「サンタさんはお母さんなんでしょ?」
私が小学校1年生の時のこと。
クリスマス前、サンタさんがどうやって煙突のないおうちの中に入ってくるか心配で心配で、お風呂のお湯につかりながらお父さんと一緒に考えていた。
クリスマスの日の朝、目が覚めて枕もとのプレゼントに大喜びし、添えられた手紙を読んでがっかりして、私は泣いた。
子ども部屋の文房具が入っている引き出しの中で見たことのある便せん、そして見慣れた…お母さんの字。
私は勘のいい子供ではあったけれど、それ以上に母親の不注意でサンタさんの正体がバレてしまったのだ。
そして私が「サンタさんはお母さんなんでしょ?」って便せんと字のことを母親に問い詰めているとき、その場に…妹がいた。
そのとき妹は、年中さんだった。
妹には本当に申し訳ないことをした、と今でも思っている。
次の年、小学校2年生から母親と私と妹の3人で暮らし始めた。
ずいぶんと大人になってからそのサンタの正体の話を母と妹としたときに母は
「あの後離婚して次の年のクリスマスは母子家庭でお金がなかったから、あんたが気づいてくれてちょうどよかったわー」と言っていた。
両親そろっての最後のクリスマスの思い出が、サンタの正体がバレた事件になったのだ。
*
親の離婚後、父はどんな思いで過ごしていたのだろう。
ある日仕事から帰ってきたら、家じゅうが空っぽになっている。
その日の朝まで聞こえていたはずの子どもたちの声が聞こえず、静まり返っている。
どんな気持ちでその日の夜を迎え、朝を迎え、広くなってしまった家で、どんな思いで暮らしてきたのだろう。
私が勇気を出して会いに行くまでの間ふたりの娘に会えず、どれだけ辛い思いをしてきたのだろう。
*
1週間ほど前に父から電話があった。
数年前に私が会いに行ってからは、時々電話がかかってくる。
お互い口下手なので、たまに電話がかかってくると私はどうしたらいいのか困ってしまって、ひとことふたこと言葉を交わして切るようなあっさりとしたものだった。
だけど、最近父親ともう少し接してみたくなる出来事があって、私は父と話し続けた。
「奥さんは元気?」
「お店(居酒屋)はどう?」
「最近そっちは感染者がたくさん出ているみたいだけど大丈夫?」
「コロナが落ち着いて今度帰省したら会いに行くよ」
父も思いがけずたくさん話せて、喜んでいるようだった。
*
今日はクリスマスイブ。
きっと離婚後の父は、私たち娘にしてあげたいことがいっぱいあったのだろうな。
父親。
してあげたいのにしてあげることができない、会うこともできないさみしさって、いったいどんなものなんだろう。
今日はちょっとそんなことを考えながら、静かに眠りにつこうと思う。
*
父に30年ぶりに会ったのは、2012年のことでした。
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