巻四 大資本の国家統一

私人生産業限度

私人生産業の限度を資本壱千万円とす。海外における国民の私人生産業また同じ。

注一 私有財産限度と私人生産限度とを同一視すべからず。合資株式合名または自己の財産にあらざる借入金をもって生産を営む後者の制限は財産の制限たる前者と全く別事なり。

注二 限度を設けて私人生産業を認むる所以は前掲の諸注より推して明なるごとく幾多の理由あり。人の経済的活動の動機の一が私欲にありというもその一。新たなる試みが公共的認識を待つあたわずして常に個人の創造的活動によるというもその二。いかに発達するも公共的生産が国民生活の全部を蔽うあたわずして、現実的将来は依然として小資本による私人経済が大部分を占むるものなりというもその三。国民自由の人権は生産的活動の自由において表われたるものにつきて保護助長すべきものなりというもその四。数うるに尽きざるこれらの理由は社会主義がその建設的理論において未だ全く世の首肯を得ざる欠陥を示すものなり。「マルクス」と「クロポトキン」とは未開なる前世紀時代の先哲として尊重すれば可。

私人生産業限度を超過せる生産業の国有

私人生産業限度を超過せる生産業はすべてこれを国家に集中し国家の統一的経営となす。

賠償金は三分利付公債をもって交付す。賠償の限度および私有財産との関係等すべて私有財産限度の規定による。

違反者の罰則は戒厳令施行中前掲に同じ。

注一 大資本が社会的生産の蓄積なりということは社会主義の原理にして明白なること説明を要せず。しからば社会すなわち国家が自己の蓄積せるものを自己に収得し得るはまた論なし。

注二 現時の大資本が私人の利益のために私人の経営に委せらるることは人命を殺活し得べき軍隊が大名の利益のために大名に私用せらるることと同じ。国内に私兵を養いて私利私欲のために攻伐しつつある現代支那が政治的に統一せるものというあたわざるごとく、鉄道電信のごとき明白なる社会的機関をすら私人の私有たらしめて甘んずる米国は金権督軍の内乱時代なり。国民の安寧秩序を保持することが国家の唯一任務なりとせば、国民の死活栄辱を日夜にわたり終生を通じて脅威しつつあるこれらを処分せずしては国家なきに同じ。無政府党は怖るるの要なし。国家が国家みずからの義務と権能とを無視することを畏るべしとなす。

注三 積極的に見るとき大資本の国家的統一による国家経営は米国の「トラスト」ドイツの「カルテル」をさらに合埋的にして国家がその主体たるものなり。「トラスト」「カルテル」が分立的競争より遙かに有埋なる実証と理論によりて国家的生産の将来を推定すべし。

注四 大生産業の微集においてそれらを有し、さらに上地徴集においても各所にそれらを有する大富豪らは、要するにただ壱百万円を所有し得るのみなり。これと同時に壱百万円以下の株券を有し合資を有する者は、その干与せる株式会社・合資会杜の徴集せらるるとき一の傷害なき賠償を受くるものなり。すなわちいわゆる上流階級なるものを除ける中産以下の全国民には寸毫の動揺を与えず。

資本徴集機関

私人生産業限度を超過せる資本の徴集機関は在郷軍人団会議たること前掲に同じ。

注 私有財産限度超過者の調査と徴集が根本なるをもって土地超過者と資本超過の処分に当ることはただ根本を収めて枝葉に及ぶものに過ぎず。在郷軍人団をもってする時、必ずしも三年の戒厳令を要せず。

改造後私人生産業限度を超過せる者

改造後の将来、事業の発達その他の理由によりて資本が私人生産業限度を超過したる時はすべて国家の経営に移すべし。国家は賠償公債を交付しかつ継承したる該事業の当事者にその人を任ずるを原則とす。

違反者の罰則は国家の根本法を紊乱する者に対する立法精神において、別に法律をもって定む。

その事業が未だ私人生産業限度の資本に達せざる時といえどもその性質上大資本を利としまた国家経営を合理なりと認むる時は、国家に申達し双方協議のうえ国家の経営に移すことを得。

注一 壱千万円以上の生産業が国営たるべきために起る疑惑は事業家の奮闘心を挫折せしむべしということなり。これに対して人類は公共的動物なりという共産主義者の人生観が半面より最も有かに説明し尽したるは人の知るごとし。かつ利己的欲望そのものを解剖するも、事業家の事業経営においてはその手腕の発揮を見る自己満足、その経営的手腕の社会に認識せらるるを欲する功名的動機が多大に合有せらるるを発見すべし。現代の将軍らが愛国心のほかにこれら功名的動機、軍事的手腕を発揮せんとする自己満足の動機のために戦場に死戦するを見よ。かの戦国時代の将軍らが一州を略せば一州を領し一城を抜けば一城の主たりという私利的経済的欲望を掲げたる争闘より劣るものなし。もとよりあえてすべてを事業家の公共的動機に要めず。その利己的欲望中に合有さるるかかる幾多の動機は、その事業を発展せしめたる国家的認識と、国家に移れる事業をその人に経営せしむる手腕発揮の自己満足とによりて、実に争いて私人生産業限度を超過せんとする奮闘心を刺戟し鞭撻すべし。いわんやかかる改造組繊の後においては、公共的動物たる人類の美性はこれを阻害する悪制度なきがために、いちじるしく国民の心意行動を支配するに至るは確定したる理論を有す。

注二 私人壱百万円の私的財産を有するに至らば、一切の私利的欲求を断ちてただ社会国家のために尽くすべき欲望に生活せしむべし。私人壱千万円の私的産業に至らばその事業の基礎および範囲において直接かつ密接して国家社会の便益福利以外一点の私的動機を混在せしむべきものにあらず。ゆえにこの二者の制限は現今まで放任せられたる道徳性を国家の根本法として法律化するに過ぎざるなり。

国家の生産的組織

その一 銀行省

私人生産業限度以上の各種大銀行より徴集せる資本、および私有財産限度超過者より徴集したる財産をもって資本とす。

海外投資において豊富なる資本と統一的活動。他の生産的各省への貸付。私人銀行への貸付。通貨と物価との合理的調整。絶対的安全を保証する国民預金等。

注一 現時の分立せる銀行とこの銀行省との対外能力を考うる時、その差等はほとんど支那の私兵と日本の統一軍隊ほどの懸隔を見るべし。私兵を糾合して対外利権を争うがごときは資本の乏しき日本にとりて必敗なり。

注二 貿易順調にして外国より貨幣の流入横隘しために物価騰貴に至る恐ある時、銀行省はその金塊を貯蔵して国家非常の用に備うると共に、物価を合理的に調整するを得べし。経済界の好況をかえって反対に国民生活の憂患とする現下の大矛盾は一に国家が「金権」を有せざるに基づく。

注三 国民膏血の貯金または事業の運命を決すべき預金等が銀行の破産によりて消散することは国民生活の一大不安なり。いかに岩下清周に重刑を課するも幾万人の被害者に何の補いたらず。大日本帝国が国民と共に亡びざる限り銀行省の預金に不安なし。

その二 航海省

私人生産業限度以上の航海業者より徴集したる船舶資本をもって遠洋航路を主とし海上の優勝を争うべし。造船造艦業の経営等。

注 これ海上の鉄道国有に過ぎず。その外国同業者との競争能力等は「トラスト」「カルテル」より推論し得べく、以下の各省みな同じ。

その三 鉱業省

資本または価格が私人生産業限度以上なる各種大鉱山を徴集して経営す。銀行省の投資に伴う海外鉱業の経営。新領土取得の時私人鉱業と併行して国有鉱山の積極的開発等。

注一 資本のみならず鉱山の価格を明示せる所以。機械その他の設備を資本として鉱山そのものの価格が資本なることを忘れんとする誤解を防ぐ。

注二 国民の屍山血河によりて獲得したる鉱山(例えぱ撫順炭鉱のごとき)を少数者に壟断しつつある現時の状態は実に最悪なる政治というのほかなし。愛国心の頽廃も無政府党の出現も国家みずからが招くもの。

その四 農業省

国有地の経営。台湾製糖業および森林の経営。台湾、北海道、樺太、朝鮮の開墾。南北満洲、将来の新領土における開墾、または大農法の耕地を継承せる時の経営。

注 台湾における糖業および森林に対する富豪等の罪悪が国家の不任不義に帰せらるるごときは国家および国民の忍び得べきものにあらず。将来台湾の幾十倍なる大領土を南北満洲および極東シベリアに取得すべき運命において、同一なる罪悪を国家国民の資任に嫁せらるることは日本の国際的威厳信用を汚辱し、土地の国際的分配の公正のために特に日本の享有せる領土拡張の生活権利を損傷ん、いかなる大帝国建設も百年の寿を全うするあたわざるべし。

その五 工業省 

徴集したる各種大工業を調整し統一し拡張して真の大工業組織として、各種の工業ことごとく外国のそれらと比肩するを得べし。私人の企てざる国家的欠陥たるべき工業の経営。海軍製鉄所、陸軍兵器廠の移管経営等。

注 工業の「トラスト」的「カルテル」的組織は賢本乏しく列強より後れたる日本には特に急務なり。また今回の大戦に暴露せられたるごとく日本は自営自給するあたわざる幾多の工業あり。自己の私利を目的とする資本制度に依頼して晏如たることは、今日および今後日本の国際的危機の忍ぶあたわざるところなり。

その六 商業省

国家生産または私人生産による一切の農業的工業的貨物を案配し、国内物価の調節をなし、海外貿易における積極的活動をなす。

この目的のためにすべて関税はこの省の計算によりて内閣に提出す。

注一 すでに私有財産限度あり、私有地限度あり、私人生産業限度あり。私人は悪用すべき大資本を奪われたるがゆえに国家の物価調節に反抗して買占め売り惜しみ符をなすことあたわず。したがって国家の物価調節は一糸紊れず整然として行なわるべし。大地主と投機商人との有する大資本が米穀の買占め売り惜しみを自由ならしめて現時の米価騰貴を現出しつつあるを見よ。すべての物価問題ことごとくここに発す。彼らの大資木を奪わずして物価調節をいうごときは抱腹すべき空想政治なり。

注二 国内の物価が世界的原因、すなわち世界大戦中のごとき世界的物価騰貴のために騰貴するときは、国家は一般国民の購買能力と世界市価との差額を輸出税として課税すべし。公私生産品一律に課税さるるは論なし。かくして国内物価の暴騰を防ぐと同時に、貿易上の利益を国庫に収得するを得べし。ただしこれらは非常変態の経済状態にして輸出税を課するごとき原則にあらざるは論なし。しかも非常に遭遇したるとき国民の不安騒乱を招くがごとき国家組織をもってして、如何ぞ大日本帝国の世界的使命を全うするを得べき。将来一大戦争を覚悟するならば特に非常時に安泰なるべき改造を要す。

その七 鉄道省

今の鉄道院に代え、朝鮮鉄道、南満鉄道等の統一。将来新領土の鉄道を継承し、さらに布設経営の積極的活動等。

私人生産業限度以下の支線鉄道はこれを私人経営に開放すべし。

注一 鮮血の南満鉄道が富豪に壟断さるるの不義と危険とは鉱業省の注に述べたるがごとし。もし将来の大領土における諸多の鉄道を再び南満鉄道に学ばしむることあらば国民に闘志なきこと明白なり。

注二 鉄道の国有なるがゆえに現時のごとく民間の鉄道布設が阻害せらるるは、第一国民の経済的自由を蹂躙するのみならず、国有鉄道そのものの利益を滅殺するものなり。陸上の鉄道なるがゆえに山間僻村の支線をも国有とし、海上の鉄道なるがゆえに全世界に通ずる幹線をも民有とすべしとは道理に合せざるもはなはだし。鉄道の国有たるべきものと民有たるべきものと、また実に私人生産業限度の原則および大資本の国家統一の原則の下に律せらるべし。国家の大本は一にして二なし。

莫大なる国庫収入

生産的各省よりの莫大なる収入はほとんど消費的各省および下掲国民の生活保障の支出に応ずるを得べし。したがって基本的租税以外各種の悪税はことごとく廃止すべし。

生産的各省は私人生産者と同一に課税せらるるは論なし。

塩、煙草の専売制はこれを廃止し、国家生産と私人生産との併立する原則によりて、私人生産業限度以下の生産を私人に開放して公私一律に課税す。

遺産相続税は親子権利を犯すものなるをもって単に手数料の徴収に止む。

注一 国家の徴集し得べき資本の概算は推想するを得べきも、その真実を去るはなはだ遠きことは在郷軍人団の調査徴集を必要とする所以なり。

注二 国家の生産的収入の増大するに従いて、ただに悪税のみ、ならず多くの租税を廃止し得るの時来るべきは推想し得べし。

注三 遺産相続を機として国家が収得を計らんとする社会政策者流の人権的思想に不徹底なるを思考すべし。




巻五 労働者の権利

労働省の任務

内閣に労働省を設け国家生産および個人生産に雇傭さるる一切労働者の権利を保護するを任務とす。

労働争議は別に法律の定むるところによりて労働省これを裁決す。この裁決は生産的各省個人生産者および労働者の一律に服従すべきものなり。

注一 労働者とは力役または智能をもって公私の生産業に雇傭せらるる者をいう。したがって軍人・官吏・教師等は労働者にあらず。たとえば巡査が生活権利を主張する時はその所属たる内務省が決定すべく、教師が増給運動をなす時は文部省が解決すべし。労働省の与かるところにあらず。

注二 同盟罷工は工場閉鎖と共にこの立法に至るべき過程の階級闘争時代の一時的現象なり。永久的に認めらるべき労働者の特権にあらざると共に、一躍この改造組織を確定したる国家にとりては断然禁止すべきものなり。ただしこの改造を行なわずしてしかもいたずらに同盟罷業を禁圧せんとするは、大多数国民の自衛権を蹂躙する重大なる暴虐なりとす。

労働賃銀

労働賃銀は自由契約を原則とす。

その争議は前掲の法律の下に労働省これを決定す。

注一 自由契約とせる所以は国民の自由をすべてに通ぜる原則として国家の干渉を背理と認むるによる。真理は一社会主義の専有にあらずして自由主義経済学の理想にまた犯すべからざるものあり。等しく労働者というも各人の能率に差等あり。特に将来日本領土内に居住しまたは国民権を取得する者多き時、国家が一々の異民族につきその能率と賃銀とに干渉し得べきにあらず。現今においては資本制度の圧迫によりて労働者は自由契約の名の下に全然自由を拘束せられたる賃銀契約をなしつつあり。しかも改造後の労働者は真個その自由を保持していささかの損傷なかるべきは論なし。

注二 自由(すなわち差別観)を忘れてただ観念的平等に立脚したる時代の社会主義的理想家は国民に徴兵制のごとく労働強制を課せんと考えしことあり。人生は労働のみによりて生くるものにあらず。また個々人の天才は労働の余暇をもって発揮し得べきものにあらず。何人が大経世家たるか大発明家、大哲学者、大芸術家たるかは、彼らの立案するごとく杜会が認めて労働を免除すという事前に察知すべからずしてことごとく事後に認識せらるるものなればなり。社会主義の原理が実行時代に入れる今日となりてはそれに付帯せる空想的糟粕は一切棄却すべし。

労働時間

労働時間は一律に八時問制とし日曜祭日を休業して賃銀を支払うべし。

農業労働者は農期繁忙中労働時間の延長に応じて賃銀を加算すべし。

注 説明の要なし。ただし余の時間をもって修養に享楽に自由なる人権に基づきて、家庭的労働をなしまた他の営業をなすは等しく個人の自由なり。

労働者の利益配当

私人生産に雇傭せらるる労働者はその純益の二分の一を配当せらるべし。

この配当は智能的労働者および力役的労働者を総括したるものにして、各自の俸給賃銀に比例して分配す。

労働者はその代表を選びて事業の経営計画および収支決算に干与す。

農業労働者と地主との間またこれに同じ。

国家的生産に雇傭せらるる労働者はこの利益配当に代わるべき半期ごとの給付を得べし。事業の経営収支決算に干与する代りに衆議院を通じて国民として国家の全生産に発言すべし。

注一 労働者はその労働を売却するものなりとは旧派経済学の誤説なり。企業家がその企業的能力をその資本たる機械・鉱山・土地等に加えて利益を計ると同じく、労働者はそれらの資本に労働を加えて利益を計る者なり。機械そのものは人類の知識を結晶したる祖先の遺産たり、社会の共同的産物たり。鉱山土地等そのものは全く自然の存在にしてそれを所有せしむるすべての力は国家なり。しかしてこれらの資本より利益を得んとしてここに各種の人力を要す。企業家は企業的能力を提供し労働者は智能的力役的能力を提供す。労働者の月給または日給は企業家の年俸と等しく作業中の生活費のみ。一方の提供者には生活費のみを与えてその提供のために生れたる利益を与えず他方の提供者のみ生活費のほかにすべての利益を専有すべしとは、その不合理にして無智なることほとんど下等動物の杜会組織というのほかなし。労働者が経営計画に参与するの権はこの一方の提供者としてなり。

注二 国家生産の労働者に利益配当を用いざる所以は、国家は全生産の永遠的経営を本旨とするがゆえに、全国家の生産的活動のためにある省にはことさらに投売を行なわしめて損失を顧みざることあるごとく、ある省を犠牲としてある省の対外競争をもっぱらならしむることもあるべきをもってなり。かかる場合において各別に利益配当をなす時に非常なる不公平を生じ甲省の労働者の利益配当を奪いて乙省のそれに与うるがごときを生ずべし。したがってまた生産方針に干与するの権は国家全局の生産成績を達観し得べき衆議院においてせざるべからざる所以となる。

労働的株主制の立法

私人生産業中株式組織の事業はそれに雇傭さるる肉体的精神的労働者をして、みずからその株主たり得る権利を設定すべし。

注一 これ自己の労働と自己の資本とが不可分的に活動するものなり。事業に対する分担者としての当然なる権利に基づきて制定さるべし。別個生産能率をも思考すべし。

注二 私人生産業限度内の事業において将来半世紀一世紀問は現代のごとき腐敗破綻を来たす怖れあるものと推定すべし。したがって、労働的株主を併存せしむることは内容的根本的につねに該事業を健確に支持すべし。

注三 労働的株主の発言権は労働争議を株主会議内において決定し、一切の社会的不安なからしむべし。

借地農業者の擁護

私有地限度内の小地主に対して土地を借耕する小作人を擁護するために、国家は別個国民人権の基本に立てる法律を制定すべし。

注一 限度以上の土地を分有せしむる大本は別に存せり。しかも小地主対小作人の間を規定して一切の横暴脅威を抜除すべき細則を要す。

注二 一切の地主なからしめんと叫ぶ前世紀の旧革命論を、私有限度内の小地主対小作人の間に巣くわしむべからず。旧杜会の惰勢を存せしむるすべてのところに、旧世紀の革命論は繁殖すべし。

幼年労働の禁止

満十六歳以下の幼年労働を禁止す。これに違反して雇傭したる者は重大なる罰金または体刑に処す。

尊族保護の下に尊族において労働する者はこの限りにあらず。

注 国民人権の上より説明を要せず。満十六歳以下とせるは下掲の国民教育期間なるをもってなり。体刑を課する所以は国家の児童を保護するに最も厳励なるべきをもってなり。実に国家の生産的利益の方面より見るも幼童にして残賊するよりもその天賦を完全に啓発すべき教育を施したる後の労働が幾百倍の利益なるは論なし。四海同胞の人道を世界に宜布せんとする者が、みずからの国家内における幼少なる同胞を酷使して何の国民道徳ぞ。

婦人労働

婦人の労働は男子と共に自由にして平等なり。ただし改造後の大方針として国家はついに婦人に労働を負荷せしめざる国是を決定して施設すべし。

国家非常の際に処し婦人が男子の労働に代わり得べきために男子と平等なる国民教育を受けしむ。(「国民の生活権利」参照)。

注一 現時の農業発達の程度においては婦人を炎天に晒らしてその美を破り、または貧困者多き近き将来においては婦人を工場に駆使してその楽を奪うとも止むを得ざる人間生活なり。しかしながら大多数婦人の使命は国民の母たることなり。妻として男子を助くる家政労働のほかに、母として保姆の労働をなし、小学教師に劣らざる教育的労働をなしつつある者は婦人なり。婦人はすでに男子のあたわざる分科的労働を十に分に負荷して生れたる者。これらの使命的労働を廃せしめて全く天性に合せざる労働を課するは、ただに婦人そのものを残賊するのみならず、直にその夫を残賊しその子女を残賊する者なり。この改造によりて男子の労働者の利得が優に妻子の生活を保証するに至らば、良妻賢母主義の国民思想によりて婦人労働者は漸次的に労働界を去るべし。

注二 この点は女子参政権問題におけるがごとく、日本と欧米とが全然発達の傾向を異にし来たりかつ異にすべき将来を示すものなり。日本婦人の人格は欧米のごとく男子の職業を争いて認めらるべき将来を仮想するの要なし。国家組織が下掲のごとく母としてまた妻としての婦人の生活を保証し、婦人が男子と平等の国民教育を受くるならば、その妻としての労働、母としての労働が人格的尊敬をもって認識せらるるは論なし。

注三 婦人は家庭の光にして人生の花なり。婦人が妻たり母たる労働のみとならば、夫たる労働者の品性を向上せしめ、次代の国民たる子女をますます優秀ならしめ、各家庭の集合たる国家は百花爛漫春光駘蕩たるべし。とくに杜会的婦人の天地として、音楽・美術・文芸・教育・学術等の広漠たる未墾地あり。この原野は六千年間婦人に耕やし播かれずして残れり。婦人が男子と等しき牛馬の労働に服すべき者ならば天は彼の心身を優美繊弱に作らず。