろうがね」
私はリビングのソファーに鷹揚とした然で座り、タバコをくゆらせている。
私はつい先日まで会社を経営していた。私を含め社員三名とパート一名の小さな雑貨問屋だ。親から継いだ店だったが、もともと私には向上心というものが欠如しているように思える。親父の代には大きな倉庫をいくつか抱えるほどの問屋だったが、連なる不況とそれにともなう物流形態の変化に、私はついて行く気すら起こさなかった。親から教わった今までとおりの経営を怠慢に維持し、取引先が次々と潰れたり大手に吸収されたりするなか、新たな取引先や流通経路などを開拓する気もさらさらなく、ただ斜陽のひなびた消えゆく光の中に身を置いた。潮時を待つなか、この度ついに会社を畳むことになった。ふたりの社員には悪く思う。
「社長。こんな感じで」
人ひとり入れるだろうその金庫を所定の位置に設置し終えた部下が私に確認を求める。
この金庫は私が生まれる以前の創業時からあるらしい。店を畳む時、売れるものは売り、引き取り手のあるものは引き取ってもらい、処分できるものは全て処分し、唯一残ったものがこの金庫だ。
いつ頃からだろう。創業時からあるといわれるものの、少なくとも親父が倒れ、私が店を継ぐ頃には、この金庫は金庫としての役目を既に終えていた。というのも、事務所をひっくり返しても実家をひっくり返しても、どうしても鍵が見つからない。鍵が見つからないし、ダイアルの手順も知れない。中に何が入っているのか誰もわからない。
店を継ぐドタバタの渦中にも、この金庫を開けなくてはならない必要はなかった。死んだ母親も、ろくなものは入ってない、動かすのも面倒だから置いてるだけだ、と言っていた。
中が気にならないと言えば嘘になるが、わざわざ鍵屋なりなんなりの業者を呼んで開錠する気は起こらない。わざわざ第三者を呼んでまで開けて中が何も入ってなかったら興ざめだ。あまつさえ親父もしくは両親の秘密が隠されていたりしたら、恥以外の何者ではない。ではなぜ自宅に運んだりしたのか。言うなれば、店の残り香だから、になるだろう。
「大丈夫だ。ありがとう」
最後の社長命令を終え、今からふたりは元部下になった。
「社長、いまからどうします?」
私はふたりに手間賃を渡した。
「これでふたりで何か食ってくれ。最後まで悪いな。おれはこれからジムに行く」
私がそう言うと、ふたりは呆れた顔をして、
「ああ、そうですか」と言った。
ジム仲間は私のことをベンチフリークと呼ぶが、トレーナーたちが私をそう呼ぶことはない。
後者が正しい。私はベンチプレスしかやりにジムへと足を運ばないが、ベンチフリークではない。ただベンチプレスで上げる重量におかしなこだわりがあるだけだ。
私が上げられる最大の重量は100キロだ。今も昔も100キロのまま、その腕力を維持している。
高校生の頃、私は野球部に所属していた。だがいかんせん野球は下手くそで、三年間一度も公式戦に参加したことがない。私の学校の野球部は4軍まである甲子園の常連校で、もちろん私はその4軍だった。3軍までは曲がりなりにもグラウンドを使い“野球”をしていたが、私たち4軍は下手をするとスタンドの応援すら呼ばれないような、ただ部活に所属している名目を得るためだけに存在しているような、部費集め要因のような、要するに完全なみそっかすだった。私たちが顧問からことづかった活動内容と言えば、体育館に集まり上の軍が使用するトレーニング機材を整備するぐらいで、後はフリー。
そのときに私はベンチプレスを始めた。なんせそれぐらいしかやることがない。
そもそも野球はあまり好きではなかった私と他の奴らは、トレーニング機材を整備準備するかたわらに、せっせと肉体鍛錬に励んでいた。野球部じゃなくてボディビル部に変えろ、と担任に言われた記憶がある。
不妊に悩んでいた両親がようやく生まれた私を甘やかして育てたおかげか、私は非力で、最初に上げられた重量は40キロが精一杯だった。しかし、その後三年間それを続けていくなかで、重量を100キロまで上乗せすることができるようになった。他人から見れば笑いぐさかもしれないが、このことは私にとって立派な三年間の成果で、私にとって唯一誇れるような努力の賜物だった。
高校を卒業して家業に移ってからしばらくはベンチプレスをする機会はなかったが、ダンベルを買って無手勝流のトレーニングを続けていた。そして親父が倒れたのを契機に、私はジムに通うようになった。
おそらく、軸を持ちたかったからだろう。ふってわいた責任ある立場に、私は私なりに呵責を感じていた。これを出来ていれば大丈夫だ、とのような自分の中の、確固たる軸、が欲しかったに違いない。そしてその軸になるものといえば、私の中で100キロのベンチプレスを上げられること以外なかった。
「ちゃんと胸元までシャフトを下ろして」
今日もトレーナーが私に言う。確かに肉体鍛錬にはそうするのがいいのだろう。しかし、ちゃんとした形でバーベルを上げること、それは私にとってあまり意味がない。なぜなら私にとってベンチプレスとは肉体鍛錬を目的としたものではなく、100キロを自分で納得できるやり方で上げられることが目的なのだから。高校当時から、私は胸元までシャフトを下ろしたら上げられることはできなかった。浅いベンチプレスだ。
私は毎月一回、私が上げられる最大の重量である100キロのベンチプレスを試み、そして今日も合格した。それでいいのだ。それが私の軸なのだ。
さて、家に帰ってもやることがない。仕事もなければ、さしたる趣味もない。あるものといえば例の金庫だ。
とりあえず叩いてみる。手が痛くなった。蹴っぽってみる。案の定、脚が痛くなった。まじまじと金庫をみると扉の蝶番が多少錆びついているようだが、寝よう。
「ライオンとトラ、戦ったらどっちが強いと思う?」
「うーん、大きいのはどっち?」
「トラ。トラの方が一回り、いや二回り大きい。ああ、オスの話だ」
「じゃあトラ」
「ふむ、まあそうなるだろう。私がそうなるよう誘導したからね。ということは正解は」
「ライオン」
「そう、ライオンだ」
「へえ、百獣の王は密林の王者に勝るんだ」
「というのも、トラという生き物は群をなさない。そして、成体となったトラに、おおよそライバルはいない。まさしく密林の王者なんだ。しかし、ライオンは群をなして暮らしている。そしてライバルがいる。ライバルとは他の肉食獣のことじゃない。他のライオンのことなんだ。ライオンのオスは成長すると群から離れて、メスの群をガードするオスと、メスとメスのとってくる食料をかけた覇権争いをする。そう、オスのライオンは常にオスライオン同士で戦う。トラはトラ同士で戦うなんてことはないんだ。ライオンのたてがみは首を噛まれてもダメージを受けにくい為にあるといわれる。いわば、トラは弱者を狩ることに長けた種が生き残り進化していったのに対し、ライオンは自分と同等の肉食獣と戦って勝つ種が生き残って進化してきたんだ。ということはつまり、ライオンはトラと戦うすべを持っているが、トラはそうじゃない。だからライオンが勝つ」
「はあ」
「しかし、ここでクマの存在が浮上してくる。クマとトラは、ライオンとトラと違い生息域が一致している。自然下で普通に遭遇する。おもしろい結果があるのだがね、昔、見世物で猛獣と猛獣を戦わしたショーがあったんだが、トラとクマを戦わすと、クマは戦うもなにも尻尾をまいて逃げ惑うんだ。クマはトラが密林の王者であることを遺伝子レベルで知ってるんだ。実際、トラはクマを捕食するからね。だけど相手がライオンとなると、クマはライオンを一方的に撲殺したという記録がある」
「………」
「三つどもえだよ。ライオンとトラとクマは三つどもえなんだ。三つどもえなんだ」
「ねえ、新しいお酒頼んでいい?」
「駄目だ。私はいま失業中なんだよ」
キャバクラ帰りの夜、安い酒を飲みすぎたつけか、帰宅した私はリビングの床で着の身着のまま、横になった。視界には金庫がうつる。その金属のかたまりが妙に暖かく瞳にうつる。金庫の中に何が入っているのかは知らないが、両親との思い出、子供のころの思い出、金庫はそんなノスタルジックを抱えていることは確かだった。
時に深く時に浅く、私はぎっこらぎっこらと心地よく船を漕いでいた。明け方間近のことだったろう。夜の闇が一等濃くなるそのとき、私の住む地区を大地震が襲った。
立ち上がれない。グラグラという擬音では間に合わない衝撃に襲われる。
暗闇の中、キン、という金属音がしたと同時に、私は意識をなくした。
気がつくと、私はなにかの下敷きにされていた。下半身はタンスに覆われ、タンスにつっかえた形で金庫の片端が私の胸を圧迫しているらしかった。タンスにつっかえてなく、金庫の全重量が仰向けになっている私を直撃していたら、きっと気がつくことはなかったろう。地獄で仏か泣きっ面に蜂か、この事態をどうたとえればいいのか私にはわからない。
しかし私には生きていく為の軸がある。金庫の重量は80キロほど、私はそれを持ち上げられるはずなのだ。
体と金庫の間にに両手を差し込み、力を込める。動いた。動いたが、持ち上がるにはいたらなかった。「ちゃんと胸元までシャフトをおろして」、トレーナーに口酸っぱくいわれてきた言葉が頭に響く。
少しだけ金庫を浮かせられたのをきっかけに、私は下半身からタンスをのけることに成功した。私は安心した。それによって金庫の全重量が私の上半身にかかることになるが、脚をを金庫の方に使える。
なんとか足の裏を金庫にあてがうことに成功した私は重力の反転したような四つんばいの体勢になるべく一気に力を込めた。だが、キンという私が地震に見まわれた時に聴いた金属音がまた鳴ると、急に金庫が軽くなり、どん、という音が私を包んだ。
なにが起こったか察するべく、私は逆四つんばいのまま辺りを探った。しかし、探るまでもなかった。私は何かに体を密着している。私の周りは四面硬い金属に妨げられている。
いま私は金庫の中にいる。金庫の扉が外れたのだ。さびついた蝶番が外れたのだ。すっぽりとはまってしまった。
この人ひとりが精一杯の中で、手足をあてがっていた金庫の扉はどうなっているのだろう。それに気がついた時、左腕と左足に初めて鈍痛を感じた。左腕と左足は金庫の下敷きになっていた。潰れた手足は私の脳から発せられる信号を全く通さない。
もはや私に金庫をから脱出するすべは完全になくなった。私の左側を犠牲に金庫は少し傾いていたが、金庫の中の小さな空間からでは、満足にテコもできない。
死を覚悟した私は、ふと金庫の中身について考えだした。金庫に生じた隙間から光が漏れてきたこともそれに至る要因だったろう。
しかし、金庫の中にはなにもなかった。
私はこんな事態でなぜか笑った。
そして、外の光が家から発生した火事であることがわかった。
この金庫が耐火性だったかどうか。
そんなことを考えながら私は瞳を閉じた。段々と暖まる金庫の中に、私は母の胎内を感じ、その身を任せた。
男の遺体が発見された時、金庫の外に出された男の黒こげとなった左手の中に小さな瓶が握られていた。瓶の中にはへその緒のようなものが入っていた。金庫の扉が外れた折に、一緒に飛び出たのだろう。ついに男は金庫の中身を知ることはなかった。
男が最期に感じたものはこれのせいだったのだろうか。いや、違う。
これはへその緒ではなく、男の父親が不妊治療の一環として行った包茎手術をした時の余りものに他ならない。
故に、男が最期に感じたものは胎内ではなく、精巣内の感覚であることは明確なのである。明確、なのである。明確なのであった。
モヤモヤ。なんなんだよおれは………無駄にケータイメール文字量ギリギリだよ。きんたま入ってたことにしたかったんだけどね。
重量80キロになる古い箱形金庫を、真っ赤な顔をして運ぶふたりの部下に指示を出す。
「ゆっくり置いてくれよ。よもや床が抜ける事態にはならんだろうがね」
私はリビングのソファーに鷹揚とした然で座り、タバコをくゆらせている。
私はつい先日まで会社を経営していた。私を含め社員三名とパート一名の小さな雑貨問屋だ。親から継いだ店だったが、もともと私には向上心というものが欠如しているように思える。親父の代には大きな倉庫をいくつか抱えるほどの問屋だったが、連なる不況とそれにともなう物流形態の変化に、私はついて行く気すら起こさなかった。親から教わった今までとおりの経営を怠慢に維持し、取引先が次々と潰れたり大手に吸収されたりするなか、新たな取引先や流通経路などを開拓する気もさらさらなく、ただ斜陽のひなびた消えゆく光の中に身を置いた。潮時を待つなか、この度ついに会社を畳むことになった。ふたりの社員には悪く思う。
「社長。こんな感じで」
人ひとり入れるだろうその金庫を所定の位置に設置し終えた部下が私に確認を求める。
この金庫は私が生まれる以前の創業時からあるらしい。店を畳む時、売れるものは売り、引き取り手のあるものは引き取ってもらい、処分できるものは全て処分し、唯一残ったものがこの金庫だ。
いつ頃からだろう。創業時からあるといわれるものの、少なくとも親父が倒れ、私が店を継ぐ頃には、この金庫は金庫としての役目を既に終えていた。というのも、事務所をひっくり返しても実家をひっくり返しても、どうしても鍵が見つからない。鍵が見つからないし、ダイアルの手順も知れない。中に何が入っているのか誰もわからない。
店を継ぐドタバタの渦中にも、この金庫を開けなくてはならない必要はなかった。死んだ母親も、ろくなものは入ってない、動かすのも面倒だから置いてるだけだ、と言っていた。
中が気にならないと言えば嘘になるが、わざわざ鍵屋なりなんなりの業者を呼んで開錠する気は起こらない。わざわざ第三者を呼んでまで開けて中が何も入ってなかったら興ざめだ。あまつさえ親父もしくは両親の秘密が隠されていたりしたら、恥以外の何者ではない。ではなぜ自宅に運んだりしたのか。言うなれば、店の残り香だから、になるだろう。
「大丈夫だ。ありがとう」
最後の社長命令を終え、今からふたりは元部下になった。
「社長、いまからどうします?」
私はふたりに手間賃を渡した。
「これでふたりで何か食ってくれ。最後まで悪いな。おれはこれからジムに行く」
私がそう言うと、ふたりは呆れた顔をして、
「ああ、そうですか」と言った。
ジム仲間は私のことをベンチフリークと呼ぶが、トレーナーたちが私をそう呼ぶことはない。
後者が正しい。私はベンチプレスしかやりにジムへと足を運ばないが、ベンチフリークではない。ただベンチプレスで上げる重量におかしなこだわりがあるだけだ。
私が上げられる最大の重量は100キロだ。今も昔も100キロのまま、その腕力を維持している。
高校生の頃、私は野球部に所属していた。だがいかんせん野球は下手くそで、三年間一度も公式戦に参加したことがない。私の学校の野球部は4軍まである甲子園の常連校で、もちろん私はその4軍だった。3軍までは曲がりなりにもグラウンドを使い“野球”をしていたが、私たち4軍は下手をするとスタンドの応援すら呼ばれないような、ただ部活に所属している名目を得るためだけに存在しているような、部費集め要因のような、要するに完全なみそっかすだった。私たちが顧問からことづかった活動内容と言えば、体育館に集まり上の軍が使用するトレーニング機材を整備するぐらいで、後はフリー。
そのときに私はベンチプレスを始めた。なんせそれぐらいしかやることがない。
そもそも野球はあまり好きではなかった私と他の奴らは、トレーニング機材を整備準備するかたわらに、せっせと肉体鍛錬に励んでいた。野球部じゃなくてボディビル部に変えろ、と担任に言われた記憶がある。
不妊に悩んでいた両親がようやく生まれた私を甘やかして育てたおかげか、私は非力で、最初に上げられた重量は40キロが精一杯だった。しかし、その後三年間それを続けていくなかで、重量を100キロまで上乗せすることができるようになった。他人から見れば笑いぐさかもしれないが、このことは私にとって立派な三年間の成果で、私にとって唯一誇れるような努力の賜物だった。
高校を卒業して家業に移ってからしばらくはベンチプレスをする機会はなかったが、ダンベルを買って無手勝流のトレーニングを続けていた。そして親父が倒れたのを契機に、私はジムに通うようになった。
おそらく、軸を持ちたかったからだろう。ふってわいた責任ある立場に、私は私なりに呵責を感じていた。これを出来ていれば大丈夫だ、とのような自分の中の、確固たる軸、が欲しかったに違いない。そしてその軸になるものといえば、私の中で100キロのベンチプレスを上げられること以外なかった。
「ちゃんと胸元までシャフトを下ろして」
今日もトレーナーが私に言う。確かに肉体鍛錬にはそうするのがいいのだろう。しかし、ちゃんとした形でバーベルを上げること、それは私にとってあまり意味がない。なぜなら私にとってベンチプレスとは肉体鍛錬を目的としたものではなく、100キロを自分で納得できるやり方で上げられることが目的なのだから。高校当時から、私は胸元までシャフトを下ろしたら上げられることはできなかった。浅いベンチプレスだ。
私は毎月一回、私が上げられる最大の重量である100キロのベンチプレスを試み、そして今日も合格した。それでいいのだ。それが私の軸なのだ。
さて、家に帰ってもやることがない。仕事もなければ、さしたる趣味もない。あるものといえば例の金庫だ。
とりあえず叩いてみる。手が痛くなった。蹴っぽってみる。案の定、脚が痛くなった。まじまじと金庫をみると扉の蝶番が多少錆びついているようだが、寝よう。
「ライオンとトラ、戦ったらどっちが強いと思う?」
「うーん、大きいのはどっち?」
「トラ。トラの方が一回り、いや二回り大きい。ああ、オスの話だ」
「じゃあトラ」
「ふむ、まあそうなるだろう。私がそうなるよう誘導したからね。ということは正解は」
「ライオン」
「そう、ライオンだ」
「へえ、百獣の王は密林の王者に勝るんだ」
「というのも、トラという生き物は群をなさない。そして、成体となったトラに、おおよそライバルはいない。まさしく密林の王者なんだ。しかし、ライオンは群をなして暮らしている。そしてライバルがいる。ライバルとは他の肉食獣のことじゃない。他のライオンのことなんだ。ライオンのオスは成長すると群から離れて、メスの群をガードするオスと、メスとメスのとってくる食料をかけた覇権争いをする。そう、オスのライオンは常にオスライオン同士で戦う。トラはトラ同士で戦うなんてことはないんだ。ライオンのたてがみは首を噛まれてもダメージを受けにくい為にあるといわれる。いわば、トラは弱者を狩ることに長けた種が生き残り進化していったのに対し、ライオンは自分と同等の肉食獣と戦って勝つ種が生き残って進化してきたんだ。ということはつまり、ライオンはトラと戦うすべを持っているが、トラはそうじゃない。だからライオンが勝つ」
「はあ」
「しかし、ここでクマの存在が浮上してくる。クマとトラは、ライオンとトラと違い生息域が一致している。自然下で普通に遭遇する。おもしろい結果があるのだがね、昔、見世物で猛獣と猛獣を戦わしたショーがあったんだが、トラとクマを戦わすと、クマは戦うもなにも尻尾をまいて逃げ惑うんだ。クマはトラが密林の王者であることを遺伝子レベルで知ってるんだ。実際、トラはクマを捕食するからね。だけど相手がライオンとなると、クマはライオンを一方的に撲殺したという記録がある」
「………」
「三つどもえだよ。ライオンとトラとクマは三つどもえなんだ。三つどもえなんだ」
「ねえ、新しいお酒頼んでいい?」
「駄目だ。私はいま失業中なんだよ」
キャバクラ帰りの夜、安い酒を飲みすぎたつけか、帰宅した私はリビングの床で着の身着のまま、横になった。視界には金庫がうつる。その金属のかたまりが妙に暖かく瞳にうつる。金庫の中に何が入っているのかは知らないが、両親との思い出、子供のころの思い出、金庫はそんなノスタルジックを抱えていることは確かだった。
時に深く時に浅く、私はぎっこらぎっこらと心地よく船を漕いでいた。明け方間近のことだったろう。夜の闇が一等濃くなるそのとき、私の住む地区を大地震が襲った。
立ち上がれない。グラグラという擬音では間に合わない衝撃に襲われる。
暗闇の中、キン、という金属音がしたと同時に、私は意識をなくした。
気がつくと、私はなにかの下敷きにされていた。下半身はタンスに覆われ、タンスにつっかえた形で金庫の片端が私の胸を圧迫しているらしかった。タンスにつっかえてなく、金庫の全重量が仰向けになっている私を直撃していたら、きっと気がつくことはなかったろう。地獄で仏か泣きっ面に蜂か、この事態をどうたとえればいいのか私にはわからない。
しかし私には生きていく為の軸がある。金庫の重量は80キロほど、私はそれを持ち上げられるはずなのだ。
体と金庫の間にに両手を差し込み、力を込める。動いた。動いたが、持ち上がるにはいたらなかった。「ちゃんと胸元までシャフトをおろして」、トレーナーに口酸っぱくいわれてきた言葉が頭に響く。
少しだけ金庫を浮かせられたのをきっかけに、私は下半身からタンスをのけることに成功した。私は安心した。それによって金庫の全重量が私の上半身にかかることになるが、脚をを金庫の方に使える。
なんとか足の裏を金庫にあてがうことに成功した私は重力の反転したような四つんばいの体勢になるべく一気に力を込めた。だが、キンという私が地震に見まわれた時に聴いた金属音がまた鳴ると、急に金庫が軽くなり、どん、という音が私を包んだ。
なにが起こったか察するべく、私は逆四つんばいのまま辺りを探った。しかし、探るまでもなかった。私は何かに体を密着している。私の周りは四面硬い金属に妨げられている。
いま私は金庫の中にいる。金庫の扉が外れたのだ。さびついた蝶番が外れたのだ。すっぽりとはまってしまった。
この人ひとりが精一杯の中で、手足をあてがっていた金庫の扉はどうなっているのだろう。それに気がついた時、左腕と左足に初めて鈍痛を感じた。左腕と左足は金庫の下敷きになっていた。潰れた手足は私の脳から発せられる信号を全く通さない。
もはや私に金庫をから脱出するすべは完全になくなった。私の左側を犠牲に金庫は少し傾いていたが、金庫の中の小さな空間からでは、満足にテコもできない。
死を覚悟した私は、ふと金庫の中身について考えだした。金庫に生じた隙間から光が漏れてきたこともそれに至る要因だったろう。
しかし、金庫の中にはなにもなかった。
私はこんな事態でなぜか笑った。
そして、外の光が家から発生した火事であることがわかった。
この金庫が耐火性だったかどうか。
そんなことを考えながら私は瞳を閉じた。段々と暖まる金庫の中に、私は母の胎内を感じ、その身を任せた。
男の遺体が発見された時、金庫の外に出された男の黒こげとなった左手の中に小さな瓶が握られていた。瓶の中にはへその緒のようなものが入っていた。金庫の扉が外れた折に、一緒に飛び出たのだろう。ついに男は金庫の中身を知ることはなかった。
男が最期に感じたものはこれのせいだったのだろうか。いや、違う。
これはへその緒ではなく、男の父親が不妊治療の一環として行った包茎手術をした時の余りものに他ならない。
故に、男が最期に感じたものは胎内ではなく、精巣内の感覚であることは明確なのである。明確、なのである。明確なのであった。
モヤモヤ。なんなんだよおれは………無駄にケータイメール文字量ギリギリだよ。きんたま入ってたことにしたかったんだけどね。