巻三 土地処分三則
私有地限度
日本国民一家の所有し得べき私有地限度は時価拾万円とす。
この限度を破る目的をもつて血族その他に贈与しまたはその他の手段によりて所有せしむるを得ず。
注一 国民の自由を保護し得る国家は同時に国民の自由を制限し得るは論なし。外国の侵略またはその他の暴力より完全にその土地を私有し得る所以はすべて国家の保護による。資本的経済組織のために国内に不法なる土地兼併が行なわれて、大多数国民がその生活基礎たる土地を奪取せられつつあるを見るとき、国家は当然に土地兼併者の自由を制限すべし。
注二 時価拾万円として小地主と小作人との存立を認むる点は、一切の地主を廃止せんと主張する社会主義的思想と根拠を異にす。また土地は神の人類に与えたる人権なりというがごとき愚論の価値なきは論なし。すべてに平等ならざる個々人はその経済的能力享楽および経済的運命においても画一ならず。ゆえに小地主と小作人の存在することは神意ともいうべく、かつ杜会の存立および発達のために必然的に経由しつつある過程なり。
私有地限度を超過せる土地の国納
私有地限度以上を超過せる土地はこれを国家に納付せしむ。
国家はその賠償として三分利付公債を交付す。ただし私産限度以上に及ばず。
その私有財産と賠償公債との加算が私産限度を超過する者はその超過額だけ賠償公債を交付せず。
違反者の罰則は戒厳令施行中前掲に同じ。
注一 日本現時の大地主はその経済的諸侯たる形において中世貴族の土地を所有せるに似たるも、所有権の本質において全く近代的のものなり。中世の所有権思想はその所有が奪取なると否とを問わず強者の権利の上に立てるものなりき。維新革命は所有権の思想が強力による占有にあらずして労働に基づく所有に一変すると共に、強力がその強力を失いてその所有権を喪失したるもの。これに反してこの私有地限度超過を徴集することは近代的所有権思想の変更にあらず。単に国家の統一と国民大多数の自由のために少数者の所有権を制限するものに過ぎず。ゆえに私有財産限度以下において所有権に伴う権利として賠償を得るものなり。
注に ゆえに中世貴族の所有地を現今に至るも解決するあたわずしてついに独立間題にまで破裂せしめたるアイルランドの土地問題と、この私有地限度制とはその思想においても進歩の程度においても雲泥の差あるを知るべし。また現時ロシアの土地没収のごときは明らかに維新革命を五十年後の今において拙劣に試みつつあるものに過ぎず。彼が多くの点すなわち軍事政治学術その他の思想において遙かに後進国なるは論なし。土地問題において英語の直訳や「レニン」の崇拝は佳人の醜婦を羨むの類。
土地徴集機関
在郷軍人団会議は在郷軍人団の監視の下に私有地限度超過者の土地の評価徴集に当るべし。
注 前掲の如し。
将来の私有地限度超過者
将来その所有地が私有地限度を超過したる者はその超過せる土地を国家に納付して賠償の交付を求むべし。
この納付を拒む目的をもつて血族その他に贈与しまたはその他の手段によりて所有せしむることを得ず。違反者の罰則は、国家の根本法を紊乱する者に対する立法精神において、別に法律をもって定む。
徴集地の民有制
国家は皇室下附の土地および私有地限度超過者より納付したる土地を分割して土地を有せざる農業者に給付し、年賦金をもってその所有たらしむ。
年賦金額年賦期間等は別に法律をもって定む。
注一 社会主義的議論の多くが大地主の土地兼併を移して国家そのものを一大地主となし、もって国民は国家の所有の土地を借耕する平等の小作人たるべしというは原理としては非難なし。これに反対してロシアの革命的思想家の多くは国民平等の土地分配を主張してまた別個の理論を土地民有制に築くもの多し。しかしながらかかる物質的生活の問題はある両一の原則を予断してすべてを演繹すべきものにあらず。もし原則というものあらば、ただ国家の保護によりてのみ各人の土地所有権を享受せしむるがゆえに、最高の所有者たる国家が国有とも民有とも決定し得べしということこれのみ。ロシアに民有論の起るは正当なると共に、アイルランドの貴族領が国有たるべきも可能なり。すなわち二者のいずれかを決し得る国家はその国情の如何を考えて最善の処分をなせば可なりとす。日本が大地主の土地を徴集することは最高の所有者たる国家の権利にして国有なり。しかして日本が小農法の国情なるに考えてこれを自作農の所有権に移し、もって土地民有制を取ることも日本としての物質生活より築かるべき幾多の理論を有す。かつ動かすべからざる原理は都市の住宅地と異なりて農業者の土地は資本と等しくその経済生活の基本たるをもって、資本が限度以内において各人の所有権を認めらるるごとく、土地またその限度内において確実なる所有権を設定さるることは国民的人権なりとす。
注二 この日本改造法案を一貫する原理は、国民の財産所有権を否定するものにあらずして、全国民にその所有権を保障し享楽せしめんとするに在り。熱心なる音楽家が借用の楽器にて満足せざるごとく、勤勉なる農夫は借用地を耕してその勤勉を持続し得るものにあらず。人類を公共的動物とのみ、考うる革命論の偏局せることは、私利的欲望を経済生活の動機なりと立論する旧派経済学と同じ。共に両極の誤謬なり。人類は公共的と私利的との欲望を併有す。したがって改造なるべき社会組織また人性を無視したるこれら両極の学究的憶説に誘導さるることあたわず。
都市の土地市有制
都市の土地はすべてこれを市有とす。市はその賠償として三分利付市債を交付す。
賠償額の限度および私有財産とその加算が私有財産限度を超過したる者は前掲に同じ。
土地徴集機関また前掲に同じ。
注一 都市と限りて町村住宅地を除外せる所以は、公有とすべき理由が町村の程度においては完成せざるをもってなり。
注二 都市地価の騰貴する理由は農業地のごとく所有者の労力に原因するものにあらずして大部分都市の発達そのものによる。都市はその発達より結果せる利益を単なる占有者に奪わるるあたわず。もってこれを市有とするものなり。
注三 都市はその借地料の莫大なる収入をもって市の経済を遺憾なからしむるを得。したがって都市の積極的発達はこの財源によりて自由なると共に、その発達より結果する借地料の騰貴はまた循環的に市の財源を豊かにす。
注四 家屋は衣服と等しく各人の趣味必要に基づくものなり。三坪の邸宅に甘ずる者あるべく、数拾万円の高楼を建つるものあるべし。ある時代の社会主義者の市立の家屋を考えしごときは市民の全部に居常かつ終生画一なる兵隊服を着用せしむべしというと一般、愚論なり。
注五 すでに都市の私有地を許なざるがゆえに、設定せられたる地上権より利得を計ることを得ず。すなわち借家をもって利得をなす者は家屋そのものよりの利得にして、地上権に伴う利益を計上するを得ず。このために市は五年目ごとに借地料の評価をなす。
国有地たるべき土地
大森林または大資本を要すべき未開墾地または大農法を利とする土地はこれを国有とし国家みずからその経営に当るべし。
注一 下掲大資本の国家統一の原則による。
注二 わが日本においては国氏生活の基礎たる土地の国際的分配において将来大領土を取得せざるべからざる運命にあり。したがって国有として国家の経営すべき土地の莫大なるを考うべし。要するにすべてを通じて公的所有と私的所有の併立を根本原則とす。
注三 日本の土地問題は単に国内の地主対小作人のみを解決して得べからず。土地の国際的分配において不法過多なる所有者の存在することに革命的理論を拡張せずしては、言論行動一瞥の価値なし。(「国家の権利」参照)
私有地限度
日本国民一家の所有し得べき私有地限度は時価拾万円とす。
この限度を破る目的をもつて血族その他に贈与しまたはその他の手段によりて所有せしむるを得ず。
注一 国民の自由を保護し得る国家は同時に国民の自由を制限し得るは論なし。外国の侵略またはその他の暴力より完全にその土地を私有し得る所以はすべて国家の保護による。資本的経済組織のために国内に不法なる土地兼併が行なわれて、大多数国民がその生活基礎たる土地を奪取せられつつあるを見るとき、国家は当然に土地兼併者の自由を制限すべし。
注二 時価拾万円として小地主と小作人との存立を認むる点は、一切の地主を廃止せんと主張する社会主義的思想と根拠を異にす。また土地は神の人類に与えたる人権なりというがごとき愚論の価値なきは論なし。すべてに平等ならざる個々人はその経済的能力享楽および経済的運命においても画一ならず。ゆえに小地主と小作人の存在することは神意ともいうべく、かつ杜会の存立および発達のために必然的に経由しつつある過程なり。
私有地限度を超過せる土地の国納
私有地限度以上を超過せる土地はこれを国家に納付せしむ。
国家はその賠償として三分利付公債を交付す。ただし私産限度以上に及ばず。
その私有財産と賠償公債との加算が私産限度を超過する者はその超過額だけ賠償公債を交付せず。
違反者の罰則は戒厳令施行中前掲に同じ。
注一 日本現時の大地主はその経済的諸侯たる形において中世貴族の土地を所有せるに似たるも、所有権の本質において全く近代的のものなり。中世の所有権思想はその所有が奪取なると否とを問わず強者の権利の上に立てるものなりき。維新革命は所有権の思想が強力による占有にあらずして労働に基づく所有に一変すると共に、強力がその強力を失いてその所有権を喪失したるもの。これに反してこの私有地限度超過を徴集することは近代的所有権思想の変更にあらず。単に国家の統一と国民大多数の自由のために少数者の所有権を制限するものに過ぎず。ゆえに私有財産限度以下において所有権に伴う権利として賠償を得るものなり。
注に ゆえに中世貴族の所有地を現今に至るも解決するあたわずしてついに独立間題にまで破裂せしめたるアイルランドの土地問題と、この私有地限度制とはその思想においても進歩の程度においても雲泥の差あるを知るべし。また現時ロシアの土地没収のごときは明らかに維新革命を五十年後の今において拙劣に試みつつあるものに過ぎず。彼が多くの点すなわち軍事政治学術その他の思想において遙かに後進国なるは論なし。土地問題において英語の直訳や「レニン」の崇拝は佳人の醜婦を羨むの類。
土地徴集機関
在郷軍人団会議は在郷軍人団の監視の下に私有地限度超過者の土地の評価徴集に当るべし。
注 前掲の如し。
将来の私有地限度超過者
将来その所有地が私有地限度を超過したる者はその超過せる土地を国家に納付して賠償の交付を求むべし。
この納付を拒む目的をもつて血族その他に贈与しまたはその他の手段によりて所有せしむることを得ず。違反者の罰則は、国家の根本法を紊乱する者に対する立法精神において、別に法律をもって定む。
徴集地の民有制
国家は皇室下附の土地および私有地限度超過者より納付したる土地を分割して土地を有せざる農業者に給付し、年賦金をもってその所有たらしむ。
年賦金額年賦期間等は別に法律をもって定む。
注一 社会主義的議論の多くが大地主の土地兼併を移して国家そのものを一大地主となし、もって国民は国家の所有の土地を借耕する平等の小作人たるべしというは原理としては非難なし。これに反対してロシアの革命的思想家の多くは国民平等の土地分配を主張してまた別個の理論を土地民有制に築くもの多し。しかしながらかかる物質的生活の問題はある両一の原則を予断してすべてを演繹すべきものにあらず。もし原則というものあらば、ただ国家の保護によりてのみ各人の土地所有権を享受せしむるがゆえに、最高の所有者たる国家が国有とも民有とも決定し得べしということこれのみ。ロシアに民有論の起るは正当なると共に、アイルランドの貴族領が国有たるべきも可能なり。すなわち二者のいずれかを決し得る国家はその国情の如何を考えて最善の処分をなせば可なりとす。日本が大地主の土地を徴集することは最高の所有者たる国家の権利にして国有なり。しかして日本が小農法の国情なるに考えてこれを自作農の所有権に移し、もって土地民有制を取ることも日本としての物質生活より築かるべき幾多の理論を有す。かつ動かすべからざる原理は都市の住宅地と異なりて農業者の土地は資本と等しくその経済生活の基本たるをもって、資本が限度以内において各人の所有権を認めらるるごとく、土地またその限度内において確実なる所有権を設定さるることは国民的人権なりとす。
注二 この日本改造法案を一貫する原理は、国民の財産所有権を否定するものにあらずして、全国民にその所有権を保障し享楽せしめんとするに在り。熱心なる音楽家が借用の楽器にて満足せざるごとく、勤勉なる農夫は借用地を耕してその勤勉を持続し得るものにあらず。人類を公共的動物とのみ、考うる革命論の偏局せることは、私利的欲望を経済生活の動機なりと立論する旧派経済学と同じ。共に両極の誤謬なり。人類は公共的と私利的との欲望を併有す。したがって改造なるべき社会組織また人性を無視したるこれら両極の学究的憶説に誘導さるることあたわず。
都市の土地市有制
都市の土地はすべてこれを市有とす。市はその賠償として三分利付市債を交付す。
賠償額の限度および私有財産とその加算が私有財産限度を超過したる者は前掲に同じ。
土地徴集機関また前掲に同じ。
注一 都市と限りて町村住宅地を除外せる所以は、公有とすべき理由が町村の程度においては完成せざるをもってなり。
注二 都市地価の騰貴する理由は農業地のごとく所有者の労力に原因するものにあらずして大部分都市の発達そのものによる。都市はその発達より結果せる利益を単なる占有者に奪わるるあたわず。もってこれを市有とするものなり。
注三 都市はその借地料の莫大なる収入をもって市の経済を遺憾なからしむるを得。したがって都市の積極的発達はこの財源によりて自由なると共に、その発達より結果する借地料の騰貴はまた循環的に市の財源を豊かにす。
注四 家屋は衣服と等しく各人の趣味必要に基づくものなり。三坪の邸宅に甘ずる者あるべく、数拾万円の高楼を建つるものあるべし。ある時代の社会主義者の市立の家屋を考えしごときは市民の全部に居常かつ終生画一なる兵隊服を着用せしむべしというと一般、愚論なり。
注五 すでに都市の私有地を許なざるがゆえに、設定せられたる地上権より利得を計ることを得ず。すなわち借家をもって利得をなす者は家屋そのものよりの利得にして、地上権に伴う利益を計上するを得ず。このために市は五年目ごとに借地料の評価をなす。
国有地たるべき土地
大森林または大資本を要すべき未開墾地または大農法を利とする土地はこれを国有とし国家みずからその経営に当るべし。
注一 下掲大資本の国家統一の原則による。
注二 わが日本においては国氏生活の基礎たる土地の国際的分配において将来大領土を取得せざるべからざる運命にあり。したがって国有として国家の経営すべき土地の莫大なるを考うべし。要するにすべてを通じて公的所有と私的所有の併立を根本原則とす。
注三 日本の土地問題は単に国内の地主対小作人のみを解決して得べからず。土地の国際的分配において不法過多なる所有者の存在することに革命的理論を拡張せずしては、言論行動一瞥の価値なし。(「国家の権利」参照)